Muv_Luv 白銀の未来     作:ケガ率18%

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7話

―香月side―

 

2月17日

 -夕呼執務室-

 

現在部屋には私以外には誰も居らず、また入ってくることも無いだろう。

そして私の前にあるモニターにはアメリカとソビエトの反オルタネイティブ5派の重役が映っていた。

 

「では交渉成立ですね」

『ああ勿論だ。寧ろ私たちの用意したモノなど、そちらの『奇跡のOS』に比べればなんてことはないさ』

「ですが、あくまで海外先行配布であることをお忘れないよう。お願いしますね?」

『分かっているさ。しかしこのXM3だったか?この機動概念を構築したという衛士はまさに人類の希望だな。出来ればその英雄にも会ってみたいものだが…』

「申し訳ありません。その者は現在出向している身であって、私から指示を出せるわけではないので」

『いや、君を責めてるわけではないぞ!君はこのOSが日本に独占される事を防いだのだ。私達からしたら君には感謝しかないよ』

『そうだぞ。これが一国に独占されてもしたら人類にとって大いなる損失だった。そうならなかったのは全て君の働きのお陰だ』

「そう言っていただけると私としても有り難いですね」

『あ~すまないが時間だ。出来れば私達の女神ともうしばらく話していたいところだが、申し訳ない。依頼されたモノは3月までにはそちらに届いてるよう手配しよう』

『こちらも3月までには横浜に届くよう指示している。なんだったらリボンもお付けするが如何かな?』

「リボンとは有り難いですわ。ではこちらも配布準備が出来次第そちらに届けさせていただきます」

『ああ、だがそちらは時間がかかるのだろう?こちらとしては急がなくとも結構だぞ?時間がかかる分出来もよくなっているだろうしな』

『そうですな。あれだけの革新を与えるOS、こちらとしても受け入れ準備が必要ですから』

「ありがとうございます。今年中にはそちらに渡せるよう進めておりますので、後しばらくお待ちください」

『分かった。こちらもそのように準備をしよう』

『今年中に渡されるというならこちらもリボンをつけて送るよう、部下に指示しておきます。それでは私はここで失礼させていただきます』

『そちらが下がるのに私だけお話しするのもあれですな。それでは私も失礼させていただきます』

「はい、今日はお二人ともお忙しい中、お時間いただきありがとうございました。では私も失礼します」

 

 

 

ふぅ~疲れた。タヌキ共の前で笑顔を作るというのは、何度となくあったがどうしても慣れない。

だがこれでXM3に関しては最高のカードの切り方を出来ただろう。あとは送られてくるモノの受け入れ態勢を整え、白銀の立場をこちらでも確立させるだけだ。

しかし、XM3がもう完成するとはね…記憶でも早かったけど。それにしてもこんな簡単なOSすら今まで作れずにいたなんて、これじゃ人類がBETAにも負けるのも当然ね。

 

-Pi-Pi-Pi-

 

おや?さっきのタヌキが何か用でも思い出したか?

 

「こちら香月」

『白銀です。いま時間ありますか?』

 

なんだ白銀か、どうせ大した内容じゃないだろう。

 

「大丈夫よ~何?XM3の試験終わったの?」

『ええ、特別仕様の方も終わりましたよ。どれも異常は見受けられませんでした。今ピアティフ中尉がデータをまとめてますんで、あとでそちらでも確認お願いします』

「分かったわ~それじゃ明日新しい指示出すから、今日のところは休んでいいわよ」

『了解っす。それじゃお疲れ様です』

「はい、お疲れ~」

 

本当にどうでもいい内容だったわね。おかげで気が削がれちゃったじゃない。仕方ないわね、私も少し寝るとしましょ。

 

 

 

―伊隅side―

 

2月17日

 -夕呼執務室-

 

なんなのだ、この様子は…

 

昨夜最近漸く立ち直った速瀬を集中的に扱いてる最中に副司令から連絡を受け、今朝方副司令の執務室へ出頭したのだが…私は現在執務室でお茶を啜っていた。

副司令の指示が突然なのは何時もの事なので、指示された時は慌てることも無く答えることが出来たのだが、部屋に来てお茶を出されるなど今までで初めてのことだったので、いい加減頭の中がパニックになりそうだ。

どうやら用意されたのは合成緑茶のようだが、香りどころか合成緑茶特有の不味さすら今の私は感じることが出来なくなっていた。

 

「ごめんね~伊隅。もう暫くしたらアイツも来ると思うから、それまで待ってて」

「は、はぁ、了解しました」

「伊隅ぃ~いつも言ってるけど、その堅苦しい言葉使いどうにかなんないの?」

「私の上司なのですから諦めてください」

「そんなんだとアンタの好きだって人、他人に取られるわよ?」

 

なっ!?この人はどこまで私のことを知っているのだ?

 

「大丈夫です。そう簡単に誰かに靡くならここまで苦労してませんから」

「ふ~ん、まぁ頑張りなさい」

 

誰に言われなくとも頑張りますとも。と言うよりアイツに少しでも女心が理解できる頭があればこんな苦労してないっての!!

 

「ちなみに今から来る奴ね、アンタの思い人と同じくらいの鈍感よ?」

「ほぅ、そうですか。ですが私には関係ありませんよ?」

 

正樹のことってか鈍感だってことまで知ってんのかよ!相変わらず底の知れない方だな。

 

「いやね?もし万が一、アンタがそいつにムカつく様な事があったら殴ってもいいわよ?勿論これ副司令命令ね」

「いえ、そのような配慮は結構です」

 

たかが鈍感くらいで苛立つようなでは特務部隊の隊長なんて勤まるか。

 

コンッコンッ

 

「おっ!どうやら来たようね。白銀入っていいわよ~」

 

ふむ、どうやら私がこれから会うのは白銀というのか。聞かん名だな、最近来たという斯衛軍の者か?

 

「白銀剣中尉入ります」

 

執務室に入ってきたのは身に纏う雰囲気がベテランなのに対し、どうにも若い男というより少年が似合う人物だった。

どうやらこの人物が副司令が会わせたかった者らしく、私に挨拶するように副司令が笑顔で促してくる。

 

「こちら香月副司令直属特務部隊所属、伊隅みちる大尉だ。以後よろしく」

「斯衛軍第一派遣部隊所属、白銀剣中尉です。よろしくお願いします」

 

どうやら中身は普通の人物らしい。副司令が紹介するような人間なので、どっかがぶっ飛んでいるような人物像を想像していたが、それは杞憂で済んだようだ。

 

「相変わらず挨拶は硬っいわね~そんなんで肩凝らないの?」

「お言葉ですが副司令、貴女の方が「こっちが普通なんです。夕呼先生の方が可笑しいんすよ」っ、え?」

「あっ、ほらこんな調子で話したら伊隅大尉黙っちゃったじゃないですか」

「これは伊隅の耐性が低かっただけの気もするけどね。伊隅~戻ってきなさい」

 

この隣にいる人間は何を言っているんだ?いや言葉遣いもだが、向こうに座っている今話している人物が誰だか分からないのか?この基地の副司令だぞ、副司令。

魔女や女狐なんて二つ名を聞いたことが無いのか?まぁ私としてはそんな二つ名では、この人を表すには物足りないと思っているが、そうだな魔王あたりが適当なのではないか。

 

「伊隅戻って来なさい!」

「痛っ、って魔王!」

「なるほどね~、アンタが私のことをどう思っていたのか漸く理解出来たわ」

「いえ、決してそう思っているわけでは無いんです」

「伊隅大尉そんな慌てなくても大丈夫ですよ。別にあの人に酷いこと言っても、流石に命までは取られませんから」

「あら白銀、アンタ死にたかったの?気づかなくてごめんね~」

「いえ、決してそのようなことは思っておりません!!」

「もう遅い、天誅!」

「あべしっ!」

 

 

 

副司令が投げた辞書が当たって白銀中尉が潰れたことにより、漸く話の流れがまともな方向に戻った。

 

「お二人とも、もう話を脱線することの無い様お願いしますよ」

「はい」

「なによ~ちょっとした遊びじゃない。このくらい笑ってやり過ごしなさいよ」

「副司令?」

「失礼しました」

 

素直に引き下がっている様子から、どうやら反省はしているようだ。

一応はこの基地の副司令なのだから遊ぶにしてもこのような場でなく、もっと別の私的な機会にしてもらいたいものだ。

 

「それで私を呼んだ用とは何なのですか?」

「そこにいる白銀が明日からアンタ達A-01連隊の教導に入るから、それの顔合わせと打ち合わせのために呼んだのよ」

 

へっ!?斯衛から教導?しかし白銀はまだ若い、それこそ新兵を変わらないくらいだ。そのような者から教導か、副司令のことだから理由があるのだろうが、速瀬辺りが五月蝿くなりそうだな。

 

「ちょっ、俺聞いてないっすよ!?」

 

おい、ちょっと待て。それはどういうことだ?

 

「だって今話したもの。ああ伊隅、白銀はこっち側だからA-01の機密とか話しても大丈夫よ」

「そうっすか…そういや、これがいつもの事でしたね…はぁ」

 

なるほど、口の利き方はなってないが、白銀も苦労をしてるのだな。

 

「白銀、お前も苦労してるのだな」

「ありがとうございます。ですが、伊隅大尉はこれをもう1年も前からですよね?尊敬しますよ本当」

「なに苦労に月日は関係ないさ。同じ苦労をしてる者同士、これからも頑張っていこうじゃないか」

「はい!」

 

斯衛服を着た者が暴言など言ったときには驚いたが、この苦労を味わっているのであれば仕方ないだろう。私も配属された当初は副司令と会話する度に、文句の一つや二つは影で言っていたからな。

 

「あんたらね~本人の前でいい度胸じゃない。思うことが無いわけじゃないけどいいわ。これが明日からA-01連隊が受ける内容よ」

 

少しばかりの愚痴だ。何より副司令が口調が硬い硬い言っていたのだ、これくらいは言わせてもらってもいいだろう。

渡された書類に目を通すと、どうやら新開発のOSへの慣熟訓練らしい。

 

「副司令質問よろしいでしょうか?」

「ま~た口調が硬くなった。まぁ伊隅ならもう乗ってこないか。いいわよ質問してみなさい」

「『伊隅なら』という部分が気にはなりますが…XM3という新OSの慣熟は理解できましたが、書かれている新たな機動の想像が出来ないのです」

「それは織り込み済みよ。それを解消するために白銀に教導させるの。こいつがそのOSの機動概念を生み出したのだからね」

「白銀中尉がですか!?」

「ええ、ですけど作り上げたのは副司令ですから。副司令がいなければ出来上がってないですよ」

「でも白銀がいなければ出来なかったのも確かよ。アンタはもう少しOSの製作者であることを意識しなさい」

「うぇ~そういうの苦手なんですけどね。そうすべきってことは理解してますから、もう少しだけ時間下さい」

 

確かにこれから身を預ける戦術機の、それも心臓部ともいうべきOSの製作者があやふやなのでは、衛士としてはとてもではないが信用できんしな。

 

「とりあえずシミュレーター室はアタシ名義で借りといたから、そこで今日一日事前に打ち合わせしときなさい」

「「了解」」

 

 

―速瀬side―

 

2月18日

 -A-01連隊ブリーフィングルーム-

 

昨日は久々に伊隅隊長の扱きが無く、ここ暫く無い程心身ともにすっきりした状態でブリーフィングルームに集まれた。

だが、現れた伊隅大尉の様子は私とは正反対で、まるで出撃後の様なとても疲れた様子で部屋にやってきた。また副司令から厄介な命令でも受けたのだろうか?

 

「全体、敬礼!」

 

私が疲れた様子の伊隅隊長に気を取られていると、副隊長の副島中尉から号令がかかる。

 

「A-01第9中隊欠員ありません」

「すまない、遅れてしまったな」

「いえ、こちらは結構です。それよりどうやらお疲れのようで、何かあったのですか?」

「ああ、本日から貴様らが受けることになる教導内容を昨日1日受けたのだが…これが中々に厳しいものでな。久しぶりに神宮寺教官に扱かれた訓練兵時代を思い出したよ」

 

「「えっ?」」

 

A-01連隊に所属する全員訓練兵時代の担当教官が神宮寺教官なので、その恐ろしさというものは骨の髄まで染み付いている。

中でも一際厳しく扱かれたと言われる伊隅隊長がそんなことを言い出すので、ある1人を除く部隊全員が思わず数歩後ずさりしていた。

というか、遙はなんでこんな衝撃発言を聞かされて何でのほほんと立っていられるのよ?

 

「隊長、質問よろしいでしょうか?」

「副島か、構わん許可する」

「大尉が教導を受けたというのであれば、今日からの教導は外部の人間が教導官としてやってくるということでしょうか?」

「ああ、そうなる。だがソイツは我々A-01のことも、携わっているオルタネイティブ計画も知っている人間だ。特に隠す必要は無い」

 

へ~なんかスッゴイ奴がいるもんね~。私は未だに計画のけの字も知らされてないってのに、その上私たちに教導出来る位戦術機の腕もあるなんて、一体どんな人間なのよ。

 

「了解です。ですが我々の計画を知っているとなると、余程立場のある方なんですかね」

「なんだ副島?気になって仕方ないみたいだな」

「そりゃ気になりますよ。大体私達に教導出来るくらい腕のある人自体そうはいませんよ?」

「ハイ!ハイ!大尉私も気になります。やっぱりアレですかね。歴戦の凄腕みたいな感じのおっさんなんですか?」

「小林、いくら男のほうが先に戦場に出てるとはいえ、凄腕全員が男とは限らんぞ?神宮寺教官だって凄腕だっただろう」

「それはそうですけど、やっぱり凄腕って言ったら普通は顔に切り傷のある渋~いおっさんイメージしちゃいますよ」

 

私も小林先輩の意見に同意だ。神宮寺教官の場合は狂犬なんて渾名の通り人外の化物ってイメージが強くて、凄腕っていう感じじゃないし…

 

「さっきから黙っているが、速瀬と涼宮は聞きたいことなどはないのか?」

「え~と、それじゃ一番気になったことを一つ。大尉が潰れた訓練の内容を知りたいんですけど、聞いても大丈夫ですかね?」

「まぁ別に話しても構わないが…逃げるなよ?」

「そんな大尉、逃げるだなんて大げさな「聞いても逃げずに訓練を受けれたならば、私はお前のことを尊敬するぞ」…そんなにヤバイんですか?」

「ああ、今までの戦術機が子供の玩具に思えてくる程にはな。どうする?まだ聞く気は残っているか?」

 

突撃前衛ならここで引くわけにはいかない。たとえ後悔が待っていようと前進あるのみだ。

 

「はい、大丈「待て速瀬。私が駄目だ」えぇ~」

「私もちょっと苦手かな~と…」

「遙まで~」

 

副島中尉、副隊長なのだからもう少し威厳を持ってくださいよ…実戦になると本当に凄い人なんだけどな~

遙は自分のことなら根性あるくせに、他人の痛い話とかになるとまるで駄目だから予想はしてた。適正検査の時だって受けた私より見てただけの遙のほうが青い顔してたし。

 

「涼宮がこの調子では仕方ないな。内容は午後の訓練までお楽しみだな」

「今日からなんですか?いつもの事ながら急ですね。あと涼宮だけが考慮されるというのはどういうことですか?」

「お前の場合は心配するだけ無駄だからだ。本来ならば朝一からの予定だったが、あちらの用で午後に変更になった」

「大尉は私にもう少し愛情向けるべきだと私は愚考します」

「まさに愚考だな」

「………」

「他に何かあるか?」

 

とりあえず中尉は放っておくらしい。

 

「ハイハイ、大尉。午後から訓練ってことは、私達の命は今日の午前までって事ですね?あぁお母さん、若き身空でいく不幸をお許しください」

「ちょっと待て小林。なんで訓練を受けるだけで死ぬことになるんだ?」

「そりゃ化物の大尉が潰れるような訓練ですよ。か弱い私達が受けたら死んじゃいますよ。ねー水月?」

「そうですね。って何言わすんですか!?」

 

大尉が化物ってのには同意するけど、だからって私まで巻き込まないで下さいよ!はぁ~大尉がとってもご機嫌だ~

 

「ほほーう。どうやらお前たち2人は私が受けた以上の扱きが望みのようだな。よろしい、訓練のときに私から先方に伝えておこう」

「…ありがとうございます」

 




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