仮面ライダーディケイド − THE LOST MEMORIES − feat インデックス 作:海東
「……………………」
士たちの前に現れたのは、封絶に包まれる前に教室を出て行ったあの少年であった。
名前は確か、波止場ミハルと言ったか。
あのクラスにおいて、彼は異質であったと言える。
自身も含めて、誰もが彼の存在に無頓着であったからだ。
彼が教室を出て行った時も、士以外は誰も気にさえ留めていなかった。
今思えば、あまりに不自然である。
そんな彼が二人の前に姿を現した。
何か確固たる決意を持っているのか、険しい表情である。
「お前、確か波止場ミハルだったか?」
「……………………」
「この封絶って奴の中じゃ、普通の人間は動けないらしい。……お前は何故、動ける?」
「……………………」
波止場ミハルは士の問いに対して何も答えず、代わりに槍のようなものを取り出した。
何時の間にかベルトのようなものを腰に装着している。
そのベルトを見て、士は全てを悟る。
「そうか。お前も……」
「……………………」
「さっきからずっとだんまりだな。何か言ったらどうなんだ?」
「……世界の破壊者」
「!?」
波止場ミハルは低くエコーの掛かった声でそう呟いた。
『世界の破壊者』という言葉の響き。
何処か聞き覚えがある。
いや、聞き覚えがあるどころではない。
まるで、自分の本質であるかのような、そんな感覚が士の胸の中に広がっていく。
「…………変身」
波止場ミハルが続けざまにそう言うと、彼の周囲にメダルのようなものが現れた。
そのメダルは先程インデックスが見つけたものと同種類のものに見える。
『サメ』
『クジラ』
『オオカミウオ』
何処からとも無く聞こえてくる声。
直後、周囲のメダルが彼の体に吸い込まれるように覆う。
頭部に鯨。
胸部に鮫。
下半身に狼魚。
と、波止場ミハルは声の告げた生物の意匠が施された姿へと変わる。
「えっ!!」
それを見たインデックスが驚きの声を上げる。
彼女にとってはこれが初めての士以外に仮面ライダーへ変身する者なのだから無理もない。
波止場ミハルは顔を士の方へと向けた。
「……俺は仮面ライダーポセイドン」
「仮面ライダー……ポセイドンだと?」
「貴様をこの世界から排除する!」
「何!?」
「はああああああああああ!!」
仮面ライダーポセイドンと名乗った波止場ミハルは槍を構え、低い唸り声を上げながら士の方へと向かって行く。
「つかさ!」
「チッ!また、この展開か!」
士は身構え、ディケイドのカードを取り出す。
この世界へ来て、まだそれ程時間が経った訳では無いが、既に二度変身し戦っている。
流石の士も疲労の色は隠せないでいた。
しかも相手はまたも仮面ライダーである。
苦戦は必至。
「変……!」
そう言おうとした瞬間、相手に異変が起きる。
突如としてピタリと動きが止まってしまったのだ。
士へ向かって振り下ろそうとした槍も空中で止まっている。
いや、止めていると言った方が正しいだろう。
「……?」
「……逃げ……て」
波止場ミハルが苦しげに言った。
今、この瞬間、士を襲おうとしている人間の台詞では無い。
何かがおかしい。
「どうした?」
「邪魔を……するなぁぁぁ!!」
怒りの感情を露にした咆哮。
だが、それは士に対して言っているのでは無いように聞こえた。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
顔を俯けたまま肩で息をしている波止場ミハル。
この行動が一体何を意味しているのか、士には分からない。
ただ、今の彼からは先程のような強い敵意は感じられなかった。
「一体、何なんだ?」
「苦しそうなんだよ」
士とインデックスは一定の距離を保ったまま、訝しげに波止場ミハルを見つめる。
彼はまるで抜け殻のように沈黙していた。
「……………………!」
と、急に波止場ミハルは変身を解き、士たちの前から一目散に走り去る。
「!?お、おい待て!!」
士は慌てて彼の後を追い掛けた。
「あ、あ、ま、待つんだよ!」
インデックスもその後をとてとてと追う。
二人が再び封絶に巻き込まれてからどのくらいの時間が過ぎたのか。
世界はまだ血のような赤に染まっていた。
「くっ……!」
何か糸のようなもので縛られ、身動き一つ取れないでいるのはシャナであった。
今の自分の状況を歯軋りしながら見ている。
引きちぎろうにも、まるで鋼鉄のように固く全く歯が立たない。
もがく彼女を一体の怪物が見つめている。
「フレイムヘイズ……ようやく手に入ったか」
怪物がそう呟くと、シャナはキッと睨み付けた。
「あんた……一体何者?あんたみたいな徒は見たことも聞いたこともない!」
『確かに、こやつの存在を我は知らぬ』
シャナの胸元でアラストールが同調する。
すると怪物は低く不気味な声で笑った。
「ハッハッハッハ、自分たちの知る世界が全てだと思うのは浅はかという奴だな」
怪物は暫く笑った後、改めてシャナへ向き直る。
「……そう言えば、自己紹介がまだだったか。我の名はギル。お前が言う徒というものでは無い」
「徒じゃ…ない?」
「我はグリードである」
「グリード?何よそれ?」
聞いたことの無い言葉にシャナは眉を顰める。
徒でも無い、異形の存在。
フレイムヘイズを攫って何をするのか、その目的もよく分からない。
ただ一つ分かっているのは怪物の実力は自身を捕らえるくらいには高いということであった。
「……私を捕らえてどうするつもり?何が目的なの?」
シャナがそう尋ねると、ギルは再び低い声で笑う。
「目的、とな?我は欲望の命じるままに行動したのみだ。強いて言えばこの世界の全てを支配するといったところか?貴様はその為の検体といったところだな」
『つまり、フレイムヘイズを研究する為に我々を攫ったということか?』
「概ねそれで問題は無い」
「……………………」
ギルの目的を聞いたことでシャナは余計にこの状況を何とかしなければと思うが、やはり身動きが取れない。
仮に拘束を解いたとして、この怪物を倒すことが出来るのかも分からなかった。
徒とは明らかに異質な存在。
フレイムヘイズの力とは相容れない何かを今も感じている。
この敵に対しては、強い弱いという問題では無いのかも知れない。
(悠二……)
シャナの頭に真っ先に浮かんだのは、かつて彼女が助け、今ではいつも一緒にいる一人の少年の顔であった。
仮に坂井悠二がこの場へ現れたところで、今の彼には戦う力も無く、何の打開にもならないことは重々承知である。
しかし、それでもシャナの脳裏には彼の顔が浮かんでいた。
(悠二!!)
「シャナ!!」
「!?」
その時、シャナの耳に入って来たのは、まさかの声であった。
「悠二!!」
声のする方へ視線を向けると、坂井悠二が息を切らしながら立っているのが見えた。
長い距離を走って来た為か、彼はハァハァと荒い呼吸をしている。
「ハァハァ……シャナ!!」
「悠二……」
「邪魔者が入ったか……」
そう言うとギルは坂井悠二の元へと歩み寄った。
「……………………!!」
「!?」
突然、坂井悠二の腹部へ急な衝撃が走り、思わず腹部を押さえて膝を突く。
二人の間へ割り込んだギルはすかさず彼の鳩尾へ拳を打ち込んでいたのだ。
ガクッと膝立ちになった坂井悠二をギルはすかさず足蹴にすると、為す術もなく彼は地面を転がって行った。
「悠二!!」
「人間というものは実に脆いものだな」
「悠二に手を出すな!!」
シャナにそう言われて、ギルは倒れている坂井悠二をチラッと見る。
「それ程にこの者が大事か?」
感情も何もこもっていない声でギルはそう言うと、片手でひょいと坂井悠二を持ち上げた。
そして、シャナの元へポイっと投げる。
まるでその辺に落ちているゴミを拾って捨てるかのようであった。
シャナは拘束されたまま坂井悠二の元へ駆け寄る。
「悠二!!」
「くっ、シャナ……」
「ふむ。どう見てもただの人間にしか見えぬがな」
ギルは青息吐息の坂井悠二を見て、そう感想を抱く。
シャナが何故彼をそこまで気にかけるか、理解出来ていないようであった。
その時、ギルは何かに気付いたように別方向へ視線を向けた。
「……戻って来たか。ミハル」
「……………………」
この場に現れたのは坂井悠二と同じ学生服を着た一人の少年であった。
波止場ミハルである。
何処か物憂げな面持ちであった。
「随分と早かったではないか」
続けてギルが話し掛ける。
異形の怪物と一見ただの人間の少年。
組み合わせとしてはあまりに異質過ぎると言っていい。
「例の世界の破壊者とやらはどうした?倒したのか?」
「……………………」
「何故、黙っている?」
「……もう」
「……?」
「もう、こんなことはしたくない!」
それは絞り出すような声であった。
「何?」
ギルは苛立ちを隠さずに波止場ミハルのことを睨み付ける。
「我の聞き違いか?『もうこんなことはしたくない』と、そう聞こえたが?」
「ぼ、僕は……!僕は、もう誰かを傷付けたくなんかない……」
「抜かしよるわ。小童が!!」
ギルは波止場ミハルの胸ぐらをガッと掴んだ。
「魂を喰われ、抜け殻同然であった貴様へコアメダルを与えてやったのは誰だと思っている?貴様はそのお陰でこうして生きているのでは無いか!!我が、手を差し伸べねば、貴様はここに存在することも出来なかった。それを分かっておるのだろうな?」
「……………………」
波止場ミハルは何も言い返せなかった。
それが答えと受け取ったギルは掴んでいた手を乱暴に離す。
「ミハル……波止場、ミハル……。そうか、彼は、まさか……」
ギルたちのやり取りを見ていた坂井悠二が思わず呟いた。
「悠二?あいつのこと知っているの?」
「彼は波止場ミハル。同じクラスの同級生だよ。そして、彼はきっと僕と同じ」
「同じ?」
『つまり、あの少年はトーチである……と、そう言いたいのか?』
「……はい」
アラストールの言葉に坂井悠二は頷く。
「僕は今の今まで、彼のことを忘れていました。同じクラスの筈なのに、でも、もし彼が僕がトーチになる前からトーチであったのならば、その説明がつきます」
トーチとは、故人の存在の力を使った人間の代替品である。
記憶や人格は生前のままである為、本人でさえそれが別の存在であることには気付かない。
存在の力は時間と共に消耗していき、やがてトーチはその存在を徐々に失ってゆく。
誰からもその存在を忘れ去られた頃に、トーチは文字通り消えてしまうのだ。
そして、坂井悠二もまたトーチであった。
『……確かに一理あるな。だが、ただのトーチが零時迷子も無しに存在し続けるとは不可解だ』
「……それにトーチだからって敵であることには変わり無いわ」
シャナが厳しい口調で言った。
彼女からすれば、波止場ミハルはギルという得体の知れぬ怪物に仕えているようにしか見えない。
同じトーチとして思うところはあった坂井悠二であったが、彼女の言うことも間違ってはいないので、それ以上言葉を続けずにただ波止場ミハルを見つめていた。
「さて……」
ギルはゆっくりとシャナたちの方へ向き直った。
「先程の続きと行こうか。我には、一つ興味がある」
そう言うと、ギルは手の平に一枚の銀色のメダルを出現させる。
「それは、フレイムヘイズとやらからはどんなヤミーが生まれるか、だ」
「どういうことよ?」
「さぞや面白いものが見れるであろう。クックック……」
シャナの問いを無視してギルは彼女の元へと歩み寄って行く。
その時、坂井悠二はある異変に気が付いた。
「!?シャナ!額が!!」
「えっ!?」
見ると、彼女の額にまるで自動販売機のコイン投入口のようなものが現れた。
丁度、ギルの持つメダルが入るくらいの大きさである。
「さあ、ヤミーを生み出せ!フレイムヘイズよ!!」
「くっ……!?」
「シャナ!!」
その時、何かがこの場へ飛んで来て、ギルの手からメダルを弾き飛ばした。
メダルはコロコロと地面を転がっていく。
「何……?」
「やれやれ……人に忠告しておいて、自分はその様か?」
声のした方へその場の全員が視線を向ける。
そこに立っていたのは士であった。
そして、彼の後ろを息をハアハアと切らしたインデックスが立っている。
「門矢先生!!」
「あんた……」
「ま、仮にも教師だからな。教え子のピンチは救わないと、な」
士はそう言った後、彼の元へ戻って来た何かをパシッと空中でキャッチする。
それは一枚のカードであった。
どうやら、それをブーメランのように投げてギルの手元のメダルを打ち落としたようである。
その姿を見ながら、シャナは少し不服そうな表情をした。
「……アラストール、やっぱり私、あいつは好きじゃない」
『そう言ってやるな。あやつもあやつで素直では無いのだろう』
シャナとアラストールのやり取りを知ってか知らずか、士はフッと笑ってみせた。
「さて……」
士は今度は波止場ミハルへと視線を向ける。
その視線が辛かったのか、彼の方は士から顔を背けてしまった。
フンと士は鼻を鳴らす。
「……もしかすると、貴様が世界の破壊者か?フン、どうやら小童は目的を果たさなかったらしい」
士の登場に水を差された形となったギルは忌々しげに言った。
「小童!!」
ギルが声を張り上げると、波止場ミハルはビクッとなった。
「我の目の前で奴を倒せ!」
「で、でも……」
「フン、貴様では埒が明かぬわ」
ギルは何やら邪念のようなものを波止場ミハルへと送った。
すると、彼は突然苦しみ出す。
「何?」
士は波止場ミハルの異変に即座に反応した。
彼の体からは禍々しいオーラとメダルが見える。
「役に立たぬ小童なぞいらぬ。必要なのは我の為に動く者。それだけだ」
「……………………」
「今のこやつはコアメダルに支配された我が傀儡に等しき存在。さあ、行け。我が駒よ」
「……はい」
低くエコーの掛かった声。
それは、先程士の目の前に現れた時と同じであった。
波止場ミハルはニヤリと笑い、士のことを睨み付ける。
「変身」
『サメ』
『クジラ』
『オオカミウオ』
波止場ミハルは再び仮面ライダーポセイドンへと変身した。