ハリー・ポッターと滅びゆく一族の末裔   作:水湖 玲

23 / 29
真の女王

ヘンリーとパトリックの2人からの手紙の内容を要約すると、エレンが馬脚を露わした。セレナの無実は証明された。早く戻っておいて。というものだった。そしてこの手紙を読み終えたときにメイドが呼びに来た。

 

「セレナ様、ホグワーツへご出発の時間です。フルーパウダーをお使いくださいとのことです」

 

すでに準備されたトランクをメイドが引っ張ってきていた。シレーヌが寂しそうにこちらを見ている。

 

「わたしも行きたい」

「あなたは2年後だわ。また、クリスマスには戻るから」

 

シレーヌは渋々といった表情でお見送りしてくれる。そんなシレーヌがセレナはたまらなく愛おしい。

 

「たくさん手紙送るわ。約束ね」

「絶対だよ!行ってらっしゃい」

 

メイドはその間に先にトランクを送ってくれた。セレナは名残惜しくシレーヌを優しく撫でていたが、メイドに急かされてしまった。大人しく暖炉の前へ向かい、フルーパウダーで移動しようとする。

 

「セレナ!」

「どうしたの?」

 

突然声をあげたシレーヌを振り向いた。

 

「忘れないで。能力を使ってうまく生き抜いて。次に何かあれば母上はきっとセレナを退学させるわ」

 

不安そうなシレーヌ。幼いシレーヌがここまで大人びなければならなくなった。それはこの環境のせい。そして頼りない私のせい。絶対に次は失敗しない。

 

「大丈夫よ、シレーヌ。ありがとう」

 

 

ホグワーツに戻ってすぐに校長から謝罪を受けた。校長室から出ると、ヘンリーとパトリックが迎えに来てくれていた。

 

「おかしいと思ったんだ。君ほどの才能があれば、エレンはあの程度のケガでは済まないからね。それに簡単に犯人が君とわかるようにはしないだろう」

 

出会って早々にパトリックは得意げに言った。ヘンリーもそれに続く。

 

「君はあっという間に家へ帰されてしまった。余りにも事が迅速すぎる。何かあるなと思ったよ」

「そしたら、退院後のエレンがやけにヘンリーにくっついてくる。そこで僕らはセレナの無実を確信しているという話題ばかりしたんだ」

「パトリックと来たらすごかったよ。いつも以上の性格の悪さを発揮してた。エレンが如何に自分は酷いことをされたかを語っても、すかさず片っ端から矛盾をついてね」

「一日中そんな調子で続けてたら、すぐに真実を吐いたよ。半ギレになりながら」

「『せっかくここまでしたのに何であの女のことばっかり話題にするの!どうして信じないのよ!』ってね」

 

セレナは2人が信用してくれていたことに感謝する反面、少し呆れてしまった。だが、そのおかげで寮へ向かう道中ですれ違う生徒たちはセレナに優しく声をかけてきてくれる。

 

「2人とも、ありがとう。こうして戻って来られてよかったわ」

「当たり前だ。親友なんだから」

「助け合って当然だ」

 

持つべきものは素晴らしい双子の友人である。セレナたちは会えなかった数日の話をしながらスリザリン寮の手前まで来た。名残惜しく2人と別れたセレナは寮へと足を踏み入れる。すると怯えた様子のナタリアが、同じく震え上がっている取り巻き達とともにセレナの前へ進み出た。

 

「セレナ様、お赦しを。わたしは、何て無礼なことを…」

 

真っ青なナタリアは声を震わせる。取り巻き達もそれに続いて口々に謝罪し始めた。ある者は跪き、ある者は床にへたり込んだ状態で。

 

「申し訳ありません!」

「どうか赦してください」

「何でもしますから!」

「貴女の望むままに致します」

 

陥れられる前のセレナなら優しい言葉をかけ、逆に気を遣わせてしまったことを詫びただろう。そして友達としてやり直す提案をしただろう。しかし今は違う。相手の地位や権力によって態度を変える輩にうんざりし、嫌悪を覚えている。私がもし彼らの思っていたようにマグル出身者だったならば、無実が証明されたところで蔑まれて再び陥れられただろう。

 

「スリザリン生は全員知ってしまったようですが、これ以上私が王族であることを広めることは禁じます。そして全員、私に必要以上に関わらないように」

「はい、仰せのままに!」

「畏まりました!」

 

セレナはこれまで使ったことのない、恐ろしいほど冷たい声で命じた。セレナ自身も驚いてしまうほど母に似た冷酷な声である。しかしセレナの瞳は怒りや混乱といった感情を隠しきれていない。完璧に表情をコントロールし切っている現女王である母とは違い、そこは未熟さが滲み出てしまっている。それでも若いスリザリン生たちには十分に恐ろしいものであった。これ以来スリザリン生はセレナを崇め、畏れるようになる。

 

 

エレンは焦っていた。王族のナタリアを味方に付けたにもかかわらず、彼女は戻ってきてしまった。こっそりナタリアに接触を図り、次の計画を聞こうとした。だがナタリアは彼女の名を聞くや否や怯えた表情になり、彼女にはもう何もするつもりはないと聞かされただけだ。あのナタリアが怯えている!彼女は一体何をしたのだ?もしかしたら次は自分かもしれない。どうしよう…。どうしよう。3日間悩み抜いた末にエレンは結論を出した。

 

 

「ごめんなさい、セレナ!本当はあんなことしたくなかったの!でも、でもナタリアに命令されて…従うしか、なかったの…!」

 

言葉を詰まらせ、泣き出すところまで完璧に演じ切った。お優しいセレナなら泣き落とせばいいのだ。なぜ思いつかなかったんだろう。目の前で優しく微笑んでエレンの話を聞くセレナ。絶対許してくれる。このときエレン気づいていなかった。セレナの目が笑っていなかったことに。

 

「どうでもいいわ、エレン」

「…えっ?」

 

よかった。やっぱり許してくれる。エレンは涙ぐみながら顔を上げる。するとぞっとする美しさを放つセレナと目があった。エレンの背筋は凍りつく。セレナは確かに柔らかい微笑みを浮かべている。でも、何かが違う。何かおかしい。

 

「あなたはヘンリーの気を引きたくて私を陥れることにした。それが真実よ。そして真実がどうであれ一度裏切られた相手を簡単に信用できると思うの?もしあなたにそれができるなら、私達と一緒に今まで通り過ごせばいいわ。私はどうでもいいから」

 

それだけを言うと、セレナは彼女の前から歩き去った。エレンはしばらく立ち尽くし、セレナの言葉の意味を考えていた。

 

 

 

「で?あの子に何言われたの?」

 

パトリックがさっそく戻ってきたセレナに聞く。ヘンリーも教科書から目を上げて興味を示した。

 

「大した用じゃないわ。気にしないで。…ところであなたたち、私がいない間の勉強の方は大丈夫なの?」

「あぁ!助かるよ、セレナ!ちょうど魔法薬学でわからないところが!」

 

セレナがこれ以上話したがらないと察して、ヘンリーは待ってましたと言わんばかりに手に持っていた教科書を手渡した。パトリックも追求せずにヘンリーとともにセレナの講義を聞く姿勢を示す。私に何があっても、私がどう変わってしまってもこの2人はきっと受け入れてくれる。そう考えるだけでセレナにとっては大きな救いであった。

 

 

 

 

セレナはふと目を覚ます。あれからどれ程の月日が流れただろうか。そう、あれは幸せな学生時代。子供じみた嫌がらせの一つにさえも心を砕いていた。あの純粋で、スリザリン生を従えるのがやっとだった私はここまで残酷で冷徹になってしまった。すべてはこの国を守るため。国民の幸福を守るため。ひたすらに母のような女王であれと進み続けた。今の私は壮麗で、どこまでも冷たい宮殿の王座に腰掛ける呪われた人形と成り果てている。私はここから祈ることしかできない。どうか私の愛おしい娘が、孫が、あの薄汚いナルシストの異常者から危害を加えられないように。そして一刻も早くこの忌々しい束縛を解き、娘や孫をこの手で護れるように。

あぁ、願わくばあの頃に帰りたい…。




番外編、最終話でした。ここまでお付き合い頂きありがとうございます。次回からは本編に戻ります。アズカバンの囚人ですね。頑張りますので、ぜひ読んでください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。