俺は昼食を食べに親父の店へ来ていた。
準備中である為、店の中には俺一人しか居ない。親父は煙草を買いに行ったのだが、もうかれこれ三十分は帰ってこない。
俺は厨房に入ることを許されていないため、蕎麦定食のお盆を下膳棚に片付け、状の素振りを始めていた。
「……九十九、百」
百回終え、次の素振りを始めようとした時、入口の開くガラガラッという音が店内に響く。そちらに目を向けると、そこには親父ともう一人立っていた。
「悪い悪い。どこもかしこも品切れだったから隣町のコンビニまで行ってきた」
そう詫びる親父に手を引かれ……。
「……え!?……え!?」
戸惑うようにフェイトが入店する。
「……親父が犯罪者にしか見えない……」
戸惑う小学生と、その手を引く中年親父。それが俺の目には二人がそう見える。
こんな親父が警察のお世話にならないのには訳があった。
親父は海鳴生まれの海鳴育ち。そして、親父の人攫いは今に始まった事ではなく、まだまだ小学校に上がる前から続いているらしい。
この海鳴の街には親父に誘拐されて育った者も少なく無く、親父が誰かの手を引いて歩いているのは海鳴の町にとって日常風景でしかないのだ。
俺がなのはに会った日、手を引いて親父の店に連れて行った時も“やっぱり、あの人の子だな”と囁かれていたくらいだ。
閑話休題、冷水機から水を入れたコップを二つ持ち、カウンター席に座った(座らされた)フェイトの隣の席に俺も座る。
「はい」
フェイトにコップを一つ差し出した。
「え?……あ、ありがとう」
彼女は状況に着いて来れてないのか、たどたどしくお礼を言う。
耳に入るのは食材が切れる音と、包丁がまな板に叩きつけられる音。二人の間には静寂が漂うが、俺はすぐにそれを破る。
「まだ、話してくれる気にはならない?」
何を?、とは返してこない。俺もなのはも何度も問いかけているから。
「・・・・・・」
フェイトは何も言わないが、急かすことをせずに俺は彼女の答えを待つ。
「……どうして、あなた達はそんなに関わろうとするの?」
彼女の口が開いて出てきた言葉は俺の問いに対する答えではなかった。
「なのはに関しては、いつもあいつが言ってる通りじゃないか?」
実際、あいつは自分の思いを真っ直ぐフェイトにぶつけている。
「俺はお前にそんな悲しそうにして欲しくない」
当初、フェイトに接近したのはヴィヴィオの為。根底は今も変わらない。だけど、彼女の表情。それは十にも満たない少女がする物ではない。それが凄く嫌なのだ。
おっさん臭い理由ではあるが、まあ死ぬ前も含めれば俺は三十路越えだから仕方がない。
それに……。
「それに、フェイトを放っておくには俺達、関わりすぎたよ」
情が湧いたのも事実。今、口にしたことは本心である。
さて、話すことは話した。あとはフェイト次第。彼女は思案するように黙り込む。そして……。
「分からないの」
そう答えた。
「母さんがジュエルシードを必要としている。目的は分からないけど……でも、目的を果たせばきっと、母さんはまた優しく笑ってくれる。だから私はジュエルシードを集めるの」
同年代よりもいくらか大人びた雰囲気を持つフェイトだが、彼女の行動理由は親に愛されたいという年相応のものである。
しかし、今ここで真実を伝えた所で、フェイトは俺の言葉を信じないだろう。だから……。
「そっか。……見れるといいな、お前の母さんの笑顔」
ただ、そう言った。これが俺のベストな選択だろう。
この小説は久し振りの更新ですが、9月19日にハルヒを更新しているので、作者的にはそこそこ良いペースです(笑)
話は変わり、感想でよく「1話当たりをもっと長く」といった内容を目にします。
碧河自身も短いという自覚はあるのですが、長くすると碧河のモチベーションが持たないんですよね(汗)
ですので、ちょろちょろ読むのが嫌な方は何話か溜めて一気に読んでください。