Muv_Luv 白銀の未来     作:ケガ率18%

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遅れてスミマセン。


18話

―香月side―

 

4月23日

 -国連軍横浜基地-

 

4日前、斯衛軍の紅蓮大将から突然の連絡が入り、当初の予定より1ヶ月以上早く白銀が再び横浜(私の手元)に来た。

連絡が突然だったので幾分受け入れ準備に手間取りもしたが、斯衛の中でも発言力があって技術廠とも繋がりの強い部隊が手持ちのカードに加わることを鑑みれば、頼まれるであろう厄介事を予想してもプラスの要素が大きく上回る。

 

この調子で事が進むのであれば、これからの予定を少しばかり前倒ししてもいいかもしれない。

 

「で、アンタが持ってきている厄介事は何なのよ?斯衛にいる間のアンタの働きぶりを評価して、今回はこっち(私の手元)にいる間馬車馬の如く働くだけで勘弁してあげるから、私の気が変わらないうちにさっさと話しなさい」

「ハハ、先生は相変わらずっすね。(ピアティフ中尉生きてるかな~)」

「何よ?働き足りないの?」

「トンデモナイデス。では、先ず技術廠というより巌谷榮二からの要件を」

「ふ~ん、そんな前置きをするってことは、その要件とやらは国連軍やアタシの名前が入るのはマズイ仕事って訳ね」

「はい。巌谷さんからはXM3の雛型、若しくは現行OSの性能向上のアイディアを貰いたいというのが一つと、現在技術廠にて開発中の電磁投射砲のコアパーツの提供が一つ。コアパーツについては、帝国が保持するG元素の譲渡も考えるそうです」

 

OSはXM3の機能を低下させて、今のOSに積めるレベルの物を渡せば満足するでしょう。問題は電磁投射砲だわ。

未来の記憶を見ても電磁投射砲はハイヴ攻略に必須と言っていいわ。出来ることなら今の時期から戦場に出して改良を続けるべきだし、報酬代わりのG元素も欲しいとこなんだけど…これ出すとあの厄介な超重光線級発現のトリガーになっちゃうみたいなのよね~

 

「OSは協力してもいいけど、投射砲は話にならないわ。コアパーツが欲しいなら技術廠直々に頭を下げに来るよう伝えなさい」

 

まぁこう言っておけば報酬の方も幾らか増えるでしょうし、向こうでも開発を続けるでしょう。

投射砲は最悪あ号を攻略する時に間に合えばいいんだし、それまでは現場の衛士には悪いけど既存兵器で頑張って貰いましょ。

 

「了解です。じゃあOSについては明日にでも巌谷さんに報告しますね。で、レールガンは俺の働き具合ってわけにもいきませんよね?」

「まぁこれは今後に与える影響が大きすぎるからね~少なくともBETA側が情報と違う動きを見せるまでは、こっちから動くような真似はしないわ。あ号を攻略する時に投射砲が使えないんじゃ、如何に強力な戦術機を揃えたところで厳しいってレベルじゃないでしょ?」

「そうですね…」

 

記憶を思い出したのか、白銀の顔が白くなったわね。アタシの場合は報告書で見た数字としてしか認識できないけど、白銀は目の前でその効力を見て経験したわけだし、多方投射砲抜きであ号を攻略するのを想像しちゃたんでしょう。

 

「こればっかりは仕方のないことだと割り切りなさい。新兵器(とっておき)を用意したところで、カシュガルハイヴ(本命)の時に使えなきゃ意味ないんだから」

「それは分かってますけど…やっぱ戦場にいる者としてあの火力は本当に捨て難いものなんです。突撃級を正面からリスクを負うことなく倒せるってのは、ハイヴ・平地問わず使えますからね」

「そうだとしても対応されちゃ意味ないでしょ?」

「全くもってその通りっす…今ある武器で頑張るしかないっすよね」

「まぁ普通の兵器も強化はするけど、BETAに警戒させちゃうと強化した意味がなくなるからね~苦しいでしょうけど、しばらくは戦死しないよう精々頑張りなさい」

「了解です」

 

本当なら白銀を戦場に出すのは止めさせたいのだが、白銀が斯衛にいる間はアタシが口を挟める程の権限はないし、何より白銀自身が自分の状況を分かっていても尚、戦場に立つことを望んでいるのがね…00ユニットには意思も重要だから、コイツを鑑が選んだ時にコイツの意思が折れてちゃ、折角の00ユニットも使えなくなってしまう。

本当に斯衛の考えってのはワケがわからないわ。自分が死んだ時のことなんて考えているのかしら?

 

「それで他に頼まれ事はあるのかしら?」

「巌谷さんはさっきの2つで終わりですね。斯衛からは紅蓮大将からの手紙を1通、内容は来期の御剣訓練兵に対する要請が何点か」

「御剣に関しては記憶通りで構わないのよね?」

「俺の知る情報の限りだと概ねそれで大丈夫なはずです。記憶も全部を知っている訳じゃないので、一応目だけは通しといて下さいよ?」

「分かってるわよ……って、あら?御剣が衛士にすることは納得済みなのね?」

「ええ、紅蓮大将に折れて貰いました。まぁ「救助活動などを除き、実戦での戦術機の搭乗は許可しない」って条件付きっすけど」

「そっちに驚いたわけじゃないわ。アンタの立場と発言力に驚いたのよ。ただの中尉に過ぎないアンタが、斯衛全体の意見を変えたのよ?未来を知った者から見ればそっちの方が驚くわよ」

「別に簡単でしたよ?XM3の対価で許可を貰おうとしたんですけど、そこに紅蓮大将が出てきて「ならば儂を倒してみよ」なんて言ってきたんで、その時は斯衛内で俺しかXM3積んでなかったですし、意外と粘られましたけど、俺としては舌戦繰り広げるのに比べれば十分楽に意見通せましたね」

 

…やはり斯衛の考えは分からない。大将がそれって、脳筋しか斯衛にはいないのだろうか?

 

「頭が馬鹿になりそうだからもう話はいいわ。それで貴方の部隊は横浜には何時まで居られるのかしら?」

「途中一時帰還があると思いますが、今の衛士訓練兵が戦術機課程に進むまではこちらに。一応冥夜が訓練を受けるに値する所かどうかの判断を任されていますので」

「暫くは無茶が出来るってわけね。なら潰れない程度に使ってあげるから、確りと部隊ごと付いて来なさい」

「了解です」

「そう言えば来月の頭にアンタの頼んでいた品が届くわ」

「えっ!なら夕呼先生がその時頼んでいたブラックウィドウも、一緒に届くんですか!?」

「期待してるとこ残念だけど、届くのはアンタの品だけよ。戦術機本体となると持ち出すのにも色々手間がかかるのよ」

「ちぇ、折角だし乗ってみたかったな~」

「アンタは武御雷があるじゃない。それで我慢しときなさい」

「最強の戦術機言われるくらいですから、衛士としては一度くらいは乗ってみたいもんなんです!」

「はいはい、それじゃ話も終わったしさっさと用意した部屋でも整えときなさい。部隊として来てるのだからそれなりに荷物あるんでしょ?」

「それもそうっすね。じゃあ、俺の注文した品が届いたら連絡下さい」

「はいはい、アンタに言われなくとも分かってるわよ」

「じゃ、失礼しました~」

 

まったく、折角こっちが色々骨折ってやったっていうのに、白銀があの様子じゃ見返りは期待できなさそうね。次回からはアイツに関しては全部任せましょ。

 

 

 

―白銀side―

 

4月25日

 -横浜基地シミュレータールーム-

 

結局2日掛かってしまったが、なんとか執務室としての体裁は整えられた。部隊が俺含めて3人という少数精鋭っぷりは、こういうところでも足を引っ張るな。電話のことは忘れよう。

 

「今日から本格的に動いていくからな。2人とも昨日一昨日でこの基地の大体は把握出来ているだろ?」

「はい、用意されたパスで行ける範囲内であれば問題ありません」

「剛田も大丈夫か?気が付いたら迷子になってそうな気がするけど」

「少しは信用しろよ。細かい規則なんかはまだ目を通しきれてないが、大まかには理解できたぞ」

「一応念のためだ。ここで問題起こしたら一気に上に話が行くからな?本当に勘弁してくれよ?特に剛田。篁もなんか起こしそうな雰囲気あるけど、お前の場合は他人の戦術機を勝手に乗り回したり壊したりと、色々前科があるからな~」

「いや、流石に俺も他の軍でそこまでの無茶をするつもりは無いぞ?」

「本当に頼むぞ?」

 

諸注意事項を念入りに確認しているが、剛田が相手だとどうにも不安が尽きない。そう簡単に問題なんて起きないはずなんだが、どうしてだろう?

 

「失礼する」

 

中々消え去ってくれない不安をどうにか収めると、シミュレータールームの扉が開いて本日の訓練相手である伊隅ヴァルキリーズが入ってきた。

 

「お久しぶりです、伊隅大尉」

「あっ!今日の相手ってロリコン中尉の部隊だったんですね!」

 

………

……

 

「おいっ、速瀬!」

「し、失礼しました!」

 

もう遅いよ。一瞬で部屋の空気が固まったよ。なんだ?もしかして横浜に来てから感じていた妙な視線というのは、俺が斯衛の部隊だからじゃなくて、俺がロリコンだなんて噂が横浜基地内で飛び交っているからとでも言うのか?

 

「伊隅大尉、速瀬少尉にO・SI・O・KIの最中にすいませんが一つ聞いてもいいですか?」

 

俺の今後の横浜基地生活に係わってくる重要なことなので、速瀬少尉にアームロック(O・SI・O・KI)をかけている伊隅大尉に話しの出所を聞いた。

 

「誰から流れた噂かは知らないが、気が付いたら部隊の中でそのような話が出ていたな」

「なんで皆さん意外そうな顔をするんですか?」

「中尉、よく自身の周りを考えてみてください。白銀中尉ほど霞ちゃんに懐かれている人なんて横浜には居ませんよ?」

 

俺が伊隅大尉に話を聞いていると、突然横から涼宮少尉から原因の一端を教えられた。

そういや涼宮少尉は霞に懐かれてる俺を羨ましそうに見ていたな。もしかしてそれだけでロリコンだと思ったのか?

 

「だからって、たったそれだけの事で俺がロリコンだと思ったんですか!?」

「最近は声かけるだけで捕まるみたいだし、あながち間違いでもないんじゃない?」

「チクショウ~~~」

 

速瀬少尉からの遠慮の無い一言に俺の心は砕けた。

 

 

 

「私の部下が不敬を働き申し訳ない。謝罪になるとは思えんが、この馬鹿の罰は白銀が決めてくれ」

 

実に(破壊力)の篭ったO・SI・O・KIを速瀬少尉へ喰らわした伊隅大尉が俺に向き直って謝罪してくる。

俺自身荒立てるような事をするつもりもないので謝罪を受け入れるのに問題無いのだが、折角あちらさんが提案してくれたので俺の気晴らしも兼ねてO・SI・O・KIを実行しようと思う。

 

「すみません大尉。こいつ等(剛田・篁)のこと任せちゃってもいいですか?」

「訓練は一緒に行うから特に問題は無いが、白銀はどうするんだ?」

「ちょっとお言葉に甘えさせて貰いまして、俺もちょいとばかし速瀬少尉とO・HA・NA・SIをしておきたいな~なんて思いまして」

「そうか、わかった」

「すみません。助かります」

「じゃ、そういうことになったから、俺が帰ってくるまでは伊隅大尉の命令に従ってくれ」

「了解です」

「まぁあれだ。頑張れ」

 

剛田に気遣われてしまうほど今の俺は悲惨なのかよ…

今から悲惨なことになるのは速瀬少尉で間違いないけどな。

 

………

……

 

「白銀中尉!お早うございます!!Sir!」

「速瀬少尉もおはよう。あれから調子はどう?」

「はいっ!あの日白銀中尉に受けた薫陶を胸に、日々部隊での訓練に励み、生活も今までの態度を改めまして、軍人らしく質実剛健を目標に過ごしておりますSir!」

 

俺からのO・SI・O・KIを終えて訓練に戻った速瀬少尉だったが、それから暫くの間俺の姿を見ると鬼教官に対する新兵の様な態度を取るようになっていた。

 

流石にO・SI・O・KIにハートマン式性格矯正ブートキャンプはやりすぎだったようだ。

 




ゴールデンウィークなんて無い…無いんだ。

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