機動戦士ガンダム Silent Trigger   作:ウルトラゼロNEO

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EX Plus─過去に決別し未来へ繋げ─

『シュウジを……頼む……。二人で助け合うんだ……』

 

 地に倒れる父の力なき手を取りながら聞いた言葉。

 それが父の最後の言葉であった。

 

 強さを体現したような父であったが死ぬ時は強いも弱いもなく戦争のなか、その生を終えた。託されたのはシュウジと父が右手の甲に浮かび上がらせたスペードを思わせる紋章であった。

 

 シュウジはサクヤの全てであった。

 世界でたった一人だけの繋がりがある弟を守らなくてはいけない。その為の力を、強さを手に入れる為に生きてきた。だがその想いも無情に利用されてしまった。

 

「兄さん……」

 

 レセップスの格納庫ではサクヤが壁を背に座り込んでいた。

 俯き、垂れた前髪からは彼の傍らに立つ修司から表情を伺う事は出来ない。

 しかし前髪の下の表情はとても虚ろであり、とても意志を持った生き物とは思えない。

 それもそうだ。今のサクヤはカイウルによって“調整”を受けた身。今のサクヤはただの操り人形でしかなかった。

 

「……こんなことは……もう終わらせなくちゃいけない」

 

 角からサクヤの様子を見つめていたノエルは両手をギュッと強く握りしめる。

 父の望むままに弄ばれるサクヤの姿を見ていられなくて、一体、これまで何度父にサクヤを解放してくれと頼んだのだろうか。しかしいくら頼んだところで父はサクヤを解放することはしなかった。

 

 サクヤを連れて二人で逃げたくとも、サクヤの首につけられた爆弾がある。

 迂闊な行動など出来なかったのだ。だがかつてサクヤに言った、もう少しで自由になれると。あの言葉に嘘偽りはない。その為だけに自分は父の傍にいたのだから。

 

 ・・・

 

「……シュウジ君、目覚ましたんだね」

「……ご迷惑をおかけしました」

 

 アークエンジェルの格納庫でいまだにバーニングガンダムゴッドブレイカーを見上げているシュウジに声をかけたのはヴェルであった。

 グランの死を聞き、泣き続けたせいか目は腫れている。シュウジが目を覚ました知らせを聞き、こうしてシュウジのもとに来たのだが、シュウジからは一人重傷を負い謝罪される。

 

「……迷惑だなんて思ってないよ。シュウジ君は生きててくれてる……。もう……誰も失いたくないよ……っ」

 

 首を横に振りながら包帯の巻かれていないシュウジの手を取る。

 シュウジから伝わる体温はとても温かく、それだけで彼が生きている。

 今こうして目の前にいるんだと言う事を強く実感する事が出来る。大切な存在の一人を失ってしまったヴェルは余計にそう感じた。また胸が熱くなり体は震え、涙が流れそうになる。

 

「俺ももう何も手放したくないんです。だから……俺……取り戻さないと……決着をつけないと……この戦いを……終わらせないと」

「っ……。戦う気なの!? 駄目だよ! 何かあったら……!!」

「見た目ほどひどいケガじゃないから安心してくださいよ」

 

 レセップスにいると聞いたカイウル。ならばそこにはサクヤもいる筈。過去の決着をつけなくてはいけない。その為には命が舞う戦場に向かわねばならないのだ。

 しかしそれはヴェルにとっては受け入れ難かったようでシュウジを留めようとするが、まっすぐヴェルの瞳を見据えられ言葉を止めてしまう。

 

「あそこには……俺の兄貴がいると思うんです……。ずっと……俺を守っていてくれた人……。だから……俺は行かなくちゃいけない」

「──後悔はしないようにしなさいよ」

 

 レセップスにいるであろうサクヤ。山岳地帯での戦いでうっすらと見えたサクヤの姿。年月は経ったもののたった一人の兄の姿を見違える筈がない。

 だからこそ自分は兄と会わなくてはいけないのだ。そんなシュウジを後押しするように横から話に入って来たのはティアだ。

 

「私は兄さんに後で言えば良いって思って碌な会話も出来ないまま終わってしまった。今でも後悔してるのよ……。きっとそれはこれからも……。だからアナタは後悔しないようにしなさい」

「……はい」

 

 先のことなど分かるはずがない。

 だからこそ後悔のないように生きなくてはいけない。ティアの言葉に彼女の心中を察してか、シュウジは重々しく頷く。

 

「ヴェル……。心配ならアンタも彼を支えてあげなさい。チームでしょ? 今回は私だっている……。もう後悔しない為にも……貴方達にさせない為にも全力でサポートするわ」

 

 どこか苦々しく暗い表情を浮かべるヴェルにティアは諭すように話しかける。

 なにもシュウジは一人だけで戦うわけではない。ここには多くの仲間がいるのだから。ティアの言葉にヴェルは頷く。

 

 ・・・

 

「ルルトゥルフには感謝だな。でなければ機体の改修もこんなに早くは進まない」

「寧ろそれは此方の台詞ですよ」

 

 同じ格納庫では整備士達が汗水垂らしながら作戦に見向けて急ピッチで作業が進められていた。ルルトゥルフから派遣されたナナミ達のような整備士や物資は感謝以外の言葉が見つからない。グレイが端末を操作しながら、進捗状況を見て近くのナナミに声をかけるとナナミはふと笑みを浮かべる。

 

「シュウジ君は関係ない筈なのにルルトゥルフでずっと戦ってくれていました。だからウチの姫様はそんなシュウジに応えたいって父君であらせられる陛下に進言なさってんですよ」

 

 周囲を見渡し、ナナミは汗を拭いながら答える。シュウジは偶然立ち寄ったにも拘らず、パッサートと戦ってくれた。別の地から訪れたにも関わらず戦ってくれたシュウジに応える為にエレアナは自分なりに動いてくれたのだ。その事を口にしながら勿論、私達同じですよと軽く笑う。

 

「関係ない筈……か……。その気持ちに応えたいって気持ちは分かる。ここにも昔、いたからな」

 

 作業に戻るナナミの姿を尻目にグレイはある青年に想いを馳せる。

 決して強い青年ではなかった。思い悩み泣きながら生き抜き、戦いを終わらせて自分の居場所に帰っていった。

 そんな彼に応えたくて整備士として出来るだけの事をしたのだ。グレイは改修をしたライトニングガンダムを見上げる。今のライトニングガンダムもそんな青年に応えようと思って考案した装備であったからだ。

 

 ・・・

 

「フルアサルト……。それがライトニングの追加装備……?」

「ええ、元々はブレイカー0へのフルアーマー装備として考案されたものだけれども、新たにライトニング用に再設計されたものよ」

 

 ブリーフィングルームのモニターにはMSのデータが映し出されている。

 その図面を見ながらリーナが傍らに立っているカガミに話しかけると、カガミはその内容について説明する。

 

「ヴェルさんのストライクももうすぐ改修が終了するわ。それさえ終われば作戦が開始できる」

「……次々に新しい力が生まれてくる。戦争は終わっても人は戦いからは逃れられないのかな……」

 

 もうすぐ改修が終了する時刻だ。

 それが終われば、また戦いが始まる。カガミの言葉を聞いたリーナは何とも悲しく呟きに似たか細い声を上げる。

 

「でも……終わらせないとね。そうでなかったら……大切な人を守る事が出来ない」

 

 戦いが終わらない限り、悲しみの連鎖は止まらない。

 ならばやることは一つだ。レーアの手を取った時から決めたのだ。例えこの身を散すこととなっても大切な仲間達を守ると。

 

 ・・・

 

「やっぱり戦う気みたいだな」

 

 作戦の開始時刻が刻一刻と迫る。

 バーニングガンダムゴッドブレイカーの前で待機するシュウジは彼を訪ねて来たショウマに声をかけられる。

 

「……俺……師範代に助けられたんだ。……研究所に移動している際中に俺……隙を見て逃げた。別に生きてく算段なんてなかったけど……ただ自由になりたくて……。放浪している最中に師範代に出会ったんだ」

 

 ふとシュウジは過去の事を思い返す。

 それはカイウルにとっての都合の良いモルモットにされていた時のことだ。

 サクヤだけではなく、シュウジをもその対象にしょうとしていたカイウルによってシュウジはとある研究所に移送されていた。その道中で放浪のヤマトに出会い、覇王不敗流の門を通った。

 

「兄貴のサクヤは俺の為にカイウルの実験台に付き合わされていたのに俺は一人で逃げたんだ……。そんな弱さが許せなくて、俺は力が欲しかった……。覇王不敗流の門下生になったのもそんな理由だ」

 

 逃げている最中にサクヤのことが気にならないわけがなかった。

 だがたった一人で逃げるのが精一杯で離れた地にいるサクヤを置いて逃げてしまった。そんな弱い自分に決別したいがために力を求めたのだ。覇王不敗流を学ぼうとヤマトについていき、そこでショウマ達に出会い、今に至る。

 

「あの時の俺と決別がしたい……。今度は俺がサクヤを助けたいんだ……。その為にこの力を使いたい」

「……バーニングゴッドブレイカーは並大抵の精神力じゃ逆に支配される可能性があるぞ。それでもか?」

 

 弱かった自分に決別する為にも、バーニングブレイカーが大破した今、目の前のバーニングゴッドブレイカーの力を使いたい。

 しかしこの機体を使うのには普通の人間ではこの機体に使用されているU細胞に飲まれてしまう可能性がある。

 

「昔の俺は弱かったし、力をつけたらそれで調子に乗ってた……。でも……俺は翔さんにこの世界を託されたんだ。あの人から受け取ったバトンがある限り、俺は屈しない」

「翔か……。妬けるな、お前の師匠は俺なのに。だったら俺からもバトンを受け取ってくれ」

 

 弱かった自分も増長していた自分であれば、きっとこの機体に乗っても、機体に呑み込まれたのかもしれない。

 

 だが今は違うと断言できる。

 一人の英雄との出会いが今の自分を作り上げた。

 

 彼から託されたものが自分の大きな支えの一つになっているのだ。その様子にショウマは言葉とは裏腹に優しい柔和な笑みを浮かべながらシュウジに手を差し伸べる。

 

「このバトンは未来へ繋がっていく……。翔や俺からお前に、そしてお前からまた未来の世代へ。それが繋がりなんだ」

 

 シュウジはおもむろにショウマの手を握り返すと、ショウマは力強くシュウジの手を握る。するとショウマの手の甲にはking of heartsの紋章が確かな輝きを放つ。

 

「良いか。コイツを力で無理に抑え込もうとするな。太陽が輝き続ければ全てを干乾びさせるように、力だけじゃ駄目なんだ。月のような静かで優しく明鏡止水の心で臨め。……覇王不敗流は相手を殺す為だけの流派じゃない。相手を活かす活人の拳でもあるんだ。きっと今のお前だったらサクヤを救い出せるさ」

 

 その輝きに触発されるようにシュウジの手の甲にもking of heartsの紋章が浮かび上がり、ショウマからのバトンが継承される。驚くシュウジにショウマは彼の師として助言をするとシュウジは力強く頷く。

 

 ・・・

 

≪カイウル・レードン博士がいるであろうパッサートの艦を索敵網が捉えました。これから作戦を開始します≫

 

 遂に作戦時刻となった。MSパイロット達がコクピットで待機する中、ルルからの言葉が艦全体に響き渡る。

 

「……兄さん……。仇は取るなんて言ったらなにを言うかな……? でも……私達のこの任務は全うするから……。だから兄さん……。力を貸して」

 

 修復したDXにはティアが乗り込んでいた。

 発進準備が行われる中、一人、もうこの世にはいないグランに向けて静かに言葉を送る。

 

(……私をまた呼んでいる……。でも大丈夫だよ……。今から行くから)

 

 ウィングゼロのコクピット内でリーナは目を瞑り、自分の番を待っていた。

 今では自分を呼ぶ感覚がある。だがもうそれもこの戦いで終わらせる。

 うっすらと距離が近くなったせいか、その正体も分かって来た。

 DX、ゴッドマスター、ダブルオークアンタが発進し、リーナもまたアークエンジェルを飛び出していく。

 

「シュウジ君、この戦いはシュウジ君にとって、一層辛いものなのかもしれない……」

「……」

「でも私達がちゃんと支えるよ。転んだってもう一度立ち上がれるように手を差し伸べるから」

 

 いよいよトライブレイカーズの番となった。その出撃の間際、ヴェルがシュウジに通信越しに言葉を送る。今まで辛くない戦いなどなかった。その数々を思い出し、黙っているシュウジにヴェルは安心させるように話す。サブモニターを見れば、微笑みを浮かべているヴェルの姿が。

 

「もう腐れ縁みたいなものよ。ここまで来たのならどんな事があろうと付き合うわ。だからアナタも私達を頼りなさい」

「ヴェルさん……。カガミさん……。ありがとう……」

 

 今度はカガミも通信に入り込んで自分なりにシュウジを気に掛ける。

 そんなヴェルやカガミの優しさと温もりに触れ、シュウジは笑みをこぼし感謝をする。言葉は少なくともシュウジの想いは二人には伝わっているのか、二人とも笑みを浮かべている。

 

「カガミ・ヒイラギ、ライトニンガンダムフルアサルト……出撃します」

 

 以前は目立った変化はバックパックのライトニングバックウェポンシステムMk-Ⅱであった。今はバックパックこそ同一なものだが、ライトニングの機体その物に火力、防御力の強化を目的とした追加装備が施されており、両碗には対ビームコーティングされた追加ミサイル装甲ブロック、両脚部にはブースター付きマイクロミサイルランチャーポッドが追加され、腰部にはスラスター内蔵の装甲や胴体部には追加装甲が設けられており、ハイビームライフルを二挺装備した重装備のライトニングFAは出撃していく。

 

「ヴェル・メリオ……シャインストライクガンダム発進します!!!」

 

 追加装備をつけたヴェルのストライクの番となり、カタパルトから勢いよく発進していく。連結可能な二挺のビームライフルを持ち、脚部にはピット、両肩部には対ビームコーティングした追加装甲が装備されている。バックパックにも大型ビームキャノンが増設されており、スターストライクから更なる攻守兼ね備えた改修が施されたシャインストライクガンダムで飛び出していく。

 

「バーニングガンダムゴッドブレイカー……シュウジ、出るぜ」

 

 そして最後に新たにバーニングゴッドブレイカーが発進する。モビルトレースシステムを通して感じる力は人に扱い切れるものなのかと言うほど強大に感じる。だがこの力を未来の為に、シュウジは仲間達と共に出撃するのであった……。




もう終盤です。あと一つ本編で明かされなかった事があり次回明かされます。このEX Plus編は完全に自己満足ですが、お付き合いいただけると幸いです。

またバーニングガンダムゴッドブレイカーとシャインストライクガンダムのイメージは活動報告の【ガンブレ小説の俺ガンダム】にガンブレ3のですがマイハンガーのリンクがありますので興味がありましたらどうぞ。
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