機動戦士ガンダム Silent Trigger 作:ウルトラゼロNEO
「ヴェルさん、本当にすいませんでしたッ!」
「もう良いよ、シュウジ君。戻ってきてから謝りっぱなしでしょ?」
戦闘終了後、パイロット達は今、プリーフィングルームに集められていた。
そこでシュウジがヴェルに対して深々と頭を下げていた。
幸いヴェルは軽傷で済み、目の前で土下座をしそうな勢いのシュウジを見て、苦笑し頭を上げるように肩に優しく手を添える
するとプリーフィングルームの自動ドアが開いた。
見ればそこにはルル、マドック、エイナル、ティグレ。そして如月翔の姿があった。
(あれが……英雄……。如月翔……)
シュウジは目の前にいる翔をジッと見つめる。
彼が自分達では歯が立たなかったブレイカー0を追い詰めたという。
やはり英雄と呼ばれるだけあって、その実力は高いようだ。
「翔……っ」
そんなシュウジに涙声が混じったレーアの声が聞こえる。
見ればレーアが目に涙を溜めており、翔との再会を心から喜んでいるというのはすぐに分かった。
見ればルルも目が若干、赤い。
ルルは翔を大切な存在に思っていたと聞く。
大方、泣きついていたのではないだろうか。
「……久しぶりだな、みんな」
ここで漸く翔が口を開いた。
翔を知るショウマ達などは懐かしそうに目を細めて翔に笑いかける。
「ヴァルター・ハイゼンベルグ……。奴がシーナのように俺をこの世界に導いた……。……俺に頼める義理ではないが、この世界を救ってほしいってな。丁度、一か月前だよ、ここに来たのは」
ショウマ達の中で疑問であろう、どうやって翔が戻ってきたのか?
その疑問に答えるかのように翔がこの世界にやって来たそもそもの切っ掛けを口にする。
一か月前と言えば丁度、エイナルが裏取引でブレイカーを手に入れた時期だ。
あの頃、運良く翔はエイナルと接触することが出来たのだろう。
だが翔が来た頃には既にブレイクピラー事件は起き、翔はテロリスト扱いをされていた。
下手に統合軍に身を置くルル達などに連絡するのは、自分も彼女達も危険だという結論に達した翔とエイナル、そして翔について調べていたティグレを交えて、今の今まで身を隠して、準備をしていた。
「お父様が……!?」
「……ああ、アイランド・イフィッシュの頃が嘘みたいだったよ。……まぁあれが本来の奴なのかも知れないが」
信じられないと言わんばかりにリーナが唇を震わせ、目を見開く。
リーナほどではないが、ヴァルターを知る者は驚いていた。
これに関しては行動を共にしていたエイナルやティグレも初耳なのか似たような反応をしている。そんなリーナに頷き、ヴァルターを思い出しながら答える。
「さて……俺の偽者……なんだが、ヴァルターの話ではアレはデビルガンダム……いやアルティメットガンダムの細胞によって生み出された俺のコピーらしい。あいつは破壊される間際に生み出したんだ、俺という存在を」
続いて翔の口から出てきた偽者の正体。
再びこの場にいる者達に衝撃を与える。
恐らくはアフリカタワーで触手に絡みつけられた時にでも翔のコピーを作る上での細胞は手に入れていたのだろう。
しかしコロニーは破壊出来たがまさかあの状況で一部の細胞が生き延びてるとは思ってもみなかった。
しかも翔をコピーしたというのは恐るべきことだった。
だが、だからこそあの操縦技術も納得が出来るが脅威でしかなかった。
「だがアイツは所詮、過去の俺のコピーだ……。過去に負けるつもりなんてない」
翔のコピーに考えている面々に翔が静かに、そして力強く答える。
その言葉を聞いた者達は頼もしそうに翔を見る。
「良かった、これでパッサートも倒すことが出来ますねっ!」
「……?」
嬉しそうに周囲を見渡しながらヴェルは口にする。
シュウジも同じ感想を持っていたのか強く頷いている。
かつての英雄が参加するというのは心強いものだ。しかし、当の翔はきょとんとした表情を浮かべていた。
「悪いが……俺はもうこの世界を救う気はない」
やがてヴェル達が喜んでいる意味が理解できたのか、翔は小さくため息をつきながら答える。
その言葉はヴェルやシュウジ達は驚く。
だが逆にショウマなどかつての仲間達は然程驚いてはいなかった。やはり、そうか……。そんな様子であったのだ。
「俺は俺のコピーを倒すが、今回の事件を収拾させる気はない」
「な……なんでッ!? アンタは昔、戦争を終結に導いたんだろ!?」
こちらを見る翔の瞳が冷たく見える。
そしてその言葉にシュウジは戸惑いながら、その理由を問いただそうとする。
「……終結に導いた、か……。大層な肩書になっているものだな……。だが今考えると、アレもやり過ぎたと考えている……。俺は深く関わり過ぎた……。この世界は本来、お前達の世界だ。この世界に生きるお前達が解決しないでどうする」
シュウジの言葉に苦笑交じりな溜息をつき静かにシュウジの問いかけに答え、そして最後には鋭い視線をシュウジに向ける。
ナイフのようなその視線を受け、シュウジは身震いする。翔はあくまで自分がこの世界に来た事で蒔いてしまった種を刈り取りに来ただけだったのだ。
「まっ当然だな。いつまでも本来、部外者である翔に頼るようじゃあ、俺達は強くなれない。そうだろ?」
シュウジの肩に手を回し、ショウマは彼に問いかける。
やがてシュウジも翔やショウマの言葉を理解し、納得できたのか頷く。
「……では今後の予定を話そう。マスドライバーの防衛に失敗、そして今度の目的はマスドライバーと同じ再興が進むアフリカタワーだろう」
「アフリカタワー周辺にはパッサートの戦力が集まっているという話だ。そしてシャミバも、な。恐らくは奴が指揮を執るのだろう。だが逆に言えば戦いを終わらせるチャンスだ」
マドック、そしてティグレがモニターに映像を出し、映し出された予想図を交え説明をする。ティグレの言うようにこれが全てを終わらすことのできる一戦になるだろう。
「現在、ビルドバーニング、ビルドストライク、ライトニングの三機はパナマから運ばれた物資による改修を行っております。機体の特性も変わりますのでカガミさん達は確認をお願いします。一応、データはシュミレーター内に入っています」
「改修が終わるまで君達はシミュレーターを行い、改修後の機体の大まかな内容を理解すると良い。これは同時に君達三人の連携を深める意味でも重要なことだ」
今度はモニターにシュウジ達のガンダムのデータがそれぞれ映し出されるが、それぞれ内容が異なっていた。
ルルの説明で殆どが大破した影響だという事を知らされ、エイナルからはシミュレーターを三人で行うよう指示が出る。三人はそれぞれ頷いて、話は終了する。
・・・
「シュウジ、前に出すぎないで!!」
「はぁっ!? てぇ、うあぁあっ!!?」
アークエンジェルはパナマを出港した。
その間に設置されたシミュレーター内ではシュウジ達が改修後の機体のデータが入ったシミュレーターでその連携を強めるために模擬戦を行っていた。
しかし中々連携は上手くいかないのか、今もカガミの指示に対し、シュウジが気を取られて、撃墜されてしまう。
「あぁもうっ! アンタが変に口出すからッ!!」
「……貴方が前に出すぎるのよ。死にたがりなら別だけど人の言うことを聞きなさい」
この場には徐々に険悪な空気が流れていた。
不満が爆発したようにシミュレーターを出て文句を言うシュウジにカガミも怒りを感じているのか、尖った口調で言い放つ。
「二人とも、落ち着いて! 喧嘩してる暇はないんだよッ!? グレイさん達は今も私達の為に──!!」
「───随分と難航してるようだな」
にらみ合う二人の喧嘩を仲裁するヴェルでさえ不機嫌になっていた。
そんな険悪な雰囲気の三人に声をかけたのは翔だった。
「新顔がこれじゃあ先が思いやられる」
「……俺は別に連携なんていらないんですよ。一人で十分だ」
わざとらしく呆れ口調でため息をつく。
そんな翔を見てますますシュウジは不機嫌になっていく。やがてはスタンドプレーに走ろうとするほどだった。
「自分の力を随分と信じているようだな……。悪い事じゃないがその結果、君はヴェルを傷つけた。連携なんて必要としていないせいでな。本来、あんなお粗末な事にはならない筈だ」
「ッ……」
「幾らそれぞれの個が強かろうが一度、無数に絡み合った糸のようになってしまっては足を引っ張るだけだ……。連携は君の為だけじゃない、皆の為にあるんだ。一人は皆の為に皆は一人の為に、てな。今まで君だけの力で生きてきた訳じゃないだろ。周りがいたから君は強くなれた筈だ。周りを考えなくなったら君はもう強くなれない」
再び翔の眼は鋭くなり、その視線がシュウジに突き刺さる。
どうもあの視線は苦手だし、ヴェルを傷つけたことは事実だ。
心を抉られるシュウジに翔は厳しいながらも彼なりに助言をして、シュウジは考えるように俯く。翔もかつてショウマと上手く連携が出来なかった時があった。だがそれをバネに乗り越えた。
「ヴェル、君は特に問題はない……のだがどうした、妙に苛立っているようだが?」
「……前々からカガミさんと私じゃ実力差があることは分かってましたけど、シュウジ君が入って……こうやってシュミレーターをすると余計に二人と差があるのを感じて……情けなくて……」
「……少なくともそこのシュウジよりは君の内面は強いと思うがな。力が強いだけじゃ心に負担がかかる……。君がさっき二人を仲裁したようにクッションになるような存在がいないと駄目だ。ギスギスしてしまうからな……。どんな存在でも精神的な支えは必要だ。そしてそれは……君だ」
翔は普段は温和のヴェルさえも露骨に分かるほど不機嫌なことに少なからずとも驚いていた。
翔の問いかけにポツリと以前から感じていたコンプレックスを口にする。
この中で付き合いが長いカガミは驚いていた。すると翔はヴェルにも助言をする。
翔はエヴェイユとして戦った。だが初めの頃は戦いたくなどなかったが、それでも周りにはルルやレーア、ショウマ達が自分を支えてくれた。だからこそ戦えたのだ。
「さてカガミ……纏め役は辛いか?」
「……私には任された責任があります。少しでも連携し、今度こそあのような失敗を起こさないようにしなければ……」
「カガミ、君は今、リーダーという重圧に押し潰されそうになっている。何とか纏めなくては……そう思えば思うほど空回ってしまう……。だけど君は一人で戦っているわけじゃない。まずは仲間を理解するんだ。仲間を理解し、信じる……リーダーにとって必要な事の一つだと俺は思っている」
そして最後にカガミに問いかける。
カガミはそこで漸く今まで黙ってきた重圧を口にすると、カガミにも翔なりの助言をする。翔のこれまでの戦いは翔だけの勝利じゃない、周りの仲間がいたからこその勝利だったのだ。
「……まぁ口だけではダメだな。俺が三人の相手をしてやる。今の君達三人では俺も倒せないだろうしな」
頭で理解していても実行するのは難しい。
すると翔はシュミレーターの前に立ってシュウジ達に振り返る。
明らかな挑発であった。
だが翔ならば相手にとって不足はない。三人は顔を見合わせると、シュミレーターに向かうのだった……。
・・・
「ブレイカー0は大破、か。修復作業はしているそうだが、随分と派手にやられたな」
「……マスドライバーは破壊した」
アフリカタワー周辺に身を隠す戦艦があった。
その中でシャミバは背後に控えるブレイカー0を使い、翔として動いてきた人物……コピーに嫌味を言うと、その人物は目的は果たしたことを口にする。
「ふん……。まぁまさか本物の如月翔が現れるとは……。もうその姿でいる必要もないだろう? 自己増殖は進めているわけだし」
だが負けたのは事実だ。シャミバが鼻を鳴らしながら、MS操縦ではなく本来の姿に戻ることを勧める。
この短期間では完全なアルティメットガンダムにはなれないが、翔として行動している裏で行ってきた自己増殖によって生み出した存在を取り込めば凄まじい力を再び得れるはずだ。
「お前を破壊した存在に対する復讐……。私達の利害は一致しているからこそ宇宙に放浪していたお前を回収して共に行動しているわけだ。だからこそここで躓くわけにはいかんのだよ」
「分かっている……ッ!!」
シャミバの粘っこい喋り方はコピーも苛立たせる。
今の今まで翔の姿をしていたのは強いだけではなく、もうこの世界にいない翔に対する復讐だった。
直接、復讐出来ないのならば彼が築いたものを破壊するのが魂胆だった。
だが翔が現れた以上はその必要はない。全身全霊をぶつけるだけだ。コピーはその場を後にするのだった……。
・・・
「くっそぉっ……! これだけやってまだ勝てないのかよ……ッ!!」
「だがこの短時間で俺を追いつめているんだ。流石だぞ」
あれから数時間後、シミュレーターから出てきたシュウジはその場に仰向けで倒れ、悔しそうに唸る。同じくシミュレーターから出てきた翔はヴェルやカガミ、そしてシュウジを見ながら成長を感じていた。
あれからずっと模擬戦を繰り返しており、最初こそまだ足並みは揃わなかったが、何度も共に戦ううちにシュウジ達は着実に強くなっていき、それは模擬戦で翔をも焦らせるほどに。
「……翔さん、この戦いが終わったらどうするんですか?」
「……帰るだけさ。ここに戻ってくる気はなかったしな」
休憩を挟み、四人が壁を背に腰かける。
カガミの問いかけに翔は静かに答える。
ヴァルターが現れなければ自分はこの世界に戻ることは二度とないと思っていた。コピーを倒せば自分は帰る。そのつもりだ。
「……だからこそ俺達がしっかりしないといけないってことでしょ?」
分かっていたとは言え、翔の口から残る意思はないことを聞かされるとカガミは俯いてしまう。そんなカガミにヴェルがどう言おうか悩んでいるとふと、シュウジが口を開く。
「この世界の問題はこの世界にいる俺達が解決しますよ、絶対に」
「頼もしいな」
シュウジは先程よりもこの短時間で内面的にも成長していたようだ。
そんなシュウジに翔は優しく笑いかける。
シュウジは初めて翔の笑顔を見た。それはショウマと同じ強者だからこその優しい笑みだ。
「おーい、お前らのMS、改修できたぞ!」
「流石、グレイさん達だ、仕事が早いな……」
すると遠巻きにグレイが声をかける。
ようやく完成したのだ。
翔は立ち上がると三人を連れて格納庫へ向かう。
・・・
「まずはヴェルの機体だ。スターストライクガンダム……。見た目はバックパックの違いだが、内面を大幅に強化した。ドラグーンは地上用にも改修してあるから好きに使えるぞ」
「これならサポートも出来ますね」
格納庫に到着したシュウジ達は改修後の自分の機体を見上げる。
グレイが説明を始めると、そこには見た目こそビルドストライクのままだが、バックパックに装備された本来は宇宙戦闘装備であるシラヌイの発展型を装備したスターストライクガンダムをヴェルが見つめる。
「次にカガミ……。ライトニングガンダム・フルバーニアン。こいつの場合はバックパックの新調とスターストライクと同じように内面の強化だな。翔が昔使ってたブレイカーフルバーニアンのデータを元に発展させたBWSだ。ハイ・ビームライフルを新たに装備、火力面でも大幅強化されてるぞ」
「フルバーニアン……」
スターストライクガンダムの資料をヴェルに渡し、今度はカガミのライトニングの説明を始める。
グレイの言うように見た目こそライトニングだが、そのバックパックは大型化され左右にはブースターポットがあった。カガミもグレイから資料を渡されながら、じっと見つめる。
「最後にシュウジ。コイツは一番損傷が大きかったから、半ば一から組み上げたようなもんだ。コイツにはゴッドやシャイニングなんかのMFのデータを盛り込まれた機体だ。腕部にはゴッドフィンガーならぬバーニングフィンガーがある。相当な暴れ馬になってるから気をつけろよ」
「俺の……俺だけのバーニング……!」
グレイは最後にシュウジのビルドバーニングの改修機の説明を始めると、シュウジはその見た目が大きく変わった自分の機体を見つめる。
「名前は──「ブレイカー……」……え?」
「名前はもう決まってる!」
ビルドバーニングの改修機の名を口にしようとするグレイだが、それをシュウジは遮り、そして少年のような視線を翔に向ける。
「バーニングガンダムブレイカーッッ!!」
それは翔の機体名に肖ったものだった。
シュウジにとってはもう翔はもう一人の師匠のようなものだったからだ。
そしてその翔の後を継ぐ意味でこの名前を名付けた。
翔は驚くもすぐに微笑を浮かべ、ヴェルやカガミもクスリと笑う。
グレイはまぁ良いか、と新しいシュウジだけのビルドバーニング……バーニングガンダムブレイカーの資料を渡すのだった。
というわけで今回のEXのテーマである、世界はそこにいる存在達によって守られる、と言った話でした。ですので今回の翔はシュウジ達を後押しするような存在で自分でこの世界の問題を解決するという感じではないです。
次回で最終決戦で最終話…の予定なんですけど、書ききれるかが不安なのでもしかしたら分割の可能性もあります。
後、新機体ですがヴェルのスターストライクはビルドストライクにシラヌイ(中身が若干違ってます。元ネタ的にはスターウイニングをイメージしてます)を、カガミはBFTのライトニングフルバーニアンを。バーニングブレイカーはトラバやカミバとは違うシュウジだけの所謂、俺ガンダムとして登場させました。
HEAD ガンダムX
BODY ビルドバーニングガンダム
ARMS ゴッドガンダム
LEGS シャイニングガンダム
BACKPACK ゴッドガンダム
のビルドバーニングカラーをイメージしていただけると幸いです。