仮面ライダーディケイド − THE LOST MEMORIES − feat インデックス   作:海東

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第14話 転入編 Ⅰ

その部屋は分厚いカーテンで閉め切られていた。

日の光が完全に遮られ、昼間だというのにまるで夜のように暗闇で覆われている。

目が慣れていなければ、一寸先さえ見えない。

ある者にとっては恐怖と不安を。

また、ある者にとっては安寧を感じさせる空間となっているだろう。

 

「……ミ」

 

部屋の中には一人の男がいた。

ずっとそこにいたのだろうか。

虚ろな目で、ある一点をずっと見つめている。

どうやら彼はこの闇でもそこに何があるのか分かっているようであった。

愛おしそうに、その何かへ向けて手を伸ばす。

 

「ようやくだ。ようやくお前のことを……」

 

喜びなのか、悲哀なのか。

どちらともつかぬ声で男は呟いた。

彼の視線の先。

そこにあったものは……。

 

 

 

「……ここが次の世界か」

 

オーロラを抜けた士が周囲を見回しながら言った。

それから、前の世界に来た時も最初に同じ台詞を言ったことを思い出して思わずフッと笑ってしまう。

きっと、次もその次も同じ台詞を言うのだろう。

そもそも、次があるのかさえ現段階では知りようも無いのだが。

 

「人があまりいないな」

 

二人が今立っているのは、どうやら閑静な住宅街のようであった。

人通りもあまり多くは無い。

前の世界、その前の世界に現れた時には、人々の往来が激しく騒がしい場所に立っていたので、その対比に少し面食らう。

 

「今度はどういうところなのかな?」

 

インデックスもキョロキョロと首を左右に動かしていた。

新しい世界に対して、興味半分不安半分と言ったところであろう。

ふと見ると、彼女はまたも何処かの学校の制服らしき服を着ているようであった。

ただ、以前のセーラー服のような感じではなく、裾の短いブレザーらしき上着とワンピースのように連なったスカートが特徴的である。

 

「……何か、独特なセンスの服だな」

「つかさだって!」

 

インデックスに言われたので見てみると、士も同系統の制服を着ていた。

上着は襟が立った燕尾服のようになっており、その下に黒いズボンを履いている。

どうやら、今回の士はインデックスと同じ学生ということらしい。

 

「やれやれ。こんな服さえ着こなす俺が怖いな」

「……もう、突っ込まないんだよ」

「この世界での俺とお前は何処かの学校の生徒ってことか」

「だったら、学校を探さないとだね」

 

以前のシャナの世界では偶然インデックスと同じ制服を着た通学途中の生徒を見かけ、彼らを追うことで目的地へと辿り着けた。

しかし、今現在この場所にいるのは士とインデックスの二人だけのようである。

同じ制服の学生どころか、その他の通行人さえ見かけない。

太陽が真上にあるのを見るに正午前後といったところだろうか。

昼食にはまだ少し早い時間帯である。

どうしたものかと、二人は立ちっぱなしのまま思案した。

初めて来た世界、地理も何もよく分からないこの状態で適当に動くのは危険……というのは、二人の共通認識であった。

前の世界の様に敵と出会う可能性もあるからである。

 

「……とはいえ、ここで立ち止まってるわけにもいかないだろうしな」

「うーん……」

「ん?」

 

と、その時、士は背後に何者かの気配を感じた。

振り向こうとしたその瞬間、一迅の風が脇を通り抜ける。

 

「!?」

 

それはとても素早く、士でさえ反応することが出来なかった。

単純なスピードならば前の世界で出会った園藤キリヒコの超加速の方が速かっただろう。

だが、相手のこちらの虚をついた一瞬を狙ったその動きはただ素早いというよりも対応しづらい。

まるで、熟練の盗人のようである。

士が僅かに遅れて気配の方へ視線を向けると、そこには一人の青年が立っていた。

青年は士と同じくらいの背丈で、軽くパーマがかった髪型をしている。

 

「誰だ?」

 

士が尋ねると青年はニヤッと笑った。

何処か子供っぽく、無邪気な笑顔である。

士はその顔に見覚えがあるような気がしていた。

しかし、それ以上は何も思い出せない。

ただ一つ分かるのは、彼が只者では無いということだろう。

 

「誰だ……か。随分と他人行儀なんだね。悲しいよ」

 

青年はそう言うと、手に持った何かを士へ見せた。

それは、一枚のカードであった。

よく見ると、士がディケイドへ変身する為のカードである。

 

「何!?」

 

慌てて士は自身の体を調べた。

すると、やはり何処にもディケイドのカードが無い。

士は目の前の青年をキッと睨み付ける。

 

「お前が盗ったのか?」

「どうかな?」

 

青年は不敵に言った。

実際に現物を手にしているのだから、彼が盗ったことは間違い無いだろう。

挑発するような物言いといい、何とも掴めない人物である。

 

「返せ」

 

士は青年の目の前まで歩いて行き、彼の手からカードを奪い返した。

手を引いたりなどせずにすんなり渡したところを見ると、本気で奪おうとしていたわけでは無いようである。

実に不可解な行動だと士は顔を顰めた。

青年はそんな士を見て、再びニコっと笑う。

 

「久し振りだね、士。こうしてまた会えて嬉しいよ」

「何?」

「また楽しくやろうじゃないか」

 

青年はそう言って、指鉄砲を士へ向けた。

まるで、旧来からの知り合いであるかのような言い方である。

 

「お前、俺のことを知っているのか?」

 

自身のことを知る人間。

前の世界の鳴海ソウキチも過去の士のことを知ってはいたようだが、一度出会っただけの関係のようであった。

実質、初対面のようなものと言って差し支えは無い。

だが、目の前の青年は違う。

彼の言葉から察するに、面識があるというだけじゃなく、ある程度の期間一緒にいた可能性が高い。

ということは、士の失われた記憶について何か知っているかもしれない。

 

「……どうやら、また記憶を失ったっていうのは本当らしいね」

 

青年はやれやれといった感じで肩を竦めてみせた。

こちらの事情まで知っているとは、やはり只者ではない。

 

「悲しいよ。例え記憶を失っても僕のことだけは覚えておいてくれてると思ったのに」

「……仮に記憶を失っていなくても、忘れたフリをしていたと思うがな」

「言うね。それでこそ士だ」

 

青年は士の皮肉にもあまり堪えてないといった様子で言った。

 

「……それで、あなたは一体誰なの?」

 

ここで、やや蚊帳の外となっていたインデックスが上目遣いで尋ねた。

士も青年も背が高い為、小さい彼女にとっては必然的にこういう姿勢になってしまう。

青年はインデックスの方へと視線を向けた。

 

「君は確か十万三千冊の魔術書のインデックス……だったかな?」

「え?私のことも知っているの?」

 

インデックスは思わず驚きの声を上げた。

青年が士のことを知っているのはまだ理解出来るが、士とは出身の世界が異なる自身についても知っているというのは流石に彼女も理解し難い。

目の前の青年に警戒心を抱く。

 

「あなた、もしかして魔術師?」

「魔術師か。それも面白いかもね」

「ち、違うの?」

「それは君が決めたまえ」

「……私、この人苦手かも」

「奇遇だな。俺もだ」

 

士もインデックスに同調した。

 

「それで、お前の名前は何なんだ?名前を聞いたら、もしかしたら何か思い出すかも知れないぜ?」

「その言い方、実に士らしいね」

 

青年はフッと笑ってみせた。

 

「海東大樹(かいとう だいき)。それが、僕の名前さ」

「かいとう……だいき?」

 

その名前は、この旅に出る前に紅渡という青年が告げた名前の中にあったものであった。

改めて士はその名前を呟いてみるが、やはり失われた記憶が戻る気配は無い。

だが、目の前の青年とセットだと、何処か懐かしさを感じつつあるのも事実であった。

少なからず、彼とは全く知らない仲では無かったのだろう。

もっとも記憶が無い以上、海東大樹という人物との距離感が変わることは無いのだが。

 

「……もう一度だけ聞くが、お前は俺のことを知っているのか?」

「さて、それはどうかな?」

 

海東は煙に巻くような言い方で答えた。

素直に答えてくれるようなタイプの人間では無さそうだが、実際にそうされると流石の士もイラついてくる。

敵意は感じないが、かといってこちらの味方という雰囲気でも無い。

実に掴めない男である。

 

「……答える気は無さそうだな。それなら、俺に一体何の用だ?まさか、ただ挨拶しに来たってわけじゃないんだろ?」

「一つだけ、君に伝えておいてあげようと思ってね」

「何だ?いちいちもったいぶらずに言え」

「この世界にも、仮面ライダーがいる」

「何?」

「これ以上は君の目で確かめたまえ」

 

そう言うと、海東は士に背を向けた。

 

「!?おい、待て!!」

「待て、と言われて待つ人間はいないよ。じゃあね、士。また近い内に逢おう」

 

直後、彼の姿は士の前から消えていた。

 

「……何だったんだあいつは?」

 

いきなり現れ、いきなり去って行ってしまった。

実に勝手な人物だと士は呆れ果てる。

 

“この世界にも、仮面ライダーがいる”

 

海東という青年はそう言ったが、このことは士も半ば予想はしていたことではあった。

シャナの世界、そして前の世界でも、元々はいない筈の世界に仮面ライダーという異物が存在していた。

で、あれば、この世界とて同様の可能性は高い。

それに、海東のあの言い方からしても、仮面ライダーのいない世界に仮面ライダーがいると捉えることが出来る。

 

(仮面ライダー、か)

 

自身も仮面ライダーではあるが、そもそもの仮面ライダーについて士は何も知らない筈であった。

だが、実際に目の当たりにすると頭の中にフッと浮かんでくるものがある。

シャナの世界ではヤミー、前の世界ではドーパント。

記憶を失っている筈なのに、士はそれらのことを知っていた。

 

──自分は一体、何者なのか?

 

そのことを考えると、時々胸が苦しくなってくる。

 

「大丈夫、つかさ?」

 

インデックスが心配そうに士の顔を覗き込んできた。

どうやら、知らず知らず顔に出ていたようである。

 

「……お前に心配されるようじゃ終わりだな」

 

そんな彼女を冷たくあしらうかのように、士はフンと鼻を鳴らしてみせた。

だが、同時に嬉しさも感じていた。

もしも一人だけであったら、記憶が無いことへの葛藤で押し潰されていたかも知れない。

インデックスの顔を見て、仲間がいるということの有難味を多少なりとも感じている。

ふと、遠い記憶の向こうで、かつての自分はこんな風に誰かと一緒に旅をしていたような気がしていた。

その誰かの名前も顔も思い出せないが、何処と無く懐かしい気持ちになってくる。

 

「……何時までもここに立ち止まっているわけにも行かない、か」

 

海東という青年との邂逅に思いを巡らせるより、今は先へ進むことの方が先決だと士は切り替えた。

 

「行くぞ」

「え?何処へ?」

「あの海東って奴が向かって行った方へだ。何処へ向かったかは知らないが、ここで当ての無い手掛かりを待ってるよりは賢明だと思うぜ?」

「うん。確かにそうだね」

 

二人は海東の後を追って、歩き始めた。

暫く進むと見かける通行人の数も増え始め、何処と無く目指すべき場所へ近付いたような気がしてくる。

気が付くと、自分たちと同じ格好の少年少女たちの姿を見掛けるようになった。

やがて、学校のような建物が目に入って来る。

何とも格式の高そうな外観であった。

国立魔法大学付属第一高等学校。

それが建物の名前のようである。

 

「ようやく目的の場所に着いたってところか。……一先ず、海東の姿は見えないな」

「お腹空いたー」

「……お前はそればっかりだな」

「ねえねえ、つかさ。ご飯が食べられると嬉しいな」

「やれやれ。緊張感の欠片も無いな」

「む?ご飯は、とっても大事なことだと思うんだよ」

「まあ、確かに俺も腹は減ったな。じゃあ、取り敢えず食堂か購買でも探してみるか?まだ、昼の時間だしな」

「わーい」

 

インデックスがバンザイをして喜ぶのをやれやれといった様子で士は見つめていた。

二人は学校の敷地内へ入ると、案内図のようなものを探す。

中では、同じ格好をした生徒たちの姿をよく見かけた。

何人かとすれ違い、ふと士は思う。

 

(……誰も笑っていないな)

 

一人でいるならともかく、二人連れ三人連れの生徒たちも皆無表情であった。

何処か暗い影を差しているようにも見える。

学校の中で、しかも生徒同士であれば笑顔の一つでもありそうなものだが。

 

(やはり、ここも何か問題を抱えているということか)

 

それが、仮面ライダー絡みなのかどうかはまだ分からないが、どうも一筋縄ではいかなさそうであった。

 

「……おい」

 

と、二人は何者かに呼び止められた。

声のした方を振り向くと、そこにはここの生徒らしきオールバックの男が立っている。

彼は取り巻きのような男子生徒と女子生徒を連れていた。

何かしらのリーダー的存在なのだろうか。

 

「もしかして、転入生とは君たちのことか?」

 

言葉の端々から高圧的な態度が見て取れるようであった。

士は少しイラッとする。

 

「……誰だ、お前?」

「貴様、口の利き方に気をつけろ!」

 

士の物言いに、女子生徒の方が凄い剣幕でそう口を開いた。

品の良さそうな長い黒髪の少女であったが、実に攻撃的である。

 

「よせ、ミサ」

 

そう言って、リーダー格の男は彼女を制した。

ミサと呼ばれた女子生徒は先程までの剣幕が嘘のようにあっさりと引き下がる。

 

「……失礼した。君たちは転入生なのだから、何も知らなくても仕方が無い。そのくらいは私も理解しているよ」

「そうか。で、お前は誰なんだ?」

「人にものを尋ねる時は自分から名乗るのが礼儀ではないかね?まあ、いい」

 

リーダー格の男はフッと笑う。

 

「私の名前は笛吹……。笛吹鳴(うすい めい)だ。この国立魔法大学付属第一高等学校の生徒会長を務めている。よろしく」

 

差し出された右手。

士にはそれが、まるで目に見えない威圧的なオーラが迸っているかのように禍々しく見えた。

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