機動戦士ガンダム Silent Trigger   作:ウルトラゼロNEO

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60000UA記念小説
創造の先


 強襲機動特装艦アークエンジェル。

 幾度とない激戦を潜り抜けてきたこの艦はいつしか武勲艦としてその名を馳せていた。

 

 そんなアークエンジェルは今、パナマ基地に身を寄せていた。

 カイウル・レードンが引き起こした一連の事件は解決したものの、無傷というわけにもいかず、修繕が目的だった。

 

「また旅に出ちゃうんだね」

 

 艦内を歩きながら、どこか名残惜しそうに話すのはヴェル・メリオだ。

 その言葉が向けられるのは、隣を歩くのはシュウジだ。

 これまで死闘を駆け抜けてきたせいか、ヴェル達と知り合った時よりも、さながら覇王のような風格を醸し出していた。

 

「パッサート関連も落ち着いたし、また気ままに世界を巡りますよ」

「シュウジ君はどうしてそんなに旅に出たいと思うの?」

 

 かつて身を寄せた際に皇女から送られた白い外套を身に纏う姿からして再び旅に出ることに揺るぎはないのだろう。

 奔放なところは変わりなく、微笑ましく感じるものの、やはり旅立ってしまうのは寂しくないといえば嘘になる。

 

 そんな想いを抱いていたからこそなのだろうか、無意識に投げかけた言葉にハッとしてしまう。

 これではシュウジの旅立ちの足を引っ張ってしまうのではないかと想ったからだ。

 

「……強くなりたいから……ですかね」

 

 とはいえ、シュウジは特に気にした様子もなく、寧ろ投げかけられた問いに対して、真剣に答えていた。

 

「人が住む世界ってのは、広くて、それが宇宙にまで広がれば、どうなってるかも分かりやしない。言語や文明、価値観……色んなことが違う。どこか遠くに行けば、そこはもう異世界みたいなもんですよ。だからこそ学べることが多くある。この世界の全てを知って、糧にしたいんですよ」

 

 これまでも色んな国を旅してきた。

 それらは全て自分が成長する為なのだ。

 

 だが、何故、そうまでするのか?

 その理由は……。

 

「……そうでもしないと、きっと”あの人”には勝てないしな」

 

 ここではないどこか遠くを見るようなシュウジにヴェルはそっか、とクスリと笑う。

 

 彼はかつて異世界から訪れた英雄に誓ったのだ。

 ──強くなって、また挑戦する、と。

 

「地球はもう大方周ったし、今度はコロニー側に行ってみますよ。なんか手の甲に光る紋章を持つ奴が身を置くっていう宇宙海賊がいるらしいですし」

「気をつけてね? シュウジ君はすぐ危険なことに首を突っ込むんだから」

 

 どうやら旅の行く先は既に決めているようだ。

 とはいえ、ルルトゥルフの一件もあるので、なるべく危険なことは控えてもらいたいものだが、分かってますって、と彼は言うが、まずなにかあれば守ることはしないだろう。勝手でも心配する身になってもらいたいものだ。

 

「……あれ、この部屋って」

 

 そうしていると、不意にとある一室にたどり着く。

 なんてことはない。乗組員に与えられる個室の一つだ。

 しかしこの部屋は誰も使うことはないのだ。

 

「──翔さんが使っていた部屋ね」

「うおっ!?」

 

 シュウジもこの部屋を誰が使っていたかは聞いている。

 その名を明かすよりも早く突如、傍らでボソリとしたか細い声で呟かれ、飛び跳ねるように隣のヴェルに抱きつけば、そこにいたのはシュウジとヴェルが所属するトライブレイカーズの隊長を務めるカガミ・ヒイラギがいたのだ。

 

「とはいえ、翔さんが使用していたのは一年足らず……。何回か室内の掃除をしたこともあるけど、必要最低限な日用品と趣味の品が置いてあるくらいね。正直、その趣味に関しては私も造詣が深いわけではないのだけれども、それでも翔さんが嗜んでいたというのであれば、少し触れてみるのも吝かでは──」

「カガミさんって翔さんのことになると早口になってきも「しーっ! しーっ!」……むごご」

 

 顎先に手を添えて、うんうんと頷きながら、まるで理解しているかのように話すカガミに思ったことをそのまま口にしようとするシュウジを先程まで抱きつかれたショックで顔を真っ赤にして慌てていたヴェルが両手で口を塞いでいた。

 

「──そんなところでなにやってんだ?」

 

 わちゃわちゃと騒いでいるトライブレイカーズに声をかける者が。

 そこにはシュウジの師であるショウマと、その後ろにはレーアとリーナのハイゼンベルグ姉妹の姿があった。

 

「い、いや、ここが翔さんが使ってたって話を……」

「そういやそうだな。何だか懐かしいなぁ」

 

 ヴェルに塞がれた口元を漸く解放され、息を整えつつ、事の経緯を話せば、ショウマは言葉通り懐かしそうに、そのまま英雄の部屋の前に立つ。

 そのままバスワードを入力してロックを解除すると、部屋に入り、その後をシュウジ達も続く。

 

「何だかここだけ時間が止まってるみたいだな」

「そうね……」

 

 彼の英雄がこの世界を去ってから、定期的にカガミによって清掃を行われる以外に全く手が付けられていない。

 そのことがかつての日々を鮮明に思い起こさせ、ショウマとレーアは懐かしそうに目を細める。

 

「おっ、そういえばこんなのもあったな」

 

 するとショウマは棚に飾られていたプラモデルの数々を見つける。

 口数の少ない翔との間でのコミュニケーション手段の一つであり、翔に教わって、当時は熱心に組み立てていたものだ。

 

「翔さんって模型がお好き……なんですね」

「ああ。普段はなに考えてるか分からなかったけど、プラモを接している時のアイツは子供みたいに目を輝かせて、一番、分かりやすかったな」

 

 後ろからひょっこりと顔を出して、棚に飾られているプラモデルの数々にどこか意外そうな反応を示すヴェル。

 この部屋が何であるかは知っていても、実際、入ったのはこれが初めてだったのだろう。

 そんなヴェルの反応に苦笑しつつ、当時のことを振り返る。

 

 ショウマ達が当時の思い出話に華を咲かせていると、シュウジがジッと模型の一つ一つを見つめている。

 それは何気なく見つめるのではなく、その細部にまで行き届いた手法を見逃すまいとばかりに。

 

「どうしたんだ、シュウジ」

「……いや、なんか、ただただすげぇな……って。どれもこれも趣味で作ったもんだ。だからこそ一切、手が抜かれてねぇ。そこにかけた情熱がこいつ等から伝わってくるんだよ」

 

 話に参加しないで、ずっとプラモデルを見つめているシュウジに気付き、ショウマが声をかければ、彼は答えながらも、精巧に作られたプラモデルに今もなお目を奪われていた。

 

「俺も……こういうの作れたり出来んのかな」

 

 まるで遠くの憧れへ想いを馳せるようなそんな何気ない呟きにショウマ達は顔を見合わせると、程なくしてクスリと笑い……。

 

「なら、作ってみるか?」

 

 ただ憧れを見つめるだけなら、いっそ手を伸ばしてみれば良い。

 ショウマの提案に意外そうな顔を浮かべると、このプラモデル達を前に興味が湧いていたのだろう。シュウジはその首を縦に振るのであった。

 

 ・・・

 

「あの模型屋、まだあったなんてなぁ」

 

 それから数十分後、アークエンジェルの食堂の一角ではシュウジ達の姿があった。

 彼等の目の前にはMSのプラモデルが幾つか置かれており、これを購入した店舗はかつて訪れたことがあるのか、ショウマとレーアは懐かしそうに笑っていた。

 

「それじゃあ、早速、作ってみましょうか」

 

 思い出話も程ほどに初めてのプラモ作りに高揚感を隠し切れないシュウジ達を見て、レーアはポンと手を合わせると、早速、シュウジ達はプラモデルに手を伸ばす。

 

 シュウジはストライクガンダム、ヴェルはジェスタ、カガミはZプラス、リーナはガンダムNT-1を手に取ると、かつてそうしてもらったようにショウマとレーアがレクチャーを行う。

 

「何だかパズルみたい……」

「そうね。最後には一つに形作られるもの」

 

 綺麗にゲート処理を行ったパーツをはめ合わせ、頭部を作製すると、リーナの手際のよさに感心しつつも、彼女が口にしたその感想にクスリと笑う。

 

「……こうやって組み上げていく様を見ていると、存外、気分が高揚します」

「プラモデルって何だか敷居が高いと思ってましたけど、こうやってサクサク組めるものなら、楽しいですねっ」

 

 今回、行っているのは凝った作り方ではなく、簡単なゲート処理と墨入れ程度で留めたものだ。

 今日に至るまでプラモデルに触れたことすらなかったカガミやヴェルにも概ね好感触だった。

 

「どうだ、シュウジ」

「……翔さんが作ったもんに比べると、月とすっぽん、だな」

「そりゃあ翔は趣味でずっと作ってたって話だしな。初めて作った奴で、いきなりあれぐらいをってのは無理な話だって」

 

 それから数十分後、漸く完成にこぎつけたシュウジに声をかけてみると、シュウジ自身もプラモ作りその物は楽しめたようだが、いかんせん彼の英雄のガンプラをマジマジと見つめては、どこか不満げなその様子に苦笑してしまう。

 

「そうだな……。確かにその通りだ」

 

 師であるショウマの言葉に頷きながら、シュウジは改めて自身が組み上げたストライクガンダムを手に取る。

 表面処理も甘く、これではまだまだあの部屋に飾られていた精巧なプラモデル達には足元にも及ばないだろう。

 

 だが、それでも楽しかった。

 それは心から言えることであり、この高揚感だけは負けていないと思える。

 

「俺はまだ道半ばだ。だからこそ、これからも経験を組み合わせて、俺だけにしかなれねえ確かな存在になってやるぜ」

 

 ──そしていつかは憧れたあの人をも越える為に。

 轟々と燃え上がるような決して揺るがぬ強固な意志をその瞳を宿しながら、話すその姿にその場にいた者達はクスリと笑う。

 カリスマというべきか、不思議とそう思わせてくれる覇王のような安心感がシュウジから感じられたのだ。

 

(だから、その時は……また会おうぜ、翔さん)

 

 窓から見えるパナマの雄大な海を見つめながら、その水平線の先に想いを馳せる。

 英雄と覇王が今一度、再会したとき……新星の如き輝きが世界を覆う時が来るのやもしれない……。




翔&シュウジ

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