機動戦士ガンダム Silent Trigger 作:ウルトラゼロNEO
フォン・ブラウン-飛翔-
「……オーキスを失いアークエンジェルまで奪われるとはな」
「申し訳ございませんッ!!」
薄暗い部屋に机を挟んで二人の男がいた。
一人は先程、デンドロビウムを駆り、翔達に襲い掛かってきたパイロットであるルスランとその向かい側には立派な顎鬚を蓄えた切れ目の男性…ヴァルター・ハイゼンベルグが深々と仕立ての良い椅子に腰掛けていた。
そこにいるだけで息が詰まるような威圧感を放つ彼はコロニー連合軍の将校であり、階級は准将だ。近々行われる地球攻略作戦の司令官も務める人物である。
「ヴァルター様への恩を報いるどころかこのような醜態を……! いかなる処分も覚悟の上です!」
土下座をして床に頭を擦りつける。
ルスランは過去に孤児であったがヴァルターに拾われ、その後ハイゼンベルグ家に仕えていたのだ。彼にとってヴァルターは絶対的存在であり、そんな彼にあのような結果になってしまったことにルスランは自分を許せずにいた。
「……ルスラン。今回の件は不問にしよう」
「なっ…ですが…!」
だがルスランにとって予想外の通達だった。
アークエンジェルだけではなくオーキスまで失い、敵パイロットに言われるがままおめおめと帰還した自分を不問にしようというのだ。そんなことをすればヴァルターへの風当たりもまた変わる。
「私へ思う所があるのであれば挽回の機会を与えよう。今度の地球攻略作戦の要をお前に担ってもらいたい」
「わ、私にそのような大役を……!」
「……お前だからだ。妻や娘達まで失った私には今はお前だけが信用出来る存在なのだ。それにお前の能力は知っている。その能力を失うのは痛手でしかない。分かったなら行きたまえ」
だがヴァルターはそんなことも気にせずにそれどころか大役をルスランに任す。
信じられないといった表情のルスランにヴァルターは穏やかな声色で話すと、感激のあまりルスランは深々に頭を下げ、ヴァルターの執務室から出る。
(……派遣された部隊の戦闘データを見させてもらったが…あの光……【シーナ】に似たなにかを感じた。あのガンダム……。いや…パイロットのデータがほしい。アークエンジェルは月へ向かったと聞いたな……。恐らくは中立都市を利用するつもりだな)
ルスランが退室した後、ヴァルターは窓へ視線を動かしながらエイナルの隊の戦闘データを思い出す。エイナルを退けたガンダムが発したあの光は彼の今は亡き娘であるシーナ・ハイゼンベルグを思い出す。
「……私だ。アークエンジェルがフォン・ブラウン市へと寄港した。いくら中立といえど、これは戦争幇助行為だ。直ちに部隊を派遣せよ」
ヴァルターはすぐさま部下へと通信を入れる。
その真意はあのガンダムのデータ取りだ。どうにも彼にとっては例え中立都市を火に染めたとしてもデータが欲しいらしい。ヴァルターは静かにあのガンダムが、そのパイロットが戦場へ出てくることを祈るのだった。
・・・
《アークエンジェルはこれよりフォン・ブラウン市へと寄港します》
(ついにフォン・ブラウンか。しかし地球軍とコロニー連合軍……。まさにアースノイドとスペースノイドの戦争だな)
ルルとの話が終わり、彼女がブリッジに戻ってから数時間後、翔はちょっとした休憩所に立ち寄っていると艦内アナウンスが流れる。
あの後、ルルと会話するうちにこの世界のことが多少は理解できた。
地球軍とコロニー連合軍のお二つの勢力があり、初めは良好な関係を保っていたが主義主張がすれ違い結果対立。勢力では優る地球軍に対抗するため多くのコロニー側は連合を結成。その姿勢が、地球軍の態度を硬化させ、軍事力による政治交渉を恒常化させたといったところだった。
(……どうすべきかな)
だが、そんなことはどうでも良かった。
翔にとって考えることは一つ。今後の行動でどうやったら自身の世界へ帰れるかだ。フォン・ブラウンで降りることで自身の世界へ帰れるのだろうか?
(どうやら着いたみたいだな)
外側から聞こえる話し声や物音で判断して移動を開始する。
少なくとも今はどの行動を起こしても正解とは思えない。ならばせめて自分がこうすべきと思った行動をしたい。
・・・
「──黙って行くとは寂しいことすんじゃねぇか」
数分後、避難民を降ろす作業が始まり、これといって荷物はない翔はそのままフォン・ブラウンへと降りようとしたところに声をかけてくる人物がいた。驚いた翔は声の主を探すとそこにはカレヴィがいた。
「カレヴィ……さん……。でしたね」
「カレヴィで良い。どーもさん付けってぇのには馴れねぇんだ。なんなら敬語もとっぱらってくれよ」
自身の名を口にする翔にムズ痒いような表情を浮かべるカレヴィは敬称などを止めるように頼む。カレヴィのその気さくなキャラに少しは気は楽になったのか表情が僅かに和らぐ。
「……ならカレヴィ、わざわざどうしたの」
「あぁ、まぁなんだ。謝ろうと思ってな。お前には辛い思いをさせちまった」
敬称で接することを止めた翔に気を良くしたのかカレヴィは一瞬、笑みを浮かべるが、その後、厳かに謝罪をする。恐らくはフロンティアⅣでの戦闘のことだろう。
「……あなたは何もやってないだろう。わざわざ謝る必要なんて……」
「それでも、俺の気が済まな──」
翔は謝るカレヴィにその必要はないと言うが、どうやらカレヴィは責任を感じているらしい。その姿勢に彼は信用に足る男だと翔は内心感じるが次の瞬間…。
「「っ!!?」」
会話の最中に爆発音が響き、それと同時に艦内で警報が鳴り響いたのだった。
《敵部隊接近! MSの発進準備並びに避難民の方は居住ブロックへの移動をお願いします》
「ちっ……やっぱり来やがったか。翔、お前も居住ブロックへ向かえ!」
艦内アナウンスに舌打ちするカレヴィは翔へ声をかけると同時に出撃のため移動を始める。翔はその背中を見送るしか出来なかった。
・・・
「状況は?」
《敵は私達だけではなくフォン・ブラウン市も戦争への協力行為をしたとし、攻撃を開始した》
一足先にエクシアへ乗り込んだレーアが通信で尋ねると代表して、マドックが答える。
「そんなことって……! 私達は避難民を降ろす為だけに!」
「敵はそうは受け取らないってことだ。フォン・ブラウンを巻き込んだ責任は取らなきゃならねぇ。ウィングガンダム、先に出るぞ!!」
「あぁもう……! エクシアも出るわ!」
コロニー連合軍への怒りを感じるレーアに間髪入れずにカレヴィが通信を入れると、カレヴィの乗るウィングガンダムが出撃する。準備も整っているエクシアも後を追うように出撃するのだった。
・・・
「カレヴィ、私が引きつけるわ!」
「ああ!」
アークエンジェルを飛び出した二機は月面に到着するとすぐに周辺に展開するデナン・ゾンやヴィクトリーガンダム、ザクⅡなどの混成部隊との交戦を開始する。
カレヴィへの通信をいれたレーアはすぐに機体を操作、エクシアはGNソードでヴィクトリーガンダムを両断した後、近くのザクⅡを蹴り飛ばす。
「っ!」
敵は近接特化機であり近くで暴れまわるエクシアに狙いを定め一斉射撃を開始、エクシアは回避行動へ入る。GNドライブを稼働させ、素早く回避するエクシアは時折、椀部のGNバルカンで応戦し、頃合を見て一気に飛び退く。
「上手く纏まったな!」
エクシアの目的は敵部隊をなるべく集める陽動だった。
一気に飛び退いたのを合図にカレヴィはバスターライフルを発射、アークエンジェル周辺の敵部隊を撃破する。
《聞いてくださいッ! 敵が居住区へ侵入しました! こちらは構わないのでお二人は急いで居住区へお願いします!!》
「ちぃっ!」
ルルから切羽詰ったような通信に素早く反応するカレヴィは機体を操作、モニターに映る案内のもとエクシアと共にすぐに居住区へと目指すのだった。
・・・
(揺れが酷くなってきたな……)
主力である二機が月面の居住区へ向かった為、手薄になったアークエンジェルに敵が襲う。アークエンジェルの居住区にいた翔は揺れに耐えていた。
「なんでコロニーに住んでた俺達がコロニー連合軍に襲われなきゃなんねぇんだよ!?」
「なんもかんもここの人間が悪いんだよ!!」
ある者は現実の理不尽さに嘆き、ある者は怒りをぶつける。
居住区は今、息が詰まるような負の感情で満たされていた。
「ママぁっ! 僕達死んじゃうの!?」
「そんなことないわっ……! 大丈夫……大丈夫だから……っ!」
段々と強くなっていく揺れに堪らず子供が母親に泣きつくと母親も子供を抱き寄せながら自身へも言い聞かせるように答えていた。その悲痛な光景を横目に翔は歯を食い縛る。
「やだぁっ! 死にたくないよぉっ!!」
(……俺は……ッ!)
泣き止まない子供を見て、翔は突発的に咄嗟に居住区を飛び出すのだった。
・・・
「奴らの狙いは居住区を支える柱なの!?」
「破壊すれば手っ取り早く居住区も破壊できるからな! この居住エリアには5000万人の人々が住んでいる! 良いか!? 絶対に死守しろ!」
「言われなくとも!」
居住区へと到着すれば、居住区を支える柱へ攻撃を開始した敵部隊にレーアとカレヴィは素早く戦闘を開始する。
「クソッ……お構いなしに撃ちやがって!」
だが、ここは居住区、下手な行動をすれば避難中の住民に被害が出る。
だからなるべく近接で仕留め、且つ柱の近くであればあるほど爆発させないよう気をつけねばならない。だが敵部隊は意にもとめずエクシア達に攻撃するのだった。
・・・
「格納庫はどこだ……ッ!」
アークエンジェルでは翔が格納庫を目指して探しまわっていた。恐らくは出撃するつもりなのだろう。
「──なにをやっている!」
「っ!?」
艦内をウロウロする翔へ声をかける人物が。
振り返れば通信機器を手に持ったマドックがいた。
「民間は居住区にいろと言ったはずだぞ!?」
「……貴方こそ何をやってるんです、副長代行でしょう?」
状況が状況なのか切羽詰った様子で怒鳴るマドックに翔は言い返す。
本来ならブリッジにいなければならない人物だからだ。
「君は確かガンダムに乗った民間人だったか……。援軍の要請をしていたところだ! もっとも期待は出来んがね。そんなことよりなにをやっている、まさかMSに乗る気か!?」
「そのまさか……です」
翔の顔を見て、彼を記憶してはいたのか、通信機器を握り締めるマドックは翔の行動を尋ねると、翔は真剣な表情で答えた。
「なっ……! カレヴィ少尉や艦長代行から聞いたぞ、君は戦うことを拒んだのではないのか!? 我々はその意志を尊重して……っ!」
「……子供が……。子供が泣いてるんです、死にたくないって! あそこにいる人達は戦えない……。けど俺は戦えちゃうんです! きっと後悔する……。戦えるのに戦わなかったら……死んでも後悔してしまう! 確かに戦いたくはないですよ……! 人殺しなんて尚更! でも俺も死にたくない、みんな死にたくないんです!」
なにを言っているんだと言わんばかりの剣幕で叫ぶマドックに翔も負けじと普段の物静かさに反して叫んだ。
「レーアやカレヴィに任せて戦う事を拒んでおいて今更なにを言っているんだと思うかもしれません……! だけど俺は──「パイロットスーツは着なさい」──ッ!」
「……君は軍人でもなければ民間人だ、しかも私の孫のような年頃だ。戦いなんて強要はしないつもりだったがパイロットもいないこの状況で戦ってくれるのであれば我々もありがたい……」
とにかく己の思いを叫ぶ翔の言葉を途中で遮る。
熱が入った頭もいくらか冷静になって、前を見ればマドックが悲痛そうな表情を浮かべていた。
「頼む……。我々は二の次でも構わん。せめて避難民を救ってくれ……!」
「──ッ! ……はいッ!」
孫ほどの年齢の翔に深々と頭を下げるマドックの姿にに翔は驚きながらも強く返事をするのだった。
・・・
《翔君、本当に良いんですか……?》
「……どの道、このままじゃ死ぬのを待つだけです。俺は……俺に出来ることをします……。させてください」
《分かりました……。私からもお願いします》
マドックから話を聞いたルルは白と黒を基調にしたパイロットスーツに着替え終わりガンダムブレイカーに搭乗した翔へ通信を入れると翔は計器をチェックしながら答える。
自分に出来ることが戦うことだけというのはなんとも言えないが仕方がない。するとルルは通信越しに頭を下げていた。
(……俺をこの世界へ飛ばした奴を今は許す気にはなれない……。けど……今はせめて子供を泣き止ませて安心させることぐらいはしてみせる……)
《カタパルト接続! 進路クリア! ガンダム、発進どうぞ!》
まだ状況の理不尽さには怒りを覚えるが先程の親子を見て決心すると、オペレーターからアナウンスが聞こえ、操縦桿を握り締める。
「如月翔、ガンダムブレイカー! 行きますッ!」
発進の言葉と共にペダルを踏み込む。
カタパルトは火花を散らしながら、猛スピードでガンダムブレイカーを射出すると、ガンダムブレイカーは飛翔し、アークエンジェルを取り囲む敵部隊へと突っ込むのだった。
現在の翔の戦いへの行動原理はあくまで死への恐怖、生への渇望です。だからなるべくなら生死のやり取りをする戦場なんて行きたくないし、人殺しへの嫌悪感から相手を殺すのに躊躇してなるべく不殺をしようとします。でも下手すれば自分が死ぬので殺されるくらいなら殺すといった感じです。まぁその結果、人殺しとして精神的にかなりの負担を残すんですけどね。変な言い方、人殺しを割り切れずにいます。まぁ早い話、【不殺は出来る限りはするけど殺すときは殺す】って感じです。
今回のフォン・ブラウンでの話は戦いを拒む翔が戦いへの行動理由を見出しレーアのようにアークエンジェルのパイロットになるまでの話です。今回で戦いへ赴く翔へ違和感を感じたのであればそれは私の表現不足であり力量不足です。すいません。