機動戦士ガンダム Silent Trigger 作:ウルトラゼロNEO
シャワーを浴び、この世界にやってきた際に着ていた服を着た翔は待ち合わせ場所に指定された休憩所でルルを待ってる最中、壁に寄りかかって手を両手に組んで目を閉じ、考え事をしていた。
「翔君、おまたせーっ!」
程なくして私服に着替えたルルがやって来た。
ルルに気づいた翔はルルへ向き直る。なんとも年相応と言うよりも見た目にあった可愛らしい服装だ。ルルが合流したことにより二人はフォン・ブラウンの街へ繰り出すのだった。
・・・
Side レーア
「ふぅ……」
出撃から帰ってきた私はシャワーを浴びていた。
暖かなお湯が全身を濡らし始め、戦いに傷ついた心を満たしていく。
「……如月 翔」
ふと呟くのはフロンティアⅣで出会った青年の名前。
私どころかルルよりも年下の青年の印象は良くも悪くも普通の一般人……の筈だった。
彼にエイナルとかいうカレヴィの知り合いから助けられるまでは。
「あの時の懐かしさ……なんなの? まるで……」
────姉さんみたい
「……馬鹿ね」
本当に馬鹿。なぜあの青年と最愛の姉を重ねるのか。
それに姉さんはもう……。
「……けど……あの子がたまに見せる表情が凄く似てる」
正直に言ってしまえば、姉と翔は正反対の人間だ。
姉は健やかで明るくて、まるで太陽のような……。対して翔は物静かでまるで月のような人だ。
それなのにどうしても、ふと見せる優しげな表情が姉さんと被ってしまう……。
「本当に馬鹿……っ!」
段々と私は今は亡き姉の影を翔に重ねてるんじゃないか? そう思えてくる。
そう考えると苛立ってしょうがない。それは姉さんに対しても、翔に対しても失礼だ。
もうこれ以上は何も考えたくはない。私はシャワーの温度を更に上げるのだった。
SIDE OUT
(……月面でも食文化の違いっていうのはやっぱりあるんだな。前の世界じゃ見たことない)
先ほどまで戦闘があったとは思えないほど優雅なBGMが響くフォン・ブラウン市にあるレストランで食事を取っていた。
翔はナイフとフォークを使って目の前の肉料理を食べながら、覚えのない料理に興味深そうだ。
「ここはね、人工肉じゃなくて天然のお肉を使ってるんだって」
「へぇ……」
目の前で同じ食事を取るルルが何気なく話すと、翔はルルの言葉から宇宙では人工肉が主流なのかと感じ、何とも言えなくなってしまう。
やはり戦争の影響か、資源の枯渇や安定した供給は中々、出来ないだろう。
「美味しい……。わざわざありがとう」
「お礼を言うなら私だよ……。翔君が出撃してくれたおかげでアークエンジェルは助かったけど、翔君が嫌がってたのは知ってるから……」
改めて料理を口に運び、舌鼓を打ちながら礼を言う翔にルルは俯いて申し訳なさそうに喋りだす。
「……死にたくないから出撃したまでだから気にしないで」
「……戦いを無理強いする気はないなんて言っておきながらあの結果だよ? 翔君は民間人で戦いが嫌いな子だし余計に気にするよ……。私は親のせいで年に見合わない階級を与えられてね、七光りなんて言われるのが嫌で自分の能力を示す為に前線を志願したんだ……。けど知ってるの。陰でクルーの皆さんが私のことを置物って言ってるのを。しょうがないよね、実際、副長代行のマドックさんの方が頼りになるし」
あくまで自身のためであることを主張する翔にルルは置物の艦長と陰口をいわれているのを耳にしたのか、どんどんその雰囲気が暗くなっていく。
「評価や信頼っていうのは築き上げるのはとても大変だけど、反面、悪い評価や信頼を失うって言うのは怖いくらいに簡単だから、此処でウダウダ言うよりは行動で示さないと。それこそクルーの人に頼りにされるくらいには……」
「……そう、だよね、アハハッ……ごめんね、お礼のつもりで来たのに場の空気を悪くしちゃって」
なんとか勇気付けようと励ます翔にルルはその翔の気遣いとその言葉を聞いてか明るい表情を取り戻す。
「……大丈夫だよ、ルルならきっと……。俺…ルルに頭を撫でてもらった時、恥ずかしかったけど凄く安心出来たんだ。人を安心させられるって言うのは才能の一つだと思う。ルルなら信頼を勝ち取ることができるよ」
「ふふっ……ありがと。じゃあまた今度撫でてあげるね」
「……それはちょっと」
明るい表情のルルを見てどこか安心した表情を見せる翔は柄にもなく更に励まそうとするとルルは笑顔を取り戻し、料理を再び口に運び出す。
最も翔はその前に言われた言葉に困っていた。やはり恥ずかしさは先行してしまうからだ。
・・・
(……お礼のつもりなのに励まされちゃったな)
食事が終わり、アークエンジェルへと戻っている最中の車内。
運転しているのはルルだ。助手席では翔が穏やかな寝息を立てて眠っていた。
(……寝てるんだ。しょうがないよね、まともに休む暇なんてなかったんだから。翔君はこれからは一緒に戦ってくれる……けど、なるべく負担はかけないようにしなきゃ)
フロンティアⅣでは初戦闘で巨大MAと戦い、その後は戦闘を避け襲撃時もほかの避難民とともに居住区にいるが、当然避難しても戦争の恐怖はあるわけで、そんな中で再び出撃して機体は中破。
死の危険性もある中でカレヴィ達を助けるために巨大MAと戦った。それが数時間前の出来事だ。漸く落ち着ける時間を得て、気が緩んだのだろう。翔の寝顔を見てルルは己の手腕の未熟さも理解する。
「みんなに認めてもらえるように……私……頑張るね、翔君」
ルルは改めて決意する。
マドックの力だけではなく自分の力も示せるように。そして心弱くなにかあれば砕けてしまいそうな儚い青年の負担を少しでも減らせるように……。
・・・
「ウィングガンダムのプロトタイプ? そんなモノがあるのか?」
「ああ、地球にゼロシステム搭載型の奴がある。これからの戦いはより巨大MAがこうも続いて登場ともなるとウィングだけじゃ心許なくてよ。地上作戦に合わせて受けとろうと思う」
アークエンジェルの格納庫にて入荷される資材を確認しているグレイの隣でドリンクを飲んでいるカレヴィが新たに乗る機体の話をしていた。
「ゼロシステム……。曰く付きじゃないのか、確か相当ヤバイ代物だって聞くぞ」
「ああ。操縦者の意思や命を無視して勝利のみを導き出すシステム……。俺は元はコロニー連合軍にいて乗ったことはあるんだが……暴走しちまってな。テストした基地を破壊、更地にしちまった。そんなモンを作るコロニー連合軍について行けなくなって、そのまま機体ごと地球軍に寝返って戦ってるわけだ。司令部もプロトタイプを調べてんだが、テストすれば尽くパイロットは暴走、下手したら俺と同じで基地を消滅、なんてこともあったそうだ。こうも簡単に許可を降りたのもさっさと手放したいのもあるんだろ」
話だけは聞いたことはあるのかグレイがカレヴィへ厄介そうに視線を向けながら尋ねるとカレヴィは苦い思い出を思い出しながら苦虫を潰したような表情を浮かべる。
「……乗りこなせるのか?」
「……乗りこなしてみせるさ」
念を押すように聞いてくる。
下手に暴走すればこちらが危険だ。それを知っているからこそ、カレヴィは頷く。もうあのような自体は引き起こさない。
・・・
《本艦はこれより大気圏へ突入します》
「いよいよ地球か……」
アークエンジェルへ戻ってきた翔はルルと別れた後休憩所にいた。アークエンジェルがフォン・ブラウン市を出航した後、ルルの艦内アナウンスを聞いて翔は嬉しさと緊張が混ざった妙な感覚に襲われる。
「──嬉しそうね」
その呟きを聞いてか声をかけてきたのは偶々、休憩所へやって来たレーアだった。
「なにか地球に思い入れでもあるのかしら?」
「……なにもないよ。だけど見てみたいんだ、この地球を。どんな風になっているのかを」
翔の隣にやって来たレーアの質問に間を置いて答える。
純粋に興味があった。フォン・ブラウン市の文化の違いから別世界の地球は一体、どんな世界なのだろうかと。
「まぁその前に大気圏を突破しないとね。なにか故障があって燃え尽きたら洒落にならないもの」
休憩所の強化ガラスにシャッターが降ろされるのを見たレーアは大気圏突入の合図だと見て、冗談交じりに話すが、その言葉で翔は押し黙る。心なしか若干、震えていた
「……あら、怖がらせちゃったかしら?」
「そんなことない……。けど……俺、初めてなんだ、大気圏突入は」
そんな翔を見てレーアはからかうように意地悪な笑みを浮かべると、翔はそっぽを向く。
とはいえ、やはり大気圏突入は怖いものだ。自身の世界でも宇宙エレベーターが開発され、宇宙進出はしつつあるが、それでも大気圏突入など世界の人口を考えても僅かひと握りの人間達しか行えていない。
中には事故を起こすケースもある。なんの訓練もない自分がこれからソレを体験するのだ。アークエンジェルも点検はしているだろうが、やはり心配な部分もある。
「ふふっ、私もよ」
「あっ……」
翔の態度が強がりつつも不安があるのだと見透かしたレーアは微笑みながら、その手を握ると翔は思わず声を出す。
「怖がる……。ううん……不安な時はこうやってすると少しは安心できるでしょう?」
「……ああ」
「ふふっ、素直ね。このまま大気圏を突破するまで握っておいてあげるわ」
年下であろう目の前の青年に母性のようなものが出たのか、優しげな表情のレーアに翔はその人肌から感じる温かさもあってか素直に頷く。その様子にレーアは翔の手を握り直す。
(……先まで姉さんと重ねてる部分があったから、なんだか弟みたいね)
先程は姉と翔を重ねたことに罪悪感を感じ、自信を恥じたレーアだが、今の翔を見てどこか姉になったような感覚を覚えて、心なしかその頬が緩むのだった。
・・・
「──なぁ、先生、もしかしてアレが一緒に戦うって言う奴らの艦か?」
「だろうね」
──地球、グレートキャニオン。
この巨大な峡谷は翔の世界ではグランドキャニオンともされ、世界遺産にも登録されている場所と非常に酷似したこの場所にて茶髪の翔と同い年ぐらいの青年がガンダムタイプの可変MS……Zプラスの掌上で空に映る赤い影を指差すとその隣にいた紫髪の軽装の女性が頷く。
「合同作戦って話だけど強ぇのかな」
「どうだろうねぇ。まぁ足手纏いになるのは迷惑だしちょっと確かめてみようかね」
純粋にアークエンジェル隊の実力が気になる茶髪の青年に紫髪の女性はニヤリと笑みを浮かべる。
「確かめるってどうやってだよ」
「簡単なことさ。向こうはガンダムタイプだって話で、コッチもガンダムタイプだ」
疑問を口にする茶髪の青年に紫髪の女性は好戦的な笑みを浮かべ、背後に立つ自身の格闘戦に特化したガンダム……シャイニングガンダムを見やる。
「ガンダムファイトを申し込むのさ!」
早い話は模擬戦だ。
無論、相手の機体を破壊するつもりはない。ただ拳と拳を交えたいだけ。そこから色々なころが分かるからだ。
だがしかしこの【ガンダムファイト】を申し込まれたことでアークエンジェル隊の一人の青年の火をつけることになるとは、まだ誰も知らなかった……。
さて、次回はまさかのガンダムファイトです。なので、ちょっと眼帯とマイクと赤いタキシードを用意しますね。