機動戦士ガンダム Silent Trigger 作:ウルトラゼロNEO
アフリカタワー─フロント・ライン─
「──まさか戦場の征服者とまた同じ戦場に立てるとはな。パナマの時は碌に話も出来なかったが、こうして話せて光栄だ」
「……話は常々、聞いている。私も会えて光栄だ」
かつて地球軍が所有していた軌道エレベーター。
そこは現在、コロニー軍の占領下にあった。
軌道エレベーター攻略作戦において極めて優秀に立ち回った二つの隊があった。
空の支配者と言われるジェイク・ヴェイドの小隊と戦場の支配者と称されるティグレ・インスラの隊だった。
こうしてちゃんとした会話をするのは初めてだ。両隊長とも軽く握手を交える。
「お互い良い部下を持ったよな。特に弟さんの活躍は目覚ましいもんだ。弟さんの活躍がなけりゃ俺達は勝てたかも分からん」
「レンとかいうパイロットの活躍もこの目で見た。彼の鬼神のような戦いは無謀な面もあったが評価出来る」
そう今回の作戦はマヒロのブリッツによるミラージュコロイドを使用した奇襲作戦、そしてレンを始めとするパイロット達の奮戦があったからこその勝利だと言ってもいいだろう。
「パナマが刺激になったんだろ。褒めたら自分はまだまだ戦わないとってさ。そういや弟さんは?」
「今は新しい作戦の為、別行動だ。地球軍は必ずここに来るだろうからな」
レンはパナマの際、気を失っている間に仲間を失った。
その雪辱を果たすと言わんばかりに今、戦っている。
ここ数週間、姿が見えないマヒロについてジェイクが問いかけると、ティグレは軌道エレベーターを見上げながら答える。その様子は心なしかマヒロを想っているかのようだった。
・・・
コロニー軍に占拠された軌道エレベーターにもっとも近い前哨基地。その射撃場にてかつて地球に降下するディビニダドを破壊し、そのまま地球に落ちて行った如月 翔の姿があった。
「──随分、上達したわね」
今彼はヘッドホンとゴーグルを身に着けて射撃訓練を行なっていた。
ただ静かに射撃訓練を続ける翔に声をかける人物が。
かつて共にパナマで戦った目を惹くほどに艶やかなオレンジの髪色の少女、ティア・ライスターだ。
「最初は銃の使い方も分からなかったのに」
「……ティアが教えてくれたからな」
翔をからかいながらもその成長っぷりには素直に感心している。
ティアの存在に気づき、ヘッドホンとゴーグルを外しながら翔は静かに答える。
実際、この世界に来る前の翔はどこにでもいるような日本の青年、本物の銃なんて撃ったこともなければ持ったこともなかった。
この世界に来て、このアフリカの地で初めて銃の使い方を学んだのだ。
・・・
「でも、まさかまた一緒に同じ作戦に参加できるなんてね」
「ん……」
時刻は昼過ぎだ、ティアの誘いもあって翔は昼食を取りにティアと向かっていると、何気なくティアが口を開く。
それは翔も同感だった。
そもそも地球に落ちた翔を発見したのはグラン達だ。
「……」
翔が食堂に足を踏み入れた瞬間、翔の存在に気づいたその場にいる者達は一斉に押し黙り、翔に視線を向ける。
好奇、畏怖、畏敬、様々な意味が籠った視線が翔に突き刺さる。
如月翔という存在はディビニダドの一戦以降、地球軍にその名が知れ渡り、半ば核攻撃を阻止した英雄という扱いを受けていた。
だが半面、翔の持つエヴェイユの力もまことしやかに語られていた。
如月翔は我々の知る❝ニンゲン❞ではないのでは?
大破に近い機体で大気圏突入し無事でいるのはその証なのでは?
そんな風に翔は今、腫物に触るような扱いを受け、一部に疎外されていた。
「翔、その……!」
「──おーい!」
翔に向けられている視線の意味を理解しているティアは料理が乗ったプレートを持ちながら押し黙っている翔を気遣って何か言おうとするが、その前に二人に向かって声をかける人物がいた。
視線を送ればテーブルに腰かけている1人の青年がこちらに向かって気さくな笑みを浮かべながら手を振っており、それを見た翔とティアはそのテーブルに向かう。
「遅いから先に飯食ってたぜ」
「先に頂いちゃって、すいません」
翔とティアがテーブルに腰かけると手を振っていた青年……ブルースが半分ほど食べ終えた料理を見ながら言うと、その隣に座っていたブルースよりも幼く童顔の青年……アレックが翔に向かって申し訳なさそうに軽く頭を下げる。
翔は英雄的な扱いを受けている。
アレックはまさに翔を英雄……いや、それ以上の存在として見ていた。
そんなアレックに翔はスプーンで料理を食べながら首を横に振る。
「……今日もまた射撃訓練か?」
特に会話をすることもなくただティアの隣で黙々と食事をとっている翔にブルースやアレックよりも年上の男性……シーザーが声をかけ、翔はそれに対し頷く。
彼は翔と同じあまり喋るタイプの人間ではない。
翔からすれば一番接しやすい人物だった。
「──よぉ、お前ら。毎日毎日同じ飯で飽きてないか?」
「兄さん!?」
その後もブルース、ティア、アレックの三人を中心に何気ない雑談をしていると彼らに声をかける者がいた。
振り返ればティアの兄であるグランが三名の少年少女を引き連れ、振り返ったティア達によっ、と軽く手を上げていた。
「少尉も食事を?」
「いや、俺はお前達に紹介したい奴らがいてな。軌道エレベーター奪還作戦に向けて大量の人員補充があったろ? 彼らは俺、そしてシーザーの隊で配属される子達だ」
シーザーはグランに声をかけると、グランは三人の説明をしながらも横にずれ、背後に引き連れた三人に翔達へ紹介させる。
「ライスター少尉の隊に配属されましたヴェル・メリオ伍長です」
「……同じくカガミ・ヒイラギ伍長です」
「シーザー少尉の隊でお世話になることになりました、マヒロ・クレイスです。よろしくお願いします」
翔達の視線が向けられる中、一歩前に出てそれぞれ敬礼して自己紹介をするのは腰まで届く長い黒髪と凛とした顔だちが印象的な少女……ヴェル・メリオと静かに口を開き、釣り目と茶髪のサイドテールが印象的な日系人の少女……カガミ・ヒイラギだ。二
人の少女が名乗り終えると最後に残った少年に視線が集中する。
にこやかに笑い、頭を下げる少年……マヒロ・クレイス。にこにこと笑みを絶やさないマヒロに対し、翔は静かにマヒロに視線を向けている。
「貴方があの如月 翔さんですか?」
「……そうだけど」
翔から向けられる視線に気づいたマヒロは翔に歩み寄りながら声をかけると、食事をとる手を止め、翔はマヒロに向き直る。
一方、ヴェルは話には聞いていた人物が自分とあまり変わらない若さに驚き、カガミも特にリアクションする訳ではないが、翔にジッと視線を向けている。
「話には聞いてました、一緒の隊で戦うことが出来て光栄です!」
「……」
笑顔を絶やすことなく翔の手を掴んで嬉しそうな声を上げる。
しかし翔はなにか引っかかるのかなにも言わずに手を握らせていた。
「よし、早速で悪いが作戦もあるし、そろそろ準備に取り掛かる時間だ。飯はさっさと食えよ」
挨拶を終えた三人を見て場を仕切るように両手を合わせるグランは全員に声をかけ、一人その場を後にする。
確かにこの後は作戦だ。
黙々と食事をとっていた翔は食べ終え、一足先にこの場を去る。
(……あの人がターゲットの如月翔か)
去っていく翔の後ろの姿を見ながらマヒロは心中で呟く。
そう、彼はマヒロ・インスラだ。
大量の人員補給の際、コロニー軍によって送られたスパイだった。
その目的は翔に関係しているのか、静かに翔を見つめていた。
・・・
「皆知っているとは思うが、敵軍が起動リング上に設置したメメントモリなる新兵器を破壊する為には軌道エレベーターを使って
「「「「了解!」」」」
作戦時刻になり今、地球軍の主力MSになりつつあるジェスタに搭乗したシーザーが自分の隊の面々に通信を入れると四人の返答がシーザーのいるコクピットに響き渡り彼の号令と共に膝を折り曲げたような状態で待機していたジェスタ達は立ち上がる。
「よしキュアノス隊出るぞ!」
この隊はシーザーを隊長とし、アレック、ブルース、そして翔とマヒロで構成されていた。
「……如月 翔……。ガンダムブレイカー・ブラスト行きます」
キャノン仕様のブルースのジェスタと除きノーマル装備のジェスタで構成されているキュアノス隊でただ一つガンダムタイプのMSが一機、存在した。
かつてディビニダドとの戦闘で半壊したブレイカー
「お前達も準備出来たみたいだな。早速行こうじゃねぇか」
そこにグラン達が合流する。
かつてXDVに搭乗していたグランは今はガンダムダブルエックスという機体に新たに乗り換えていた。
そしてXDVには現在、ティアが乗り込んでいる。
他にはヴェルはジェスタ、カガミはビームスマートガンを装備したZプラスとジェスタ、Zプラスによる混成部隊だった。
「そういやアンタは
「……ああ」
移動の最中、ふとブルースが何気なく翔に通信を入れ、話しかけると翔は仲間たちを思い出しているのか静かにポツリと答える。
「なあに、この作戦が成功したら、またすぐに会えるさ」
「……うん」
寂し気な翔を気遣ってか、先程よりも明るい声で翔を励ますブルースに救われたのか、少し表情を和らげて頷く。
「──敵機発見!」
そんな中、敵機を発見したティアの通信によって一同に緊張が走る。確認すればそこには周辺を警戒しているのかGN-XⅢの部隊がそこにいた。
「よしスナイパーの出番だ。翔、そしてカガミ。出番だぞ!」
「「……了解」」
冷静に対処するグランは素早く指示を出す。
するとブレイカーBとカガミのZプラスは前に出て射撃体勢を取り、GN-XⅢ達に狙いを定める。
「……緊張してる?」
「……はい」
射撃体勢を取り照準を一機のGN-XⅢに向けるカガミ。
訓練では優秀な成績を収めていた彼女だが初めての実戦、なにも思わない訳ではない。
無口な彼女だが手に汗握っていた。
そんな中、翔がカガミに対し通信を入れ、彼の問いかけにカガミは素直に答える。
「……分かる、でも落ち着いて、呼吸を整えて……。でないと精密射撃なんて出来ない。乱れれば……自分達がやられる」
「……!」
翔なりの助言をしながらブレイカーBの持つビームスマートガンの銃口から発射されたビームは彼が捉えたGN-XⅢを撃ち抜き、行動不能にし、すぐさま相手が反応する前に他の機体を撃ち抜く。
「……落ち着いて……。呼吸を整えて……。……ッ!」
静かに翔に言われた言葉を自分に言い聞かせるように呟き、そのままトリガーを引く。
彼女の放ったビームもGN-XⅢを撃ち抜く。その間にも翔は他の機体を撃ち抜き、行動不能にしている。
「……凄いな、君は」
(……こんな事で褒められたって)
精密射撃で警戒中のGN-XⅢの小隊を撃破した翔とカガミ。
その殆どは翔によるものだった。
翔の精密射撃に素直に感心した声を漏らすシーザーだが翔の心中はあまり良いものではなかった。
・・・
「ふぅ……大分進んだな」
「ええ、あと少しで軌道エレベーターに更に近づける」
あの後も進攻しながらコロニー軍のMS隊と交戦していた翔とグラン達。
進行状況を確認しながらグランとシーザーが口を開く。
「如月さんばかり狙われてますね」
「翔さんは核攻撃を阻止した人ですから、やっぱり敵も狙ってくるんだよ」
戦闘中、狙われることが多かったのは翔のガンダムブレイカーBだった。
何気なくヴェルが苦笑しながら言うとアレックもまた同じような顔をしながら答える。
「……」
「……まっ当人はあまり良い気はしないでしょうけどね」
何も言わずに黙っている翔にティアは同情するように声をかける。
我先にと狙われているところを見れば流石に同情してしまうのだろう。
「マヒロも大丈夫か? 初めての実戦で緊張してんだろうけど、なんだったらもっと下がってたっていいんだぜ?」
「……ええ」
ブルースがあまり積極的に戦闘をしなかったマヒロを見て、それが初めての実戦による緊張から来ているものだと思い、彼を気遣うとマヒロはにこやかながらも少し元気がない。
(……マヒロか。初めてにしてはヴェルやカガミよりも随分と機体の扱いに慣れてる。緊張から戦闘が思うように出来なかったって言うよりも戦闘を避けてたように感じる……)
そんなマヒロとブルースの会話を聞きながら翔がマヒロについて考えを巡らせる。
(……なにより会ってからずっと笑顔でいる癖に目だけは笑ってない)
とはいえ先程の考えはあくまで勝手にそう感じただけ実際は分からないし、味方であるマヒロに失礼だと思った翔ではあるが、初めて会った時からの印象がどうにも残っているのか翔はマヒロをあまり関わりたいとは思わなかった。
「──ッ! 高速で接近する敵部隊を確認ッ!!」
するとシーザーがジェスタのセンサーが接近する敵機を知らせ各機に伝えると、上空に反応があり、それぞれ確認をする。
「空の支配者様のお出ましとはな……!!」
グランが厄介そうに少し困ったような笑みを浮かべながら口を開く。
上空にはこちらに向かってくるかつて戦った機体。
地球軍にもその名が知られるジェイク・ヴェイドのAGE-2と彼の部下達が乗るフォースインパルスがこちらに向かって来ていた。
「地上からもだ! クッ……皆、死ぬなよ!」
シーザーが苦虫を噛み潰したような顔を浮かべながら呼びかける。
確認すればこちらにはティグレとシドのタクティックス隊と、そして新たなGN-XⅢの小隊がこちらに向かって来ていた。
・・・
「地球軍の英雄がいる……ってことはアンタの弟がいるんじゃないのか?」
要請を受けやって来たジェイクは空から敵機体を確認し、その中にブレイカーBの存在に気づくとマヒロのことは聞いているのかティグレに声をかける。
「……知っている……が、だからといって手を抜く気はない」
それに対してアストレイに搭乗しているティグレが答える。
彼の愛機であるガンダムアストレイレッドフレームはパナマでのアストレイとは違っていた。
大きな特徴と言えば背面に装備されたタクティカルアームズIILとガーベラストレートと揃い踏みの実体剣であるタイガーピアスだろう。
改修を受けた本機はガンダムアストレイレッドフレーム改と作業員の間では呼ばれていた。ティグレもその名で今のアストレイを記憶している。
そして言葉通り、彼は例え相手が弟でも手は抜くつもりはなかった。
下手な行動は地球軍にスパイであるマヒロが疑われると思ったからだ。
(……マヒロ、お前の力を見せてみろ)
なにより純粋にマヒロの力量が知りたかったのもあった。
殺す気はないが手は抜くつもりはない。彼はシド達を引き連れ、翔達に向かっていくのだった。