仮面ライダーディケイド − THE LOST MEMORIES − feat インデックス 作:海東
「ハッハッハッハ。滑稽だな」
高笑いするギルの視線の先には、仮面ライダーポセイドンとなった波止場ミハルがまるで亡霊のように立っていた。
「所詮はとっくに死に、存在さえも忘れ去られた人間よ。初めからこうしていれば良かったのだ」
「……………………」
「さあ、行け。我が傀儡よ」
「……世界の破壊者。貴様を倒す!!」
先程と同様に低くエコーの掛かった声。
何かが乗り移ったようで波止場ミハルのものとはとても思えなかった。
「波止場ミハル……なのか?」
士が尋ねると、彼は嘲るように笑い声を上げた。
「波止場ミハル?そんな奴はもういない。いや、とっくの昔に死に消えた存在だ。今の俺は仮面ライダーポセイドンだ!!!!」
「……そうか」
波止場ミハル……いや、仮面ライダーポセイドンの言葉に士は何か悟ったような表情を見せる。
「門矢先生!」
坂井悠二が士を呼んだ。
「彼はきっと、僕と同じ……」
「ああ。大体分かってる」
それだけ言うと、士は真剣な眼差しで相手を見つめる。
「ククク……もう邪魔は入らない」
仮面ライダーポセイドンは薄く笑った。
まるで、これから戦うことが楽しくて仕方が無いといった様子である。
一種の戦闘狂といったところか。
「……では、先程の続きをするとしようか。世界の破壊者!」
直後、仮面ライダーポセイドンは一目散に士へ向かって走り出した。
悪鬼のようなオーラと殺意を身に纏った姿は最早人間のそれでは無い。
一方の士も相手に対抗する為、ディケイドへと変身を……しなかった。
構えもせず、ただ無抵抗に突っ立っている。
「つかさ!?」
その士の行動に、インデックスは思わず彼の名を呼んだ。
彼女の心配を他所に士は身動き一つ取ろうとしない。
「舐めるな!!」
馬鹿にされていると感じた仮面ライダーポセイドンはすぐに士の目前まで迫ると、怒りに身を任せて拳を振るった。
「ガハッ!」
顔面を殴打された士は大きく仰け反った。
瞬時に口内が鉄の味で染まっていく。
「ペッ!」
真っ赤な唾を吐き出すと、士は状態をゆっくりと起こした。
そして、今度こそ戦うのかと思われたが、やはり無防備のまま立っているのみであった。
カードを取り出そうともしない。
「どうした、世界の破壊者?何故抗おうとしない?」
「……………………」
仮面ライダーポセイドンが尋ねるも、士は無言で返す。
「少しは抵抗しないのか?無抵抗の相手をただ嬲るだけでは面白くないぞ?」
「……………………」
「……何とか言ったらどうだ?それとも、恐怖で動けないのか?」
「……………………」
相も変わらず無言の士。
しかし、その目はしっかりと目の前の相手を捉えて離さない。
その視線に苛々を募らせていた仮面ライダーポセイドンであったが、とうとうそれが爆発する。
「ふざ……けるなあああああ!!」
「……どうした?」
ようやく口を開いた士から出た言葉はそれであった。
「やけに苛立っているじゃないか?」
「死……ねええええええ!!」
渾身の一発が再び士の顔面に入る。
思わず地面へ倒れ込みそうになった士であったが、すぐに態勢を整えるとニヤッと笑って見せた。
「……この程度で俺を殺す気か?この程度じゃ蚊一匹だって殺せないな」
「何だと!?」
「悔しかったら、本気で……殺す気で掛かって来い!!」
「ふざけるなあ!!」
その言葉に激昂した仮面ライダーポセイドンは何度も何度も拳を振るい士を殴打した。
「…………!!」
見ていられない、といった感じでインデックスは顔を背けてしまいそうになる。
例え彼女でなくとも、誰もがそうしたであろう。
そのくらい惨い光景であった。
だが、それでもインデックスは士から目を離そうとはしなかった。
それどころか、手を合わせて士の為に祈ろうとする。
(つかさ……!!)
まだ出会ってからそれ程時間も経ってはいないのに、インデックスにとって士の存在は大きなものとなっていた。
何時もは人を小馬鹿にするようなことを言っては笑うような、決して性格が良いとは言えないような青年であるが、ピンチの時には必ず守ろうと行動してくれる。
そういう一面を何度も見てきたので、彼女は士のことを嫌いにはなれなかった。
誰かを守ろうとしている時の表情は、何処か彼女が大事に思う上条当麻のことを思わせる。
故に、インデックスは士のことを放っておけなかった。
例え、彼が彼女の世界を崩壊に導いた存在であると聞かされたとしても、である。
(死なないで……!!)
士の為に祈るインデックス。
それが、今現在彼女の出来る唯一のことであった。
また、シャナたちも士の不可解な行動に眉を顰めていた。
「あいつ、何で無抵抗なのよ!?」
シャナが声を張り上げる。
初めて出会った頃から気に食わない相手だとは思っていたが、実のところその実力は認めていた。
フレイムヘイズでも無いのに、徒を倒したことが彼女の印象に残っていたのである。
妙に自尊心が高いことも会話の中から察していただけに、そんな彼が一切の抵抗もせず、一方的にやられているだけというのが腑に落ちない。
「このままじゃ、門矢先生が……」
『うむ……』
心配そうに見つめる坂井悠二。
アラストールもまた、士の真意を測りかねていた。
しかし、士を助けようにもシャナは身動きが取れず、坂井悠二に至っては戦う術を持っていない。
そもそも、あの異なる相手にはフレイムヘイズの力が通用しなかったのだ。
ただ見ていることしか出来ないのが現状であった。
「……今、僕に出来ること」
咄嗟に坂井悠二はシャナの背後へ回ると、彼女を拘束しているものへと視線を向けた。
それは彼女の力を持ってしても切れない代物のようだが、結び目のようなものが見られる。
見た限りでは、複雑な造りでは無いようであった。
捕らわれた本人には解けないかも知れないが、本人以外であれば解けるかも知れない。
「……これなら!」
坂井悠二はすぐにシャナを縛る何かに手を掛けた。
「悠二?」
「待ってて、シャナ。今、動けるようにするから!」
「……うん。分かったわ!」
シャナは言われるまま、坂井悠二が拘束を解くのを大人しく待っていた。
そんな彼らの行動には目もくれず、ギルは一方的にやられている士を嘲笑う。
「ハッハッハッ。威勢が良いのは口だけか?棒立ちではないか!」
「……………………」
士はなおも無抵抗のまま、仮面ライダーポセイドンの攻撃を受け続けている。
その光景はあまりに凄惨且つ一方的で、虐殺に近かった。
「くたばれ!!」
「くっ!?」
強烈な膝蹴りが入り、士の体がくの字に曲がる。
しかし、それでも士は決して倒れることはなかった。
口の端から流れる血を拭うと、痣だらけの顔でじっと仮面ライダーポセイドンのことを見つめる。
「何なんだお前は!?」
その視線に仮面ライダーポセイドンは明らかな苛立ちを見せた。
力の限り士を殴り付ける。
まるで、掻き乱されそうになる心を振り払おうとでもするかのように。
「クソ、クソ!」
だが、いくら士を攻撃しても振り払われるどころか、ますます広がっていっているようであった。
「クソォォォォッッ!!」
仮面ライダーポセイドンの咆哮。
攻めている筈なのにどんどんと追い詰められている。
そんな風に感じていた。
「……貴様、殺す!」
直後、槍を手に取ってそれを構えた。
このまま士を仕留めるつもりであろう。
「つかさ!!」
インデックスは思わず悲痛な声を上げていた。
士の受けたダメージが計り知れないのに加え、武器まで持ち出したとなると、その一撃を食らえば間違いなく士は死んでしまうだろう。
ギュッと握る手を強く、戦況を見守る。
「……………………」
仮面ライダーポセイドンが武器を構えても、士は一切動じていなかった。
しかし、その眼差しは相変わらず相手を捉えている。
何かを訴えかけているかのように。
「……その目で」
槍の切っ先を士へ向けていた仮面ライダーポセイドンの口から思わず言葉が漏れる。
脅えているかのように、僅かに震えているような声であった。
「その目で俺を、見るなあああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
再びの咆哮。
力任せに降り下ろされる槍。
止まる気配は無い。
(つかさ……!!)
インデックスは強く強く祈る。
そんな彼女の切なる願いが通じたのか。
槍の切っ先は士の鼻先ギリギリを僅かに掠めると、そのまま地面を強く叩いた。
「な……に……?」
このことに一番驚いていたのは、仮面ライダーポセイドン本人であった。
士は一歩たりとも動いてはいない。
ということは、士が交わしたのではなく、自らが外したということである。
その事実に彼は動揺を隠せないでいた。
「ええい、何をしているのだ貴様は!!」
それを見ていたギルから怒号が飛んでくる。
しかし、当の本人にも何故自分が攻撃を外したのか分からないようであった。
「何故……、何故こいつを……!?」
「……それは、お前が一番分かっている筈だ」
徐に口を開いた士は、そのまま仮面ライダーポセイドンの肩をガッと力強く掴んだ。
「波止場……ミハル!!」
「俺は波止場ミハルでは無い!そんな奴はもういないっ!!」
「どうかな?」
士はニヤリと笑う。
「俺は知っている。お前が最初にライダーへ変身し、俺に向かって槍を振り下ろした時に、それを止め、守ろうとしてくれたことを」
「そんなものは幻だ!!」
「今だってそうだろ!?」
地面に叩きつけられた槍を見て士は言った。
「お前は俺を殺そうと思えば何時だって殺せた筈だ。だが、殺せなかった。何故だと思う?」
「う、うるさい!!それ以上喋るなぁ!!」
「それは、お前の中にまだ波止場ミハルが存在しているからじゃないのか!?」
「違う!!」
「おい!波止場ミハル!!」
相手の言葉を無視して士は問い掛けた。
「いいのか?メダル如きに操られたままで?」
「止めろ……」
「それがお前の望むことなのか?お前は本当は何がしたい?」
「止めろ!」
「答えろ、波止場ミハル!!お前は、今、ここに“いる”んだろ!?」
「うわあああああああああ!!!!」
仮面ライダーポセイドンは叫んだ。
それは、先程までの獣のような咆哮とは違う、理性ある人間の叫びであった。
「……………………」
直後、体から力が抜けたかのようにぐったりとする。
そして、その姿勢のまま士へ向けて言葉を発した。
「僕は……僕は、僕のまま生きたい」
「それがお前の望みなんだな?」
「はい。それが僕の……波止場ミハルの望みです!」
士の言葉に答える声。
それは紛れも無く波止場ミハルの声であった。
彼が自分を取り戻したその瞬間、仮面ライダーポセイドンの変身は解かれていた。
「先生……」
「何だ?」
「どうして、僕を?僕の為に、そんなボロボロになって……」
「たった数時間とはいえ、お前も俺の生徒……だろ?」
「先生……!!」
その時、波止場ミハルは初めて笑顔を見せた。
純粋で優しい表情をしている。
きっと、これが彼の本来の姿なのだろう。
「……何だこの茶番は?」
ことの成り行きを見ていたギルはあからさまに不愉快という表情を見せる。
「何故、消した筈の意識が戻り、我が呪縛が解ける?そんな抜け殻のような奴が何故?このまま、ただ消えていくだけの存在の筈であろうが!」
「……お前には分からないだろうな」
士は哀れむような視線をギルへ向けた。
「こいつはな……波止場ミハルは今、ここにいるんだよ。他の誰が否定しようとも、俺だけはこいつの存在を認めてやる。人が人の存在を認めた時、そいつはそこに確かに“存在”する。それが“生きている”ってことだろ?」
「……戯言を!!」
ギルが声を荒げる。
「貴様が何を言おうがそやつはもう既に死んでいるのだ!!最早、いないのと一緒ではないか!!」
「例え死んでいたとしても、誰かが覚えている限り、生き続ける。そう“心”の中でな。お前にそれを否定する権利なんか無いんだよ!!」
「言わせておけば……」
怒りに身を震わせたギルがキッと士を睨み付ける。
「貴様は一体何者なのだ!?」
士はフッと不敵に笑ってみせると、一枚のカードを取り出し、それを翳した。
「……通りすがりの仮面ライダーだ。覚えておけ!!」