機動戦士ガンダム Silent Trigger 作:ウルトラゼロNEO
「あの人は俺に温もりを与えてくれたんだッ!」
損傷を受けているスローネアインTだが、一方でライトニングFAはほぼほぼ無傷といって良い。それだけで修司とカガミの実力の差が見て取れる。汗が伝っていく中、サクヤへの想いを叫ぶ修司。本物とはいえ、今更現れたシュウジにサクヤの目を向けられたくはなかった。
「あの目は俺を通じて誰かを見ていた……。でも俺に愛情を教えてくれた人なんだよッ!」
「……そんなものは虚しい愛情よ」
修司として生きるまでは愛情という尊い情とは無縁な冷たく身も心も凍るような環境で生きていた。
だが代わりという生を受け、サクヤと出会い、そこで触れた温かな感情は決して手放したくはなかった。しかしライトニングFAは否定の言葉と共にマイクロミサイルを放ち、無数のミサイルを避ける事は出来ず、スローネアインTは直撃し爆煙が上がる中、半壊したMS状態で墜落していく。
「……理解できないかもしれないけど、貴方個人を見ていない限り、それは……本当の愛情なんてものじゃないわ」
衝撃によってコンソールに頭を打ち付け、額を切り血を流す修司は、それでも歯を食いしばってGNブラスターとGNミサイルを放つ。
MS状態に変形したライトニングFAはハイビームライフルを肩部センサーに接続し、スローネアインTに昇順を合わせる。此方に迫る銃撃の中、目を鋭く細めたカガミによってトリガーが引かれ、まっすぐビームやミサイルの間をすり抜けながらスローネアインTを貫く……。
「兄さん……。俺は……アナタの……ッ」
ビームが貫いたスローネアインTは風穴が空きスパークする中、修司はディナイアルに目を向ける。
此方に背を向け、バーニングゴッドブレイカーと肉弾戦を繰り広げる姿を見ながらディナイアルに手を伸ばすものの機体は限界に達し、空に散る赤い花のように疑似GN粒子を散らしながら爆散した。
「アナタはサクヤさんの身に何が起きているのか、分かっているんですか!?」
「分かってるけど……。でも、どうしようもないのよ……ッ!!!」
ピット同士が空を駆け巡る中、その中心でシャインストライクとキュベレイが切り結ぶ。そのぶつかり合いの中で接触回線によってヴェルとノエルは言葉を交わす。しかしヴェルに言われずともノエルは理解しているし、だからこそ何もできない無力さがあるのだ。
・・・
「アンタの心がよく見えてこねぇよ……ッ!!」
その話題となっているバーニングゴッドブレイカーとディナイアルは互いの身を削り合い続ける。二振りの刀と手甲部のビームソードの刃によって剣戟が結ばれる中、サクヤから伝わってこない事に嘆く。拳を交えれば相手の感情が読み取れる。それが覇王不敗流の教えだがサクヤから伝わってくるのは少ない。
「こんな悲しい拳なのに、なんでなんだよ……ッ!!」
それでもディナイアルの攻撃は確実にこちらの命を奪い去ろうとしてくる。
シュウジとサクヤの実力はサクヤの方が上だ。それを表すようにビームソードによって刀は弾かれ、そのまま凶刃をバーニングゴッドブレイカーへ放とうとするが、強引に機体を動かして何とか掠めるだけに留める。
しかしそれでもディナイアルは止まらず、そのまま腹部を膝蹴りするとくの字に曲がったバーニングゴッドブレイカーの背を両手を組んで叩き落とす。
「ここで負けるわけにはいかねぇんだよ……ッ!!!」
バーニングゴッドブレイカーが地面に向かっていくなか、ディナイアルは追撃する為に向かってくる。衝撃で閉じてしまった目を開きながら、シュウジは拳に力を篭める。この不利な状況を覆す為に自分を飲み込もうとする力の誘惑と目の前にディナイアルに、そして現実に負けないように。
『バトンタッチだ。この世界を頼んだぞ』
『このバトンは未来へ繋がっていく』
シュウジの手の甲にKing of heartの紋章が輝き、体に力を篭める。
ここで負けてしまっては自分を信じて繋げてくれた先人達に顔向けできない。目の前のディナイアルを何とか出来ないようでは世界をどうこうなんて出来ないだろう。
「俺は……俺達は……ッ……この世界を……託されたんだァッ!!!!」
バーニングゴッドブレイカーのツインアイがシュウジに呼応するように輝きを放つ。それと同時にバーニングゴッドブレイカーの背部から炎のような粒子があふれ出て、炎の翼のように膨大な粒子量となって広がる。やがて炎の翼は弧を描くように頂点で結ばれ巨大な炎の日輪を作り出し、端からバーニングゴッドブレイカーの機体は金色に変化し輝く。
・・・
「姫様、アレは……ッ!!」
「太陽……」
まるでそれは太陽が人の形を成したかのような圧倒的な輝きであった。
その輝きはルルトゥルフからも見えており、アレクが窓から指をさす中、エレアナは再び昇った太陽を見つめる。これこそハイパーモードを越えたアルティメットモードだ。
・・・
「シュウジ、乗りこなせたみたいだな……ッ!! なら、俺も……行くぜッ!!!」
その輝きは戦場を眩く照らす。その光景を目にしながらショウマは嬉しそうに笑みをこぼす。あの輝きを放てたと言う事はU細胞の誘惑をも乗り越えたと言う事だろう。
「俺の両手が揃って吼えるッ! 限界超えろと烈烈叫ぶッッ! 双極ッ!! ゴッドォッ!!! デビルゥッッ……フィンガァァァァァァァァァァァァアアアッ!!!!!!」
U細胞を使用しているのはこのゴッドマスターも同じこと。
かつてはこの誘惑に飲まれたが、今は違う。ハイパーモードに変化したゴッドマスターは展開した両腕で前方に突撃し、次々にパッサートのMSを破壊していく。
「あの輝きは……消させはしないッ!! この先の未来に繋げるためにもッ!!!」
かつて英雄が放ったような眩い光に似たあの光を見て、希望を感じたティアはDXを動かし、バーニングゴッドブレイカーに向かおうとしているパッサートのMSを撃ち抜いていく。
・・・
輝きを放つバーニングゴッドブレイカーを消し去ろうとディナイアルが迫る。しかしバーニングゴッドブレイカーは腕部を立て構える事で迎え撃とうとする。
「俺のこの手が煌めき照らすッ!! 未来を示せと響いて叫ぶッ!!!」
両腕を広げ、腕の甲を前腕のカバーが覆い、エネルギーがマニュビレーターに集中すれば、太陽の鮮烈な輝きと月の優しい光を纏ったかのような光を放つ。
「極限ッ!! ブロオオオォォォォォォォッックゥンッッッッフィンガアアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーァアアッッ!!!!!!!!」
そのまま両腕を突き出して、神々しく輝くその腕はこちらに拳を向けてきたディナイアルの腕部を貫いて破壊する。それだけでは終わらず、そのままバーニングゴッドブレイカーはディナイアルに組みつく。
「目を覚ましてくれよ、兄ちゃんッ!!」
羽交い締めのような形となり、シュウジは無我夢中でサクヤを呼び覚まそうと叫ぶ。
するとその想いを表すようにKing of heartの紋章は輝きを放ち、バーニングゴッドブレイカーもまたシュウジの生命を表すように更なる輝きを放つ。
「っ……!!?」
その輝きはディナイアルのコックピットに届き、サクヤは目を見開く。
朦朧とする意識でコックピットが輝いているのに気づく。
目をやれば、己の右の甲が父から託されたスペードの紋章であるQueen The Spadeが輝いているではないか。それに応じてディナイアルも輝きを放っていく。二つの輝きは混じり合うように周囲を照らし、空に巨大な光の柱を伸ばす。
「シュ……ウジ……?」
かつてショウマがそうであったように生命エネルギーに触れたおかげでサクヤの中のU細胞が消え去っていく。跪き、全身から汗を垂れ流すなか、サクヤの表情に生気が宿る。
「っ……。分かるか!? 俺だ、シュウジだっ!!!」
「俺は……っ?」
サクヤの声を接触回線で聞き、シュウジは目を見開き必死に己を伝える。
サクヤはシュウジの声を聞きながら一体、自分が何をやっていたのかと周囲を見渡していた。
「うそ……っ」
「シュウジ君、やったんだね……」
戦闘を繰り広げていたキュベレイとシャインストライクもバーニングゴッドブレイカーとディナイアルの状況を知り、どうしようも出来ないと思っていたU細胞を取り除いたことに驚くノエルにヴェルは心底嬉しそうにシュウジを喜ぶ。
「取り敢えず、ここは危険だ。アークエンジェルに……」
「……いや、俺にはやる事がある」
両腕を破壊されたディナイアルは戦場にいつまでも置いておくのは危険だ。
アークエンジェルに連れて行こうとするシュウジだが、サクヤは静かに首を横に振り、断る。その視線の先にはカイウルがいるレセップスが。
「……サクヤさん、私もお供します」
「……分かった」
キュベレイはディナイアルの傍らに寄る。サクヤの目的が分かっているのだろう。
サクヤはそれを受け入れて二機はレセップスに向かっていき、バーニングゴッドブレイカー達もその後を追おうとするが、パッサートが追撃の為にこちらに攻撃を仕掛けてきたために相手をせざる得なくなる。
「大丈夫だよな……」
パッサートのMSと交戦しながらレセップスに向かって行ったディナイアルの後ろ姿を見ながらサクヤを案じる。ディナイアルの傍らにはキュベレイがいる為、大丈夫なのだとは思うがそれでも兄を心配してしまう。
・・・
【ナゼ!? 元は同ジなのニ!!】
ウィングゼロとダブルオークアンタの巧みな連携によってユーディキウムは機体は少しずつ損傷を受けていく。傷を受ける中、生体ユニットと化したクローンの悲痛な叫びは響く。あの温かみが、幸せが自分にはない。それが妬ましくて仕方がなかった。
「分からない……。私がアナタの立場になっている可能性だってあった……。でも現実は違う……。私にはアナタを満足させられるような答えは持ち合わせていない……」
ユーディキウムも一筋縄ではいかないのだろう。
ウイングゼロの機体にも損傷が目立っている。ブレードアンテナの片側が折れ、中破に追いやられている。余裕などない。彼女を満たす答えもない。
ウイングゼロにユーディキウムが迫り、コクピットを握りつぶそうとマニビュレーターを振りかぶる。しかしその動きを封じるようにソードピットがユーディキウムを貫く。
【わたシ……も……温カさが欲シカった……】
「……私は……貴方に出来ることはそこから解放することしか出来ない……」
間髪入れずにツインバスターライフルの銃口をユーディキウムに突き刺す。
ノイズ混じりのように聞こえる声にやるせないような表情を浮かべてしまう。感じ取った戦いの場で機械の体に押し留められた彼女を解放するのは自分にはこれしか思い浮かばなかった。そのまま引き金を引く。
【許セナい……】
「誰も運命は決められない……。でも……これが私の運命なら全部受け止めて生きていくよ……。作られた命でも……アナタの分まで……アナタに恥じないように……この人生を全うしてみせるから……」
ユーディキウムが限界に達するのはもはや秒読みだろう。
その中で聞こえてくる声にリーナはユーディキウムを見据えるようにまっすぐと前を向きながら己の決意を話す。
【……なラ……途中デ……死ヌナんて……絶対二……許サナい……カら……】
その言葉を最後にユーディキウムはレセップスに向かって行く。
このままでは衝突の危機がある為に撃ち落とそうとするが、間に合わずレセップスに直撃してそれを最後に爆散し、リーナの頬に涙が伝う中、最後までまっすぐ前を向き続けるのであった……。