Muv_Luv 白銀の未来     作:ケガ率18%

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今度発売される武御雷に99式電磁投射砲が付いてくると聞いて興奮が止まらない作者です。
あと、今年中に柴犬で登場したバラライカも発売されるみたいで今から発売されるのが楽しみです。



23話

―白銀side―

 

6月10日

 -帝国軍富士演習場-

 

ノルマは勝利。それも周りの口を黙らす程の完全な形で。

相手はXM3未搭載機の不知火。普通なら機体スペックの時点で結果の見えた勝負であった。

 

だが、いざ対面してみるとこちらの状況は悪くなっていた。

相手はXM3を積んでいない機体とはいえ、搭乗者が不知火でラプターを落としたあの沙霧中尉だ。ラプター落としと同一人物というわけではないが、決して気の抜ける相手じゃない。

さらに今は手元の武器が長刀一本という状況である。俺も武家の嫡男として幼い頃から剣術の訓練を行ってきたが、だからと言って月詠中尉とほぼ互角の腕前の持ち主相手に有利に立ち回れるほどの腕では無い。

XM3の向上した即応性も先程のカウンターを見る限り武器になりはしないだろう。このレベルの人になると速度差なんてのは、精々小手先程度のまやかしにしかならない。

 

まともに戦ったとして勝ち目は薄い。XM3を完全に活かした戦い(3次元機動のヒット&アウェー)を出来るならばまだしも、ああまで紳士然とされてはこちらとしても正々堂々と正面切って戦うしかない。

…腹を括るしかないか。

 

気持ちに整理をつけ敵を見据えると、両の手で刀を握って幼い頃から親しみ馴染んだ無幻鬼道流の構えを取る。自然と頭の中に余裕が生まれた。

こちらが構えを取ると、正面に見える不知火も構えを取った。

 

XM3未搭載機相手ならば即応性を活かした後の先、所謂カウンターが一番勝率が高いのだろうが、そのカウンターを決めるにはまず前提条件としてあの沙霧中尉相手に読みあいを勝たなければならない。だが俺はそういったことは師匠がアレ(紅蓮大将)なせいかイマイチ得意ではない。甘めに見積もっても4:6で俺が読み負けるだろう。

それでもやるしかないがな。

 

 

 

………ダッ!

 

2つの機体を中心に戦場が緊張感で包まれ、1分1秒が濃縮された空間として外部から離れた時、2つの機影は動き出した。

先に動いたのは俺だが、カウンター狙いの俺が先に動いたということは、それはつまり誘い出されたということだ。

 

迫りくる敵機の振りかぶった長刀の切っ先は、おそらく俺の攻撃よりも先にこちらへ届く。

だが、その攻撃を受け入れるわけにはいかない。

ここで俺が負けて沙霧中尉に今以上の肩書きが加わっては、起こすつもりのないクーデターも万が一ということが有りうるかもしれない。あんな事で貴重な国内の戦力を失いたくないし、何より斯衛として、そして幼馴染として悠陽を自分のせいで危険に晒す様な真似はしたくない。

 

誘い出された上、こうも距離が縮まってしまってはこちらで躱すのは不可能だが、ならば相手の攻撃を逸せばいいのだ。

「意識を集中しろ。こっから先一瞬たりとも気を抜くな」

そう自分に言い聞かせ、フゥと息を吐き出し両手で持っていた長刀から左手を離すと、その離した左手で頭上へと迫っている敵機の直刀を側面から弾いた。

普通の機体ならば迫ってくる刃に片手を当てたとして、装甲若しくは出力が足りずに差し出した腕ごと切り落とされるだけだっただろう。

全身刃の近接打撃戦闘特化である武御雷でしか出来ない芸当だ。結局、俺も武御雷の性能に頼ってしまった。

 

(!!?)

 

流石の沙霧中尉も振り下ろした長刀を腕で弾かれたことは無いようで、驚愕によって一瞬出来た硬直という俺にとって大きすぎる隙を突き、機体管制部へと長刀の刃を滑らした。

 

ビィ―――

 

『帝国軍部隊の全滅を確認。今回の模擬戦の結果は斯衛軍の勝利となりました。参加していた各機体の操縦者は機体をそれぞれ指定のドックへと戻して下さい』

 

最後の1機が落ちたことで模擬戦の終了を告げるアナウンスが告げられ、俺達の仕事は終了した。

 

『では隊長。模擬戦も終わったことですし、早速我々にされた妨害について本部へ報告しに行きましょう』

『………おう』

 

仕事は終わったが、問題事はまだ残っていたようだ。

 

 

 

―夕呼side―

 

6月10日

 -帝都城仙台離宮-

 

「副司令!富士の演習場は無事任務達成とのことです」

「ふぅ…そう、分かったと伝えておいて」

「了解です」

 

どうやら白銀の方は上手くやれたようね。

ピアティフからの報告を受けるまでもなく信用していたつもりだったが、(自分でも意外だが)思いのほか心配していたらしく、任務達成の報告を聞いた途端にため息を漏らしていた。

今回アタシが五摂家との会談に注意を傾けている隙を突かれてしまったので、自身に若干の負い目があったのも影響していたのだろうが、こんな様ではこれから行っていく事に耐えられないだろう。

しっかりしろ香月夕呼!例え白銀が代えがたい人物・兵士であっても、それを一切の感情を挟まずに捨てなければならないのがアタシの役目であり立場だろうに。

 

「副司令、会場の用意が整ったそうです」

「…あら?案外早かったわね。いいわ、行きましょう」

「大丈夫なのですか?」

「平気よ。今から相手する連中には負ける要素がないもの」

 

ピアティフの言葉で沈んでいた気持ちを現実へ引き戻すと、これから相手する化け物達の攻略へ思考を加速させていく。

 

 

 

「皆様、本日はお時間を割いていただきありがとうございます。早速ですが今日お呼びした内容について説明させていただきます」

 

五摂家の当主相手に失礼極まりない言い方だが、ちんたらと挨拶を交わす気などない。さっさと本題に移ろう。

 

「分かりました。其方が忙しい身というのはこちらも承知しております。この場は其方の好きなように進めるがよい」

「はっ!ありがとうございます」

 

不敬罪覚悟(受ける気なんて無いけど)で啖呵を切ったんだけど、この場の最上位者である煌武院殿下からお許しを頂けるとは予想してなかったわ。おかげでこの話し合いを進ませやすくなったのはいいけど、白銀が上手いこと言い含めていたのかしら?

 

「皆様をお呼びした理由ですが、現在本土防衛軍を中心として進められているクーデターに関することです」

「「「!!?」」」

 

あら?全員驚いているみたいだけど、もしかしてクーデターの事知らなかったのかしら。だったら惜しいことしたわね。交渉に使えたカードみすみす1枚失ってしまったわ。

 

「皆様お知りでなかった様ですので、一度整理も含めてこちらの書類をご覧下さい」

 

そう言ってピアティフに用意させた書類を配る。書類に書いてある内容は鎧衣の手によって裏取りまでさせたモノであり、書類にはその証拠まで事細かに記されていた。

 

「いきなりクーデターなどと申されたときには耳を疑ったが、その証拠たる物をこれまで示されては疑う余地がないな」

「斯衛の者までクーデターに加わっていたとは…我らの知らぬ間にここまで事を進ませられていたのか」

「陸軍は富士の基地責任者の名前まであるではないか!?」

 

上から崇宰恭子・斑鳩崇継・斎御司経盛の言葉だ。煌武院殿下と九条の2名も呆然と目の前に広げられた書類を見つめており、斯衛を纏める五摂家として相当な衝撃を受けているようだ。

まぁアメリカもクーデターに関しては驚くほど綿密に事運んでいたのだから無理もない。

最初は金に目を眩ませた一般兵士達を取り込んでいき、数がある程度揃った後は戦場で指揮を取るであろう軍の上位者達へ、上位者達にはクーデターが成功した後の権力と立場を約束し、それで靡かない者には現在BETAの脅威から唯一開放されているアメリカへの移住を餌に、慎重に慎重を重ねてその勢力を伸ばしていった。

 

「皆様納得していただけたようなので話の方を進めたいと思います。今回私から提案させていただくのはこのクーデターを利用しての、帝国のアメリカからの完全な独立です」

「独立…ですか?」

 

ふふん、そりゃ独立なんて話が出れば煌武院殿下は気が気ではないでしょうね。どこから見ても未来は負けしか残されてないような今の帝国の将軍様に、半ば無理やり座らされた身としては、この独立という言葉はたった一つ差し込んだ希望の光にも感じるでしょうね。

 

「はい。このクーデターの名目は殿下の立場を今の飾りではなく、元いた場所である政治の中心へ戻すこととなっております」

「なるほど、その名目がある限りクーデター側の目標は殿下が最上位者となる。それを利用するのだな香月女史?」

「はい、途中まではクーデター側、即ちアメリカが描く通りに事を進めさせ、アメリカ軍が介入する段階でクーデターの主力を無力化することが出来たならば、今帝国を裏で操りアメリカとの蜜月を過ごしている者達を一掃し、以前の殿下主導による帝国本来の政治へと戻れます。出来ればこのクーデターを今年中、遅くとも来年の春までにはこちらの手によって引き起こすことを提案します」

 

さてこれが問題だ。今であればクーデターを未然に防ぐことも出来るが、それを敢えて起こそうというのだ。アメリカの支配から逃れられるというのは魅力的だろう。しかし、その為に殿下の身を危険に晒すことが出来るかと問われて首を縦に振るような者はここにはいない。煌武院殿下が自ら申し出ない限りこの案が通ることはないだろう。だが、記憶通りの悠陽殿下ならば乗ってくるはず。

 

「香月博士、貴女のその案は我が日の本の将来を思っての意見なのでしょうか?」

「悠陽!?気は確かなのか?」

「恭子殿、我ら五摂家帝国の為に身を犠牲とするに何の躊躇いがありましょう?」

「だが悠陽の身を危険に晒すことなど私は容認できない!もう一度よく考え直せ」

 

今のところ表立って反対しているのは崇宰のご当主だけのようだけど、全員腹の中は似たようなものでしょう。その証拠にアレだけ崇宰が声を荒げているのに、誰も止めようと動いてないものね。

殿下本人はやる気みたいだけれど、これは無理かしら?

 

「香月博士のことです。もう既に色々と手は打ってあるのでしょう?」

 

アタシが新たなカードを切ろうかと考え始めた頃、崇宰と言い争っていた殿下からアタシへ会話が飛んできた。殿下ってば意外とこういう場に慣れているのね。協力していけば上手いことこの場を纏められそうだわ。

 

「はっ、決行するのであれば殿下の身を第一に考え、万が一にもその身に危険が迫ることの無いよう万全を尽くしてあります」

「ふむ、ではその策とやらの一つでも示してもらおうか」

 

斑鳩も乗ってきたか。どうやら斑鳩だけはこのクーデターに賛成してもいいってスタンスのようね。殿下によって作られたこのチャンス、ここで切るカード次第でクーデター案が潰れるかどうかが決まることになるでしょう。となるとここは出来るだけ強いカードを切るべきなんだけど、将来のことも考えてここは白銀の名前に賭けてみようかしら。ダメだったら追加でカード切ればいいだけだし。

 

「はっ、まず前提としてクーデターの中心にこちらの駒として斯衛軍派遣部隊の白銀剣中尉を配置し、クーデター実行時に煌武院殿下との接触をこちら側で操る手筈となっております。また、白銀中尉は先のXM3発案者としてだけでなく衛士としての腕前もありますので、万が一クーデター側から刃を向けられるようなことになったとしても、身代わりなどの策を弄するよりも殿下の身の安全を保証できます」

「白銀か…確かにあ奴の腕前ならば例えラプターに中隊単位で襲われようとも、悠陽殿下を守り抜くことなど容易であろう。それに確か白銀は煌武院家に属する家であったな。ならば裏切りの可能性も少ないと見ていいか」

「斑鳩様は白銀中尉と面識がおありで?」

「あぁ、XM3の教習をしていた時に少しやりあってな。あの時は何も出来ずにやられたよ」

「むむむ、斑鳩様を負かす腕前ならば…」

「白銀が警護に付くというのであれば俺はこの作戦賛成だ。いい加減アメリカの監視も煩わしく感じてきたしな」

 

白銀のパイプとやらを試すのにいい機会だから名前を出してみたが、まさか五摂家当主とまでパイプを作っているとはね。これから白銀のことはもうちょっとだけ丁寧に使っていきましょ。

 

五摂家の中でも殿下に次いで発言力のある斑鳩が賛成に回ったことにより、難色を示していた他の五摂家当主達もアタシの提案したクーデター案に理解を示し始め、残る反対派は煌武院殿下のことを妹のように可愛がってきた崇宰恭子だけとなった。

 

「………では以上が私からの提案となります。納得いただけたでしょうか?」

「悠陽は本当にそれでいいんだな?」

「ええ、とうに覚悟は出来ておりますわ恭子様。それに心配なさらずとも白銀は幼少の頃より私の期待に応えなかったことなどありません。ですから今回も私のことを見事守り抜いてくれることでしょう」

「悠陽がそこまで言うならば私も従おう。だが私直属の警護部隊から信頼の置ける者を悠陽の傍に控えさせるのが条件だ。このくらいは飲んでくれるよな?」

 

崇宰の口調自体は穏やかだが、こちらを睨むその瞳からは恨みの篭った視線がアタシに飛んできた。どうやらアタシは今日一日でかなり崇宰に嫌われてしまったようね。

この提案、殿下の安全の為に護衛の兵士を増やそうにも斯衛軍内部との繋がりを持たぬアタシにしてみれば、信用の置ける兵を向こうから用意してくれるのは助かる。勿論用意された兵士が裏切らないよう事前に確認を取ることになるが、こちらで一から兵を用意する労力を考えればどちらが楽かなど比べるまでもない。

 

「はい、こちらからもお願いいたします」

「では香月博士。我々五摂家は貴女の提案に乗りましょう」

「はっ、ありがとうございます」

 

これで国内の準備は大方整ったわ。後はAL5の老人共を暴走させた隙に、こちらでクーデターの舵を奪い取ってしまえばこの案件はほぼ完了ね。




九条家当主の下の名前が分からなかった…自分で考えてもそれらしい名前が思い浮かばず、モブキャラのような扱いに…そんなに出てくることも無いから、モブキャラといえばそうだけど…

※白銀:悠陽の安全を考えてクーデターは起こしたくない。
 夕呼:クーデター起こしてさっさとAL5からの妨害を取っ払いたい。
 ここら辺は立場の違いによる齟齬になります。ですが意見がぶつかった場合白銀が折れるので、両者の間で意見の齟齬が起きても問題になるようなことはありません。



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