仮面ライダーディケイド − THE LOST MEMORIES − feat インデックス 作:海東
笛吹という男が差し出した右手。
それを士は取ろうとはせず、ただ目の前の男の顔を見つめていた。
まるで、男の性質を読み取ろうかというようにじっと。
暫くの間、沈黙が続く。
「……やれやれ、初対面だというのに嫌われたものだな、私も」
均衡を破るかのように、笛吹はそう言って右手を引いた。
士の態度に対しては、意外と憤慨しているような様子は無い。
寧ろ、笑みさえ浮かべている。
随分と余裕のある態度だと士は思った。
たかが転入生など本気で相手にはしていないといったところか。
そんな笛吹とは異なり、取り巻きの二人は今にも飛び掛らんくらいの剣幕で士のことを睨み付けていた。
一方で、士は彼らの視線を気にしていないのか、いつも通りの不遜な態度を崩さない。
「あんたがここのボス……ってところか?」
「トップ、という意味ではそういうことになるだろうね」
「道理でな。ここの生徒は皆息苦しそうにしてたぜ?」
「貴様ァ!!」
ミサと呼ばれた取り巻きの女子生徒が、士の物言いに対して再び突っ掛かって来た。
脊髄反射的なリアクションを見るに、どうも彼女の沸点はかなり低いようである。
「会長に向かって何て口の利き方だ!!ウィードの分際で生意気だぞ!!」
「ウィード……?」
それは、士にとって聞き慣れない言葉であった。
この世界特有の単語だろうか。
「何だそりゃ?」
「もう我慢ならん。この無礼者は私の手で……」
「ミサ!!」
笛吹が大きな声を出した。
ミサと呼ばれた少女は、ハッとなりすぐに顔を青ざめさせる。
「も、申し訳ございません、ワ……いえ、会長。私としたことがつい興奮してしまい……」
「彼らは転入生で何も知らないのだ。我々は生徒会の人間として、そのことも慮ってやらねばならない。その意味が分かるな?」
「ハッ!」
先程までの激情が鳴りを潜めたように彼女は平常心を取り戻していた。
たった一声掛けただけでこの変化である。
彼女にとって笛吹という男はそれだけの存在ということなのだろう。
「……すまないな、転入生。彼女が失礼をした。代わってお詫びをしよう」
そう言って頭を下げる笛吹。
だが、その言葉と行動とは裏腹に、彼からの謝意はあまり感じられなかった。
寧ろ、士たちのことを何処か見下しているかのようにさえ見える。
少なくとも、言葉の内容程に友好的な雰囲気はあまり見られない。
「転入したばかりで分からないことも多いだろうが、そんな時は遠慮なく聞いてくれていい。我々は出来得る限り君たちに協力するつもりだ」
「……………………」
「それでは失礼する」
笛吹はそう言った後にそのまま踵を返した。
ミサという少女ともう一人の大柄な男も彼の後に続いていく。
去り際、二人とも敵意に満ちた視線をチラッと向けて来たのを士は見逃さなかった。
「……やれやれ、偉そうな連中だ」
少しして、三人の姿が見えなくなると士は肩を竦めてみせた。
自身を棚に上げるようだが、士は笛吹たちのように偉ぶった人間があまり好きではない。
そのことを抜きにしても、あの三人からは初めて対面した時から何か異様な雰囲気を感じ取っていた。
ここに来るまでにすれ違った他の生徒たちとは異なる何かを。
「あの笛吹って男の手……」
士には一つ気になっていたことがあった。
それは彼が差し出した右手とは別のもう片方の手。
何やら指輪のようなものをしているのが目に入った。
ファッションにしてはサイズが大きく、デザインも無骨。
男がはめるには、どうにもそぐわないように思える。
「……この世界も一筋縄ではいかなさそうだな」
「……………………」
「ん?どうした、腹ペコシスター?」
先程から何故か押し黙っているインデックスを見て、士は首を傾げた。
「腹が空き過ぎて喋る気力も無くなったのか?」
「それもあるけど……」
「あるのか」
「ここには至るところに魔術とよく似た術式が使われていて、それがとても気になるんだよ」
「魔術?そう言えば、お前はそういうのに詳しいんだったな」
魔術。
それもまた士にとっては全く馴染みの無いものであった。
インデックスのいた世界でも、その存在は一部の人間にしか知られていないことらしい。
ただ、前の世界でもその前の世界でも、魔術めいた現象は色々と起きていた。
その上で『魔術とよく似たもの』という言葉を彼女は口にしている。
ということは、この世界はインデックスの世界と何処か近しいのかも知れない。
「で、どんな魔術なのかは分かるのか?」
「……ううん。この場所で使われている魔術は私の十万三千冊の魔道書の中にあるものとは別のものみたい」
「つまり、相変わらず役には立たないってことか」
「そういう言い方は無いと思うんだよ!」
キッと睨み付けてくるインデックスを見て、士はフッと笑った。
「まあ、最初から過度な期待はしていないから安心しろ」
「むー」
「ほら、そんな膨れるな。余計に腹が減るだけだぞ」
「……そう言えばお腹が空いたかも」
思い出したかの様にインデックスの腹の虫が鳴いた。
「つかさ、早くご飯が食べたいな!」
「時間的には、まだ大丈夫っぽいな」
視界に入った時計は十二時三十分の付近を示していた。
一般的に、このくらいの時間帯であれば、まだ昼休みの途中だろう。
「取り敢えず校内へ入るか。制服も着てるし、追い出されることも無いだろ」
「うん!」
二人は共に校舎へと向かった。
その途中に校内の案内図を見つけたので、食堂までの道のりには困らずスムーズに行くことが出来た。
辿り着いた食堂の中は多くの学生たちで賑わっている。
「うわあ」
インデックスは目をキラキラとさせていた。
食事の時の彼女は一際テンションが高くなる。
それはこの世界でも一緒のようであった。
もっとも、まだ食堂に入ったばかりなのだが。
「早く、早く!」
「犬かお前は。犬の方がまだ我慢するぞ」
呆れ顔で皮肉を言う士を無視してインデックスはとてとてと走り出した。
と、その時。
「あっ!」
「!?」
インデックスは突如前を横切った何者かとぶつかってしまった。
思わず尻餅をつく。
「いたたた……」
「……すまない。大丈夫か?」
そう言ってインデックスに手を差し伸べたのは、一人の男子生徒であった。
背丈は士より少し低いくらいだが長身で、黒い髪の容姿端麗な男である。
一見細身に見えるが、インデックスがぶつかってもビクともしない辺り、体幹はしっかりしているようだ。
周囲の生徒たちに比べると、何処か目を引く存在感を示しているようにも見える。
「だ、大丈夫なんだよ」
インデックスはその手を取ると、よっこらせと立ち上がった。
男子生徒は彼女に向かって軽く頭を下げる。
「余所見をしていて気が付かなかったようだ。本当にすまない」
「謝ることはない。こいつがそそっかしかっただけだ」
士が二人の間に割って入った。
相も変わらずな物言いにインデックスは少しムッとするも、自身に非があったのは自覚していたので何も言わない。
「こうしてぶつかったのも何かの縁って奴だ。この世界についての話、聞かせて貰ってもいいか?」
「……見たことのない顔のようだが、君たちは?」
「人に尋ねる前にまずは自分から名乗るのが礼儀ってもんじゃないのか?」
「その言い分には納得出来ないところが多分にあるが、一理あるとも言えなくは無いな」
男子生徒は無表情で言った。
「1年E組の司波達也(シバ タツヤ)だ。次は君たちの番だと思うが?」
「門矢士。さっきあんたにぶつかったこいつはインデックス。どうやら俺たちは転入生らしいぜ」
「転入生?そう言えば、来るという話は聞いていたな。でも、何故こんな時期に?」
「それは俺も聞きたい」
「……?」
士の言葉に司波達也は思わず小首を傾げていた。
「お~い。達也くーん」
その時、背後から彼を呼ぶ声が聞こえた。
女子の声のようである。
振り向くと、少し離れた所に赤い髪の女子生徒が立っていた。
声を掛けて来たのは彼女のようだ。
「早く来なよ~。美雪も待ってるよ~」
「ああ。今行く。……すまないが、知り合いを待たせているので、自分はこれで」
軽く頭を下げ、司波達也は彼の名を呼ぶ赤い髪の女子生徒の下へと向かって行った。
どうやら既に先約があったようである。
と、士は無言で彼の後を追い始めた。
インデックスも置いてかれないように士へと続く。
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……何故、付いて来る?」
「転入生だからな」
士はあっけらかんと言った。
何時もの様に悪びれる様子も無い。
「それに聞きたいこともある」
「だからと言って、付いて来る理由にはならないと思うのだが?」
「細かいことは気にするな」
「……………………」
「お、来た来たー。ん、そちらの二人はどちら様で?」
赤い髪の女子生徒が士とインデックスの姿を見て尋ねてきた。
外見からして快活そうな美少女である。
「達也くんの知り合い?」
「ま、そのようなものだ」
「いや、すぐそこで出会ったばかりだ」
司波達也が士の言葉をやんわりと否定する。
「どうも転入生のようだ」
「へー。そう言えば、転入生が来るって言ってたねー。君たちがそうなんだ。私、千葉エリカ(チバ エリカ)よろしくね」
赤い髪の女子生徒はそう自己紹介すると、ニコリと笑って見せた。
人当たりの良さそうな笑顔である。
彼女の挨拶へ先に答えたのはインデックスの方であった。
「私はインデックス。よろしくね、エリカ!」
「インデックスって言うんだ。綺麗な目してるねー。海外からの留学生ってとこかな?で、そっちの背の高い方は……」
「門矢士だ」
「インデックスさんに門矢くんかー。……兄妹には見えないけど、二人はどんな関係なの?」
エリカが少しニタニタとした様子で聞いて来た。
このくらいの年代の女子は男女の仲には興味津々なのだろう。
そうでなくとも、士とインデックスは国籍から年齢まであまりに違うので、傍から見ると二人の関係性は想像し辛いかも知れない。
「飼い犬とその保護者。ってとこだな」
「犬じゃないんだよ、つかさ!」
士がそう答えるとインデックスが間髪入れずに突っ込んだ。
「あははは!ナイスコンビネーションだね、君たち!」
二人のやり取りを見た千葉エリカは腹を抱えて笑っていた。
司波達也の方はと言うと、くすりもせずに無表情のままじっと士とインデックスのことを見ている。
先程からずっとこんな様子で、彼は凡そ表情の変化を見せない。
感情に乏しいのだろうか、と士は思った。
もっとも、すぐ近くにコロコロ感情の変わる連れがいるので、比較すると強調して見えるだけで、彼くらいドライなのは普通なのかも知れない。
「……あ。そうそう。深雪たちを待たせてるんだった」
思い出したかのように千葉エリカが言った。
確かに彼らは待ち合わせをしていたようであった。
昼ご飯を一緒に食べる約束でもしていたのだろう。
と、彼女は士とインデックスへ顔を向ける。
「ねえねえ、これから皆でお昼ご飯食べるんだけど、君たちも一緒に来る?転入したばかりで色々知らないこともあるだろうし、それにお昼は皆で食べた方がきっと美味しいと思うよ」
これは願ってもいない申し出であった。
この世界の情報を集める意味でも、彼らと一緒に行動するのはメリットが大きいだろう。
「やれやれ。仕方ないな。せっかくお呼ばれしたんだから行ってやるとするか」
何時もの様子で士がそう言うと、インデックスがやれやれと首を振る。
「つかさは相変わらず横柄なんだね。そんな態度じゃ、きっと友達出来ないと思うんだよ」
突然、その場にグーーーと腹の虫が大きな声で鳴く。
「……お昼、いっぱい食べさせてくれると嬉しいな!」
「お前も相変わらずだな」
二人は千葉エリカ、そして司波達也に連れられて彼らが昼ご飯を食べるという場所まで向かって行った。