仮面ライダーディケイド − THE LOST MEMORIES − feat インデックス 作:海東
「……ここは?」
気が付くと、士はいつの間にか地下駐車場のような場所に立っていた。
「……どうなっている?」
その疑問に答える者は誰もいなかった。
周囲を見回してみたが、一緒にいた三人の姿も何処にも見えない。
真っ赤に染まっていた筈の世界も何時の間にか原色へ戻っていた。
「俺は、一体……?」
突如出現したオーロラに飲み込まれたことは覚えている。
その結果、こういった場所に降り立ったというのは何となく理解は出来るが、まだ戸惑いの方が強い。
コツ、コツ
少しして、足音が耳に入って来た。
何者かがこちらへ向かって来ているようである。
コツ、コツ
足音はどんどんこちらへと近づいて来ている。
士は警戒し、身構えた。
やがて、足音の主はその姿を現す。
蛇の頭部を模したような紫色の仮面、そして鎧を装着している。
その姿は、まさしく“仮面ライダー”であった。
―――仮面ライダー王蛇
突如、士の頭の中に浮かんだ言葉。
それが目の前の存在を示す名前であることを、士は頭ではなく心で感じた。
「……祭りの場所はここか?」
王蛇がそう言ったのが聞こえた。
狂気を孕んだような声音で、明らかな敵意を感じる。
「……生憎だが、今は祭りの季節じゃない」
士がそう返すと、相手は苛立ったのか首を捻る。
「……………………」
「……………………」
一瞬、奇妙な間が空いた。
互いが互いの様子を伺っている。
そんな感じであった。
「ハァッ!!」
最初に動いたのは王蛇の方であった。
鋭い蹴りを士へ向けて放つ。
「!!くっ!?」
寸前のところで士はそれを交わすと、体勢を崩したままバックルを取り出し、腰に装着した。
そして、すぐにカードを取り出し、「変身!」と叫んでからそれをバックルの中に入れる。
『KAMEN RIDE』
『DECADE』
士はディケイドへ変身すると、体勢をすぐに立て直した。
そして、先程のお返しとばかりに王蛇へ向けて前蹴りのような形で蹴りを放つ。
「!!」
王蛇は即座にその蹴りを腕でガードし、バックステップで一旦後ろへ下がった。
相手との距離が開いたのを見ると、士はその隙にライドブッカーを手に取り、刃を出して構える。
「フン!」
それに対して王蛇は杖のようなものを手に取った。
杖はコブラの頭部を模したデザインをしている。
更にカードを一枚取り出すと、杖にそれを素早く差し入れる。
『SWORD VENT』
すると、王蛇の手の中に一本の剣が出現した。
刃がまるで蛇の尻尾のような形をしている。
それを構えると、獲物を狩る獣のような視線を士へと向けた。
「……………………」
「……………………」
両者は互いに睨み合う。
「……………………!!」
「……………………!!」
次の瞬間、同時に飛び出した二人はそれぞれ剣を振るう。
すると、刃同士が激しくぶつかり合う音がした。
双方、共に荒々しい斬り合い。
やがて鍔迫り合いになった。
「……お前は何だ?何故俺と戦う?」
「イライラするんだよ……お前の存在が!」
王蛇は刃を付け合せたまま、士の空いた腹部へ向けて強力な蹴りを放った。
それをまともに受けた士は思わず体をくの字に曲げる。
直後、王蛇の追撃。
「ぐわあ!!」
横に払う斬撃を受けた士の胸からは火花が飛び散り、そのまま転がるように後方へと飛ばされてしまう。
一方で王蛇は手にした剣で肩をトントンと叩くと、倒れた士を見下ろしながら言った。
「貴様の実力はその程度か?」
「……それは、どうかな?」
士はゆっくりと立ち上がりながら一枚のカードを取り出し、バックルの中へとそれを投げ入れた。
『KAMEN RIDE』
『DEN-O』
ディケイドライバーが音声を発すると同時に数々のパーツが周囲に出現し、それらが士の体へとくっ付いていく。
やがて、駅のホームで流れるようなBGMが流れると、士の姿が変わっていた。
―――仮面ライダー電王
時の運行を守る仮面ライダーである。
「姿が変わったからって何だと言うんだ?」
一連の流れを見た王蛇が馬鹿にしたように言った。
余裕の態度を崩さない。
「茶番は終わりだ!」
「茶番かどうかはこれを見てから言うんだな。行くぜ……っ!」
士はライドブッカーの刃を手で払うと、今度は彼の方から王蛇へと向かって走って行った。
刃の届く距離まで詰めると、すぐにライドブッカーを振り下ろす。
王蛇はそれを剣で受け止めようとするが、その動きを見切った士が素早い動きですぐに太刀筋を変えた。
剣の軌道を見切ることの出来なかった王蛇はその一撃を胸部に受けて後ずさる。
「くっ!?」
「……何だかさっきよりもコイツが使い易く感じるぜ」
士は手にしたライドブッカーをまじまじと見つめた。
今の彼の姿、ソードフォームは剣の扱いに長けた形態である。
その為、ライドブッカーがまるで羽根のように軽く、とても扱いやすい。
「フン……」
王蛇は即座に態勢を立て直すと、新たにカードを一枚取り出して杖に差し入れた。
『SWING VENT』
すると、王蛇の手にまるで生物の尾のような長い鞭が出現した。
「死ね!」
王蛇は士に向けてそれを振るった。
空気を切り裂くような音が辺りに響く。
士は後方に飛ぶことで初撃を交わしたが、すぐに次の攻撃が来る。
(ちぃっ!)
ライドブッカーで何とか受け止めたものの、相手の攻撃は休まることを知らない。
(軌道が……読めない!)
鞭独特の変則的な動きは見切ることが難しい。
徐々にライドブッカーでは捌ききれなくなっていく。
(接近戦に持ち込めば……!!)
しかし、鞭の攻撃範囲は広く、それが絶え間なく襲って来るので相手の懐に潜り込むことが出来ない。
士はその場から動けずにいた。
「距離を取りやがって……それならこいつだ!」
士も新たにカードを一枚取り出すと、バックルの中へ入れた。
『FORM RIDE』
『DEN-O GUN FORM』
士の身を纏っていたパーツが再び周囲に浮かび上がると、それは別の形に変形しながら士へとくっ付いていく。
すると、今度は紫を基調とした姿へと変わった。
仮面もまるで竜のような形状になっている。
その姿は、電王ガンフォーム。
銃の扱いに長けた形態である。
「今度はこちらから行かせて貰うぜ!」
士はライドブッカーを銃に変形させ、王蛇へ向けて撃った。
エネルギー弾が正確にうねる鞭の隙間を縫っていく。
「!?」
王蛇の胸から火花が飛び散った。
士の銃撃が見事、命中したのである。
相手も負けじと鞭を振るって反撃してくるが、士はそれをまるで踊るように軽やかなステップで交わしていく。
「フンフンフーン♪」
そのステップを維持したまま、士はライドブッカーで王蛇を狙い撃つ。
放ったエネルギー弾は次々と王蛇の胸元へ直撃し、遂にはその場から吹き飛ばした。
「まだまだ行くぜ!」
士は手をパンパンと払うと、新たなカードを取り出し、それをバックルに入れる。
『FORM RIDE』
『DEN-O ROD FORM』
先程と同様に士の身を纏っていたパーツが浮かび上がり、更に別の形へと変形しながら士に再びくっ付いていく。
やがて全身が青を基調とした姿へと変わった。
今度の仮面の形状はまるで亀のようである。
この姿は、電王ロッドフォーム。
釣竿のような杖、そして蹴り技を得意とする形態である。
「舐めるな……!」
王蛇は、まるでダメージを受けていないかのようにすっと立ち上がる。
「これで終わりだ」
物凄い形相で士を睨み付けながら、王蛇はまた新たにカードを一枚取り出した。
そして、それを杖の中に素早く差し入れる。
『FINAL VENT』
すると、王蛇の背後に巨大な蛇のような怪物が出現した。
それと同時に王蛇が士へ向かって走り始めると、蛇の怪物もすぐにその後を追いかける。
「!!」
途中で王蛇は地面を蹴り、高くジャンプすると空中で反転した。
その背中へ蛇の怪物は何かを吐き出すと、その勢いのまま王蛇の体が前方……つまり、士の方へと押し出される。
この時、王蛇はキックの態勢を整えていた。
士はそれを確認すると、カードを一枚取り出してバックルの中へと投げ入れた。
『FINAL ATTACK RIDE』
『DE DE DE DEN-O』
ディケイドライバーの音声と同時に士も高くジャンプし、キックの態勢を整える。
「はああああああああああああ!!」
「死ねえええええええええええ!!」
そのまま二人が衝突すると、空中で物凄い大爆発が起きた。
衝撃で世界が揺れる。
「っ!!」
二人は共に後方へと吹き飛ばされ、地面を転がっていく。
この時、先程の衝撃によって士は元のディケイドの姿へと戻っていた。
「!!」
双方共に立ち上がると、構えるのもまた同時であった。
再び二人に奇妙な間が空く。
その時、王蛇の前にあのオーロラが出現した。
「……時間、か」
忌々しそうにそう言うと、王蛇は士へと背を向ける。
「待て!!」
士がそう呼び止めた時には、王蛇はオーロラに飲み込まれていた。
「……何だったんだ、一体?」
この場に一人残された士はそう呟くとバックルを開き、変身を解いた。
同時に周囲が急に歪み始め、やがて溶けていく。
「……………………」
気が付くと、士は元の教室へと戻っていた。
士が戻って来ても、世界は未だに禍々しい赤色に染まっていた。
どうやら、封絶がまだ解けていないらしい。
教室内に再び現れた士の姿を見るなり、インデックスがいち早く彼の元へ駆け寄って来る。
「つかさ!無事だったんだね!」
インデックスが安心したように笑顔を見せると、士は照れ臭そうに「フン」と鼻を鳴らした。
「あのくらい、俺にかかればどうということはない」
「もう!つかさはいつもそういう風に言う!私だって、ちょっとは心配したんだよ!」
相変わらず不遜な士の態度にインデックスは頬を膨らます。
それを見て、士はやれやれと言った感じで彼女の頭へ手を乗せた。
「……安心しろ、俺はそう簡単にはやられない」
「つかさ……」
インデックスは改めて士が無事だったことにホッと胸を撫で下ろした。
しかし、すぐに暗い表情になる。
「……?どうした?そんなしけた面して」
「実は、つかさがいなくなった後なんだけどね……」
インデックスが事情を説明する。
「何?あいつが……シャナが攫われた、だと?」
「はい」
士が尋ねると、インデックスの側にいた坂井悠二が頷いた。
「まさか、ヤミーに?」
「いいえ、あのミイラのような奴らはシャナが倒しました。でも、その後に新たな怪物が現れて、そいつが変な怪人を使ってシャナを……」
坂井悠二は少し気落ちした様子で、士がいない間に起きた出来事を語った。
「そうか……」
士はそれだけ言うと、考える。
自分があの場所で仮面ライダー王蛇と戦ったのは、長く見積もっても十数分くらいである。
その間にシャナを倒し、尚且つ攫う。
一度刃を交えたことのある士はシャナの実力をある程度は理解していた。
それだけに、そんなシャナをこうも容易く攫って行った者の強さを感じ取る。
「シャナ……」
坂井悠二が俯いたまま再びその名を呟く。
士は少し気になった様子で坂井悠二に声を掛ける。
「……そう言えば、何でシャナなんだ?」
「え?」
「平井ゆかりって名前からその『シャナ』ってニックネームは連想出来ないからな」
「……そう言えば、門矢先生にはその辺の事情、説明していませんでしたね」
坂井悠二はそう言うと、少し顔を上げた。
「平井さん……平井ゆかりって人は、実はもうこの世にはいないんです。徒に存在を全て喰われてしまったから。シャナは……炎髪灼眼のフレイムヘイズはその存在を借りて、平井ゆかりとしてこの世に存在しているんです」
「そういうことだったのか」
「そして僕も……。この坂井悠二という存在も実はもうこの世にはいない抜け殻のようなものなんです」
「ん?じゃあ、何でお前は今ここにいるんだ?」
「それは零時迷子という宝具のおかげなんです。毎晩零時になると存在の力が回復し、僕はこの世に存在し続けることが出来る。この封絶の中で僕が動けるのもこれのおかげなんです」
そこまで言うと、坂井悠二は寂しそうな顔をした。
「でも、僕という存在がこの世から既に消えてるのは変わらないんです。幸い、家族や友人は僕の存在を覚えててくれていますが……でも、それもいつまで続くか分からない。僕の存在が誰の記憶から消えてしまうかも分からない。それが今の僕なんです」
「…………………………」
かすかに怯えの表情を見せる坂井悠二を見て、士は何処か他人事では無いと感じていた。
士には過去の記憶が全く無い。
それはつまり、親しい友人や仲間たちの存在が自分の中から消えたということに等しい。
逆の立場になれば、それは何と恐ろしいことだろう。
士はかすかに身震いする。
「でも……」
坂井悠二は心なしか先程よりも力強く言葉を発する。
「シャナは……彼女は僕のことを何時までも覚えてくれると言ったんです。彼女が僕に存在する理由を与えてくれた」
坂井悠二はそう言うと、少しだけ顔を綻ばせた。
「彼女には最初名前が無かったんです。炎髪灼眼の討ち手のフレイムヘイズ……そう名乗っていました。それで彼女は平井ゆかりの名を借りたけど、でも平井さんでは決して無い。だから、僕が彼女に『シャナ』って名付けたんです。シャナが持っていた刀、あれって贄殿遮那(にえとののしゃな)って言うんですけど、そこから取って。自分でも少し安直かなって思うんですけどね」
坂井悠二はばつが悪そうに笑った。
その表情から、彼のシャナに対しての強い信頼感のようなものが垣間見えるような気がした。
士は何かを決心したかのように頷くと、膝をパシンと叩いた。
「……行くぞ」
「行く?行くって何処へですか?」
「シャナを攫って行った奴のところだ」
そう言って士が教室から出ようとすると、インデックスが慌ててその後を追って来た。
士はインデックスに背を向けたまま言った。
「遊びに行くわけじゃない。お前はここであいつと待ってろ」
「嫌なんだよ!」
インデックスは声を張り上げた。
「……また置いて行かれるのは嫌なんだよ」
士は「ったく」とだけ呟くと、それ以上は何も言わなかった。
インデックスは少しだけ顔を綻ばせると、士の後をとてとてと追い掛ける。
それを見て、坂井悠二も口を開いた。
「門矢先生!僕も連れて行って下さい!」
「お前もか」
「僕が行っても何も出来ないかも知れません。でも、行きたいんです!」
士はじっと坂井悠二の目を見た。
とても真剣な眼差しである。
坂井悠二も士の目を逸らさずに見つめていた。
少ししてから、士はフッと笑う。
「……勝手について来ればいい。怪我しようが俺は責任取らないからな」
「はい!」
三人は共に教室を出た。
「……で、どうするの?その怪物って何処にいるの?」
学校から出るなり、インデックスが真っ先に口を開いた。
「……さあな」
「ええーーー!?知らなかったの!?それなのにあんなに堂々と言ってたの!?信じられないんだよ!!」
「犬も歩けば棒に当たる。と言うだろ?何にせよ、歩かなきゃ棒にだって当たれない」
「そうだけど……」
「大体、役に立たないくせに無理矢理付いてきて、俺を批判する資格なんかお前には無いだろ」
「た、確かに役には立たないかも知れないけれど、そんな言い方は無いと思うんだよ!」
「あ、あの!」
二人が口論を始めると、坂井悠二が間に入った。
「今はそんなこと言ってる場合じゃ……」
「だとよ、インデックス」
「むっかあー!」
インデックスはムキーと抗議の奇声を上げた。
士は無視して、ジャージのポケットに手を突っ込むと、そこに何かが入っていることに気付く。
「ん?」
取り出してみると、それは一枚のカードであった。
「それ、つかさのカード?」
「……いや、これは俺の知っているカードじゃない。毎日持っていたカードを確認してたから、知ってる奴ならすぐ分かる」
「ふーん。でも、つかさの持ってるカードに似てるかも」
確かにそのカードは士が所持しているカードと同じデザインであった。
表に何も描かれていないことを除けば。
「!!」
坂井悠二が突然立ち止まった。
何かに気が付いたような表情をしている。
「どうした?」
「シャナが……向こうにいる!」
「何でそんなことが分かる?」
「……分かりません。でも、分かるんです」
そう言うと、坂井悠二は急に走り出した。
「おい!」
士が呼び止める間も無く、坂井悠二はその場から去ってしまった。
「つかさ!」
「チッ!」
士とインデックスは、すぐに坂井悠二の後を追い掛けようとした。
その時、士は何者かの視線を感じる。
初めてではない視線であった。
「……おい。そこで見ている奴」
士はその視線を送ってくる何者かに話し掛けた。
「出て来い。何時まで見ているつもりだ?」
「……………………」
そう言われて姿を現したのは一人の少年であった。