仮面ライダーディケイド − THE LOST MEMORIES − feat インデックス 作:海東
「真藤……ハルト?」
士はたった今聞いた名前を反芻する様に呟いた。
そう名乗った男子生徒は士の目の前で紙ナプキンを取ると、手についたドーナツの油を拭く。
表情は至って平然としたものであった。
一見すると、顔が整っていること以外はそこらにいる学生たちと何ら変わらない凡庸な人物に映る。
だが、何処か達観していて悟ったような目と士たちを前に一切物怖じせず落ち着き払ったその佇まいは、分かる人間には全く別の印象を抱かせていた。
ただならぬ人物。
それが士が真藤ハルトに抱いた印象であった。
「一年生ってことは、ウチらと同じだね。それも、二科生」
千葉エリカが真藤ハルトの制服を見てそう口にした。
笑顔で友好的に見える一方、彼女の視線は探るように目の前の男子生徒を見回している。
司波達也、そして彼の妹も同様に真藤ハルトのことを注視していた。
彼らにも、この男子生徒が只者ではないということが分かるのだろう。
インデックスでさえ、ピタリと箸を止めている。
「つかさ……あのハルトって人」
「ああ……」
士の目に留まったのは、真藤ハルトの右手であった。
不自然なまでに大きい宝石をあしらえた、とても目立つ指輪をしている。
その形状はあの笛吹という男のしていた指輪と似通っていた。
(最初はこの世界独特のファッションなのかとも思ったが、司波達也といいその妹や他の連中もあんな指輪をしてはいなかった。つまり、あの指輪はこの世界にとって異物である可能性が高い。こいつがあの笛吹って奴に何らかの関連性があるのは間違いないだろうな)
この世界に来て間もない士でさえ、そうした違和感を抱いたのだ。
口にこそ出してはいないが、この世界の住人である司波達也たちも当然そのことに気が付いていてもおかしくはない。
先程、千葉エリカが彼のことを見回したのも、それが要因なのだろう。
「ねえ、君って……」
「……お前たちは関わるな」
真藤ハルトは千葉エリカの言葉を遮るようにそう言うと、紙ナプキンをくしゃくしゃにしてみせた。
そして、スッと立ち上がると、それ以上は何も言わずに士たちへ背を向けてこの場を去って行く。
一連の動きは非常にあっさりとして、淡々としたものであった。
名乗るだけ名乗っておいて、この態度。
士も思わず眉を顰める。
「生意気な奴だな」
お前が言うな。
この場にいる者たちがそのような表情をしたことは言うまでもない。
「……何れにせよ、あいつが笛吹とかいう奴と何らかの関わりがあるのは間違いないだろうな」
「うん。似たような指輪をしていたしね。それに、あの指輪。何となくだけど、この世界の術式とは違うもののような気がするんだよ」
インデックスも彼女なりに抱いた違和感を口にして士に同意した。
その瞳は何処か不安を湛えているようにも見える。
世界を渡る度に何かしらのトラブルに巻き込まれているのだから無理も無い。
「笛吹鳴、真藤ハルト……。分かっていたこととは言え、この世界も色々とややこしいことになっているみたいだな」
新たな世界を訪れる度に何かしらの問題へと遭遇してしまう。
それが自身に課せられた運命のようなものだと自覚しつつも、士はやれやれと肩を竦めずにはいられなかった。
「おーい」
真藤ハルトと入れ替わるように一人の男子生徒がこちらへ向かって来た。
背が高く体躯もいい。
顔も丁度いいくらいに男臭く、如何にも肉体派といった風体である。
「あ、レオ」
千葉エリカがこちらへ向かってくる彼のことをそう呼んだ。
どうやら知り合いのようである。
「遅かったね」
「悪い悪い。ところで、さっきすれ違ったのは、真藤ハルトじゃないか?アイツと一緒だったのか?」
「一緒って程話したわけじゃないけど、まあそんなとこ」
「珍しいな。アイツが誰かと話すなんて。珍しいと言えば、見慣れない顔がいるようだが?」
「ああ、転入生だって」
千葉エリカは士とインデックスをレオと呼ぶ少年へ紹介した。
「こんな時期に転入生か。まあ、いい。俺は西条レオンハルト。親しい者からはレオって呼ばれてる。よろしくな」
そうは言いながらも、彼は何処か訝しげに二人のことを見つめている。
先程聞いた事情や時期的なことも含めて、このタイミングでの転入は不自然な部分も多い。
多少懐疑的な目を向けられても仕方の無いことだろう。
「……ま、俺たちをそういう風に見る気持ちは分からないでも無いがな。あまり気分のいいものじゃないが」
「そいつは悪かった。だが、そう言うってことは、事情をある程度知っているってことだな?」
「まあ、な」
「お前たちは本当にただの転入生なのか?」
「ということになってるらしい」
レオという少年の追及に対し、そう答える士。
実際問題、そういうことになっているらしいのだからそれ以外に答えようが無い。
「らしいって……悪いが、今のままだとお前たちも十分に怪しいぞ?」
「俺たちの何処が怪しい?何処からどう見てもイケメン転入生とそのおまけだろ?」
「おまけってもしかして私のこと?ちょっと酷いんだよ!」
「アハハハハ。面白いね、君たち」
千葉エリカが破顔した。
「……確かに怪しいっちゃ怪しいんだけど、あいつらとは違うのは何となくだけど分かるよ」
「そうか。まあ、分かってくれたならそれでいい。ところで、だ」
士は仕切り直すように言った。
「さっきから気になってたんだが、一科生、二科生ってのは何だ?笛吹って奴の取り巻きにそう言われたんだが」
「転入手続きの時とかに説明を受けていなかったのか?」
「急な転入だったからな」
「そ、そういうものなのか?」
「ウィード。奴らの言い方からすると、少なくとも、いい言葉じゃないのは分かる」
「……この学校には一科生と二科生がいる」
そう口を開いたのは司波達也であった。
「二科生は一科生と比べ、権利等で劣る部分がある。また、深雪の制服を見て欲しい」
「……ん?インデックスの制服と比べると何処か違和感があるな」
「一科生は制服に八枚花弁のエンブレムが刺繍されている。故に、ブルームとも呼ばれている。対して、二科生にはそれが無い」
「なるほどな。ブルームに対してのウィード……つまり、劣等生ってことか」
士のその言葉に、周囲が少しピリっとした空気になった。
どうやら、この話題はデリケートな部分が大きいらしい。
「あれ?ということは、たつやとみゆきは一緒じゃ無いんだ?」
「……はい。形式上はそういうことになっています」
インデックスの素朴な疑問に対して、司波深雪は複雑な顔をしつつも答えてくれた。
兄妹でこういった区別をされてしまうというのは当人たちにとって喜ばしいことで無いのは間違いない。
特に兄である司波達也が二科生で、妹の司波深雪が一科生というのは何ともコメントしづらい境遇である。
「実技の結果によるものだから、仕方が無いことではある」
司波達也は他人事のように言った。
あまり気にしていないようではあるが、かと言って自暴自棄というわけでもない。
まるで、本当の意味でそんなものに興味は無いとでも言いたげである。
「あの真藤ハルトって奴もそうだが、俺の目にはアンタも普通じゃないように見えるぜ?少なくとも、そのテストの結果とやらがアンタの実力を表しているとは思えないな」
「……………………!」
士の言葉に司波達也はピクリと反応した。
二人は視線を交し合い、互いに相手を見究めようとしているようである。
と、士は徐に席から立ち上がった。
「……さて、俺たちは行くとするか」
「え?もう行っちゃうの、つかさ?
「少し調べたいこともあるしな」
「まだご飯食べ終わって無いんだよ」
「お前な……。じゃあ、ここでゆっくり食べてろ。後で迎えに来てやるから」
「うん、分かった!」
インデックスはすぐに箸を握り直し、食事の方へ視線を向けた。
彼女の場合、食欲が何よりも勝るようである。
(まあ、こいつらと一緒なら大丈夫だろ。多分、な)
司波達也を始めとして、ここにいる面々が只者では無いことは分かった。
幾度か言葉を交わし、悪い人間では無いと直感で判断した士は彼らにインデックスを預けることにする。
やれやれと思いながらも、士はこの場を後にした。
(さて、と……)
士はカメラを取り出すと、それで周囲を見回し始めた。
こうしていると、まるで世界の真実が見えてきそうな気がしてくるからである。
時折、シャッターを切りながら移動していると、ファインダー越しに何やら見覚えのあるシルエットを発見した。
視線をそちらへ向けると、それは真藤ハルトの後ろ姿であった。
こんな人気の無い所で何をしているのだろうか。
或いはただ通りすがっているだけなのかも知れない。
(何れにせよ、これはチャンスだな)
先程別れたばかりとはいえ、こうしてまたすぐに出会えるとは士も思ってはいなかった。
タイミングとしては決して悪くはない。
気になるようなことも言っていたので、早速彼と接触を図ろうとする。
「見つけたぞ!指輪の魔法使い!」
と、士が声を掛けるより先に真藤ハルトの前に何者かが現れた。
長髪の少し病的な顔をした少年で、彼の着ている制服を見ると例の刺繍が確認出来る。
どうやら学生、それも一科生らしい。
真藤ハルトは目の前に立ちはだかる男子生徒に対して警戒を強めたのか、厳しい表情になる。
「俺をそう呼ぶってことは、お前は笛吹の仲間か?」
「答える必要など無い」
「わざわざそう言うってことは、アイツの仲間です。と言っているようなものだろ?」
「……………………」
「何の用だ?笛吹に言われて俺を始末しに来たのか?」
「……ワイズマンの意思は絶対」
「いい加減に目を覚ませ!お前たちは笛吹の奴に騙されてるんだ!」
「戯けたことを。ワイズマンの意思に背く邪魔者はこの場で消し去る!」
問答無用、といった感じで長髪の少年は異形のものへと変身してみせた。
その姿は翼こそ無いが、まるで翼竜のような外見をしており、その手には何時の間にか薙刀のような武器が握られている。
「……ファントムか」
士の口からは自然とその言葉が出て来た。
ファントムとは、あの怪物の総称のことだろう。
無論、そのファントムとやらについての記憶が士の頭の中にあるわけではない。
しかし、これまでの世界と同様に断片的にではあるものの、相手がどういう特性を持った怪物なのかは理解出来ている自分がいる。
(またか……。俺は何故、その言葉を……そしてそのファントムとやらのことを知っている?)
相変わらず混乱しそうになるが、こうして目の前に怪物が現れた以上は思考に耽っている場合ではないと頭を切り替えた。
早く行かねば、真藤ハルトが危険である。
そう思った矢先、真藤ハルトが何やら構え始めた。
『ドライバー、オン』
謎の音声。
よく見ると、何時の間にか彼の腰にはベルトが巻かれている。
(まさか……)
『シャバドゥビタッチヘンシ-ン。シャバドゥビタッチヘンシ-ン』
周囲に響くノリの良い不可思議な音声。
「変身!」
掛け声と同時に真藤ハルトはベルトのバックルへ手を持っていき、その指につけている不自然なまでに大きい指輪を翳してみせた。
『プリーズ!ヒー、ヒー、ヒー、ヒー、ヒー!』
すると、突如出現した魔方陣が彼の体を通り過ぎた。
次の瞬間、彼の姿も変貌する。
しかし、それは異形ではあったが、目の前の怪物のような棘々しい姿では無かった。
宝石を思わせる綺羅びやかな赤いマスク、黒いロングコートに包まれたスタイリッシュな体。
士には一目で分かる。
真藤ハルトの今の姿。
それは、正に仮面ライダーの姿であった。