機動戦士ガンダム Silent Trigger 作:ウルトラゼロNEO
「全く厄介事は次々に起こるな。少しは労ってもらいたいもんだ」
カイウルの後を追うグランは誰に言うわけでもなく愚痴をこぼす。
MSの戦闘も考慮して現在、愛機であるDXに搭乗して、ティア達を引き連れて目的のレセップスがいる地に向かっている。
「ボヤかないで集中してよ。もう向こうだって気づいているだろうし」
「へいへい」
グランの気持ちも分からないでもないが、今は任務中だ。部下の前でもあるし、厳しすぎず甘すぎずの声色でグランを窘めるティアにグランはやれやれと言った様子で答える。
(これが終わったのなら、ちゃんと労ってあげないとね)
戦争は終結しても統合軍に身を置いてエースとして名を馳せるグランの激務は凄まじいものだ。この任務が終わったら労ってあげるのも良いのかも知れない。クスリと微笑むティアだがレセップスから展開するMS隊に気づく。
「散開して各個に撃破! 良いか、無茶するなよ!!」
それはグランも同じだ。
素早い指示が贈られると同時に統合軍のMSは散開して迫るパッサートのMS隊と交戦に入る。
・・・
「あれは……統合軍のエースの……」
「ああ、グラン・ライスターだろう」
戦闘をする自分達のMSから送られる映像に映るDXの姿を見ながら艦長は唖然とする。
DXといえば先の大戦においても多大な戦果をあげたとされるエースの機体だ。面識があるカイウルはニヤついた笑みを浮かべながら答える。
「そんな相手に我々の戦力で勝てると思うのか?!」
「なにを狼狽えている。ここには私がいるだろう」
余裕の態度を崩さないカイウルに苛立ちながら声を荒げる。
正直に言えば、グラン相手に渡り合えるパイロットなどこの艦にはいない。現に次々に此方のMSは撃破されている。だがカイウルはどこか呆れた目で艦長を見やる。
「ユーディキウムを出したまえ」
「……博士、貴方が此方に来てもらったのは本当にありがたい。貴方の目的も理解しているし、我々としても手を貸してもらえるだけで嬉しい。だがあの機体は前の戦闘で統合軍のMSに追い詰められていたではないか。本当に大丈夫なのか?」
命令に近い指示を出すカイウルに苦々しい表情を浮かべる。
ユーディキウムは確かに強大な力を持ち、ルルトゥルフの防衛隊を壊滅に追い込んだ。
だが統合軍のMSが来てからは追い詰められていたのだ。カイウルを疑うわけではないが、一抹の不安を覚えてしまう。
「生物は日々進化するものさ。それはユーディキウムも同じことだ」
「あれが生物だとでも言うのか?」
「当たらずしも遠からずってところかな」
艦長の言葉に愚かしいと言わんばかりに不快そうに眉を顰める。
だがその言葉は理解できない。ユーディキウムはMSの筈だ。しかし設計者のカイウルはそうではないのか気味の悪い笑みを浮かべる。
「さぁ見せてみなさい。特殊能力者にさえ通用するところを」
レセップスを抜けて発信していくユーディキウムの巨体。その後ろの姿を見ながら、カイウルは笑みを絶やさずにその背中を見送る。
・・・
「兄さん、新手が!!」
「例の新型か。やはり間違いなく博士はいるな」
大方のパッサートのMSは撃破したところにユーディキウムが迫る。
ティアが緊迫した様子で告げる中、睨むように目を細めながらグランはユーディキウムを見据える。そんなまだ射程外のユーディキウムがキラリと光ると共に鋭いビームが部下のMSを貫き、爆散させる。
「なっ!? あの距離で狙撃!?」
「カガミかそれ以上の能力だな……! 良いか、下手に動けば格好の的だ!! 気を付けろ!!」
次々に放たれる狙撃で落とされていく部下達。
愕然としているティアに渋った表情を浮かべながらすぐにグランは指示を出し、ユーディキウムに専念する。
ユーディキウムはに接近しながらバスターライフルを発射するDXとXだが、悉くユーディキウムははその機体に見合わぬ動きで避けていく。
「きゃぁあっ!?」
だが逆にその巨体に見合わぬ高機動さを見せつけるユーディキウムは急接近しそのまま大型ビームサーベルを振るい、咄嗟にシールドバスターライフルで防ごうとするXだがあまりにも強靭な力に耐え切れず弾かれるように吹き飛ぶ。
「させるかッ!!」
そのまま温度はDXにも攻撃しようとするユーディキウムではあるが大型ビームサーベルを素早く引き抜きDXは受け止められてしまう。スパークが周囲に巻き起こる中、反発するようにDXとユーディキウムは距離を取る。
「なんだ……!?」
ここでユーディキウムに異変が起きる。
壊れた人形のように俯いたと思えばグネリと身を捻らせ頭部をDXを突き出す。まるで生物的な動きで気味の悪ささえ感じる中、ユーディキウムは赤い光を纏ったのだ。あまりの出来事にグランは驚愕する。
「あの光……。まるで翔のような……!!」
ユーディキウムが纏った光に既視感を覚える。あの光は見覚えがあったのだ。それは幾度か共に戦った事のある英雄が、ひいてはエヴェイユの力に非常に酷似していた。
「あの光はなんだ……!!?」
「特殊能力に対抗するのならば、此方も特殊能力に対抗するしかないのさ」
驚いているのレセップスの面々も同じであった。
代表するような艦長の呟きにカイウルは待ちかねたと言わんばかりに口角を吊り上げる。
・・・
「っ……!? また……!!?」
一方、アークエンジェルではユーディキウムの覚醒に合わせるように頭を砕くような激痛がリーナを襲い、その場で蹲って頭を抱え周囲の人間は心配していた。
・・・
光を纏ったユーディキウムはまさに圧倒的であった。
DXやXを肉薄し彼らの部下達を瞬く間に壊滅に追いやった。何とかユーディキウムと渡り合うグラン達だが、その表情は非常に険しい。
「ぐぁっ!!?」
ぐるりと回転して放たれた回し蹴りはDXの横っ腹にあたる部分に直撃し、DXの機体はくの字に曲がって、そのまま頭部にシールドポケットからガトリングを露わにさせ押し付けて発砲して地面に叩き落とす。コクピットにいるグランの衝撃は凄まじいものなのだろう。バイザーは割れ、生々しい鮮血が流れる。
「兄さん!!」
追撃しようとするユーディキウムはすかさずXが阻止しようと攻撃を仕掛けるが、煩わしいハエにでも対処するかのようにユーディキウムは悉く避けて胸部の誘導光弾を発射する。避けきれないXは直撃して中破に追い込まれる。
「ティアァアッッ!!!!!」
下手な邪魔をされる前にXを撃破しようと武装を展開するユーディキウムに、痛む体を無理に動かしてティアの名を叫びながらDXを動かす。部下は壊滅に追い込まれた。たった一人の妹まで失いたくはなかった。
無数の銃弾が放たれ、すべてはXを対象に殲滅し蹂躙するかのように向かっていく。
ティアは己の死を感じて、ギュッと目を瞑る。
次の瞬間、爆音が鳴り響いた。
だが自分は生きている、Xさえ損傷は受けていない。
一体、なにがあったのか恐る恐る目を開くティアは驚きで目を見開く。
Xの前に庇うように手を広げて立つDXの姿があった。
ユーディキウムの全て攻撃を受けたのだろう、大破に近い状態のDXはそのまま宙に落ちていく。
地面に轟音を立てて墜落したDXにティアは身を震わせながらDXのもとへ向かう。
そんなXを追撃しようとするユーディキウムは武装も消費しエネルギーも僅かなのだろう。静かにXに向けた銃口を下し、レセップスへ帰投すると、これ以上の追撃を避けるようにレセップスはこの場から離れていく。
「兄さん……! 兄さん……っ……! いやぁっ! なんでなんでェッ!!?」
ティアはXから降りて、DXのコクピットに乗り込んでいく。なぜ自分を庇ったのか、と今にも息絶え絶えのグランに錯乱した様子で叫ぶ。
(妹を助けねぇ兄貴がいるかよ……)
だが、グランの体にはもはや力も入らず口も開く事さえ出来ない。
どんどん体から力がなくなっていくのを感じる。錯乱して顔をクシャクシャにして涙を流して取り乱しているティアに静かに思いを馳せる。
(……でも泣かせちまったな……。わりぃな、ティア…………兄貴……しっ……か…………く……だ……)
嗚咽を上げているティアの姿を見ながら、これを最後に観た光景にするのはあまりにもやりきれない。だがもうどうする事も出来ないのだ。グランの目がゆっくりと閉じていく……。
「あっ……ああぁぁぁっ……!!!!? いやああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーっっっっっ!!!!!!!!?」
そのグランの表情が二度と動かないものだと脳が認識した瞬間、ティアの体がわなわなと震え目を見開く。全身の筋肉が叫べと命令していた。誰もいない空の下、最愛の兄を失った少女の叫びが悲しく響くのだった……。