Muv_Luv 白銀の未来     作:ケガ率18%

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2話

―白銀side―

 

1月19日15:00

 -横浜基地B4F仮設執務室-

 

―コンッコンッ―

 

 

「あれっ?返事がないな」

 

執務室の前に立ち扉をノックするが、部屋の主である香月夕呼からの返答はなかった。

だが副司令の部屋の前に居座るというのも気まずいので取り敢えず部屋に入っておこうと扉を開ける。

 

居た。PCに物凄い勢いで何かを打ち込んでいる。どうやら気がついていないようだ。

 

「夕呼センセー論文書けましたー!」

 

邪魔をするのは気が引けるがこちらの案件も重要なモノのはず。とりあえず気付いてもらえるよう大声で呼びかけると

 

 

―バンッ―

 

 

「うっさいわねー大声上げてんじゃないわよ」

 

どうやら気づいてはいたらしい。本が飛んできた…

 

「ノックに返事がなかったもので、気がついているなら言ってくださいよ」

「今はそれどころじゃないのよ」

 

どうやら徹夜だったらしい3日前には無かった隈ができている。

 

「いや、理論が完成するから忙しくなるのは分かりますけど、その理論を持ってきたんだからもう少し感謝してくれてもいいんじゃ『その持ってきた理論いらないわよ』…へ?」

「なに面白い顔してんのよ」

「今なんと?」

「だから理論は自分で分かったからアンタの論文が必要なくなったのよ」

 

どういう事だろう。数多の記憶では理論が完成せづオルタネイティヴ5に移行していたし、

理論が完成したのも俺が「元の世界」に論文を回収しに行ったことで完成したはず。

 

「そうそうアンタやっぱ因果導体だわ。いえ因果受信体とでも言うべきかしら」

「……はい?」

 

どういうことだろうか論文がいらないと言われ、さらには前に否定された因果導体であると訂正された。

 

「いやね論文が待ち遠しくてアンタのこと考えてたの。そしたらいきなり頭痛がして経験したことない記憶が浮かんでくるじゃない。ESPでもここまでのことはできないからそれでアンタが言っていたこと思い出して因果導体からの記憶の関連付けが起きたんだと確信したわけよ」

 

夕呼先生に記憶の流入?

 

「でも白銀は記憶しか受け取らなかった。これは因果導体としては不完全である。ならば仮説としてこの世界の白銀はG弾を切欠に流れてきた因果を受け取った。

だが体があるので受け取れる因果も体に影響を及ぼさないレベルのモノしか受け取れなかった。そうしたことから白銀は記憶だけ受け取った。」

「だから因果導体では無く因果受信体であると?」

「ええこの世界の白銀が因果を受け取る素質が他人より高いならだけど、00ユニットになれたくらいだから問題ないでしょう。そして私に記憶が流入した事だけど、これは受け取った因果の中には白銀以外の記憶もあり、それらの記憶は白銀が受け取ることが出来ず、白銀の周りを漂うように存在し対象の人物に特定の条件で流入する。まあ私に起きた現象をそれとなく仮説にしただけなんだけどね」

「なるほど、よく分かりませんが納得だけはしておきます。じゃあ論文がいらないとは?」

「入ってきた記憶の中にその理論があったのよ。だからアンタの書いた『それ』はいらないってこと。まあ見られるとマズイから後で焼却処分でもしといて」

「俺のこの3日間の苦労を『それ』扱いですか……記憶を取り戻した時点で言ってくださいよ。論文なんて俺書き慣れてないんすから」

 

思わず膝をついてしまう。こっちも徹夜とはいかないまでもそれなりに苦労したんですよ?

 

「まあいいじゃない。将来使うことになるかもしれないスキルだし。若いんだから何事も経験よ?それに記憶が入ってきたことで白銀のこと信用出来るようになったんだから、そうそう都合の悪いばかりじゃないでしょ?」

 

この「信用出来る」という言葉に膝を付きながら聞き返していた。

 

「えっ、信用してくれるんですか?」

「00ユニットを作ることが出来るほどの記憶を疑う方がおかしいわよ。そんな訳だから話し合いなら夜まで待ってなさい」

 

自分の知らないところで勝手に信用されることになるとは…まあいいか手間が省けたんだ夕呼先生の記憶に感謝しとこう。

 

「そうだ、XM3とかの記憶は入ってきてないんですか?」

「そこらへんの細かいデータは例え記憶で入ってきても実際にデータ集めないと、とてもじゃないけど使えるモノにはならないわよ。まあ00ユニットのODLからBETAに情報が伝わることや凄乃皇以外にも使えるモノがないとハイヴ攻略もキツイってのが今の時点で分かっただけ良かったわ」

 

なるほどやはり細かいデータ自体を記憶に頼ることは無理か、00ユニットの事も理論が分かっただけみたいだし、

 

「ならまだ霞に会えてないので会いたいんですけど何処にいます?」

 

話し合いまで時間ができたんだ。せっかくだしこの世界ではまだ会えてない霞に会いに行こう。と聞いてみると

 

「あ~、社に会う事なんだけどまだ待ってくれないかしら」

 

意外な言葉が帰ってきた。なぜだろう、記憶の中では会う事を拒否されたことは無かったはずだ。疑問に思ったので聞いてみる。

 

「分かりました。けどなぜでしょうか?存在自体なら3日前の時点でリーディングされた時に知られていると思うんですが?」

「別にアンタのことを隠したいとかじゃないわ。ただアンタと出会って記憶がどうしたら入ってくるのかそれを確認したいのよ」

 

私の場合00ユニットの理論が入ってきてそれどころじゃなかったからね~とPCを操作しながら答えてくれた

 

「アンタだって会う人全員に変な夢(記憶)を見せたり頭痛させるわけにもいかないでしょう?」

「確かに俺は意識を失っている間に整理できましたけど、他の人には妙にリアルな白昼夢みたいにしか感じられないでしょうね。それで混乱されても面倒ですし。あと、頭痛ってそこまで言うほど痛いものですか?」

 

俺だって未だに記憶が曖昧な部分があるんだ。俺を通じてしか伝わらない他人ではそれこそ、夕呼先生みたく因果律の研究でもしていなければ夢としか思えないだろう。しかし夕呼先生やけに頭痛の部分強調してきたな。

 

「そこまでですって!?アンタは寝ている間に大抵の記憶が入ってきたから平気でしょうけどね、こちとら頭が割るってほどの痛さだったのよ。徹夜も00ユニットのこともあるけど、半分は頭痛のおかげだったのよ!」

 

どうやら目元に刻まれた隈は記憶の、いうなれば俺のせいだったらしい。

さっき記憶に感謝したが取り下げよう。夕呼先生が笑顔だ、絶対なんかしてくる。記憶の中ではそうだったし、あの笑顔の時は特に…

 

「そこで霞にはアンタのことは何一つ教えてないわ。今朝話した時もアンタのことはリーディングした以上のことは知らないって確認もした。だから少なくとも霞が記憶を受け取ったことが確認出来るまで、それまでは私の立会いの下で会いなさい。それと、くれぐれもシリンダーには近づかないこと。いいわね?」

 

こちらとしても周りに被害が出てしまうことは避けたいので異論など無い。純夏に関しても、俺が振り撒く因果情報を今の状態で受け取って無事で済むわけないことは理解できる。つかそこまで念入りに確認しないといけないくらい馬鹿だと思われてんのか俺?

まぁ夕呼先生について考えても無駄か…霞記憶より2年も前だとさらにうさぎっぽいんだろうな。まあ少し我慢すればいいだけだ。うさぎに似てるからって勝手に逃げたりはしないだろう。記憶の中では普通に良い子だったし

 

「了解です。では夜にまた来ます。ところで俺って出歩いても大丈夫ですか?」

 

夕呼先生が何か仕掛けてくる前にここから逃げようと話を切り上げるついでに今の自分の状況を聞いてみる

 

「別にいいわよ、なんかやりたいことでもあるワケ?」

 

どうやら基地内を動き回っても問題ないらしい。

 

「いえ寝ている間に体が鈍ってしまったので少し外に出て運動でもしようかと…」

「ふ~ん、鈍るね~意識の無い間も筋力維持とかは問題なくやってたはずだけど?」

「筋肉は確かに鍛えたままですけど寝込んでいたので動きがどうも鈍いんですよ」

「なるほどね。そういうことならまりもに鍛えてもらう?今の時期は訓練兵も任官していないから凄いスパルタが期待出来るわよ~♪」

 

おお先生がすんごい笑顔で提案してくる。これはマズイ

 

「いえ、自分のために態々神宮寺教官に迷惑をかけるわけにもいきませんので自己鍛錬にて鍛えようと思います」

 

ここで受け入れてしまったら言った通りのスパルタが行われてしまうだろう。鍛えてはいるが余計なスパルタは全力で回避だ。

というか記憶云々はいいのだろうか、まりもちゃんなら流入が起きても不思議じゃないぞ・・・

 

 

が、そう簡単に夕呼先生が逃がす訳は無かった。

 

 

「別に記憶のことは気にしなくていいのよ~別に気がつかれても、まりもならこっちに引きずり込んじゃえばいいんだし。そうね、まりもも記憶の観察対象にしましょう。まりもなら鍛えているんだから頭痛ぐらい大丈夫よ」

 

なんだか親友に対して失礼なことばっか言っている気もするが、そこは気にするべきではない。今は差し迫った危機を逃れるのが先だ。

 

「神宮寺教官といえども頭痛は『あっまりも、今からちょっとの間鍛えて欲しい奴がいるのよ。実技訓練だけでいいから・・・「ちょっ」その分とってもハードなヤツをお願いするわ。大丈夫よ病気でしばらく入院してたけど一応現役の衛士だから、じゃあそういうことだからよろしく~♪』………」

 

どうやら話した時点で既に決定事項だったらしい流石夕呼先生だ記憶通りだぜ畜生。

まりもちゃんへの挨拶は今夜霞と会った後で夕呼先生立会いの下行うことに決まった。取り敢えず夜までグラウンドでも走ってよう。

 

 

 

 

―霞side―

 

 

20:00

 -横浜基地仮設執務室-

 

 

…3日前にリーディングをした人が目の前にいます。名前は白銀武さんというらしいです。

この人は寝ている間に香月博士に言われリーディングを行ったときには色々な感情が渦巻いていて、理解できたことは深く悲しんでいる事だけでした。

 

「はじめまして、社霞ちゃん。リーディングして知っているかも知れないけど俺は白銀武だ」

「……はじめまして……社霞です」

 

 

「っ!!…霞が、はじめて会ったのに返事してくれた」

 

 

…なぜか返事をしただけで喜んでくれました。

 

「なに返事をしただけで驚いてるのよ白銀」

 

…博士はなんだか呆れているみたいです。

 

「いや記憶にある中だと初めは毎回避けられていたので、」

「それはアンタがヤラシイ事でも考えていたんじゃないの?」

「待ってください先生。先生の中で俺の評価どうなっているんですか?」

 

…ヤラシイ事って一体どんなことなのでしょうか?リーディングしたら分かるかも知れないですがしてはいけない気がします。

 

…気づいたら白銀さんが博士に言いくるめられていました。

 

 

「分かったかしら白銀?そういうことからもアンタはロリコンなのよ!!!」

「……はい私、白銀武はロリコンです」

 

 

…両手を床に着けた白銀さんが涙を流しながら呟いていました。…博士はすごく嬉しそうでした。

 

「もういいからさっさと挨拶済ませちゃいなさい」

「そうでしたまだ挨拶の途中でした」

 

「それじゃさっきの続きな。リーディングしているから分かっているだろうけど俺は未来の記憶を持っているんだ。その中に社と一緒だった記憶もある。だから少し馴れ馴れしいかもしれないけどこれからよろしくな」

 

…白銀さんは中腰になって私に目線を合わせながら話してくれました。

 

「…よろしくお願いします。あと霞って呼んでいいです」

「そっか、分かったぜ霞」

「…はい」

 

…白銀さんはリーディングしなくても分かるくらい嬉しそうに霞と呼んでくれました。

 

「流石ロリコンね。もう下の名前で呼ぶなんて」

「畜生ーーー」

 

・・・白銀さんはまた崩れ落ちてしまいました。ロリコンとはなんなのでしょう?

 

「それじゃ社はもう部屋に戻って休みなさい」

「…分かりました。…またね」

「おう、またな霞」

 

・・・白銀さんは不思議な人です。私が第3計画出身と知っているのに感情に怯えがありませんでした。

また話せるでしょうか?

 


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