初めての飛行の授業。ハーマイオニーは早口で教科書に書いてあったことをまくし立てる。セレーンはそんなハーマイオニーに言った。
「そんなに心配しなくてもあなたなら大丈夫よ」
「あぁ、セレーン。あなたは不安じゃないの?」
「わくわくしてるわ」
セレーンは、スリザリンとの合同授業は嫌だが、飛行が早く始まらないかと身を乗り出した。そんな様子にハーマイオニーは苦笑してサムのほうを見やった。彼はハリーたちと談笑している。結局セレーンとハーマイオニーは、サムたちと一緒に過ごしているようでそうでもないのだ。セレーンとサムは話すが、残りは違う。ハーマイオニーはセレーンとサムには特別な何かがあると感じていた。
「全員ほうきの横へ」
飛行術の教師であるフーチが指示した。一斉に動いた生徒に新たな指示を出す。
「手をほうきの上にかざして『上がれ』と言うのです」
あちらこちらで『上がれ』の声が上がった。セレーンは見事に一度で成功させた。ハーマイオニーはなかなか苦戦している。横目で周囲を確認したところ、苦戦している人が多い。セレーンは同じく一回で成功させたサムに微笑んだ。
ほうきにまたがるときに事件が起きた。ネビル・ロングボトムという小太りで鈍臭い男の子が操縦不能になって空へ飛びだしたのだ。セレーンは固唾をのんで見守りながら、助ける方法を必死に考えていた。そうしている間にネビルは上空から落下してしまう。セレーンは駆け出した。弾かれたようにフーチがあとを追う。
「ネビル!」
セレーンは一目でどこに怪我を負ったか察知した。本能的に癒すための力を出そうとした。
「どきなさい、ミス・ウォーターフォード」
フーチの声で我に帰り、あわててネビルから離れた。
「折れているわ。マダム・ポンプリーのところへ行きましょう。皆さん!…ミス・ウォーターフォード、どうしました?瞳の色が?あなたも怪我を?」
「何でも!ありません、先生!早くネビルを!」
「ああ、えぇ、皆さん、地上から一ミリも飛んではいけませんよ」
セレーンは自分の気味の悪い力をもう少しで使おうとしていたことを思い出し、自身をたしなめた。こんなにたくさんの人の前で…危なかった。
ハーマイオニーはとても怒っていた。セレーンが戸惑うほどだ。どうやらハリーがドラコ・マルフォイに挑発されてほうきに乗ったことで最年少クィディッチ選手になった上に、夜中にベッドを抜け出したそうだ。
「どうして教えてくれなかったの?サムもいたのよね?」
「えぇ、そうよ。あの三人よ!規則破りしてご褒美もらって調子に乗ってるのよ!」
「言ってくれたらわたしも一緒に怒ったのに」
セレーンはハーマイオニーが三人を叱るために夜中抜け出す結果になったことを少し羨ましいと感じていた。しかし間違ってもハーマイオニーにそんなことを言うわけにはいかない。ぷりぷり言っているハーマイオニーを横目に三頭犬見たかったなぁと思う犬好きのセレーンであった。セレーンはのんきだったが、ハーマイオニーはどうしても気に入らないようでこの日から形だけの五人組で移動することはなくなった。完全に分裂してしまった。
ハロウィンの日、セレーンは生まれて初めて人を叩いた。ロンがハーマイオニーに対して酷いことを言い放ったのだ。ハーマイオニーは泣きながらどこかへ走っていってしまったが、セレーンはロンに追いつくやいなや頬を平手打ちした。突然の出来事に唖然とした三人は立ち止まった。周囲も何事かと見ている。
「ロン・ウィズリー!訂正しなさい!ハーマイオニーが何ですって?」
いつも穏やかなセレーンの激しい剣幕にハリーとサムは密かに恐怖を覚えた。ロンも同じだったようで気圧されている。
「…えーっと…その…」
「最低だわ!」
何も答えられず口ごもるロンをきつくにらみつけた。そして
「あなたたちも同類よ!」
ハリーとサムもにらみつけてからハーマイオニーを追いかけた。
かなり探しまわってようやく女子トイレでハーマイオニーを見つけた。ハロウィンパーティーがとうの昔に始まっている。セレーンは初めてのハロウィンパーティーをハーマイオニーと過ごしたかった。
「ハーマイオニー?」
すすり泣く声をたどり、彼女がいるトイレの前に立ち止まる。
「いいの、セレーン…あ、あなたは、ハロウィンパーティー、にっ、行ってきて、ちょうだいっ」
「わたしは、あなたと過ごしたいのよ。ねぇ、ハーマイオニー。わたしはあなたを親友だと思ってるの。人生で初めてのハロウィンパーティーだもの。一番仲良しのひとと過ごしたほうがいいに決まってる。お願い、ハーマイオニー、一緒にパーティーを楽しみましょうよ?」
ハーマイオニーはセレーンの思いに胸を打たれていた。自分でもお節介だとわかっていたし、周りに疎まれていることもわかっていた。なぜ誰とでも仲の良いセレーンがハーマイオニーなんかと、と何度か陰口を叩かれていたのも知っている。自分が一人ぼっちになるのが可哀想だから一緒にいるのかしら?ハーマイオニーはそんなことを考えていた。しかしセレーンは本当にハーマイオニーが大好きで一緒にいるのだ。
「…ありがとう、セレーン」
ハーマイオニーは個室から出てきてセレーンに抱きついた。セレーンも優しく抱きしめ返す。この感動的なシーンに突然邪魔が入った。悪臭と奇妙な音に二人はそちらを見た。なんとトロールがいるではないか。ハーマイオニーは悲鳴をあげた。トロールは手にある棍棒で周囲のものを破壊しながら近づいてくる。セレーンはハーマイオニーの前に立ち、ハーマイオニーを守るように勇気を振り絞ってトロールを睨む。杖を出して棍棒を振り下ろすトロールに叫んだ。
「エクスペリアームス!武器よ去れ!」
棍棒がトロールの手からはねとんだ。トロールは不思議そうに自分の手を見る。
「セレーン!ハーマイオニー!」
そこにサム、ハリー、ロンが飛び込んできた。セレーンは三人を見て安堵しつつ次の呪文を叫んだ。
「ペトリフィカストタルス、石になれ!」
見事にセレーンの呪文がトロールの胸に当たった。トロールはその動きを完全に止めてしまった。五人全員が安堵した瞬間、トロールは再び動き始めた。完全に怒ったトロールは腕を振り上げてセレーンとハーマイオニーに襲いかかる。サムは二人の前へ走り出した。ハリーは大声でトロールをののしりながら瓦礫を投げつけて気を引こうとした。そしてロンは恐怖で顔を引きつらせながら手で見覚えのある動きを繰り返すハーマイオニーに気づいた。あれは何をしているんだ?ぴゅーんひょい?それはロンがハーマイオニーを泣かせるきっかけになった呪文の動きだった。
「ウィンガーディアムレビオーサ!」
ロンはセレーンが武装解除したトロールの棍棒を浮かせ、トロールの頭目掛けて落とした。ぼくっという音を立て棍棒がトロールの頭に思いっきりぶつかる。サムは万が一に備えてセレーンたちの前に立ちはだかっていた。頭を打たれたトロールは惚けた顔のままゆっくり倒れた。激しく床が揺れ、完全に振動が収まった後に五人は互いを見た。トロールを倒したことが信じられなかった。するとトイレに教師陣が飛び込んできた。そして倒れているトロールと五人の生徒たちを見て驚いた。
「あなたたち!何をしているのです!生徒は全員、寮に帰るよう指示したはずですが!」
「あの…」
マクゴナガルの厳しい言葉にセレーンは答えかけて押し黙った。事実を話せば、サムたち三人の心配して助けに来てくれた気持ちを無碍にすることになる。
「わたしです、先生。わたし、本をたくさん読んだので、トロールを倒せると思って、それで。セレーンたちが来てくれなかったらわたし、今ごろ死んでいました」
「ミス・グレンジャー、あなたはもう少し賢い人だと思っていましたよ」
ハーマイオニーが先生に嘘をついた。これはセレーンたち四人にとって衝撃であり、仲良し五人組誕生の合図でもあった。
トロールに対して金縛りをかけたにも関わらず動き出していますが、トロールのイメージとセレーンの魔法力の兼ね合いだと考えてください。