Muv_Luv 白銀の未来     作:ケガ率18%

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11話

―白銀side―

 

3月5日

 -帝都城斯衛対外派遣部隊執務室-

 

 

今俺を悩ませている剛田城二という『ちょっぴり熱血一直線な部下』(かなり控えめな表現)について、部下になった経緯から話をしようと思う。

 

~~~~~

 

3月2日

  -帝都城-

 

前日に横浜から帰還した俺は帰還の報告をするために、部隊監督者である紅蓮大将へ会いに行った。

部屋に案内されると、紅蓮大将は秘書に対し誰も部屋に入らないよう命令して秘書を部屋から追い出し、機密な会話が出来るよう取り計らってくれた。

 

「失礼します、白銀剣中尉帰還の報告に参りました」

「おお、白銀か。待っておったぞ。向こうで随分と暴れたそうだの?XM3などというOSを作ったそうじゃないか」

「はっ、連絡で申し上げたとおり、以前より思い描いていた機動を再現するべく練習しているところを、偶然見ていた香月副司令に呼ばれまして、考えていた機動概念を話す内にOS開発を協力していただけると。出来上がったOSの方は現在香月副司令付きの専任部隊が評価試験を行っておりまして、何も問題が出なければ今月に行われる佐渡島ハイヴ間引き作戦にて実戦証明を済ます予定となっております」

「報告通りだな。ところでだ、横浜の者達は使えるか?」

「はい、俺から見ても問題ないと判断しました」

 

なんでこんな当たり前なこと聞いてくるんだ?と思ったがそういや、紅蓮大将はAL4について裏まで知っている人か。

夕呼先生の計画だと今後斯衛と横浜は斯衛と帝国以上に協力していく予定だし、協力する相手側の戦力が気になるのは当たり前だな。

 

「分かった。どうやら女狐は確りと約束は果たすようだな」

 

紅蓮大将の笑みを見ると上がどんな契約を交わしたのか非常に気になるが、俺としてはこれが切欠で少しでも現場の風通しが良くなってくれると助かる。……けど、簡単にはいかないよな~

天外魔境の横浜と言えど国連軍であることは変わらないし、国連軍=アメリカの図式は否定できない、てかぶっちゃけそれで正解だしな…

 

「……白銀、聞かぬか!白銀っ!!!」

「っ!?はいっ、なんでしょうか!!」

 

やべぇ、気がついたら目の前におっさんの握り拳が迫ってた。

つか、気(の様な何か)を使うおっさんの拳なんて顔面に喰らったら、俺生きてなかったんじゃねーのか?

 

「じゃから、お主の部隊に人員を追加することになったんじゃよ」

「あぁ、でもそれは新兵が入ったらって予定では?」

 

部隊の人員が増えるのは助かるな。でもこの間は当分無理と言ってた気がするけど。まさかAL5からの刺客とかいうオチじゃ無いよな?

 

「最初はその予定じゃったのだがの、それだとお主の部隊に配属させるのに2期も待たねばならんということが分かっての。しかも待った末に配属されるのは、新人の中でも警護部隊などに引き抜かれなかった素質の低い者というのがな」

「ですが、それは斯衛の性質上仕方ないのでは?」

「じゃがのう、それでは新人部隊長には辛いだろうということになっての。そこでこの間帝国から引き抜いた黒の者を、比較的余裕のある部隊から貰って来たんじゃ。帝国から引き抜かれた者なら、腕前などは申し分ないからのう」

「成程、そういうことでしたか。お心遣いありがとうございます」

「帰りにでも会ってくるといい。多分修練場にいるじゃろ」

「はっ、了解です」

 

~~~~~

 

ということがあって、最近引き抜かれた優秀な黒の者ということで剛田を紹介されたんだが…

一番に不安視したようなAL5側の人間ってことはないだろう。そこは紅蓮大将も計画を知ってる人なのだから充分気をつけたはずだ。

…というか、AL5がこいつをスパイとして送り込んでくるような奴らなら、夕呼先生はこんなに苦労してないだろう。うん。

 

話が逸れたな。剛田も斯衛に引き抜かれるだけあり、突撃前衛としての衛士の腕前はかなりのものだった。

だが、書類仕事がトコトン駄目だったのだ。

俺としては部下に一番期待していた部分なだけあって、書類仕事が苦手と知った時の落胆はとても大きかった。

 

そんな書類仕事苦手人間だけしか所属していない我が部隊は日々の事務作業に追われ、顔合わせの際に訓練場に行って以来、碌に体を動かせずにストレスを溜め込んでいた。

 

 

 

「剛田ー、昼飯持ってきたぞー」

「た、隊長…」

 

俺が昼飯を持って執務室に戻ると、そこには干枯らびたとしか言い様のない状態の剛田が横たわっていた。

 

「何があったんだ!?侵入者か?」

「隊長…腹が…減り…ました」

「ご、剛田ぁーーーー………こんなとこでいいか?」

「ノリが悪いなー隊長さん。書類を睨みすぎて感情でも失っちまったか?」

 

俺が倒れている剛田に確認を取ると、今までまるで動きを見せなかった剛田の体が起き上がった。

あと剛田、お前の中で書類ってのは悪魔の書か何かなのか?

 

「んなわきゃねーだろ。いいからさっさと飯食って書類片付けるぞ」

「でもよー俺って会ったときに話したとおり、事務仕事全般苦手だろ?」

「あぁ、それは初日に理解したよ」

 

あの挨拶は中々にインパクトあったからな。

 

~~~~~

 

3月2日

 -帝都城斯衛軍演習場-

 

俺は紅蓮大将に帰還報告を済ませると、その足で紹介された部下の下へ向かった。

 

「白銀中尉入ります」

 

演習場に入ると、黒の武御雷がターゲットドローン相手に長刀を振るっていた。どうやらアイツが俺の部下のようだ。

俺は指揮所に向かい、中で管制をしていたCPに黒の武御雷を呼び出してもらった。

連絡が入ったようで、黒の武御雷は訓練を止めて格納庫へと向かい、程なくして黒の強化衛士服を着た男がやってきた。あれっ?なんか見たことある顔だな…とりあえず挨拶挨拶っと。

 

「君が俺の部下になるという少尉か?」

「あぁそうだ、俺の名前は剛田城二16歳!!BETAを日本から追い出すために斯衛軍にやってきた。初陣の時から突撃前衛長(エース)部隊長(キャプテン)!!!」

 

あぁ記憶で居たな~コイツ。今の台詞を聞いて思い出した。それにしても今の挨拶ってもしかして因果受け取ったのか…いや、多分元からなのだろう。コレに関しては気にしたら負けだ。

 

「そ、そうか。俺は白銀剣。階級は中尉だ。俺の部隊はお前を入れて2人っつう、貧乏部隊だけどこれからよろしくな」

「応、よろしくな隊長さん。ちなみに俺に事務仕事は期待するなよ?任官して以来戦術機にしか乗ってねぇからな!」

「俺も書類は苦手さ。でもこれをこなさなきゃ戦術機にも乗れないし、お互い協力していこうぜ」

 

挨拶もそこそこに先ずは仕事場を確かめようと、そのまま2人で用意された執務室に向かったんだが…

 

 

 

 -帝都城対外派遣部隊執務室-

 

「…なぁ隊長さんよ」

「…なんだ剛田?どうかしたか?」

「俺の目には未だ着席したこともない机の上に、何故か書類が山のように積み上がっているんだが…これって夢かな?」

「大丈夫だ、俺の目にも映ってる。というよりお前の机が山って言うなら、俺の机の上は塔だぞ。バビロン作戦で見た横浜ハイヴよりも高く見えるや」

「…隊長。入隊の件白紙に戻せないっスかね?」

「アハハ、ナニヲイッテイルノカナ?ここまで来たら道連れだ。逃がしやしねぇ」

「はぁ~仕方ねぇな。んじゃ仕事の仕方教えてくれ。斯衛に来てから書類仕事なんてやったことねぇんだ」

 

はぁ、愚痴っても書類が無くなるわけじゃないしな。ウダウダ言ってないで剛田を見習って俺も書類に取り掛かりますか。

 

「分かった。けど所詮事務仕事だし、帝国軍との違いなんてそこまでないと思うぞ?」

「おいおい隊長さん、俺は『任官してから戦術機にしか乗ってねぇ』ってさっき言っただろ」

「…それって比喩じゃ無かったのか?」

 

頼む、比喩表現だと言ってくれ!

 

「本当のことだ!」

 

…アハハッ、この部隊、戦闘は出来たとして仕事は進むのかな~?

 

~~~~~

 

最初に抱いたのは『BETAがいるこの世界でも明るい奴なんだな~』というありきたりなものだったのだが、これがいざ仕事を始めてみると想定以上の仕事っぷりに『俺以上に仕事が苦手な奴がいたんだなぁ』と塗り変わった。

期待するなと言っても俺程度は出来るだろうと思っていたのだが、まさか言葉通り初めてだったとは…

事務仕事が苦手というのは俺も同じなので強くは言えないのだけどさ…やっぱり紅蓮大将に書類仕事が出来る人を、1人部下に下さいって強請ってみようかな?

 

 

 

―水月side―

 

3月12日

 -新潟県日本海沿岸-

 

ドンッ―

ドンッ―

 

第二次佐渡島ハイヴ間引き作戦が開始されて、既に2時間が経過していた。

あっという間に死の8分を乗り越え、未だに無傷で戦場に立ちBETAを倒しているが、私の頭の中に余裕が生まれる隙は無かった。

 

ブンッ―

 

網膜投射の映像には、今まさに機体を砕かんとする要撃級の前腕が迫るが、私は機体を半身にし最小限の動きで前腕を避け、そのまま流れるように要撃級の頭のような部分に36mm弾を散蒔く。

 

ドンッ―

 

目の前の要撃級を始末し、周囲を確認していると、後方から飛んできた砲弾が土煙を上げて、上陸に手間取っているBETA共を動かぬ肉塊へと変えていく。

 

ヴァルキリー1(伊隅)よりヴァルキリー4(速瀬)、どうだい新兵、初めての戦場の感想は?楽しんでるか?』

 

戦術機の通信機越しに、伊隅隊長から新兵を気遣う言葉が投げかけられる。

 

「勿論ですよ大尉。基地で篭っていた時よりも充実してますからね。それにお客さんも多いみたいですし、飽きる暇も無いくらいですよ」

『何だ随分余裕がありそうじゃないか。お前達、可愛い後輩はまだまだお相手が足りないようだ。お前達が今相手している分も少し分けてやれ』

『なんて先輩思いの後輩ちゃんなんだろうね~私はこんな後輩を持てて幸せだよ。ということで右手の要撃級5体プレゼントだ!』

『おいおい、ヴァルキリー3(小林)ヴァルキリー4の折角の初陣なんだ。どうせなら5体と言わず前方の20体も纏めて渡してやれ』

「ちょっ!?s、ヴァルキリー2(副島)?」

『何だまだ足りないのか?だったら私の相手してる突撃級の群れも任せようか?』

「もう十分ですってば!つか新人になんてことさせるんですか!」

『ほらぼさっとすんなヴァルキリー4、要撃級が行ったぞ!』

『ヴァルキリー4頑張ってね~』

「あぁもうCP()まで!ヴァルキリー4フォックス3!!」

 

アンタ等化物は36mm弾喰らっとけ!!

 

 

 

―3時間後―

 

「これが、実戦なのね…いいじゃない、やってやるわよ!」

 

予定されていた作戦の最終段階も終了し、戦場に出ていた部隊が引き上げ始めて、漸く私の中に「BETAを倒した」という実感が湧き上がってきた。

それでも矢鱈滅多に騒がずにいられたのは、目の前に広がる風景のせいだろうか。

 

「お前らよくやった。現時点を持って我々の任務も完了した。これより横浜基地へ帰還するぞ!」

「「「はい!」」」「………」

「おい、ヴァルキリー4。返事が聞こえないがどうかしたか?」

「あっ、いえ。失礼しました。ヴァルキリー4これより帰還行動に移ります!」

「まぁまぁ、ヴァルキリー4が呆けちゃっても仕方ないっすよ。これが初陣だったんですよ?それ考えたら寧ろよく持った方じゃないっすか?」

「確かに。ヴァルキリー3の時なんか、それはそれは酷かったもんな!」

「あっ!自分は弄られないからって、後輩を弄らないで下さいよ~」

「ええいっ!お前ら五月蠅い!いくら作戦が終了したとはいえ、少しは大人しくせんか!」

「「は~い」」

 

あはは、こっちは眠らないように気を張るだけで一杯だってのに、まったく先輩たちときたら…

アレ?秘匿通信来てる。多分遥ね。

 

「初陣お疲れ様、水月」

「遥もお疲れ。CP様になってたわよ」

「そう言って貰えると嬉しいな。それから伊隅大尉から『眠いならこっちに操縦回してさっさと寝ろ』だって」

「ゲッ!?私が眠いってバレてたの?相変わらず大尉の観察眼は凄いわね」

「それで水月はどうするの?操縦回すなら私が伝えるけど」

「どうやら全員にバレてるみたいだし、今回は先輩に甘えるわ」

「睡眠暗示はいる?」

「それもお願い。このまま寝たらBETAが夢に出てきそう」

「了解。お休み水月」

「ええ、お休み遥」

 

こうして私の初陣は、部隊内の人的被害0というA-01結成以来初の快挙で終わった。

 

 

 

因みに、この作戦がA-01から死者の出なかった初めての戦いだと私が知ったのは、横浜基地に帰還して祝勝会を開いた時に、珍しく人前で酔った伊隅大尉がふと漏らした「初めてだ。この部隊で初めて戦死者が出なかった」という言葉でだった。

 

孝之、アンタもXM3があれば死なずに済んだのかな?

 

 

 

―夕呼side―

 

3月12日

 -横浜基地夕呼執務室-

 

 

「…そう。被害はないのね?分かったわ。補給が済んだらそのまま休んでいいわよ。お疲れ様」

 

ふぅ、これでXM3の実戦証明は済んだわね。後はこの映像を見た奴等からXM3と引き換えに、どれだけのモノを引き出せるかってところかしら。

新潟で間引き作戦に参加していた伊隅からの報告を受け取り、報告と一緒に送られてきた映像データの確認に移る。

 

「とりあえずソビエトとアメリカの連中はこの間のルート使って今日中に渡して、斯衛には白銀経由で伝わる手筈になっている…となると、残るは帝国ね…」

 

パイプ役は鎧衣にやってもらうからいいとして、受け取り手である帝国に国連軍の発表でも色眼鏡を使わない人物がいるかしら?国粋主義者相手じゃまともな評価なんて帰ってくるはずないものね。

 

「今のところは技術廠の巌谷中佐が妥当かしらね」

 

もし巌谷中佐の反応が悪ければ、仕方ないけどXM3の帝国への提供は遅らすしかないわね。

 

「ユウコー何か面白いことでもあったの?」

「あら?どうしてかしら?というか貴女何時の間に部屋に入ってきたの?」

 

誰もいない部屋で独り言として呟いた言葉に返事が返り、慌てて辺りを見渡すと部屋のソファで寛いでいる新たな部下が居た。

 

「カスミが今日の分のお話は終わりっていったから此処に来たんだよ?」

「…貴女にパスを渡したのは失敗だったかしら?」

「ユウコ疲れたの?」

「ええ、少しね。ったく、保護者は何やってんのよ。ってアンタそのチョコどうしたのよ?」

「え?ここに置いてあったよ?ユウコ気づかなかったの?」

「あ~もうっ、保護者につけとくからね!」

「つけとく?」

 

まったく、引き取ったはいいけど、このガキ本当にAL3の遺児なのかしら?社と同じ出身とはとても思えないわね。

ビャーチェノワが甘やかしてるってのもあるんでしょうけど、このご時勢にここまで奔放な性格にどうやったら育つのよ。

 

「すいませんっ!ここにイーn、シェスチナ少尉来ませんでしたか?」

 

私がシェスチナについて考察していると、ノックも無しに開けられたドアからビャーチェノワが顔を出した。

 

「アンタの探してるガキンチョならそこにいるから、さっさと引き取りなさい」

「イーニァ!ここにいたの!?勝手に私の傍から離れたら駄目だって言ったじゃない」

「あっクリスカ!ここチョコレートあるよ。一緒に食べよ」

「あぁ!?副司令イーニャが失礼しました」

「いいからさっさと連れていきなさい。これ以上は面倒見切らないわよ」

「はいっ!ほらイーニァも」

「ん~、バイバイユウコ。また遊ぼうね~」

 

私は勘弁願いたいわね。

まったく白銀のために引き取ったはいいけど、何時からここは託児所になっちゃったのかしらね?




紅の姉妹登場。でも出番はまだ先です。

そして、すみません。
ストックが切れたので、次からは不定期更新となります。

感想などを貰えると、私の執筆速度上がったり、上がらなかったりします。
返信は返したり、返したりするつもりです。

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