機動戦士ガンダム Silent Trigger 作:ウルトラゼロNEO
「ようこそいらしてくれました、ご協力に感謝します。私がカイウル・レードンです」
サクヤに案内されたグラン達は研究所の奥までやって来た。
案内された一室はとても広くその中心にはカガミやヴェルもデータでは見たカイウル・レードン博士その人が待っていた。
その周辺には人一人は容易く入れるであろうカプセルが設置されており、また壁側には二人の少年少女が立っている。
「予め説明されているとは思いますが、最短で1週間、遅くても2、3週間を予定しております。まず本日は皆さんも旅の疲れもあるでしょうし、今日はお休みになられて明日からこの場でデータを取ろうと思いますのでよろしくお願いします」
流石に長旅もあったせいか早速データを取り始めるということはないようだ。カイウル自らが予定の説明を終えると、壁側の二人に視線を向ける。
「娘のノエルと世話係の修司です。皆さんが滞在している間はこの二人とサクヤが皆さんの世話係ともなりますので、ご不便がありましたらお知らせください」
壁側の二人に視線を向け、彼女達の紹介をするカイウル。特徴的なセミロングの赤髪を揺らしながらカイウルの娘であるノエル・レードンは頭を下げ、隣の修司と紹介された少年も頭を下げると部屋の案内を始める。
「……カガミさん」
「ええ……多少は面影があるとはいえ、名前まで同じとは……」
ノエル達に部屋を案内されながら、ヴェルはカガミにそっと耳打ちをするとカガミは頷きながら先頭に立って歩いている修司の背中を見つめる。
・・・
「馴れない事はやるもんじゃないね」
「たまには戦い以外のこともやってもらわなくてはな」
カガミ達が退室すると、その場にはサクヤとカイウルのみが残った。
右手を左肩に置きながら、首を左右に揺らしてコキコキと軽く鳴らしながらカイウルに苦笑するサクヤにカイウルは立体映像を操作しながら話す。
「そう言えば、このU細胞だっけ。使うの?」
「……予定はあるがまだ完成には遠い。とはいえ、これは廃棄されたヴァルター・ハイゼンベルクの資料を可能な限り回収したが、それでもオリジナルとはまた似て非なる物になっているがね」
そのまま机の上に腰かけながらサクヤは立体映像内に映っている六角形の金属が表面に取り付いているネズミが他のネズミに襲いかかり捕食する様を見ながら問いかけると、机の上に載っている事に眉を顰めながらカイウルはサクヤの問いに答え、その口元には笑みを浮かべるのだった……。
・・・
「うー……ん……。もっと……食べりゅ……」
夜、明日から始まるデータ取りの為、早めに就寝をするパイロット達、相部屋となったカガミとヴェルなのだが、ヴェルは既に熟睡し、寝言まで呟く始末だ。そんなヴェルを一瞥しながらベッドに腰かけていたカガミは立ち上がり部屋を出る。
そのまま月夜の下に出ると窓際まで移動して、風にサイドテールの髪を揺らしながら携帯端末である人物の連絡先を表示する。相手はシュウジであった。
「──……兄さん、あの人たち強いと思う?」
連絡すべきかどうか悩み、空に浮かぶ月を見上げる。
そんな彼女の耳に話し声が届く。思わず携帯端末をポケットにしまって物陰に隠れると、外の庭園で修司、サクヤ、ノエルの三人が庭園のテーブルを囲んで話をしていた。
「強いんじゃないかな、じゃないと来てもらった意味がない」
「でも私はサクヤさんが一番強いと思ってます!」
修司の問いかけにノエルが用意したコーヒーに口をつけながら答えると、ノエルはサクヤを持ち上げようと褒め称える。
「何だって良いよ。強ければその分、楽しみだって増えるわけだから」
「兄さんは戦うの好きだからねぇ。強者に出会う事こそが兄さんの欲を満たす術なんだから」
ソーサーの上にコーヒーカップを静かに置きながら喋るサクヤの口元にはうっすらと笑みが。そんなサクヤの様子に笑みを浮かべながら修司は笑う。
「……二人ともそろそろ部屋に戻りなよ。朝早いでしょ、お客さんがいるし」
「兄さんこそちゃんと働いてよ」
そろそろ時間も遅い。
背もたれに身を預けながら寝るように促すサクヤだが、その言葉に逆に修司から注意を受けると、片付けをするノエルと椅子に座っているサクヤを残して修司は部屋に向かう。
「……サクヤさん、もう少しで自由になれますから。待っててください」
台車にコーヒーカップなどを乗せ終えたノエルは去り際にサクヤに小さく耳打ちをすると、そのまま台車を押してその場を去っていくのであった。
「──……盗み聞きをした人って、どういう心境なの?」
修司とノエルが完全にいなくなり数十秒。ふとサクヤが口を開くと物陰に隠れていたカガミは目を見開き驚くと観念したように姿を現す。
「……ごめんなさい、そのつもりはなかったのだけれども」
「別に良いよ。聞かれて困る話じゃない」
素直に謝罪をするカガミにその笑みを絶やさないその表情を向け、背もたれに体重を預け椅子を揺らしながら答える。
「……さっきの彼……。修司は……貴方の……」
「そっ。弟。自慢なんだ」
修司がいなくなった方向を見やりながら、カガミはサクヤに問いかけるとサクヤは嘘もなく答える。
「って言うか、いい加減寝た方が良いんじゃないかな。下手なデータなんていらないし」
「……ええ、そのつもりよ」
そのまま椅子から立ち上がったサクヤは自室に戻る為、カガミに背を向けて歩き出しながら、眠るよう勧めると、カガミも静かに頷いて、去りゆくその背中を見つめる。
・・・
(いい加減、ここのパッサートともケリつけねぇとな)
場所は変わってルルトゥルフ。
シュウジは王宮で自身に用意された客室のベッドから起き上がる。考える事はいまだ、このルルトゥルフの脅威となっているパッサートの残党。いつまでも時間をかけるつもりはない。
「シュウジ、どこかいかれるのですか?」
静かに戸を閉めて歩き始めるシュウジに背後から声をかけたのはエレアナであった。その背後にはアレクも控えている。
「ああ。パッサートとケリつける為に俺の機体を取りに行こうと思ったんだ」
「それは……しばらく空けるという事ですか……?」
いい加減、慣れない期待で戦い続けるよりも愛機を使った方が早い。そう考えて、バーニングガンダムブレイカーがあるアークエンジェルまで向かおうと言うのだ。
バーニングガンダムブレイカー。
それはかつて憎しみの連鎖を破壊した英雄のその意志を継ぐ想いで名付けた自身のガンダムだ。
しかし、シュウジが不在になるという状況にエレアナは不安げな表情を浮かべる。
「心配すんな。早けりゃ2、3週間で帰ってこれる」
「そうですか……。ならっ、これを持って行ってください!」
アークエンジェルの位置は確認済みだ。
ルルにも連絡は取ってある。
元々、バーニングガンダムブレイカーの元となったビルドバーニングガンダムはヤマトによって与えられた自身の所有物。手続きはルルに任せて、それを取りに行くのだ。
シュウジの不在は心寂しいものがあるが、それは一刻も早く戦いを終わらせるため。
エレアナは元々、ここに来た目的の為にアレクに顔を向けると、頷いたアレクはゆっくりとシュウジに向かっていく。
「姫様が貴方の為に用意した外套です」
「マジか……!? そういや、この国に来たときは服の上にボロ布纏ってたな」
アレクが両手に抱えている物を差し出される。それは上質な素材で出来ているのが一目で分かる乳白色のマントであった。
白の外套を見て驚くシュウジはこの国に来た時のことを思い出し、苦笑する。
「ありがとな、エレアナっ! それにアレク、俺がいない間にヘマすんじゃねぇぞ」
「はい、いってらっしゃいませ。シュウジっ!!」
そのまま外套を受け取り、勢いよく身に纏う。
身の丈まで覆えるほどのマントはこの国に来た際に纏っていたボロ布とは全然違う。エレアナに礼を言いながら、アレクにも軽口を言うと、頷くアレクとエレアナに見送られながらルルトゥルフを旅立つのであった……。