機動戦士ガンダム Silent Trigger   作:ウルトラゼロNEO

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EX Plus─願いを抱いて未来へ─

「くっ……私はまだ……ッ」

 

 ユーディキウムが散る間際、レセップスにブリッジ周辺に直撃しその衝撃で強化ガラスは吹き飛び、ブリッジの中は死者も多く、凄惨な状況に陥っていた。

 その中でカイウルが血反吐を吐きながら痛む体を何とか動かそうとする。その体にはガラス片が多く突き刺さっていた。

 

「──ああ、まだ終わっていいわけじゃない」

 

 自分とは違う声が聞こえる。

 その声の、その自分を取り戻したようなしっかりとした声にカイウルが目を見開くなか、その方向を見やろうと起き上がろうとするが背中からガラス片を押し込むように踏みつけられ、苦悶の声を上げる。

 

「アンタが最後は見届けたいからね」

 

 そのままカイウルの髪を掴み上げたのはサクヤであった。

 いつもの人当たりのよさそうな笑みを浮かべながらこちらを見るサクヤは死を誘うような死神にさえ見え、カイウルの瞳に怯えが出る。

 

「何故……!? いや……なにをする……?! 吹き飛ばされたいのか……!?」

 

 U細胞を投与して文字通りの操り人形にしたはず。

 しかし今のサクヤからはU細胞の影響を感じない。だが今はそれどころではない。こちらに牙を向けてきたようなサクヤに首輪の爆弾を爆破させようとする。

 

 しかしいくら端末で爆破させようとしても反応がなかった。

 

「何故だ……? 何故!?」

「私ですよ」

 

 狼狽えるカイウルにサクヤの傍らに寄り添うようにノエルが姿を現す。

 

「アナタの傍でずっと学び……そして漸くこの爆弾の解除方法が分かったんです」

 

 立ち上がったサクヤの首輪に手をやるとカチャリと音を立てて重々しい首輪が外れる。

 自由になったサクヤが軽くなった首元を動かすなか、ノエルは冷たくカイウルを見下ろしながら懐から取り出した拳銃の銃口を向ける。

 

「なにをする……!? 馬鹿な真似はやめろ!!」

「私は何度もあなたにお願いしました。でも一度も聞いてはくれなかった」

 

 ここで死ぬわけにはいかない。異能力者を、エヴェイユを滅ぼすまでは死ぬわけにはいかないのだ。だがノエルはカイウルの言葉は聞かず、引き金に手をかける。

 

「ノエルは幸せにするよ。じゃあね」

 

 何とか逃れようと体を動かそうとするカイウルにサクヤは見送りのような言葉を送り、カイウルの瞳が揺れる。命乞いの言葉を口にしようとした瞬間、ノエルによって引き金が引かれ、その生を終えた。

 

「……本当に良かったの? 俺が殺したって……」

「……いいんです。これは……過去への決別ですから」

 

 物言わぬカイウルの死体を見下ろしながらノエルに問う。

 ノエルの父殺しを行った手は震えていたが、両手を握ることでその震えを止めようとしながら自分が行った現実を直視するようにカイウルの死体を見る。

 

「……じゃあ行こうか」

「はい……。どこまでも一緒に」

 

 主力戦力を失い、パッサートのせん滅で戦闘が終わるのも時間の問題だろう。

 この場に留まるのはまずい。サクヤはノエルに手を差し伸べると、その手を取り、二人はレセップスから出ていく。

 

 ・・・

 

「これで終わったのよね、お兄ちゃん……」

 

 戦闘終了後、事後処理が行われる中でDXに乗るティアはもうこの世にはいない兄に想いを馳せながら地上で向き合うシュウジとサクヤ達を見やる。

 

 あの二人もカイウルの関係者ではあるが、今のごたごたの最中ならばいくらでももみ消せる。穏やかな様子で話しているシュウジとサクヤを見れば、何か問題を起こすとも思えない。せっかく再会できたのなら、それくらいは良いだろう。

 

「これから……どうするんだ?」

「シュウジには俺がいなくてもそれ以上の人たちが周りにいる。なら俺は外の世界を見ていくさ。ずっと籠の中にいたからね……。この目で広い世界を見たい……。一緒にいてくれる人とね」

 

 向き合いながら会話をするシュウジ。今後のサクヤについて尋ねると、自由になったサクヤはシュウジの様子を遠巻きで見ているヴェルやカガミを一瞥すると、狭い世界ではなく、これから広い世界を傍らに寄りそうノエルと共に見ていこうと話す。

 

「また会えるよな……?」

「会えるよ。兄弟の繋がりは簡単には断ち切れない……。それに俺達は助け合わなければいけないからね」

 

 ようやく再会できたのだ。これっきりだなんて嫌だ。

 不安そうなシュウジにサクヤは安心させるようにクスリと笑いながら答える。それは父の遺言でもあり、信念でもある。

 

「大丈夫。シュウジに何かあればすぐに行くよ。シュウジの周りには多くの人がいるけど、俺はその中でも一番の兄でいたい。今度こそこの繋がりを見失いたくないからさ」

 

 サクヤは手の甲にQueen The Spadeの紋章を浮かび上がらせると、シュウジも応えるようにKing of heartの紋章を浮かばせ、互いに笑みを交わす。それは再び繋がりを得たかのように。そうしてサクヤとノエルはシュウジと別れ、新たな道を進む。

 

「まずはなにをしますか?」

「墓を建てようと思う……。もう一人の弟のさ」

 

 地に足を踏みしめながらサクヤとノエルは歩きだす。

 微笑みを浮かべながら、まずこれから何をするのか予定を尋ねるノエルにサクヤはこの空に散ったもう一人の弟に想いを馳せるのであった……。

 

 ・・・

 

「もう行かれるんですね……?」

「ああ……。もうここにいる理由がなくなったからな」

 

 すべてが終わり、シュウジはルルトゥルフの王室でエレアナと机を挟み、紅茶を飲み交わしていた。名残惜しそうにしているエレアナにシュウジもどこか寂しそうにしながら答える。

 

「シュウジ、ありがとうございました……。アナタは私たちの太陽です」

「そう言ってもらえると光栄だね。じゃあ、俺はもう行くよ」

 

 最後に感謝の言葉を口にするエレアナにシュウジはその言葉を噛みしめるように頷きながら、席を立ち、エレアナから授かった白い外套を身に纏って、アレクの案内でこの場を後にする。

 

「シュウジ、なにかあれば我々も力を貸します。アナタが我々にしてくれたように」

「ああ、ありがとな……。ならまた会おうぜ」

 

 最後にアレクに見送られながら、彼が手の甲に浮かべたClub aceを見ながらシュウジは力強く頷き、再会を約束する。

 繋がりを取り戻しただけじゃない、また新たな繋がりを得られたのだ。シュウジはルルトゥルフを去る。

 

 ・・・

 

「私……大切な人を守る為なら、自分が散っても良いって考えてた……」

 

 出航したアークエンジェルで自分達の家に帰る為、途中まで同行しているリーナとレーアは休憩室で二人並んで座っていた。そこでリーナは己が抱えていた願いを口にする。

 

「でもね……。それは違うんだって思えたんだ。それだとみんなと未来が見れない……。この命を全うするまでみんなと未来を生きたい……。それが今の私の願い……」

「そうね。これからもずっと一緒に生きていきましょう、みんなで」

 

 己の願いを口にするリーナに、その願いに微笑みながらレーアは改めて再出発するかのように手を差し伸べると、リーナは口に微笑みを浮かべながらその手を取るのであった……。

 

 ・・・

 

「バーニングゴッドブレイカーのアルティメットモードはエヴェイユに匹敵できるように作られたんだ」

 

 アークエンジェルに戻ったシュウジはヴェルとカガミと共にショウマからバーニングゴッドブレイカーついて話される。その言葉を聞き、ヴェルとカガミはエヴェイユを打ち滅ぼそうとしたカイウルを思い出す。

 

「でも別にエヴェイユを倒そうだなんて思ってないんだ。エヴェイユと……アイツと肩を並べられるように……そんな願いでこいつは作られたんだ」

 

 エヴェイユが持つ圧倒的な力は周囲を抜き出てしまう。ショウマは一人の青年を思い浮かべながら、彼と満足に肩を並べるだけの力を手に入れるために建造したバーニングゴッドブレイカーを見上げる。

 

「……俺達はまだあの人には届かない……。でも、過去が……そして今が俺達を作り上げる。それが強さになって未来を進む力になるんだ」

 

 ショウマの言葉に頷きながらシュウジは笑みを浮かべ、ヴェル達に振り替える。ヴェル達の表情にも笑みがこぼれるなか、目標に、その背中を追い続ける英雄を想う。

 

「いつかこの先の未来、あの人と並べられるように……いや、超えるくらい今から学んでいこうぜ」

「うん、みんなで一緒にね!」

「翔さんを超えようなんて生意気だけど……。でも、私もそのつもりよ。いつまでも後ろから見ているなんて嫌だもの」

 

 過去から、そして今この瞬間から学んで未来を進み続ける。

 この胸に抱く願いと誇りがあるのならきっといつかは届けるはずだ。トライブレイカーズの三人は笑みを交わし、未来への決意を胸に今この瞬間を生きていくのであった……。




これでお終いです。ここまで自己満足に付き合って頂きありがとうございます。多分、こっちでは今後は短編はあっても、ここまでの長編はないと思います。この話はここで終わりですが、まだまだ続編は続いております。そちらも何卒宜しくお願い致します!

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