機動戦士ガンダム Silent Trigger 作:ウルトラゼロNEO
ティア・ライスターを除くグラン・ライスターが隊長を務める隊が全滅に追いやられた情報は戦闘が行われた山岳地帯からほど近い、ルルトゥルフに身を寄せていたアークエンジェル隊が回収したティア・ライスター本人によって知らされた。
「そんなっ……グラン隊長……っ!!」
「……っ」
……グラン・ライスターの死もまたかつては彼の部下であったヴェル・メリオやカガミ・ヒイラギにも知らされていた。
ブリーフィングルームにはティア、カガミ、ヴェルの三人だけがいる。
たった今、ティアの口から知らされたグランの死にヴェルは口元を両手を抑え大粒の涙を流しながらその場にへたり込むと、カガミもまたやれきれないと言わんばかりに歯を食いしばり目を強く閉じている。
「……戦争はやっと終わったのよ……。それなのに……こんな形で死んじゃうなんて……っ!!!」
身体を震わせる。
MSパイロットをしている以上、実戦に出れば死と隣り合わせだと言う事は誰に言われずとも分かる。しかし戦争が終わり、平和な世になりつつある中でのこの出来事はどれ程まで彼女達に衝撃を齎したのか。
「私……後で言えば良いって思ってっ……兄さんとちゃんと話も出来なかった……っ!!」
手をギュッと握り、悲痛な面持ちを浮かべる。その目じりにはじんわりと涙が浮かぶ。労いの言葉をこの任務が終わればかけるつもりであった。だがその言葉は二度と言う事が出来ない。
最後に兄とちゃんと会話をしたのはぼやく彼に注意をした時だけ。それが最後の会話だと言うにはあまりにもやりきれない。
「ティアさん……っ!!」
「っ……! ヴェルっ……! カガミ……っ!!」
これ程までに弱弱しいティアを初めて見た。普段は気丈に振る舞っているのだから尚更だ。ならば今自分に出来る事をしようとヴェルはティアを抱きしめる。いや、ヴェルだけではない。カガミもそっとティアの傍らに寄り添ってその背中を支える。
二人の妹分の気遣いに触れたティアはわなわなと瞳を揺らす。
彼女達の前では強い姉貴分でいる筈だったのに、今だけは取り繕れそうにない。ポツリと頬を伝う涙は顎から滴れるなか、ティアは声をあげて泣き出すのであった。
・・・
「グランさん達と交戦し、カイウル・レードン博士が潜伏していると思われるパッサートの部隊が索敵網に引っかかりました上層部からは博士の身柄を可能であれば拘束せよと通達を受けました」
「……反旗を翻した可能性が高いが、博士の頭脳を失くすのは惜しいと言う話だ。だがあくまで可能であればだ。そのせいで君達を失うわけにもいかない」
アークエンジェルのブリッジでは、ルルやマドックによってクルーやレーアやショウマ達などのMSパイロット達に今後の説明が行われていた。
「……ここで終わらせるよ。きっと向こうもそれを望んでる」
すると説明を聞き終えたリーナが一歩前に歩みだしながら静かに話す。
リーナは今でも感じているのだ。サイド6から強く感じていた自分を呼ぶような強烈な違和感を。
「寧ろ私がアクションを起こせば向こうから来るよ。絶対」
データ上ではあるが、リーナにはあのユーディキウムがエヴェイユのような光を纏ったのも確認している。あの光のお陰でユーディキウムの正体に薄々感づき始めていたのだ。今の言葉も半ば確信をもって言えるのだ。
「……どちらにせよ、上層部もルルトゥルフ側からも早期での解決が望まれています。恐らくは準備が済み次第、作戦は開始する予定です。それまで皆さんは身を休めていてください」
カイウルは当初、執拗にリーナの所在を聞いてきた。
リーナが狙いなのかは分からないが、どちらにせよルルはリーナを囮にするつもりはない。話を終えるとともに張り詰めていた空気は和らいでいく。
「ゴッドガンダム……。しばらく見ないうちに随分と様変わりしたものね」
和らいだ空気の中、レーアはショウマに話を振る。
格納庫で見たショウマが持ち運んだゴッドガンダムは改修を受けたのか、随分と様変わりしていたのだ。しかしそのことについて話を振られたショウマは気まずそうに頬をかいている。
「ガンダムゴッドマスター……。あれにはゴッドガンダムにデビルガンダム……いやアルティメットガンダムの細胞と同じ物を使用して、あの形になったんだ」
ショウマの口から放たれた言葉に和らいだ空気がピタリと凍り付く。
一同が驚く中、もっとも反応を示したのはレーアとリーナだった。信じられないと言わんばかりの表情をショウマに向け、混乱していることが伺える。
「俺の先生の師匠……。ヤマト師範代はMFの権威でもある事は知ってるよな。かつて師範代はヴァルター・ハイゼンベルクと研究を行っていたらしいんだ」
この場で下手な言葉を使えば、仲間からの信用に揺るぎかねない。
一つ一つ、混乱をさせないように言葉を選びながらショウマは説明を始める。しかしレーアやリーナからしてみれば、ヤマトとヴァルターが繋がっていた事に驚きだ。
「これは全て先生や師範代にかつて聞かされた話なんだけど、先生のシャイニングとアルティメットガンダムは開発時期も同じだったから一部部品も共通してるんだ。かつてはコロニーに身を置いていた師範代はヴァルターと研究を進めてたけど、レーアの姉さん……シーナ・ハイゼンベルグの死によって変貌したヴァルターはアルティメットガンダムを文字通り悪魔のガンダムに変え、地球攻略作戦を計画した。師範代はそれを止めるためにコロニーから離れ、その野望を阻止しようとしていたんだ。それが師範代や先生がいち早くデビルガンダムの動向に気づき、行動していた理由なんだ」
前置きをしつつヤマトとヴァルターの過去を簡単に説明をする。
確かに言われてみれば、何故ヤマトやフェズはデビルガンダムの存在に気づき、その後を追っていたのかは気になるところではあった。しかしこの過去は意外も意外だ。
「ヴァルターと研究をした時のデータは師範代の頭の中にも入っててな。それを利用してU細胞を生み出し、回収したのがあのガンダムゴッドマスターなんだ。その……事後報告になっちまって悪い、レーア……」
「……まぁ確かに衝撃的ではあったけれども、寧ろショウマ達なら構わないわ」
そして最後にゴッドを改修したゴッドマスターの説明をするショウマはレーアに非礼を詫びる。
レーアにとってデビルガンダムは因縁の相手だ。
この話を聞かされて思うところはあるだろう。しかしレーアは一呼吸を置くと柔和な笑みを浮かべながら、この件について容認する。
「世間では悪魔が生み出した技術って言われてるけど……姉さん達が作った技術が正しい道に……人を救う道に使われるのならきっと姉さん達も喜んでくれると思う」
「……ああ、任せてくれ! 名を汚すような真似はしない!」
世間でのヴァルター・ハイゼンベルクやアルティメットガンダムの評価はその行いのせいもあるが悪魔の所業とまで言われ戦犯とされている。
しかし本来ならばヴァルターもアルティメットガンダムも人や地球の為に行動しようとしていたのだ。その力が本来の使い方をされるのであれば、寧ろ喜ばしい限りだ。レーアの傍らに立つリーナも同意するようにコクリと頷くと、二人に失望されない為にもショウマは力強く頷く。
「そう言えば、ショウマさん。ゴッドマスターだけではなく、もう一機、ガンダムを持ち込んできましたよね?」
「ああ。U細胞を使用した実験用の機体として一から組んだMFなんだ。俺が使う予定だったんだけど、シャミバとの戦いに間に合わなかったし、ゴッドの方が相性が良くて結局、置物にしかならなかったんだけど、何か使えないかと思って持って来たんだ」
二人のやり取りを微笑んでみていたルルはグレイから渡された書類を見ながら、ショウマに話を振ると、頷きながらショウマは説明を始める。それはかつてリンに置物と言われたMFについてであった。
「ただU細胞を使用しているから並大抵の奴じゃ扱いきれない……。アイツは使う気らしいけどな……」
もしも機体に不備があった場合などパーツを流用する為に持ってきたわけだが、その役目を果たせそうにない。ふと視線を流し、どこか憂いた様子で呟くショウマにアイツと言われ、ある人物を思い浮かべたルル達は顔を見合わせる。
・・・
「……バーニングガンダムゴッドブレイカー……」
アークエンジェルの格納庫ではグレイやルルトゥルフのナナミ達の協力を経てDXの修復ならびに作戦に向け、スターストライクやライトニングの改修、ウィングゼロ達への調整が急ピッチで行われていた。
慌ただしい格納庫の中で包帯姿のシュウジは一機のガンダムの前に立ってその機体を見上げている。全体的に赤を基調にした機体色などは全体的にバーニングブレイカーを彷彿とさせるが、ゴッドと同じ部品や両肩のビームキャノンや背部の二振りの刀は火力面などの全体的な強化が見受けられた。
シュウジはバーニングゴッドブレイカーを見て目を細める。
寧ろバーニングゴッドブレイカーに値踏みをするかのように見下ろされているような気分を味わっているからだ。グレイ達はケガもしていると言う事もあり作業の軽減の為にバーニングブレイカーの作業は後回しにしてもらっている。だが自分は何もしないつもりはない。何故ならば自分は確かめなくていけない事があるのだから……。