仮面ライダーディケイド − THE LOST MEMORIES − feat インデックス 作:海東
女子学生を追って士とインデックスが辿り着いたのは、御崎高校という学校であった。
特に目立った部分が無い普通の学校である。
何かが起こりそうな気配もあまり感じられない。
校門の方を見ると、いかつい顔をした体育教師らしき男が仁王立ちしていた。
学校内へ入ろうとする生徒たちの服装や髪型などをその厳しく細められた目で逐一チェックしているようである。
と、男の視線が二人へと向けられた。
「おい!」
男が声を掛けてきた。
二人はその声が自分たちに向けられたものだとは気付かずに無視するが、すぐに男が二人の元へ駆け寄って来る。
「おい!!お前だお前!!」
「……?もしかして俺を呼んでいるのか?」
「そうだ!お前、教育実習生のくせに、生徒たちと一緒に登校するとは、初日から気が緩んでるな?普通ならば、もっと早く学校へ来るものだ!」
「教育実習生……って、俺のことか?」
「お前以外に誰がいるというんだ?いいから来い!あと、そこの転入生もだ!」
「転入生……って私のこと?」
インデックスが自分のことを指差す。
「ったく、転入生は色々と手続きがあるから本当はもっと早く来て欲しかったがな!……ほら、案内するからとっととついて来い!」
不機嫌なのを隠さずに男は捲し立てた。
乱暴な男の態度に二人はあまりいい気分では無かったが、この世界で何をすればいいのか、その手掛かりが現状ではここにしかない為、渋々従うことにする。
男に連れられて来たのは職員室であった。
「ほら、入れ!」
言われるがまま職員室の中へ入ると、温厚そうな教師が二人のことを出迎えた。
「やあ、門矢君……。いや、門矢先生とお呼びした方がいいですね」
「俺は別にどっちでも構わないが」
「そうですか。私は大峰悟と言います。え~、一年二組を受け持っています。これからよろしくお願いします」
大峰悟と名乗った教師は深々と頭を下げた。
彼の説明を聞く限りでは、どうやら士は二週間の間、一年二組を受け持つ教育実習生。
インデックスはそのクラスへの転入生ということらしい。
話が終わると同時に、授業開始のチャイムが鳴り響いた。
「さあ、行きましょうか」
教室を出て行く大峰悟の後を二人は追った。
「つかさ、大丈夫かな?」
インデックスが不安そうな顔で士に尋ねる。
「……ま、なるようになるだろ」
「相変わらずつかさは楽天的なんだね」
「案ずるより産むが易し、と言うだろ?」
「少しは案じて欲しいかも」
そんな風に会話をしていると、いつの間にか教室の前へやって来ていた。
「……では、最初に門矢先生の紹介。それからインデックス君の紹介という感じで」
「ああ、大体分かった」
大体の段取りを説明された士はそう答えた。
大峰悟は少し苦笑すると、教室の扉を開いて中に入った。
教壇の前まで行くと、コホンと軽く咳払いをしてから少しだけ大きな声で生徒たちへ話し掛ける。
「あー、突然だが、本日よりこのクラスに短い間だが教育実習生が来ることになりました」
その言葉に、クラス中が沸いた。
大峰悟は生徒たちを静かにさせると、再び咳払いをする。
「コホン。……え~、では、門矢先生。お入り下さい」
その言葉を聞いて、士は教室の中へと入る。
すると、ひそひそと生徒たちの話し声が聞こえた。
「何だ、男かよ……」
「ねえ、ちょっとカッコ良くない?」
「彼女いるのかなあ?」
皆一様に士のことを注目している。
大峰悟が軽く咳払いをして再び生徒たちを静めると、士の方をチラリと見た。
「えー、では自己紹介をお願いします」
「ああ」
士はチョークを手に取ると、黒板にでかでかと自分の名前を書いた。
そして、黒板をバンと叩く。
「……門矢士だ。俺様のスペシャル且つパーフェクトな授業を受けられることを感謝しろ!」
不遜な態度で士は堂々とそう言い放った。
大峰悟はあんぐりと口を開けて見ている。
教室内は一瞬静寂に包まれたが、暫くすると生徒たちがどっと沸いた。
「門矢先生ーー!彼女いるんですかーー!?」
「先生、スポーツは何が得意ーーー!?」
「先生ーーーーーー!!」
教室内のあちこちから士へと質問が乱れ飛ぶ。
士が涼しげな顔でそれらを受け流していると、大峰悟が一際大きい咳払いをして教室内を静めた。
「あーー!それと、もう一人!転入生がいる!」
その言葉に再び教室内が沸き、教室の扉の方へ視線が集まる。
あまりのテンションの上がりっぷりに大峰悟はまたも大きな咳払いをする羽目になった。
教室内が静まるのを待ってから、大峰悟は外で待つインデックスに告げる。
「転入生、入りなさい」
「はーい!」
可愛らしい声と共に、インデックスがニコニコしながら教壇の方へと歩いて来る。
何処かノリノリのように見えた。
彼女の姿を見て、三度教室内が沸く。
「おーー!可愛いーーー!」
「瞳が綺麗~~!外国の子かなあ!?」
「俺の彼女になってくれますかーーー!?」
大峰悟はやれやれと首を振ると、もう諦めたのか教室内が静まるのを待たずにインデックスのことを紹介した。
「あー、彼女はイギリスから留学して来たインデックス君だ。文化の違いなんかもあるかも知れんが、皆仲良くしてやってくれ。……では、門矢先生。後は頼みましたよ」
そう言ってから大峰悟は教室の後ろの方へ退いていった。
ここからは士に全てを任すということだろう。
士は出席簿を手に取り、それを教壇へピシャリと叩き付ける。
すると、騒がしかった教室が一瞬で静かになった。
教室内をぐるりと見回した後、士は再び出席簿を手に取る。
「……じゃあ、早速だが出席を取るぞ」
出席簿の上から順に名前を呼び、返答した生徒の顔を見ていく。
そうして進んでいくと、途中で見覚えのある顔が目に入った。
「……平井ゆかり」
「……フン!」
平井ゆかりという名前の少女は不機嫌そうに鼻を鳴らした。
向こうもこちらのことを覚えているらしい。
今は瞳の色も髪の色も黒いが、彼女が今朝出会ったあの燃えるような赤い瞳と髪の少女なのは間違い無いだろう。
士は出席簿を閉じると、ツカツカと少女の元へ歩み寄る。
「おい、平井。せっかく新人教師と生徒との最初の触れ合いの機会にその態度は無いんじゃないか?」
「……何であんたがここにいるのよ」
「あんた、じゃない。『門矢先生』だろ?」
二人はそのまま睨み合った。
すると、彼女の隣に座っていた純朴そうな少年が慌てて口を開く。
「門矢先生、シャナ……じゃなくて平井さんはいつもはこんな感じじゃ無いんです。今日はちょっと機嫌が悪いみたいで……」
「悠二!」
余計なことをするなと言わんばかりに少女は隣の少年を睨み付けた。
悠二と呼ばれた少年は困ったような顔をする。
「……何があったかは知らないけど、シャナも少しは落ち着こうよ。何かいつものシャナらしくないよ?」
「私はいつも通りよ!」
「いつも通りじゃないよ。いつもはそこまで興奮しないじゃないか」
「うるさい!」
二人は士を余所に軽く口論を始めた。
「お前は……」
士は出席簿の座席表を開くと、平井ゆかりの隣に座る少年の名前を見る。
「坂井悠二……だったか?」
「あ、ハイ。そうです」
少年──坂井悠二はそう返事した。
一方で、平井ゆかりは納得いかないという表情でそっぽを向いている。
「平井、俺は教育実習生だが、一応教師だ。教師にその態度は感心しないなあ」
士はニヤリと笑った。
「……生活指導だ。放課後残れ」
「ハァ?何言ってんの?」
平井ゆかりは心底不機嫌な顔で士へと抗議したが、士は彼女へ背を向ける。
教壇まで戻って来ると、まだ立ったままのインデックスが「ねえ……」と声を掛けてきた。
「つかさ……」
「何だ。いたのか」
「いたのか。じゃないんだよ!私は何処に座ればいいのかな?」
「そうだな……」
士はチラッと平井ゆかりの席周辺を見た。
「お前の席は平井の隣だ」
そう言って士は平井ゆかりの隣……坂井悠二の座っている席と反対側の空席を指差す。
「ちんちくりんはちんちくりん同士、仲良くしてろ」
「ち、ちんちくりん!?」
インデックスはじろりと士のことを睨んだ。
「つかさはもう少しレディーに対してのものの言い方を考えた方がいいかも!」
「ガキがいっちょ前のことを言うな。レディー扱いして欲しかったら早く大人になるんだな」
士はインデックスの額を指で押した。
何か言いたそうな顔で士を睨むインデックスであったが、渋々席の方へと歩いて行く。
彼女が席に着いたのを確認すると、士は教壇に両手をついた。
「じゃ、始めるとするか!」
そうして授業を開始した士であったが、意外や意外にそつなくこなす。
そんなこんなで三時限目が終わる頃、インデックスが慌てた様子で士の元にやって来た。
「ねえ、つかさ!大変なんだよ!」
「何が大変なんだ?」
士が面倒臭そうに聞くとインデックスは真剣な顔つきになる。
「私のお昼ご飯が無いんだよ!」
「……何だ、そんなことか」
素っ気無い士の態度に、インデックスがムッとした顔で反論する。
「全然そんなことじゃないかも!つかさだって、お昼ご飯無いんだから!」
そこまで言って、インデックスは急に落ち込んだようにがくりと肩を落とした。
「お昼ご飯食べられなかったらピンチかも……」
士は呆れたように肩を竦めてみせる。
「……学食で何か買えばいいだろ?」
「あ!そうか!流石つかさだね!……で、お金は?」
「あるわけないだろ」
「じゃあ、やっぱりお昼ご飯食べられないんだよ!」
インデックスは、まるでこの世の終わりのような顔をして言った。
彼女にとって食事というものは、とても大事なものらしい。
士は思わず頭を抱える。
「……飯が食えないくらいでそんなに絶望するなんて、お前くらいなもんじゃないか?」
「だってお昼ご飯食べられないんだよ!?つかさはお昼ご飯食べられなくても平気なの!?」
「……平気ってわけじゃないが」
「ほら!!」
「……ま、何とかなるだろ」
「もう、つかさってば!」
相変わらず楽天的な様子の士を見て、インデックスは思わず地団駄を踏んだ。
──そして四時限目が終了し、昼食の時間。
「どうしてこうなったんだよ……?」
インデックスは思わず目の前の光景を疑わずにはいられなかった。
「門矢先生!これも食べて下さい!」
「先生!こっちも美味しいですよ!」
「ちょっとずるーい!門矢先生は私の料理がお気に入りなの!」
「……おいおい、押すな。大丈夫。皆平等に味わってやるから」
「キャーーー!」
そこには、クラス中の女子からお弁当の中身を与えられている士がいた。
特に催促したというわけでは無いのだが、昼休みに入ると同時に士の周囲を女子たちが取り囲んだのだ。
男子たちが羨ましそうな顔でその様子を見つめている。
「これは何かの間違いなんだよ……」
「何が間違いなものか。こんなにカッコ良くて、こんなに完璧な俺が女子にモテない筈無いだろ?」
士が当たり前のようにそう言い切ると、一気に教室内から殺気と嫉妬が溢れ出した(主に男子から)。
だが、それも何処吹く風といった感じで士は貰ったおかずを次々と口に運ぶ。
「……美味しそうなんだよ」
インデックスは今にもよだれを垂らしそうに士のことを見ている。
腹の虫も容赦なく鳴っていた。
そんな彼女の視線に気が付くと、士は手にしたフォークの先端をミートボールに突き刺す。
「ほら、口を開けろ」
「くれるの!?」
インデックスの目がまるで十万カラットの宝石のようにキラッと眩く輝いた。
「犬かお前は……」
士のそんな言葉も耳に入らぬくらい、インデックスはミートボールに集中していた。
言われた通りに大きく口を開けて待っている。
フンと鼻を鳴らした後に、士はミートボールを彼女の口の中へと持って行ってあげた。
ミートボールはインデックスの射程圏内へと入る。
パクッ。
「……あれ?」
口の中にある筈のミートボールが無くて戸惑うインデックス。
士がニヤニヤした表情で見ている。
それを見て彼女は何が起きたか理解した。
彼女の口が閉じられる直前に、士はフォークを引いていたのであった。
「こんな手に引っ掛かるなんてまだまだだな」
パクッ。
士はミートボールを口に入れた。
「あーーーーーーーーーーーーー!!?」
目の前で士にミートボールを食べられ、教室内にインデックスの絶望の叫びが響き渡る。
そんなインデックスを見て、士は腹を抱えて笑っていた。
「私の……ミートボール……」
インデックスは大粒の涙をボロボロと零しながら士を睨み付ける。
たかだかミートボール一つでここまで感情を露にする彼女を見て、士は少し呆れたような顔をした。
「門矢先生、ちょっと酷いんじゃないですか!?」
すると、別の場所でお弁当を食べていた少女が今の士の行動を非難した。
「お前は確か……」
士は出席簿を開く。
「緒方真竹……か」
「インデックスちゃんは外国から転入して来たばかりなんですよ?優しくしてあげるのが教師ってもんじゃないんですか?」
「何を言う。こうして常日頃から飼い主との上下関係をハッキリさせておかないと勘違いするだろうが」
「私は犬じゃないんだよ!!」
インデックスが「フーーーッ!」と唸ると見えない尻尾を立てた。
犬じゃ無ければ猫だな、と皮肉を言う前に、別の少女がインデックスへ近付いて来る。
「インデックスさん。私のでよろしければ、お弁当分けてあげましょうか?」
「本当!?」
再び瞳を輝かせ、インデックスはその少女の元へ文字通り飛んで行った。
「吉田一美……か」
出席簿を確認しながら士は呟いた。
大人しそうな雰囲気の少女である。
「わ!わ!とても美味しそうなんだよ!!これ、食べてもいいの?いいの?」
インデックスが吉田一美の弁当を覗き込みながら言った。
「う、うん。どうぞ」
吉田一美は快く弁当箱をインデックスへ差し出す。
すると、今度は坂井悠二がやって来た。
「はい、インデックスさん。これ使いなよ」
そう言って、プラスチックのフォークを差し出した。
インデックスはそれを受け取ると同時に目にも止まらぬ早さで弁当箱の中のきんぴらごぼうを口へ運ぶ。
「……凄く美味しいんだよ!!!!」
教室内にインデックスの歓喜の声が響き渡る。
その様子を坂井悠二と吉田一美は微笑み混じりで見ていた。
まるで我が子を見る両親のようである。
「………………フン!!」
後ろの方で平井ゆかりがメロンパンを齧りながら不機嫌そうに鼻をならした。
何とも苛立たしげに二人のことを見ている。
どうも、吉田一美が坂井悠二と親しげなのが気に食わないらしい。
「インデックスさんと門矢先生ってどういう関係なんですか?」
ふと、吉田一美がインデックスにそんなことを尋ねてきた。
「私と、つかさ?」
「はい。門矢先生のこと下の名前で呼んでますし、とても教師と生徒という間柄には……」
「確かに無関係とは思えないね」
坂井悠二もこの話に興味があるのか乗っかって来る。
確かに、傍から見れば二人の関係は中々に想像し難い。
当然の疑問である。
「もしかして、ご親族なんですか?」
吉田一美がポンと軽く手の平を合わせてから言った。
インデックスは返答に困ったようにあたふたとしている。
彼女自身、士とどういう関係なのか、まだよく分かっていないのだろう。
何せ士と出会ってから、まだそれ程時間も経っていない上に、気が付いたら自分がいる世界とは別の世界へと来てしまったのだ。
そんなことは考えもしていなかったのである。
「……ま、そんなようなもんだ」
「門矢先生!?」
いつの間にか、三人の近くに士が立っていた。
インデックスの代わりにそう答えると、弁当箱の中の卵焼きにフォークを突き刺して口に運ぶ。
「あああああああ!!また!!」
「……俺はもう少し甘い方が好きだな」
「す、すみません」
吉田一美が頭を下げると士はフンと鼻を鳴らして、今度は坂井悠二の方へ視線を向けた。
「な、何ですか?」
坂井悠二は少し戸惑いながら口を開く。
「お前……坂井悠二、だったか?平井ゆかりのことを『シャナ』って呼んでたな。あれは何だ?」
「え?えーと、ニックネームみたいなものですよ。特に深い意味は無いです」
「そうか、ニックネームか」
士はそう言いながら、再び吉田一美の弁当箱の中にフォークを落とそうとした。
しかし、すんでのところでインデックスは弁当箱を持ってそれを交わす。
「二度も三度も同じ手は食わないんだよ!!」
「ったく、この腹ペコシスターが。余計な知恵だけはつけやがって。意地汚いぞ!」
「それ、つかさにだけは言われたくないかも!!」
士とインデックスの言い争いを見て、坂井悠二と吉田一美は互いに再び微笑んだ。
平井ゆかりはまたも不機嫌な顔でそれを見ている。
ガタッ
突如、一人の生徒が立ち上がり教室の外へと出て行った。
それだけなら何ということは無いのだが、彼の行動があまりに急だったので士は気になる。
出席簿を見てみると、出て行った生徒の名前は波止場ミハルというらしい。
(……そう言えば)
士は今朝のことを思い出した。
怪物を撃退し、平井ゆかりと別れた後に感じた視線。
それを送っていたあの少年は、波止場ミハルでは無かっただろうか。
(……あいつには何かを感じるものがある)
虫の知らせとはこのことか。
士は彼のことが気になって仕方ない。
キーンコーンカーンコーン……
教室に予鈴が鳴り響いた。
間もなく昼休みが終わり、午後の授業が始まるだろう。
生徒たちはかったるそうに準備をし始めた。
それが起きたのは、そんな折のことであった。
世界は一瞬で赤に染まり、人々はまるでマネキンのようにぴくりとも動かなくなる。
この光景に士は見覚えがあった。
(封絶って奴か!)
まさか、こんなにもすぐにまた同じ現象が発生しようとは。
隣でインデックスもこの突然の変化に戸惑い、辺りをキョロキョロと見回している。
「……やれやれ、この世界は四六時中こうなのか?どうやら思っていたよりも物騒らしいな」
士がそう言うと、坂井悠二が驚いたように声を上げた。
「門矢先生!?何で動けるんですか!?それにインデックスさんまで!?」
信じられないという表情で士とインデックスのことを見ている。
「やはりお前もこの封絶とかいう奴を知っていたか」
士は坂井悠二へと向き直った。
そのすぐ後ろでは平井ゆかりが鋭い目付きで周囲を警戒している。
何時の間にか髪と瞳を真っ赤に変え、マントを羽織っていた。
教室内で、この二人だけが士たちと同じように動いている。
「おい、これもまた徒って奴の仕業か?」
「……そうよ」
「雑談はそこまでだ。敵がすぐそこまで来ているぞ」
平井ゆかりのペンダント──アラストールと呼ばれていた──がそう忠告する。
同時に教室中の窓ガラスが一斉に割れた。
耳をつんざくような音にインデックスと坂井悠二が思わず耳を押さえてうずくまる中、士と平井ゆかりの二人は瞬時に戦闘態勢に入る。
割れた窓ガラスからは強烈な風が吹きつけ、教室内はまるでひっくり返ったかのように滅茶苦茶になっていった。
動けない生徒たちも、まるで捨てられたマネキンのように辺りを転がっていく。
「何だこの風は!?」
士が窓ガラスの方を見ると、そこには翼竜のような化け物がこちらを覗いていた。
まるで獲物を物色しているかのようである。。
先程の突風は、どうやらこの化け物の羽ばたきが原因らしい。
化け物の視線は主に平井ゆかりに対して注がれている。
それに気が付くと、坂井悠二が平井ゆかりに向かって叫ぶ。
「シャナ!気を付けろ!こいつは君を狙ってる!」
「分かってる!」
平井ゆかりはマントの中から刀を取り出して構えた。
一方で、士はその様子を腕を組みながらじっと見ている。
インデックスは思わず声を掛けた。
「つかさも変身しないの?あの『かめんらいだあ』っていう奴」
「……今朝、あいつが言ってたろ。『調子に乗るな』ってな。だから、化け物退治のお手本って奴を見せて貰おうと思ってな」
「つかさって、案外根に持つタイプだったんだね……」
インデックスは半ば呆れ気味に言った。
士は無視して平井ゆかりへ視線を向ける。
「と、いうことだ。早速拝見させて貰うぜ、『シャナ』!」
「……………………!」
平井ゆかりは「お前がその名前で呼ぶな」という目で士を睨み付けた。
「言われなくても!あんたはそこで見てればいい!」
平井ゆかりことシャナはそう言い放つと、すぐに外の化け物へと向かって行った。
相変わらずの俊敏さで、あっという間に化け物の背中に乗ると、そこへ躊躇なく刀を突き立てる。
すると、化け物は耳が割れるような大きい声で悲鳴を上げ、上昇を始めた。
あちこちを出鱈目に飛び回り、背中に乗っているシャナを振り落とそうとするが、シャナは刀をしっかりと掴んでそれを防ぐ。
若干、怪物の動きが鈍って来たのを見て取ると、坂井悠二がシャナに向かって叫んだ。
「今だ!シャナ!!」
「うん!!」
シャナは怪物に突き立てた刀を抜くと、美しく弧を描くように振るう。
すると、化け物の首は大量の出血と共に呆気なく胴体から離れた。
頭を無くした化け物は、力無く重力に任せるまま落下していく。
「ハッ!」
地面へ直撃する寸前にシャナは士たちのいる教室へと飛び移った。
時間にして僅かに数分、鮮やかな勝利。
シャナは士に向き直ると、勝ち誇ったように胸を張る。
「これがフレイムヘイズの力よ」
「なるほどな。大体分かった」
士が素っ気なくそう言うと、シャナはムッとした表情になるが、すぐに周囲へと目を向けた。
先程の化け物のせいで教室内は見るも無残な状態になっている。
「待ってて」
シャナは手から白く光る何かを放出した。
すると、先程まで滅茶苦茶となっていた教室が元通りになっていく。
まるでビデオの逆再生を見ているかのようであった。
「それは何だ?」
「……存在の力の応用よ。封絶の中で起きた出来事ならば、こうして封絶が発動する前に戻すことが出来る。もっとも、存在の力を喰われた人間や封絶の影響を受けていないものはこうして修復することは出来ないけどね」
士が尋ねると、シャナは案外素直に答えた。
暫くすると、教室内は何も無かったかのように元通りとなる。
インデックスがまるで子供のようにはしゃいだ。
「すご~い!元通りになっちゃったよ、つかさ!」
「ああ」
流石の士もその凄さを認める。
そして、改めてシャナという人物を見た。
(これがフレイムヘイズ……か)
「あれ?これ何かな?」
インデックスが何かを拾い上げて言った。
それは銀色のメダルのようなものであった。
ピカピカに光っている。
「……………………」
士は何故だかそれに見覚えがあるような気がしていた。
頭の中で何かが引っ掛かっている。
「これ、あなたたちのかな?」
インデックスはシャナたちへそのメダルを見せる。
「……見たこと無いわ」
「……僕も知らないです」
しかし、二人は首を振り、口を揃えて否定した。
嘘をつく理由も無いので、彼らの言う通り別の誰かの所有物なのだろう。
(……波止場、ミハル)
士の脳裏に彼の名前が浮かんだ。
突然、教室から出て行き、未だに戻って来ていない生徒。
まるで、今の事態を分かっていたかのようである。
彼のことを怪しむと同時に、教師の扉が急にガラッと開かれた。
「ヴォォォォォォォォォォォォォォ」
低い唸り声が耳に入ってくる。
見ると、ミイラのような化け物が次々と教室内へ入って来ていた。
先程の化け物程大きくは無いものの、一人一人の体格は長身の士よりも大きい。
「な、何なんだよ!?」
「シャナ!あれも徒なのか?」
「違うわ、悠二!あんなの見たことない!」
「……………………!」
突然の闖入者に驚く三人を余所に、士は自分でも驚く程に落ち着いていた。
あのミイラのような化け物のことを知っている。
そんな確信を士は抱いていた。
「こいつらは……ヤミーか!」
思わず口をついて出た言葉。
シャナが訝しげに士の方を見る。
「あんた、こいつらのこと知ってるの?」
「どうもそうらしい」
「らしい……って」
「……いよいよ主役の登場らしいな」
士はベルトのバックルを取り出そうとした。
と、その時、周囲にオーロラが発生する。
それは、学園都市を飲み込んだあのオーロラと同質のものであった。
オーロラは無慈悲にも真っ直ぐ士たちの方へと迫って来る。
「!?」
「今度は何よ!?」
「ちぃ!!」
士はすかさずインデックスの背中を力任せに押し飛ばした。
「ひゃあ!?な、何するんだよ、つかさ!?」
「シャナ!インデックスを頼む」
そう叫んだ士をオーロラが完全に飲み込んでいく。
次の瞬間、そこに士の姿は無かった。
「つかさ!?」
インデックスが呼び掛けても返事はない。
茫然とした表情のままインデックスは膝から崩れ落ちる。
「そんな……嘘、だよね?つかさ……?」
「インデックスさん……」
「今はあの化け物たちの対処が先よ、悠二!」
インデックスを気に掛ける坂井悠二へシャナは言った。
刀を構え、士ガヤミーと呼んだ化け物を迎え撃とうとする。
幸い、連中の動きはとてものろく、まだ少し距離があった。
「アラストール!さっきのオーロラは何!?まさか紅世の徒!?」
「……いや、違う。あれはそれとは別の力のようだ」
重々しい声でそう答えるアラストールに、シャナは聞き返す。
「別の力って何?どういうことなの?あいつは何処へ行ったの?」
「……分からぬ」
それだけ言うと、アラストールはそのまま黙り込んでしまう。
世界は今もまだ禍々しい紅に染められていた。
「……………………」
その様子を遠くから見ている男がいた。
チューリップハットを被り、ロングコートを羽織っている。
静止する世界の中、彼もまた自由に行動することが出来るようであった。
「ディケイド……この世界にお前はあってはならない」
男は憎々しげにそう言うと、周囲に現れたオーロラの中へその身を任す。
そして、その姿を消してしまった。
まるで最初からそこに誰もいなかったかのように。
当時を覚えている方は読んでいて「アレ?」と思うかも知れません。
にじファンで投稿していた時代は、まだオーズも終わっていない頃でした。
しかし、あれから時も経ち、新しい仮面ライダーも増えたので、早速その辺を反映してストーリーを大幅に改変しております。
ご了承下さりますと助かります。