仮面ライダーディケイド − THE LOST MEMORIES − feat インデックス   作:海東

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第16話 転入編 Ⅲ

「ワイズマンはああ仰ったが……」

 

黒い髪の少女は舌打ちした。

明らかに苛立っている様子で、時折親指の爪を噛んでいる。

 

「やはりあの転入生を許してはおけない。今すぐに始末して魔力を奪うべきだ」

「同感だ。だが、勝手に動くのはワイズマンの意思に反することじゃないのか?」

 

もう一人の少年がそう言うと、黒い髪の少女は信じられないものを見るような目になった。

 

「フェニックス!お前はあんな奴にワイズマンを侮辱されたままでいいと言うのか!?」

「いい筈は無い。ただ、ワイズマンの命令無しには動けないと言っているだけだ」

「お前らしくも無いことを言うのだな。まさか、怖気づいたのか?」

「それは有り得ない」

 

少年はきっぱりと否定する。

 

「……らしく無いと言えばお前もだメデューサ。何時もの冷静さはどうした?」

「転入生……特にあの男の無礼な振る舞いを見れば冷静さを欠きたくもなるというものだ」

「気持ちは分からんでも無い。だがなあ……」

「ハロ~、ミサちゃん。フジタくん」

 

突然、何者かが会話に割り込んで来た。

二人が同時に視線をそちらへと向けると、そこには一人の茶髪の少年が立っていた。

不自然なまでに明るい笑みを浮かべている。

 

「お前か。何の用だグレムリン?」

 

黒い髪の少女は不快な表情を隠さずに茶髪の少年を睨み付けた。

知り合いのようだが、友好な関係では無いようである。

彼女の態度が先程まで会話していた少年と全く異なっていた。

だが、茶髪の少年は特に気にする素振りも無く笑みを絶やさないでいる。

 

「ん~、特別に用ってのは無いけど、二人が楽しそうに会話していたからついつい混ざりたくなっちゃった!」

「そうか。なら失せろ。目障りだ」

「ミサちゃんは相変わらず冷たいな~。ねえ、フジタくん?」

「……………………」

「あらら、フジタくんはだんまりか。二人してそんなだと僕も悲しいよ」

 

茶髪の少年はそう言うと、わざとらしく泣くふりをしてみせた。

それを見て黒い髪の少女がハァと溜め息を吐く。

 

「……白けたわ。お前を見ていると、何だか色々と馬鹿馬鹿しくなってくる」

「ミサちゃんにそう言われると、僕も嬉しいよ」

「貴様が私をミサと呼ぶな!そう呼んでいいのはワイズマンだけだ!!」

「ごめんごめんミサちゃん」

 

悪びれる様子も無く茶髪の少年はその名前をまた口にした。

少女はチッと聞こえるように舌打ちをすると、その場から無言で立ち去って行った。

この場に残ったのは、彼ともう一人のフェニックスと呼ばれた少年だけである。

 

「アハハハ。やっぱりミサちゃんはからかい甲斐があるなあ。君もそう思わないか、フジタくん?」

「……………………」

「おーい、フジタくーん!僕の声、聞こえてる?」

「……お前と話す舌を俺は持っていない」

 

そう言うと、彼は茶髪の少年に背を向け、この場から立ち去って行った。

 

「……やれやれ、本当に嫌われたものだね」

 

一人残された茶髪の少年は寂しげに肩を竦めた。

その表情は先程までの上辺だけのものとは違い、何処か真に迫っているようにも見える。

 

「二人とも、どうして僕のことを嫌うのかな?僕はこんなにも二人のことを好きなのに」

「それは貴様が腹に一物を抱えているからだろ?」

 

その声に茶髪の少年はハッとなって振り返った。

 

「……やあやあ、これはこれは笛吹さん」

「相変わらずだな、グレムリン」

「ソラの方で呼んでくれると有難いですけどね」

「相変わらず珍しい奴だ。人前だけでなく、我々の間でも人間の時の名前で呼ばれたがるとはな」

「だって僕は“人間”ですから」

「フン」

 

茶髪の少年の言葉を笛吹は鼻で笑う。

 

「“ソラ”。貴様が何を考えているかなど、私には全て分かるのだぞ?」

「へー。じゃあ、話が早いや。ついでに笛吹さんに聞きたいことがあるけど、いいですかね?」

「聞くだけ聞いてやろう」

「それじゃあ、遠慮なく聞かせて貰うけど……賢者の石は何処?」

 

一瞬、笛吹の表情がピクッとなる。

 

「……それを貴様なんぞに話すと思うのか?」

「フフフ……」

 

茶髪の少年は不敵な笑みを浮かべると、上目遣いでじっと笛吹の顔を見つめた。

そのまま二人は無言で見つめ合う。

 

「……賢者の石は既に我が手中にある」

 

暫くしてから笛吹がそう答えると、茶髪の少年の顔からは笑みが消えた。

 

「つまり、欲しかったらあなたを殺せばいいってことですか?」

「その通りだ、ソラよ。欲しいのであれば私から奪えばいい。出来るものならばな」

「随分と余裕ですね」

「貴様如きに不覚など取らぬからな」

「……手厳しいなあ」

 

茶髪の少年のその言葉に笛吹はフッと笑う。

 

「本来であれば裏切りの芽など早々に摘むべきなのだろうが、生憎と今は人手が足りん。貴様のような奴でもいて貰わねば困るのだ」

「そうですか。なら、一先ず“ありがとう”とだけ言っておきますよ」

「だが、忘れるなよ。貴様は所詮、私の手駒の一つに過ぎんということをな」

 

笛吹はそう言うと、その場から去って行った。

一人残された茶髪の少年であったが、少ししてからニヤリとその顔に再び笑みを浮かべる。

 

(笛吹さん。いや、ワイズマン。今はそれでいいですよ。でも、最後に賢者の石を手に入れるのは、この僕さ!)

 

 

 

「……なるほどな。大体分かった」

 

開口一番に士は言った。

毎度お馴染みのこの台詞に隣のインデックスは半ば呆れ顔であったが、すぐに目の前の食事をせっせと口の中へと運ぶ作業を再開する。

 

「つまり、あの笛吹って奴が生徒会を乗っ取ったってことだろ?」

「まあ、そういうことだね」

 

千葉エリカが答える。

彼女が士へ事情の説明を行ったのであった。

 

「……でも、不思議なんだよね。あの生徒会があんな得体の知れない連中に乗っ取られたままなんて」

「たかが、一学校の一生徒会だろ?」

「たかが、一学校の一生徒会……というわけではない」

 

次に口を開いたのは司波達也であった。

 

「この第一高校の生徒会には権力的にもそうだが、それ以上に実力者も多い。それをこんな短期間に掌握し、その後何も無いというのは常識的には考え難い」

「だが、現実として乗っ取られてるんだろ?つまり、それだけのことをやってのける相手ってことだな」

「……会長たちは無事なのでしょうか?」

 

そう心配そうに声を発したのは、黒曜石の様に美しく長い黒髪のとても美しい少女であった。

左耳の上の方に雪の結晶の形をした髪飾りが見える。

 

「あんたは?」

「初めまして。司波深雪(しば みゆき)と申します」

 

彼女は丁寧に頭を下げた。

その所作一つを取って見ても、品の良さが滲み出ている。

 

「司波……ってことは、もしかして?」

「そ。彼女は達也くんの妹だよ」

「その割にはあまり似てないな」

「そうでしょうか?」

 

士の一言に、司波深雪は何処か不機嫌になったようであった。

表情や仕草こそ変わらないものの、士を見る目が少し厳しくなったように見える。

 

「……そういや、元の生徒会の連中はどうなったんだ?少なくとも無事では無さそうに思えるが?」

 

話題を変えるように士は尋ねた。

それに答えたのは司波達也であった。

 

「今の生徒会長……笛吹という男が言うには、一緒にいる。とのことだが、誰も会長たちの姿を見てはいない。実質、行方不明となっているのに等しいな」

「安否は分からないってことか」

「残念だがその通りだ。ただ一つ言えるのは、時間を掛ければ掛ける程、会長たちに危険が及ぶ可能性もまた高まるということだ」

 

深刻そうに言う司波達也であったが、その口調は至って冷静そのものであった。

 

(この司波達也という男。いやに落ち着き払っているな)

 

彼の様子を見て、士は率直にそう思った。

知人が心配であるならば、少しでもそれが顔や仕草に出てもおかしくない筈である。

だが、彼にそんな素振りは微塵も無い。

 

(心配じゃないのか、それともただ顔に出していないだけなのか……)

 

何れにせよ、士は司波達也という人物に対して、只ならぬものを感じていた。

 

「……要するに、あの笛吹って奴を何とかすればいいってことだろ?単純な話じゃないか」

 

士は自信満々に言った。

どんな世界に来ても、基本的にはこういったスタンスである。

 

「もしかして真正面から乗り込むつもりなのか?」

 

司波達也が尋ねると士はこくりと頷いた。

 

「それが一番手っ取り早い」

「全員の無事も分からない内に乗り込むのは愚策としか思えない」

「だが、手をこまねいていても事態は好転しないぜ?」

「ある程度の下調べは必要だ」

「その下調べってのは現在進行形でやってるのか?」

「無論だ。だが、まだ乗り込むのに充分な情報は集まっていない」

「……その転入生の言うことも一理あるんじゃない?」

 

千葉エリカが口を開き、二人の会話に割って入った。

 

「時間を掛ければ掛ける程、良くないってのは確かなんだしさ。力ずくってのはちょっとアレだけど、最終的にはそうするしか無いと思うよ」

「会長たちを退けた相手にか?」

「う……でも、ほら達也くんならいけそうじゃない?」

「お兄様なら大丈夫だと私も思います」

「深雪。しかしだな……」

「ほら、深雪もそう言ってるしさ」

「……お前たちは、あの男のことを。笛吹鳴のことを何も分かっていない」

 

突如、何者かがそう声を上げた。

決して小さくはない声量である。

皆、一斉に声のした方へと視線を向けると、そこには少し離れた所から士たちのことを見つめている一人の男子生徒がいた。

食べ掛けと思われるプレーンのドーナツを手に持っている。

 

「誰だ?お前は?」

 

突然の闖入者に対して、士は当然の質問をした。

司波達也たちをチラッと伺ってみると、皆が「何者なのか?」という様子で男子生徒のことを見ている。

特に司波達也に関しては、相手が例え同じ学校の生徒であっても即座に警戒し、その一挙手一投足まで深く観察しているようであった。

恐ろしいことに、彼はその様子を表情や仕草など、一切表には出していない。

士でなければ、その些細な変化を感じ取ることは出来なかったであろう。

改めて、この司波達也という男は只者では無いと士は思った。

何はともあれ、彼らの反応を見るに、あの男子生徒と知り合いという感じでは無さそうである。

 

「俺のことはどうだっていい」

 

男子生徒は士の質問に対して、素っ気なくそう答えた。

士は眉をひそめる。

 

「どうでもいい人間が何故俺たちの会話の中に突然入って来る?それも、訳知り顔で」

「訳知り顔で入って来たら何か悪いのか?」

「別に悪くはない。だが、普通では無いな」

「……………………」

 

二人は互いに視線を交わし合った。

先程の彼の言葉。

まるで、あの笛吹という男のことを知っているような口振りであった。

だが、この男子生徒から感じるのはそのことだけでは無い。

司波達也たちと彼とでは纏っている雰囲気が大分異なっているように思えた。

具体的にそれが何かというところまでは士にもよく分からなかったが、少なくとも彼もまた司波達也とは違った意味で只者では無いということは間違いないだろう。

向こうも向こうで士に何か感じるところがあったのか、先程から視線を外すことなく、じっと士のことを見つめている。

 

「……俺の顔に何かついているのか?」

「……いや」

 

と、男子生徒は徐に食べ掛けのドーナツを全て口の中へ放り込んだ。

暫く咀嚼し、トレイの上に置いてあったジュースらしき飲み物と一緒にごくりと飲み込むと、再びその口を開く。

 

「……俺の名前、だっけか。俺は、真藤ハルト(まとう はると)。一年生だ」

 

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