機動戦士ガンダム Silent Trigger 作:ウルトラゼロNEO
文才の劣る私では成長も中々、期待できない部分もございますが、これからも少しずつ生活の合間を縫って投稿していきたいと思っておりますので今後ともよろしくお願いします。
5周年記念絵
如月翔
【挿絵表示】
足跡
吹き行く風が肌を撫で、僅かな肌寒さを感じさせる。
例え人と異なる存在になり果てようとも、こういった感覚器官、いや、もっと言えば五感の類は何ら変わらないことに彼は……如月翔は人知れず微笑む。
かつてまともな説明さえないまま異世界に誘われ、やがて争いの連鎖を断ち切り、英雄とさえ称えられた人物だ。
彼は既に五年前に自身の世界への帰還を果たし、その後はかつての騒がしくも温かな日常の中に戻っていた。
少し肌寒い風こそ吹くものの春を感じさせる晴天と温かな日差しを受けながら何気なく街を歩いていれば川沿いには一面の菜の花が咲いており、独特な匂いが鼻を刺激する。
あまり菜の花の匂いは好きではないのか、僅かに眉間に皺を寄せて匂いを振り払うように指先で鼻頭を撫でると、そのまま足早に菜の花から離れていき、程なくして翔の視界には桜が入ってくる。
何気なく桜を視線で追えば、中学校の敷地内から咲いているようだ。
何やら騒がしさを感じてみれば、どうやら卒業式が執り行われていたらしく、今年度に卒業する生徒や教員、保護者などが別れを惜しんでいた。
(……五年、か)
菜の花や桜、卒業式など春を感じさせる風物詩を見る度に彼は異世界での日々を思い出す。
翔が異世界に誘われ、多くの出会いと別れを繰り返すこととなったあの日々の始まりはこの時期だったからだ。
あれから丸五年……。
時間にしてみれば本当にあっという間であの頃、未成年であった自分は年齢で言えば24歳なり、また自身が住むこの世界も宇宙エレベーターが建造されて、もう間もなく一年だ。
とはいえ目的地の月面ステーションや宇宙コロニーなどの建設はこれから始まり、まだまだ大きな課題は山積みである。
世界が違うから仕方ないとはいえ、かつて自分が当たり前のように過ごしていた宇宙での生活がまだまだ先のこととなることを考えるとついつい苦笑してしまう。
そんなことを考えていると、目的地に辿り着いた。
そこは一軒のホビーショップであり、店舗の名前だと思われるブレイカーズの名が記された看板がかけられてある。
店内に入り、入り混じる客の波を避け店員の挨拶を受けながらそのまま店内の奥にある扉を隔てた先にある事務所に足を踏み入れる。なにを隠そう、このブレイカーズというホビーショップは翔が経営しているのだ。
《Welcome back!》
事務所に入ると真っ先に声をかけてきたのは、机に置いてあるPCに展開されているGAIOSだ。
これはかつてブレイカーズを開店した際に開発者の男性に寄贈されたものであり、今では店の経営の一部を担い、GGFから今日まで翔のパートナーとして支えてくれている。
「翔さん、来たばかりで申し訳ないのですが、発注のことで少し聞きたいことが──」
支えてくれるのはGAIOSだけではない。
ブレイカーズの刺繡が施されたエプロンを着用したあやこが店から事務所に顔をひょっこりと出して尋ねてくる。
翔がブレイカーズを経営するにあたり、真っ先に協力を申し出て、彼女もまた今日までブレイカーズを支えてくれた人物だ。
そんな彼女に翔は相槌を打ちながら、上着を脱ぎ、あやこと同じエプロンを着用しながら一緒に店内に再び顔を出す。
休みの日ともなればブレイカーズは多くの人で賑わう。
地球規模で流行しているとも言っていいガンプラが齎した効果が大きいが、それだけではなくGGF時代からガンプラバトルにその名を連ねてきた翔が経営していることもあって、その知名度は他のホビーショップを優に上回るのだ。
そうともなれば当然、来店率も高まり、一日があっという間に感じてしまうほど多忙な日々となる。
それから数時間後、時刻は夕暮れ時となって漸く客足も落ち着き、穏やかな時間が流れていく。
事務所での業務もひと段落終えた翔は自身が手掛けたプラモをプラモデルコーナーに存在するショーケース内で陳列作業を行っていた。
陳列するからには、プラモを活かしたポージングで飾りたい……。そう考れば考えるほど時間を費やし、かと言って適当なポージングで飾るなど言語道断だ。この悩ましい時間は忙しい業務の中でもちょっとした楽しみでもあった。
『俺……っ……人殺しを……したのか……? あぁっ……ぅっ……!!』
その時であった。
突然、脳裏にかつての記憶がフラッシュバックして、目を見開かせて翔の動きを完全に停止させる。
それはかつて実際に体験した凄惨な記憶。
今の温かで満ち足りた時間とは程遠い恐怖と憎悪に塗れた時間。
例え異世界から帰還して、かつての日々に戻れたとしても彼の脳に刻まれたかつての出来事の一つ一つは今尚、彼を蝕んで傷つけているのだ。
「っ……はぁっ……!」
気づけばどんどん動悸が激しくなり、息苦しささえ感じる。
体の震えは収まらず、視界はグラつくほどだ。
いつからだろう。
正確には覚えていないが、それでもこうしてかつての記憶が突如としてフラッシュバックしてこうして翔を蝕むのだ。
それはまるで、血に染まったお前に今のこの時間は相応しくないとばかりに──。
「──翔さん……?」
そんな時であった。
不意に声を掛けられ、震えながらも視線を向ければ、不安そうにこちらを見つめる真紅の瞳と目が合った。
そこにいるのは近くの学園の制服に身を包んだ青年であり、見た限りでは学校帰りなのだろう。
「い、一矢君……。来ていたんだな」
「は、はい……。でも翔さん、もしかして具合が……」
青年の名は雨宮一矢。
ぼさぼさの茶髪に着崩した制服から、あまり真面目という印象を初見からは伺えにくいが、無理に笑顔を取り作る翔を心配して起き上がろうとする翔を支える。
「いや大丈夫だ。少し働きすぎかもな……。それより、今日も一緒にプラモを作っていくか?」
「そのつもりだったんですけど……。翔さん、大丈夫なんですか?」
「別腹……というにはおかしいが、ある意味、この時間が一番、落ち着くからな。俺の勤務時間ももうすぐ終わる。少し待っていてくれ」
一度、ギュッと目を瞑ってかつての記憶を振り払おうとする。
幸いなことに体の震えを少しずつ収まり、目の前の青年に軽口を言えるほどにまで落ち着いた。
それから数分後、勤務時間を終えた翔は店内の作業ブースで一矢と共にプラモデルを作成していた。
「しかし、一矢君の成長は目覚ましいな。プラモ作りがここまで上達するとは」
「……翔さんが親身になってくれたお陰です。何気なしにこの店に来た俺にガンプラを薦めてくれて、もっと技法を教えてほしいって頼んだら嫌な顔しないで今みたいに付き合ってくれてるんですから」
「同じ趣味を持つ者が増えるのは喜ばしいからな」
一矢が作成したガンプラを見て、翔は純粋に感嘆の声を漏らす。
パーツ一つとってもその処理は凄く丁寧でここまでできれば上出来も上出来だろう。彼を一から指導してきたからこそその目覚ましさも分かる。
そんな翔の言葉に照れくさそうにはにかみながら翔に懐いた様子を見せる一矢に翔もまた嬉しいのだろう、彼とただ純粋な笑顔を交わす。
「……そんな翔さんだからこそ一番に見て欲しいんです」
和やかに談笑していた一矢だがどこか緊張した面持ちでバックからケースを取り出し、その中に収められていたガンプラを取り出す。
それはジムⅢをベースにGNソードⅢなど兎に角、Ⅲを意識したパーツで組み上げられたガンプラであった。
しかしその完成度は先程の翔が褒めた一矢が作成したこともあってその合わせ目や塗装の一つをとっても丁寧な作りとなっていた。
「完成したんだな」
「はい……。翔さんのお陰です」
ガンプラを見た翔はわずかに驚いたものの、すぐに微笑を浮かべると一矢も先程の言葉通り、翔に見せられたことで嬉しそうに笑みを浮かべながら頷く。
「名前は決めたのか?」
「……翔さんのブレイカーの名前、借りたいんですけど……」
大抵のビルダーであれば、自身が手掛けたガンプラに愛着を込めて名前をつける。
翔の問いかけに一矢は僅かに悩むような素振りを見せた後、遠慮がちに尋ねる。
ブレイカーといえば、言ってしまえば翔の代名詞だ。
ガンダムブレイカー0、ガンダムブレイカーと翔が手掛けたガンプラと共にガンプラバトルの多くでその名を知らしめてきたのだ。
「ああ、構わない。教えてくれるか、その名前を」
そんな翔のブレイカーの名を拝借したいと語る一矢には恐れ多いという気持ちもあるのだろう。
しかし逆に翔には何ら問題はなく、寧ろどこか嬉しそうに頷きながらその名を問う。
「名前はガンダムブレイカーⅢ……です」
それはまさにブレイカーの名を継ぐ新しいガンプラ。
雨宮一矢の
「……翔さんに出会えて本当に良かったです。今まで趣味を持っていなかった俺の世界に翔さんは色を与えてくれた」
「言い過ぎだよ」
「でも本心です」
ブレイカーの名を与えられたことで嬉しそうにブレイカーⅢを指で撫でながら話す一矢に照れ臭そうにする翔だが、まっすぐ話してくる一矢を前に何とも言えなくなってしまう。
「俺……頑張ります。翔さんにはまだまだ及びませんけど、それでもブレイカーの名に恥じないように」
「……ジャパンカップ……。もうすぐだな」
「……やるだけやってみますよ」
一矢は今度、毎年行われる国内最大規模のガンプラバトル大会に自身が通う学園が持つガンプラチームの一員として出場予定だ。どこか焦りの色も見える一矢を案じる翔に一矢は笑みを取り繕いながら答える。
それから数十分後、暫く談笑していた一矢を見送り、翔は一人、閉店後のブレイカーズにいた。
「出会えて良かった、か……」
先程の一矢の言葉に一人、苦笑する。
やはりいつ聞いたとしても大層な言葉だ。
「──ッ」
そんな矢先、再び鮮血の記憶が突如として蘇る。
足元がふらつき、そのまま壁を支えに何とか踏ん張った。
異世界での出来事など誰にも相談できず、孤独の中で苦しむしかない。今もなおこうやってかつての日々が苦しめているのだ。
『……翔、貴方とまた一緒に戦えて……またこうやって会うことが出来て……本当に良かった』
だが、それだけではない
それだけではなかった。
『でもこれだけは言えるぜ、お前と会えて本当に良かった。お前はかけがえのない仲間であり、俺の友達だ』
『翔さん、本当にありがとうございました。お陰で私達は一つに纏まることが出来ました……』
『……貴方のことは絶対に忘れません』
『俺、強くなってまた挑戦しますよ。今度こそ勝ちたいから』
絶望の中でも翔の中には温かな希望もまた存在していたのだ。
「……それは寧ろ俺の言葉だな」
出会えて良かったと口にするのは自分の方だろう。
自分には多くの仲間が出来て、友達が出来て、そして世界を問わず慕ってくれる者たちが出来た。
異世界での絶望がこの心を蝕むことがあっても彼らの存在がまた自分の心を癒してくれるのだから。
『……皆はこの戦争が終わったらどうするの?』
不意にかつて問われた言葉を思い出す。
あの時の自分はただ自分の帰らねばならない場所に帰るという旨の言葉を返した。
「……俺の願いは生き抜くことだ。この身に降りかかった絶望も君達に出会えた喜びも全て背負って生き抜きたい。その為にも──」
きっとこれからも自分は多くの出会いが待っていることだろう。
その一つ一つが悩める翔に力を与え、踏み出す力を与えてくれるはずだ。
そして翔が築いた軌跡は──。
──輝ける未来をその手に掴む覇王。
──想いを継ぎ、輝きを放つ新星。
──希望の守り手。
──守護の花を抱きし気高き獅子。
──目醒めし最強の遺伝子。
そう、彼に続く
だから……。
ああそうだ。
その為にも──。
「如月翔、行きます」
何度でも歩むべき道を創造しよう──。
5周年ということで何をするかと考えていたら、この小説の続編である【機動戦士ガンダム Mirrors】は丁度、本小説の五年後を舞台にしたお話だったこともあり、改めて二つの作品を繋ぐような話を書きたいと今回のお話を書かせていただきました。
5周年記念絵
ブレイカーズ
【挿絵表示】
シュウジ「翔さん、随分と浮かねえ顔してんな。そういう顔は一矢だけで十分だぜ」
一矢「余計なお世話だ。……それよりも翔さん、本当に何かあったのなら聞きますよ」
優陽「あっ、分かった。女性問題でしょー? 翔さんって誑しだしねー」
ラグナ「優陽さん、滅多なことを言うものではありませんよ。そのようなこと──」
奏「それは聞き捨てならんなぁ、父さん! さあ、なにがあったか、全部吐き出してもらうぞっ!」
翔「……お前ら、いつの間に」
それは彼が歩んできたからこそ生まれた輝けるものたち──。