―白銀side―
1月29日
-シミュレーター室-
あの後記録用のメモリを貰い忘れていたため再び夕呼先生の部屋に赴き、案の定待ち構えていた夕呼先生から見事弄り倒され、精神的にかなり疲れたもののなんとか変態機動を熟してデータを収集していった。
それにしても、やはり斯衛装備を着込んでいるためだろうか、シミュレーターから出て休憩していると、彼方此方から睨むような視線が突き刺さる。この基地にいる斯衛は俺1人だけなので、基地の人間としては余計に異物感があるようだ。月詠さんが3バカと何時も一緒にいた理由もこれか?いやあの人に限ってそれは無いか。
視線は嫌になるくらい浴びたものの、AL5側からの妨害などのアクシデントは起こらず、順調に作業は進んでいった。
2月5日
-夕呼執務室-
短時間の変態機動に体が慣れ始めた頃、夕呼先生からXM3用のCPUが完成したと連絡が入り、俺は急いで執務室へと向かった。
「白銀剣中尉入ります」
夕呼先生は気分悪くなるだろうが、誰が見ているか分からないので、入るときだけは確りとした挨拶をしておいた。一応俺も斯衛として来てる身だしな。流石にこの間のようにノックも無しに入るのは拙いだろう。
「そういうのいらないっていってるでしょ?」
「誰が見てるかも分からないですし、入るときくらいは許してくださいよ」
「
「流石夕呼先生、仕事が速いっすね」
「もっと褒めてもいいのよ?」
「後は俺のデータ打ち込むだけですか?」
「………」
なんか難しい顔してんなーあれか?言われたとおりもっと褒めなきゃいけないのか?
「わー流石だなー天才の名は伊達じゃないなー…こんなとこでいいすか?」
「…はぁ、アンタじゃ出てきてその程度か。まぁいいわ、シミュレーター室貸しきったから今日中にデータ取りきるわよ」
うげっ、予想してたけど一日篭りっきりか…朝飯抜いておいて良かった。昨日のは…消化されてることを祈ろう。
「が、頑張ります…あれ?そういや霞はどこです?帰ってきてから見てないような」
「何?本当にロリコンにでもなったの?」
「なんでいないこと気にしただけでロリコン認定されなきゃいけないんですか!」
「ちょっとした冗談じゃない。これくらい受け流しなさいよ」
「そのちょっとした冗談のお陰で、昨日ピアティフ中尉から『人の好みは其々ですが、白銀中尉の趣向は直したほうが宜しいかと』なんて言われたんですけど?」
「アタシ、ロリコン云々なんてピアティフに言ってないわよ?」
「えっ?」
………
……
…
「もしかして盗聴されたんですか?」
「それは無いわね。もし万が一聞かれてるとしても、今日まで手を打たないなんて温いこと、AL5派の連中がするわけ無いじゃない」
「じゃあ誰から洩れたんだ?このままじゃ勝手に周りからロリコン認定されてしまう。それだけは避けねば!」
「まぁそれは置いといて、さっさとデータ取るわよ」
「いや置いておかないで!調査しましょうよ!つか、俺の人権に係わる一大事を『それ』扱いはやめて!」
「はいはい」
夕呼先生は嫌がる俺の襟首を掴むと、そのまま引きずりながら俺をシミュレーター室まで連行した。
それなりにデカイ俺を引きずる力を1日中机に噛り付いてる夕呼先生が持っているとは驚いたが、よく考えると向こうの世界でも嫌がるまりもちゃんを片腕でよく連れ去っていたのを思い出した。傍から見たら今の連れ去られてる俺も、あの時のまりもちゃんのように映っているのだろう。
2月5日夜
-シミュレーター室-
「とりあえずこれで終了よ。あとは実機に搭載してバグや、足りない部分とかを埋めてく作業だから、暫く休みにしていいわよ。って聞いてる?」
「え、ええ。なんとか生きてますよ。ハハハ」
あぶねえ、気がついたら辺り一面お花畑だったことが何回かあったぞ。
よくこんな動きして平気でいられるなシロガネタケル。尊敬するよ。自分もなりたいとは思わないけど。
「それじゃ俺帰りますね。失礼しました」
「あっ、うん。気をつけなさいよ。本当」
-横浜基地白銀自室-
シミュレーター室からなんとか無事自室にたどり着く。今日一日食事を摂っていないが、今食べたら間違いなく吐くので、すきっ腹は我慢して寝るとしよう。
そう思ってドアを開けると、部屋には鯖の味噌煮定食を用意して待っていた霞がいた。これは…アカン!!
「…白銀さんお帰りなさい。京塚曹長から今日は食事してないと聞いて、記憶でこれを食べていたので持ってきました。…迷惑でしたか?」
「そ、そうか態々持ってきてくれて有難うな霞。迷惑なもんか!」
「…そうですか。(ズイ)はい、あーん」
やっぱりきた『はい、アーン攻撃』。出来ることなら避けたかった。もしこれが夕呼先生にでもバレたら、きっとどこに行ってもロリコンの名が付き纏うことになるだろう。それを避けるためにも普段は食堂が開くと同時に飯を食っていたりしたのだが…
「…やっぱり、嫌、ですか?」
「い、嫌なもんか。ちょっと嬉しくて動けずにいただけだよ」
アカン。記憶より1年近く幼い分、涙目になられるとどうしようもない。…やっぱりロリコンなのかな~俺。
「…そう、ですか?」
「おう!ただし、俺にアーンしたことは誰にも言っちゃいけないぞ」
「…ダメ、なんですか?」
「うん、場合によっちゃ(社会的に)死ぬ可能性があるからね」
「…分かりました、白銀さん」
うんうん、あとは無事これを食べきれば一件落着だな。
…食べきる?この体で?
「…では、はいアーン」
悪夢はまだ終わって無かったようだ。頑張れ、俺の体!
2月7日
-横浜基地地下戦術機演習場-
昨日一日でなんとか体の調子は取り戻したものの、本調子には未だ遠く及ばない体で実機練習を行う。
どうやら夕呼先生にとっての暫くとは一日らしい。夕呼先生の抱えてる仕事量を考えると分からないでもないが、できることならもう少し休みたいのが本音だ。
それにしても、朝からXM3の試作を搭載した不知火(武御雷は運用するだけでも基地内部で目立ち過ぎるため)で数々のアクロバット機動、もとい変態機動を熟していったが、どうにもシロガネタケルが目指したであろうバルジャーノンの動きとは違和感を覚える。
「やっぱし、機体が流れちまうんだよな~でも記憶ではこのまま戦っていたし、これで完成ということにしていいのか?」
記憶上だが、確実に戦果を上げるモノに仕上がっていたし、これ以上記憶を頼りに弄ったとして、今の状態から悪化する可能性もある。
仕方ないが今感じてる違和感は胸の内に留めておいたほうが良さそうだ。
Pi-Pi-Pi
俺が次の動作に移ろうと機体に精神を張り巡らしている途中、機体データの計測を行っていた夕呼先生から通信が入った。
「こちら白銀、何かそちらで問題でも確認しましたか?」
「そんなんじゃないわよ。アンタが今呟いていたことについて確認を取りたいの」
「呟いたって、さっきのは単なる違和感みたいなもので、今のXM3に不備や不満なんてありませんよ」
「つまり、その違和感が取り除ければ更に上を目指せるってことでしょ?取り敢えず話すだけ話してみなさい」
「でも夕呼先生には他の仕事だってあるじゃないですか。これ以上XM3に時間を費やしていいんですか?」
「そのくらい問題ないわよ。それに色々組み込むモノだってあるわけだし」
「組み込むモノ?」
この人また何かやらかすつもりなのか?未来を見据えての事なんだろうけど、少しは協調する姿勢でも見せて帝国のことも気遣って欲しい。そんな調子だから魔女とか、横浜の女狐なんて呼ばれるんだ。
「アンタは気にしないでいいわ。一旦こっちに戻って、その違和感とやらについて話してみなさい」
「了解っす」
-演習場管制室-
今まで動かしていた不知火から降りて、4時間振りの大地を感じながら夕呼先生の待つ管制室に入ると、夕呼先生の持つカップからコーヒーモドキ特有の香りが鼻をくすぐった。
どうやらピアティフ中尉と2人で計測していたようで、カップ片手に佇む夕呼先生の後ろでは忙しそうにデータをチェックしているピアティフ中尉の姿もあった。
「取り敢えずお疲れ様」
「どうもです。ピアティフ中尉もお疲れ様です」
「白銀中尉の方こそお疲れ様です。戦術機であのような動きが出来るなんて驚きました」
ピアティフ中尉にも挨拶をすると、隈のある顔を輝かせて俺の機動を褒めてくれた。
アレ?俺の機動を初対面で褒めてくれたのって今回のピアティフさんが初めてじゃね?やっぱ夕呼先生みたいな人の下で働いてる分、人間が出来ているんだろうな~
「ちょっと失礼なこと考えてないかしら?」
「そんなことないですよ?ところでXM3の完成まであとどれくらいですかね?」
「記憶と同じレベルでいいならこれで調整が終われば完成するわ」
「そうっすか。だから時間大丈夫なんすね」
「そういうこと。だからさっさと違和感について話しなさい」
「了解です」
………
……
…
「つまり合間合間で機体が流れてしまい、再現したくとも出来ない動きがあるというわけね」
「はい、無理にしようとすると間違いなく転倒しますね。一応動きのイメージ的なものは掴めているんですが、どうしても軸が流れるんですよ」
「まぁ戦術機も人と同じ動きが出来るって言っても、それは無理やり人型に収めたからであって構造的なズレはあるものね」
「どうにかなりますかね?」
「結論から言うと無理ね。この問題はOS側で制御出来るレベルじゃないわ」
「そうですか…ならこれでXM3はかn「だから新型を作りましょ」成ですね。って、えぇ!!?」
「なによ。男なら新型機とか普通好きなんじゃないの?」
「そりゃ、そうっすけど…」
いきなり何言い出すんだこの人は?新型って言ってもどこに開発費用がある…あるな~AL4計画って名前が付けばいくらでも出てくる魔法の泉が。
「いい白銀?これはちゃんと意味があることなの」
「ホントデスカ~?」
「なによ疑っちゃって。新型はね、XM3専用機として世界に発表するのよ」
「XM3専用機ですか?でも今から新型開発始めても、完成する頃にはXM3は世界中に広まっていますよ?まさか新型が出来るまでXM3出さない気なんすか?」
「それは考え方が違うわよ。勿論XM3は用意が整い次第世界に発表するわよ?ピアティフ」
ここで夕呼先生が呼びかけると、後ろに控えていたピアティフ中尉が管制室から出ていき、ここからは2人だけの話し合いとなった。
「そういえば今までの内容はピアティフ中尉に聞かれても良かったんですか?」
「別に構わないわ。未来の記憶を知った時点であの子の上は潰したから。今のあの子はAL4というかアタシ直属よ」
「ああ~なるほど、そうでしたか。この間の盗聴されたかもしれないって時に、落ち着いてたのはそういう理由だったんですね」
そういやスパイだった頃には頼めなかった仕事もプラスされているから、だからあんなに記憶と比べても無茶な仕事量があったんですね。
ピアティフ中尉…ご愁傷様です。
「でもここからは未来の話よ。だから出て行って貰ったの。ピアティフに頼んだ仕事は他にもあるしね」
「ハハハ、(本当に鬼だこの人)」
「私たちが作る新型はXFJ-01。通称不知火二型だったかしら?それを作るわ」
「それって予定では日本がアメリカと共同で作ったという奴ですよね。まぁ記憶でイメージある分開発期間は短くて済みそうですね」
「今度HI-MAERF計画の連中との会議があって、そこでYF-23貰う手筈になっているから、アンタの予想以上に早く済むわよ」
そういや凄乃皇って元々はHI-MAERF計画のものだっけか。つか
「まぁ会議の時期が早くなるのは理解できるんすが、なんでブラックウィドウまで貰うことになってんすか?」
「だって
「そんなゲームみたいなこと言って。一応鉄屑扱いされているとは言え、何かしら対価を払うことになったんじゃ?」
「安心しなさい。アンタの機動データを見せたら、XM3の優先配布の約束だけで済んだわ」
「マジっすか!?いやでも、まぁあの動きを見たらそれなりに魅力はあるのか?でも、アメリカに渡すってクーデターはどうすんすか?」
「とりあえず起きても大丈夫なように手は打ってあるわよ。そもそもAL5なんてクーデター引き起こす頃には息すらしてないでしょうけど」
おおぅ、悪い顔してんな~まぁ聞かされた予定を実行したら、AL5派もAL反対派も自分が生き延びることで精一杯だろうけどさ。つか新型開発の為だけにブラックウィドウ引き取るのかよ!!
「あっそうそう!アンタも向こうのもので欲しいものあるなら言って見なさい。はっきり言ってYF-23だけじゃお釣りが来る状態なのよ」
「!それならちょうど欲しいのがあるんですよ」
この際だ、ついでにアレも頼もう。これで益々変態機動に磨きがかかるぜ。そして俺の体にも負担がかかるぜ。
楽しみにしていただいてる方には申し訳ありませんが、仕事の方が今年から今までと部署など色々と異なるため、落ち着いて執筆するまでもう暫く掛かります。すみません。
あと、今年の(今年も?)ageさんのエイプリルフール企画はかなり精神を持ってかれますね……というより、全体的に狂気染みすぎてませんかね?……
ゲームもステージクリアする度にあのトラウマが掘り起こされる演出ってさ………
一度Game Over画面見たら、これクリアしない方がいいんじゃね?って思いましたよ…