魔法科高校の劣等生―先祖返りの祖龍―   作:正親町三条

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入学編Ⅰ

 

 

 

 

 

 

 

 

私―東陽華(あずまはるか)は胸に花の刺繍をあしらった制服を着て一高の門をくぐり抜けた。今日は記念すべき入学式である。

 

 

だが、2000年代初頭とは全く異なる光景が広がっていた。

 

 

当時と言えば入学式、卒業式には親が参列して子供の勇姿をカメラに収める光景をここかしこで見る事が出来た。

 

 

しかしこれは会場を無駄に広げる行為であり準備に時間がかかる―と言うのは建前であり本当は式を開催するに当たって充分な敷地が建設当時に確保出来なかった事が原因である―ため学校の敷地内には新入生と生徒会委員、教職員の姿を確認するに留まっている。

 

 

代わりに、と言ってはアレだが各家庭の端末に式の様子をリアルタイムで生放送する事で対処している。

 

 

さて、余裕を見て1時間弱早めに到着したわけだが会場はまだ開いていないようであった。

その為、私は近くのベンチに腰掛けて読書を始めた。

 

 

 

 

体感として30分程度が過ぎただろうか、確か開場は30分前からだったなと思い端末から目を離したその瞬間、私は―正確には私達は、だが―声を掛けられた。

 

 

「新入生ですね?開場の時間ですよ」

 

 

顔を上げるとそこには小柄な女性が立っていた。胸には花の刺繍があしらわれており、私と同じ一科生である事が見て取れた。

 

 

私が席を立とうとしたその瞬間、隣のベンチで私と同じように本を読んでいた―とは言っても現在では電子書籍が世間に広く流通しており彼はスクリーン型端末で読んでいたようだ―男が立ち上がり、

 

「ありがとうございます。すぐに行きます」

 

と一声挨拶をした。

 

 

胸に花の刺繍がない事は二科生を意味する、彼に遅ればせながら私も

 

 

「お声掛け頂き感謝します。」

 

と軽く会釈をしながら挨拶をした。

 

 

すると彼女は

 

「スクリーン型に紙書籍ですか、お二方共に感心ですね」

 

と言った。

 

 

世間に出回る電子書籍端末にはスクリーン型と仮想ディスプレイ型の2種類が存在するのだが一高では仮想型の使用は禁止されている。

 

 

しかし、私は紙書籍のページをめくる時の感触などに惹かれて電子書籍は使用していない。

 

また一般に仮想型は読書に不向きであるとされているため私は基本使用しない事にしている。

 

 

これに関しては彼も同意見であったようで

 

「仮想型は読書に不向きですので」

 

とあっさりとした返事をするに留めた。

 

 

すると彼女ははっとした表情を浮かべた後に

 

 

「申し遅れました。私は第一高校の生徒会長を務めています、七草真由美です。」

 

 

と自己紹介をした。

 

 

私はそれに続いて、

 

「私は東陽華と申します」

 

と簡潔に済ませた。

 

 

すると隣の男が

 

「俺、いえ、自分は、司波達也です」

 

と述べた。

 

 

会長は少し驚いた表情を浮かべて、

 

「東陽華さんに司波達也くん…そう、あなた達が…」

 

と何やら意味ありげに頷いた。

 

 

私は彼はまだしもどうして自分が生徒会長に名前を覚えられているのか疑問に思ったのだが次の一言でなるほど、と理解した。

 

 

「先生方の間では、あなた達の噂で持ちきりよ。

入学試験筆記、7科目平均96点で筆記主席の司波達也くん、それに7科目平均92点で筆記次席に加えて実技全体3位、総合でも次席の東陽華さん、2人とも前代未聞の高得点だって」

 

 

私はぽかんと口を開けて会長が言った言葉を理解出来ないでいた。

 

そもそも私は一高を高望みして受けた身なのである。元々実技はそこそこ自信があったものの筆記の点数が芳しい成績では無かった私は金沢の第三高校を受験、運良く受かったので試しに受けてみよう、といった程度の実力しか持ち合わせがないはずであった。

 

 

きっと採点ミスだろう、と思いながら隣にいた達也が立ち去るのを見て慌てて会長にお辞儀をしてその場を後にした。

 

 

30分前、つまり開場と同時に席を立った私であったが七草会長と話し込んでしまったせいで会場に着いた頃には席が半分弱埋まっていた。

 

 

一見無秩序に座っている生徒達であったが彼らはある規則に従って座っていた。

 

つまり、一科生が前半分、二科生が後ろ半分に座っていたのであった。

 

 

一科生と二科生の一番の違いは授業形態にある。

 

一科生に対しては一般の学校のように対人での授業となるが、二科生に対しては教師は付かない。全て映像による授業である。東〇ハイスクールのような授業形態、といえば少しは分かり易くなるだろうか。

 

 

この国の魔法教育に平等の2文字は存在しない。徹底的なまでの才能主義、多感な思春期の少年少女にはあまりにも残酷なまでの実力主義。

 

余裕がないの一言で片付けられてしまうこの方針によって、この学校には入学した当初から優等生(一科生)劣等生(二科生)が存在する。

 

 

(これどっちもどっちだよね…二科生としてはあんまり目立つと一科生に何をされるか分からないって思ってる人も多いだろうし…でもだからと言って一科生が後ろに行くのも後で何か言われそうだし…)

 

 

しかし、一高に通う生徒の中にも一定数は私と同じ考えを持つ生徒が居るだろう(というかそう信じたい)が、私にとって一科生、二科生といった括りはさして重要ではない。

 

 

例えば普通科の高校に通ったとして、自分が学年主席若しくはそれに次ぐような順位を常に取っているような生徒であったとしよう。

その時、自分は成績が低い生徒を見下すような態度を取るだろうか?

 

少なくとも私の答えは否である。他人と交友を持つ時に重要視されるのは成績だろうか?それよりも自分と同じ趣味を持っていたり話をしていて面白い人だったり…それ以外にも沢山あるだろうが、そのような人物を友と呼ぶのではないだろうか。というか、成績だけで人間を判断するような人間を友と呼びたくはない。

 

そりゃもちろん成績の良い人間どうしで仲良くする事もあるだろう、しかしそれがイコールとして成績の悪い人間を排除したり蔑視する事に繋がるとは思えないのである。

 

 

先ほど本を読んでいた彼、司波達也は後ろの方に席を取ったようだ。私も仕方なく暗黙の規則に従って、前半分の中でも前から数列目、といったところに席を取った。

 

 

―本当は私は彼と話したい。しかし、この学校に入学すると決めた時から私は兄妹とは初対面の体でいる事と決意した。いや、そうしなければならなかった。―

 

 

会場内でも充分な明るさが確保されていたので、私はさっきの本の続きを読む事にした。

 

 

この学校に私の知り合いはいない。もし居たとしても顔がだいぶ変わったので名前を呼ばれない限りは気付かれないだろう。

 

 

私は第二次性徴が少し遅れて来たので小学校卒業までは童顔だったのだが、国立の中学校を受験して入学してから急激に顔や身長、身体つきに変化が訪れた。

 

 

そのため、地元で友達とすれ違っても声を掛けられる事はなくなってしまった。べ、別にぼっちだったとかじゃないんだからねっ

 

と、否定しているのかしていないのか分からないような事を言っていると、不意に

 

「すみません、お隣、良いですか?」

 

と、声を掛けられた。

 

 

「はい、構いませんよ」

 

なるべく普通に返答をしたつもりなのだが声が上ずっていたりはしなかっただろうか、という私の不安をよそに彼女たちは私の隣に腰掛けた。

 

 

「あの…私、光井ほのかって言います。それでこっちが…」

 

「北山雫」

 

なんと自己紹介をされた。ぼっちではない人達はこうして友達を増やしていくのか…と1人驚嘆していたが、ふと我に返って

 

「東陽華です、宜しくね」

 

と、ひとまず差しさわりのない返答をした。

 

 

いったいぜんたい何をどう宜しくするのかは私にも分からないが相手もそれについては何も言ってこない辺り私の杞憂なのだろう。

 

 

入学式はつつがなく終わり―とは言っても新入生総代として壇上に上がった深雪は答辞でかなり際どいフレーズを盛り込んでおり少し心配になったが―IDカードの交付のため、私達は窓口へと足を向けた。

 

 

ここでは学内用カードにデータを書き込む事で自分のクラスが分かる仕組みになっているのだが…

 

「私A組だ、雫と陽華さんは?」

 

「私も」

 

「私もA組だ、同じだね」

 

 

初日から何やら不思議な縁である。

 

 

ちなみに新入生総代の深雪もA組である、どうやら楽しい高校生活が送れそうだ。

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