―巌谷side―
3月22日
-技術廠巌谷執務室-
「―ハッ!!」
「おや?どうかしたのかい?」
「いえ、なにやら猛烈に嫌な予感が帝都城の方からしたもので」
「そうかい。何か気になることがあれば、遠慮なく言ってもらって構わないからね」
「あっ、はい」
ふ~、焦ったぞ白銀君。こっちがいよいよ本題を話そうとしたときに、突然顔を上げるなんて止してくれ。こちらの考えが見透かされたのかと思ったぞ。
しかし、帝都城の方からとはな。紅蓮大将がいる限り、あそこは安全だと思うのだが……まさかな。
「今日1日技術廠を見てもらったわけだが、発案者である君から見てこの設備ならXM3を活かせるだろうか?」
「!?、そうでしたか。よくよく考えてみれば、俺が呼び出される理由はそれしかなかったですね」
「すまないな、白銀中尉を試すような真似をしてしまって。横浜の香月副司令にXM3のことを確認したところ、中尉のことを教えてもらってね」
「いえ、別に気にしてないんで。でもなんで俺なんかに確認を?横浜で俺の機体を整備していた人の方が、こういった整備方面には強いですよ?」
うん、よく理解しているな。別に盗聴の恐れもないし単刀直入に言ってもいいんだが、なんというか、からかいたくなる雰囲気なんだよな。白銀君は。
「分かった。では今回中尉を呼んだ理由を言うぞ」
「はっ」
「新OSであるXM3について、まず配備されるのが横浜と斯衛というのは知っているな?」
「はっ、斯衛にて運用した後、評価次第で帝国軍への配備となっています」
「そこなんだ。今回中尉を呼び出したのは!」
「なるほど、国粋主義者のことですね」
これは少しヒントを与えすぎたかな?だが話が早く進むというのはいいことだ。
「理解が早くて助かる。いくらXM3が優れていたとしても、国粋主義者共にとっては憎いアメリカとの合同作である限り、到底受け入れるものとは思えん。勿論私は持てる力の限りXM3の配備に尽力するが、残念ながら今の私は其処までの力を待っていない」
「つまり、帝国にXM3が配備されなかった時に、帝国の作品としてXM3に似たOSの開発の協力をして欲しいと?」
「その通りだ。万が一帝国側が受け入れなかった時は、どうか協力してくれないだろうか?」
「…ここでは、即答できないですね。勿論帝国臣民としては協力したいところなんですが、XM3ってOSそのものだけを指し示したわけではないものなので。そこらへんの技術が全部横浜、というか香月副司令から齎されたモノでして…」
なるほど、こんな理由が隠れていたからこそ、横浜の魔女は簡単に私を白銀中尉と会わせたわけか。
確かに白銀中尉から聞く限り、XM3というのは現状の装備では対応しきれないことは明らかだ。これではXM3のような機能を持たせようとしても、碌に動くものすら出来ないだろう。
「結局すべて魔女の手の中だったってわけか。仕方ない、こうなれば私の首を掛けてでもXM3を認めさせなければな」
「ちょっ!?そこまで思いつめなくとも、魔女と恐れられる香月副司令ならきっとなにか巧い手を考えてますよ!」
「なに、この国の未来に必要なのは俺じゃない。それにもう戦場に立つこともない身だ。ならばこの身、これからの者たちのためにってやつさ。なーに別に命がかかるわけじゃないし、白銀君が気に病む必要なんてないさ」
「いえ、決してそういう訳じゃ………(だって夕呼さんだよ?普通に考えてこんな都合のいいポジションの人、そう簡単に手放すわけないだろ!?)」
う~ん、どうも白銀君は重く捉えてしまったようだな。
別に俺としては今の立場に思い入れなんてないし、出来ることなら寧ろさっさとこんな立場投げ捨てて、一兵士として唯依ちゃんと一緒の戦場に出てその身を守りたいくらいなんだが…
「あぁ、心配せずとも部下に関しては首になったとしても、君の部隊へ配属されるよう手は尽くすぞ?」
「別に部下のことで心配していたわけじゃないっすよ!?」
あっはっはっ、白銀君はからかい甲斐があるな~
唯依ちゃんもこの位表情が明るくなればいいんだけど、やっぱり時間がかかるか。いくらカウンセリングがあるとはいえ、知り合いの死ぬ瞬間を間近で見てしまったんだ。どうしたって引きずってしまうよな。
…いかんな、気分が下を向いてしまった。さっき白銀君に注意しておいて自分がなってちゃ世話ねぇな。
「そうだ!折角白銀中尉がいることだし、XM3について発案者の視点から詳しく語ってくれないか?」
「まぁ、そういうことでしたら喜んで。いや~斯衛への教導の為に部下にも教えているんですけど、そいつが頭じゃなく体で理解するような奴でして、機能面については教え甲斐がなかったんですよね」
「そうかい、じゃあ今日は思う存分語り合おうじゃないか!」
―白銀side―
-帝都城派遣部隊執務室-
いや~今日は久々に有意義な一日だったな。
俺個人として技術廠とコネを持てたのは、今後のことを考えればかなりの収穫だ。その分仕事が増えることになるだろうが、部隊の人員も寄越してくれることになったし、特に気にする程でもないか。
それになにより、書類仕事をしなくていいってのが素晴らしい。まぁ部屋に着けば、終わってない書類が山のように残っているんだろうけど…
「剛田~今帰ったぜ~書類は終わったかい?」
「出張、お疲れ様でした隊長殿!残っている書類は隊長の名前が必要なものだけです」
………うん、これは何かあったな。
昨日まで書類仕事駄目人間だった奴が、今日になってここまで完璧に仕事をこなすなんて、いくらなんでも怪しすぎる。怪しんでくださいと言ってるようなもんだ。
「剛田~今日何があったな?」
「いえ、隊長が居ない以外は、いつもと変わらない一日でしたが?」
動揺は無いか。だが、この状況はどう考えても可笑しい。何が起きてる?
「今日誰かと会ったか?」
「書類を終わらせるために一日執務室に篭っていたので、誰とも会っておりません」
「そうか。剛田のことだからてっきり仕事サボって、演習場にでも行ってるものだと思っていたぞ」
「ハハハ、いくら書類が嫌いな俺でも、任された仕事くらいはこなしますよ」
これでもボロは出さないか。だけど書類には既に見慣れた剛田以外が書いたであろう、とても丁寧な文字が混ざっているんだよな~
まぁこのまま探り合いをするくらいなら、さっさと書類に目通して仕事片付ける方が先か。
それにしても、書類仕事がこんなに早く片付くとは。これなら時間もあることだし、久々に戦術機に乗って暴れられるな。
「そうか、なら折角時間が出来たことだし、XM3の練習でもするか?」
「………」
「ん?どうかしたのか?」
「ちょっと目使いすぎて疲れたから、今日のところは遠慮しとくわ」
ははーん、原因は戦術機か。ってコイツはまた何かやらかしたのかよ!
この間の事件で既に整備兵から睨まれているってのに、また厄介になったらなんて言われるか…
とりあえず書類終わらして機体を見ておかないと。
-帝都城斯衛軍戦術機ドック-
「さてさて、俺の愛しの武御雷ちゃんは無事ですk………」
剛田の様子から何かあったのだと確信し、最速で書類を片付け確認のために部隊に充てられたドックに向かうと、そこには無残にも片方の膝から下を失った山吹色の武御雷が、大勢の整備兵に囲まれ鎮座していた。
「……何があったのよ?」
俺が愛機の惨状に放心していると、呟いた言葉に気付いたのか整備長のおやっさんが声をかけて来た。
因みにXM3関連のおかげで、裏方の人員は裏の確認を取った上でかなりのベテランを引っ張ってこれた。そんな訳で、整備長にもXM3に関することならある程度の情報を開示している。
「あぁ白銀の坊主か。なんでも紅蓮の大将が乗り回してたら膝からブッ壊れたって、剛田の奴が昼頃持ってきたんだよ」
「そうですか、紅蓮大将がですか…」
すまない剛田、てっきりお前が壊したものだと思っていたよ。しかし、犯人は紅蓮のおっさんか~次会ったら絞めておかないと。
「坊主も分かってるとは思うが、ここまで派手にやられちゃ修理には当分掛かるぜ?」
「スミマセン。紅蓮大将からなんとかして金出させますんで、どうかお願いします」
「いや、そういう話じゃねえんだ。
「・・・すんませんおやっさん。とりあえず横浜と技術廠辺りにも声掛けておきます」
「まぁ横浜なら実戦検証も済ませてるし、壊れた膝をくっ付けるくらいなら俺達より早く済ませられるだろうが、あそこの整備兵武御雷触ったことあんのか?」
そうだった、この間向こうに行った時は碌に触らせてすらいなかったな。
これ下手すりゃ斯衛軍の性能評価試験を、あろうことか不知火で出る羽目になるぞ。絵面を予想した時点でヤバイって理解できる。
「どうしましょう?」
「白銀の坊主の力で俺達の内の何人か横浜に行かせられねえか?将来のこと考えれば、向こうにも武御雷を修理出来る奴いた方がいいと思うんだが」
「それなら向こうでも修理続けられますね。分かりました。そういうことなら上から許可取って、横浜に出向できるよう手筈を整えておきます」
「あぁ、こっちも何人か送っても大丈夫な奴を見繕っておく」
紅蓮のおっさんに対する罰はこれで決まったな。
斯衛の目玉である武御雷の整備を他の軍施設で行うなど、かなりの反発が湧き上がるだろう。それを受け止めるんだ、罰としてちょうどいいじゃないか。
3月25日
-国連軍横浜基地夕呼執務室-
「てなワケで来ちゃいました!」
俺の機体がブッ壊され上に要求通して横浜に連絡入れてから僅か3日、流石夕呼さんが関わると仕事の進みが早いぜ。
剛田はまたも置いてきた。今度こそ書類仕事を全うしてもらうためだ。アイツにはこの機会に少しでも処理速度を上げてもらいたい。
技術廠への出張の時は、紅蓮大将が戦術機をブッ壊した謝罪として、紅蓮大将の秘書達が代わりにやったらしいからな。
「なにが『来ちゃいました!』よ!いきなり通信が来たと思ったら『そっちに整備兵送りたいんで、ドック確保しておいてくれませんか』なんて要求が来たときは、思わず次アンタに会ったときに髪の毛全部毟ってやろうと思ったわよ!」
出会い頭に酷い言われようだ。俺が髪の毛を失っても純夏なら嫌わないだろうが、もし量子電導脳が上手く機能しなくなったら一体どうするつもりなのだろう。
それとも既に夕呼さんの中には俺が残る予定がないのか…
「まぁ来年になれば冥夜の護衛で結局必要になるんですから、先行投資だと思って許してくださいよ」
「でも態々作られたばっかりの機密ドックを指定してくるとわね。そんなに気を付けなくとも、武御雷のデータなら斯衛の方から既に漏れてるでしょう?」
「まぁ将来のこと考えたら、機密指定の方が色々やりやすいじゃないっすか。それに、こっちが指定しなかったら夕呼先生が用意しましたよね?」
「そうだけど、なんかアンタに言われるとムカつくのよね~」
相変わらずの暴虐無人だな~この様子ではピアティフ中尉も、未だに激務をこなしているのだろう。
「それは悪かったっすね。で、気になっていることがあるんですけど、少し聞いていいっすか?」
「なによ?そこに転がってるピアティフのことなら、疲れて寝落ちしただけだから心配いらないわよ?」
いや、そこは心配しましょうよ!そしてピアティフ中尉お疲れ様です。今はどうか、どうかゆっくりと休んでください。
「いや、その倒れてるピアティフ中尉の横にあるソファーで、チョコ食べながら寛いでる銀髪3人組のことなんですけど。霞は分かりますけど、あと2人はどうしたんです?まさか霞と話す内に母性にでも目覚めて、託児所でも始めたんでsブベラッ」
俺が言葉を言い終わる前に夕呼先生の拳が俺の顎を捉え、その衝撃で俺は脳を揺さぶられその場に崩れてしまった。
流石夕呼先生、今の一発は体重の乗ったいい一撃でした。純夏のどりるみるきぃと同等のレベルっすよ。
「良い?白銀よ~く聞きなさい。アタシはね、そうやって弄られるの嫌いなの。次やったらアンタのこと一生下僕にするわよ」
「うっす」
「で、白銀の質問の答えだけど、あのガキンチョ達はAL3から引っ張ってきたのよ」
そういや、XM3を利用して少しでもこっちの戦力増やしておくとか言ってたな。それの答えがこれか。
引きとった2人は見たところ衛士のようだけど、夕呼さんのことだからESPを利用した諜報員にでもしそうだな。
「なるほど、2人は日本語分かる人ですか?それと俺もチョコ食べていいっすか?」
「まだ無理よ。一応社にお願いして鑑と会話させてる時に、日本語も話せるように教えてはいるけど。そしてアンタは駄目」
「チッ、なら英語ってことっすね」
「そうよ」
くそ、こんな直ぐに俺の英語力が試されることになるとは。
ええい、腹くくれ白銀剣。お前ならばきっと出来る。はず、多分。
「え~と、俺の名前は「いえ、中尉のことは既に話を伺っております」…どゆこと?」
「あのね、イーニァ達カスミからツルギのこと色々聞かされたの」
「あぁ、なるほど」
そういや、リーディング持ちなんだから人の意思くらい簡単に読み取れるわな。
「それに私達ならシロガネ中尉の考えていることも理解できますので、そこまで気にする必要もないかと。中尉がリーディングを嫌うのであれば別ですが」
「それなら別にいいよ。別にリーディングにマイナスイメージ持ってないし、夕呼先生に付いているなら記憶読まれても関係ないからな」
別に頭ん中覗かれるくらいなら、夕呼さんと一緒に行動してれば取るに足らないことだ。
「本当にカスミの言ってた通りだねクリスカ!」
「そうねイーニァ」
「まぁ今後一緒に行動することもあるだろうし、そん時はよろしくお願いするよ」
「はっ!」
「うん、よろしくねツルギ!」
俺の初の英会話は結果だけ言うと、俺が空回っていただけで終わった。それでも会話や意思疎通に問題は起こらなかったのは、ESPのおかげだろうな。
あと、イーニァって子にやたら懐かれました。嬉しいけど止めてぇ!また白銀ロリコン疑惑が立っちゃうじゃない!
作品内で描写できなかった部分があるので、後書きにて解説させていただきます。
※修理に時間が掛かる理由:武御雷が元々整備に時間がかかる機体というのと、まだ配備され始めたばかりの機体で、現状ではパーツの余裕が無いことが主な原因。
というより年間30機程度しか生産出来ない機体が、そう簡単に修理出来るとは思えないんですよね。
※クリスカの薬に関して:香月モトコ博士の手を借りることで確保した。
モトコさんなら例え軍事機密の塊な薬だろうが、普通に自作して用意出来ると思う。
この話を書いてる途中、戦場から傷を負って帰ってきた武御雷が整備兵に色々弄くられ、最後にコクピット内を整備されて、無様にアヘ顔を晒す話が浮かんできた。多分疲れているんだと思う。