今回はセレーン以外に新たな登場人物が出てきます。
今か今かと待ちわびた日。今日は魔法学校に必要な物を買いに行くのだ。迎えに来たハグリッドという大男に多少びびったが、話しているうちに心優しいひとだとわかった。
「もう一人迎えに行かなきゃなんねぇ。ちょいと付き合ってくれるか?」
「はい、もちろんです」
すぐ近くとのことでハグリッドとセレーンは街中を歩いていたが、かなり目立っていた。大男と美少女なのだ。さらに大男の一歩が大きいため、少女は小走りにならざるをえない。不思議な組み合わせに違いない。
「ここだ。ちょっくら待っちょれ」
30分後、別の孤児院に到着した。ハグリッドはにこにことセレーンを振り返り、のしのしと孤児院に入っていった。ハグリッドの近いという感覚をセレーンは疑っていた。セレーンの場合はほぼ走り通しだったため疲労が甚だしい。息を整えて改めて孤児院の外を味わう。セレーンにはすべてが新鮮で刺激的であった。
「サム、おめぇさんと一緒に買い物に行くセレーンだ。セレーン、こっちはサム」
「こんにちは、サム」
セレーンはハグリッドが連れてきた少年に微笑みかけた。少年は美しい金髪に青い瞳の、まるでどこかのプリンスのような高貴な雰囲気と整った顔立ちをしていた。
「よろしく、セレーン」
サムはセレーンに笑いかける。まるで天使みたいとセレーンは思った。それに同じく孤児院出身ということもあり、仲良くなれそうだと期待した。
ダイアゴン横丁はもっと刺激的でセレーンは興奮していた。何も見逃したくない。その想いで必死に辺りを見回す。サムも同じような状態だ。そんな二人にハグリッドは度々迷子にならないよう注意しなければならなかった。そして制服の採寸が終わった二人はとうとう憧れの杖を手に入れた。百合樹にマーメイドの髪、23.5㎝、しなやかで振りやすい杖をセレーンは手に入れた。一方、サムはイチイの木にセストラルの尾、26㎝、強く硬い杖を得た。二人は杖の入った袋を持ち上げては互いににやにやしていた。
「ほれ、これはうめぇーぞ」
「わぁー!美味しそう!」
すべての買い物が終わり、ハグリッドはアイスを買ってきて二人に食べさせてくれた。今まで食べたことのないような不思議な味だったが、甘くて濃厚でセレーンは何度もハグリッドにお礼を言った。ハグリッドは照れながら、早く食べるよう急かす。サムはそれを横目にもくもくと食べ進めていく。セレーンは楽しくて嬉しくて仕方がなかった。初めての世界で知らないことは多いが、サムもいるおかげで心細くない。早く学校に行きたい。その気持ちだけだった。
9と4分の3番線?セレーンは困っていた。駅に到着して知ったが、そんなホームはない。一生懸命に周囲をぐるぐると探していると、名前を呼ばれた。
「セレーン!」
「サム!よかった!」
サムに出会ったセレーンはほっとした。一人じゃないから何とかできると思った。案の定、サムはハグリッドに切符をもらってからすぐに気づいたらしい。9と4分の3番線は普通のホームにはないということを。そしてハグリッドにしっかり聞いてきたとのことだった。ハグリッドも行き方を伝え忘れるとはうっかりさんである。ダイアゴン横丁に行ったときも普通の行き方ではなかったのだから、自分から気づいて当然か。セレーンは自分の想像力の欠如を感じた。
「着いてきて」
サムはすぐにセレーンを連れて正しいホームへ向かった。壁に突撃していくという試練を乗り越えてたどり着いた先にはたくさんの魔法使いがいた。真紅の汽車が蒸気をあげて出発を待っている。あちこちでフクロウが飛んでおり、魔法が使われている。ひとに何度もぶつかりそうになりながらサムに手伝ってもらって汽車に乗り込んだ。早めに乗車したおかげで空いているコンパートメントを見つけられた。落ち着いたところでセレーンはサムに話しかけた。
「わくわくするね」
「そうだね。教科書も全部読んだよ。すごく面白かった」
「わたしも読んだわ。特に知りたいのは呪文学の---」
「それは---」
大いに盛り上がるなか、汽車が動き始めた。しかし二人は熱中しておりまったく気づかない。しばらくして車内販売もあったが、二人とも何も買うことなく話し続けた。再びコンパートメントの戸が開くと、ふわふわの栗色の髪の少女がいた。
「ねぇ、ネビルのカエルを探してるんだけど、あなたたち知らない?」
「さあ?」
「ごめんなさい、知らないわ」
二人は同時に答えた。少女は二人の格好を見て助言した。
「あなたたち、着替えたほうがいいわよ。あなた、よかったら私のコンパートメントで着替える?」
少女は親切にセレーンに提案した。セレーンはありがたくその提案を受けることにした。
「ありがとう。サム、またあとで」
「ああ」
少女の名前はハーマイオニー・グレンジャーで、彼女も魔法使いの一族ではないそうだ。俗にマグル出身というらしい。彼女も教科書を読み込んでいてセレーンと大いに盛り上がった。二人は互いに親友になれそうな予感がしていた。まもなく到着ということで、後で会うことを約束してセレーンはサムの元へと戻った。
「イッチ年生はこっち!さあ、イッチ年生!」
ハグリッドを見つけてセレーンとサムを微笑みあった。二人とも彼が大好きなのだ。ハグリッドの号令で到着したホグワーツ城はすごいの一言に収まらない。
「セレーン!」
「ハーマイオニー!」
人混みのなか、互いを見つけた二人は手を握り合って不安を和らげる。セレーンの反対の手はすでにサムが塞いでいたが、これでセレーンは完全に落ち着いた。
「やぁ、ハーマイオニー」
「よろしくね、サム」
サムとハーマイオニーは二人ともセレーンからすでに紹介を受けていた。自然な形で友達になれるような雰囲気である。さっそく仲良しができてセレーンはさらにわくわくしていた。
大広間に圧倒されながら、噂の組分けが行われる。名前順なので、セレーンは最後のほうだ。ただ古い魔法の帽子をかぶるだけと知ってハーマイオニーは安心していた。マクゴナガルが名前を読み上げていくなか、ハーマイオニーはグリフィンドールに入った。彼女の念願だけあってセレーンは喜ぶと同時に自分もグリフィンドールがいいと思った。そして何とあのハリー・ポッターの名が呼ばれたのだ。セレーンは彼がホグワーツに入学するなどとは知らずにかなり驚いた。一方のサムは皆が噂をしていたので知っていた。むしろあんなに周りが噂していたのにどうして気づかないかがサムには不思議であった。しかし、そういう噂を一切聞いていない、興味がないところがセレーンのいいところかもしれない。ハリー・ポッターはハーマイオニーとおなじグリフィンドールだった。そしてサムはグリフィンドール。セレーンはますますグリフィンドール以外には入りたくないと感じた。とうとうセレーンの番が来た。
「ウォーターフォード、セレーン」
緊張気味に前へ出て椅子に座る。帽子をかぶせられる瞬間、サムとハーマイオニーが励ますようにほほえんでいるのが見えた。そして視界が覆われる。
「うーん。難しい。また難しいぞ」
突然の声にぴくっとなった。
「素晴らしい。頭がとても良い。学びへの意欲もかなりある。レイブンクローでも良い。しかし非常に優しい。心が美しい。なんとも慈悲に満ちあふれている。ハッフルパフでもうまくやれる。スリザリンは向いていないな、狡猾さがない。グリフィンドールは」
「グリフィンドールがいい」
セレーンは帽子に言った。グリフィンドールには友達がいるのだ。
「ほう、グリフィンドールとな?しかし友達がいるというだけで自分の輝ける可能性を鑑みないのはどうかな?グリフィンドールは勇気あるものが上手くやれる。君に勇気がないとは言わない。しかし最も良いかと聞かれるとそうではない。むしろ頭の良さと優しさのほうが上だ」
「勇気…」
セレーンはつぶやいた。勇気、わたしには一番遠い言葉だ。マリアにいじめられてもやめてほしいと言えなかった。自分の力を人前で発揮して気持ち悪がられるのが怖くて助けられなかった動物もいた。わたしにはない。勇気なんてない。サムやハーマイオニーとは違う。わたしは…わたしはそれでもグリフィンドールがいい。
「…それでもグリフィンドールに行きたいの、帽子さん。わたしはどうしてもダメなの?勇気を出して強くなりたい。自分の気持ちをはっきり言える勇気がほしい。人を助ける勇気がほしい。わたしは、わたしは友達がいるだけじゃない!勇気を知りたいの!もう頭の良さも優しさも持ってるんでしょ?なら、勇気がほしいの!」
「素晴らしい!素晴らしい‼︎いいぞ、君はグリフィンドールで最も輝くかもしれん。よし、グリフィンドール!!!」
帽子は大声で言った。セレーンは帽子を取ってもらい、歓声を上げるグリフィンドールの席へ小走りに進んだ。サムとハーマイオニーも口々におめでとうと言い、一緒になれたことを喜び合った。セレーンは夢を見ているようで幸せだった。
寮ではハーマイオニーと同室というこれまた夢のようなことが起こった。次の日からの授業に備えて早めにベッドに入ったが、なかなか眠れそうにない。ごそごそと取り出した教科書はすでに内容を暗記してしまったが、読み返すことで眠気に襲われてやっと眠ることができた。ハーマイオニーはセレーンのその姿を見てますます親近感が湧いた。出会ってすぐにこんなに仲良くなれるなんて本当によかった。ハーマイオニーはこっそり笑って眠りに就いた。
初めて授業は目まぐるしく、面白かった。どの授業もサム、セレーン、ハーマイオニーが得点をどんどん稼いでいた。そんなセレーンには不満があった。
「サムはどうしてわたしたちと一緒に移動しないのかな?友達なのに」
サムはハリー・ポッターと同室で仲良くなったらしく、彼とロン・ウィーズリーという男の子と三人で過ごしているのだ。
「朝食は隣だったけれど、その後はそうね…。でも、男の子同士でいたいのかもしれないわ。わたしたちとじゃ、両方女の子じゃない?やっぱり居づらいんだわ、きっと」
「そうかなぁ。わたしは気にしないけどなぁ」
ハーマイオニーが宥めてもまだぷりぷりしており、すぐにでもサムを問い詰めに行く勢いである。セレーンとしては自分のほうが、ハリーよりも先にサムと仲良くなったという自負があるのだ。すぐに終わる話し合いになるわけがない。そんなことをしていては次の魔法薬学に間に合わない。ハーマイオニーはセレーンを引っ張って授業に向かった。
「ああ、左様、ハリー・ポッター。我らが新しい…スターだね」
スネイプ教授の嫌らしい発言で楽しみだった魔法薬学が台無しである。さらにハリーに意地悪な集中攻撃を開始してただでさえスリザリンと合同授業で憂鬱なのに、教授さえも人格の疑われる者だなんてこの授業が嫌になる。セレーンはため息をついた。
「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になるか?」
「ベアゾール石を見つけて来いと言われたら、どこを探すかね?」
「モンクスフードとウルフスベーンの違いは何だね?」
「チッチッ、有名なだけでどうにもならんな」
サムがすべての質問の答えを小声で教えるが、ハリーがそれを復唱する前に質問の答えをスネイプが述べてハリーを貶す。その繰り返しである。ハーマイオニーの挙手も見事に無視するのだから、それくらいの意地悪をやってのけるのはスネイプにとって簡単だろう。その後もハリーは不条理な減点を受けた。セレーン、サム、ハーマイオニーは確実に完璧な魔法薬を完成させたが、スネイプはちらとのぞいて鼻を鳴らしただけだった。セレーンはこの授業が本当に大嫌いになっていた。
「サム!」
夕食の時間にセレーンはサムの隣に座った。
「セレーン、授業はどうだった?」
「本当に最高だったわ!でも、魔法薬学だけは最低!大嫌い!」
「「スネイプの野郎か?」」
突然二重に話しかけられた。振り向くと、赤毛の双子がいた。
「ロンのお兄さんたちだよ」
「フレッドと」
「ジョージさ」
サムの紹介に合わせて双子が交互に話した。そっくりだけど、やっぱりよく見ると違うんだ。セレーンはひそかに見分けられていた。
「スネイプは諦めろ」
「いつものことさ」
「グリフィンには特に厳しい」
「減点の嵐さ」
「「あいつの授業から得点しようなんて期待するな」」
息ぴったりの二人はウィンクして去っていった。セレーンはくすくす笑いながら、サムを横目で見た。サムも面白そうに笑っている。セレーンは食事に戻ると自分の気持ちを言うことにした。
「わたし、サムと仲良しになれたから授業とかいろいろ一緒にできるかなって思ってたの」
「ああ、そうだね。僕もハリーやロンに聞いてみたんだ。君とハーマイオニーも一緒にいていいかって。あいつらは気にしないって言ってた。だけど、君たちは女の子だ。男三人といることを嫌がるかもしれないと思ったんだ。」
サムの言葉にセレーンは微笑んだ。
「ううん。気にしないわ。わたしはサムたちと一緒にいたい。友達はたくさんいたほうが楽しいよ」
「そうか」
サムは嬉しそうに笑った。
こうして結果的にセレーンとハーマイオニーはサムとハリー、ロンの三人と共に過ごすことになる。