「鍵が飛んでる」
通路の先で見つけたのは、鍵の鳥だった。セレーンは幻想的な光景に少しうっとりしながらささやいた。
「ほうきだわ!きっとあそこのドアを開けるために飛んで捕まえる必要があるのよ」
「ハリー、君なら見つけられる。多分銀製の鍵だ」
ハーマイオニーの不安をサムは解決した。ハリーは何と言っても今世紀最年少のシーカーなのだ。4人の期待通りハリーはすぐに見つけた。
「あれだ!羽が片方だけ折れてる。きっとスネイプが捕まえたときに折ったんだよ」
「よし、みんなでハリーが取りやすいように追い込もう」
ロンとサムはさっそくほうきにまたがった。ハリーは飛び立つと同時に指示を出した。ロンは上からサムが下から追い込んだ。ハリーはいとも簡単鍵を捕まえてみせた。5人は歓声を上げながら次の部屋へ向かった。そこには大きなチェス盤があった。
「向こうへ行くにはチェスに勝つ必要があるみたいだ。僕たち5人が一つずつ駒にならなきゃいけないみたいだ」
ロンは考えを巡らせて見守る4人に言った。
「君たち、あまりチェスが得意じゃないだろ?気を悪くしないでほしい。ハリーはビショップ、ハーマイオニーはルーク、セレーンはクイーン、サムはキングとかわって。僕はナイトをする」
4人は頷いてそれぞれの駒と交代した。全員が持ち場についた途端、ゲームが開始した。ゲームはロンの指示通りに進む。互いに取って取られてを繰り返したが、ロンが優勢であった。4人は考え込むロンの次の指示を待った。
「みんな、聞いてくれ。僕が取られる。そしたらハリー、君はキングにチェックメイトをかけるんだ!いいね!」
「「「「 「ダメ!」」」」
4人は同時に叫んだ。しかしロンはきっぱりと言った。
「いいかい?スネイプが石をあの人に渡したらおしまいだ!スネイプを食い止めなくちゃいけないんだ!わかったね?行くよ…」
固唾を飲んで見守る中、ロンは相手の駒に殴りつけられて盤の外に飛ばされた。気絶しているようだった。ハリーはロンの言った通りにチェックメイトした。
「ロンは…」
「気絶してるだけだ。行こう」
4人は通路を進んだ。着いた先にはトロールが気絶していた。スネイプが倒したようだ。むかつく臭いに鼻を押さえてさらに先へ進む。そこにはテーブルがあり、その上に形の違う10個の瓶があった。入った途端に前後を炎でふさがれてしまう。ハーマイオニーは巻き紙を見つけてそれを読んだ。サムも傍から覗く。そして2人は顔を見合わせて笑った。
「大丈夫よ。楽勝だわ」
「論理問題だ」
余裕たっぷりの2人が解読し、先へ進む瓶と戻る瓶を見つけた。そこには先へ進むのが3つ、戻るのが1つあった。
「僕は進む」
ハリーは宣言した。ハーマイオニーは唇を震わして自分もと言いかけた。それより先にサムは進む方の瓶を手にして飲み干してしまった。
「サム!」
ハーマイオニーが悲鳴のような声を出した。セレーンはそんなハーマイオニーに突然抱きついた。
「お願い、ハーマイオニー。わたしに行かせて。どうしても知りたいの、母の行方を。あなたはロンの元へ戻ってそれからダンブルドアに知らせて」
「ああ、セレーン。あなた一人なら絶対に行かせなかったわ。でも、ハリーとサムが一緒だもの。待ってるわ。絶対帰ってきて」
「うん。絶対戻ってくる」
互いに決心がつき、瓶の中身を飲み干した。そしてハーマイオニーは戻っていき、3人は前へ進んだ。
「クィレル、やっぱり」
「スネイプじゃない⁉︎」
サムは自分の最終的な考えが正しかったことを知った。一方のハリーはスネイプかヴォルデモートがいるものだと思っており、驚いて口をパクパクさせた。クィレルに普段のおどおどした様子はなく冷たい笑みで3人を迎えた。
「ポッター、来ると思っていた。余計なのが2人いるが…」
パチンと指を鳴らしたクィレル。それを合図にどこからともなく現れた縄で3人は縛られた。
「この鏡に石が隠されている。それを見つけるまで待っていろ」
3人はそれがみぞの鏡だと気づいた。クィレルより先に石を見つけないと。3人の思いは同じだった。互いに目配せして行動に移った。
「僕たちはてっきりスネイプが犯人だと思ってました」
「ああ、やつはいい役回りをしてくれた」
サムはクィレルに話しかけた。ハリーはその間にこっそり自分がみぞの鏡に映る位置に移動する。セレーンは万が一のために持ってきたペンナイフを取り出すべく動いた。
「先生が誰かに脅されているのも聞きました。脅したのはスネイプだとばかり…」
「時にご主人様の命令に従えないこともある。わたしはあの方とは比べ物にならないくらい弱い存在だ…」
「まさか、あの場にあの人がいたんですか?」
「わたしの存在する場所のどこへでもあの方は共にいらっしゃる。わたしは若い頃バカな考えを持っていた。それを正してくださったのがヴォルデモート卿だ。わたしはあの方の下僕。あの方を失望させてしまうことは何度もあった。その度にあの方は愚かなわたしを厳しく罰された。……いったいどうなっている?どうやったら手に入る?ご主人様、どうか助けてください」
ハリーにはその会話の間に信じられないことが起こっていた。鏡の中の自分がウィンクしてポケットに燃えるように真っ赤な石を入れたのだ。するとポケットがずしりと重くなり、何か固いものが太ももに触れた。ハリーは石を手に入れてしまった。また、セレーンは縄を解いていた。こっそり杖を取り、サムの方へ身体をにじり寄らせた。サムの縄も解こうとしていたのだ。
「その子を使え…ポッターを使うんだ」
「ポッター、来い!」
クィレルは手を叩いてハリーの縄を解いた。そしてハリーを立たせて鏡の前へ押しやった。ハリーは困っていた。石はすでに手に入っている。とにかく何か嘘をつかなきゃ。
「何が見える?さあ言うんだ!」
「僕、あの」
「ステューピファイ!」
「エクスペリアームス!」
ハリーが嘘をつきかけたとき、セレーンと自由になったサムがクィレルに向けて呪文を放った。クィレルの杖はセレーンの手の中に入り、クィレル自身は気絶した。
「ハリー!」
「セレーン!サム!僕、手に入れたんだ。石を。鏡の中の僕が僕にくれたんだ。早くここを出よう!」
「よこせ…ハリー・ポッター…俺様にそれをよこせ」
まくし立てるハリーの背後から奇妙な高い声が聞こえてきた。倒れているクィレルからだ。クィレルがいつも身につけているターバンから聞こえるようだった。サムはハリーを庇うように立ち、クィレルに杖を向けた。セレーンもクィレルの方へ杖を向ける。するとセレーンはクィレルの杖を背後から奪われ、首に冷たい腕を回された。
「ハリー・ポッター…バカな真似はよせ…大切な友達を死なせたくはないだろう」
「セレーン!」
「セレーンを放せ!」
セレーンの背後には白い顔の蛇のような男が立っていた。否、ゴーストのように漂っていた。そのゴーストはヴォルデモートであった。身体を失ったためひとに寄生することでしか自分を保てないのだが、目の前にある賢者の石を手にいれるためにクィレルの身体から離れたのだ。セレーンの頭には杖が突きつけられており、ハリーとサムは身動きが取れない。
「さあどうする、ハリー・ポッター?…大切な友を見殺しにするか?」
「渡さないで、ハリー!ヴォルデモートの復活を防げるなら、わたしの命なんて軽いものだわ!」
「これは…これはなんと勇敢な…さてさて…では望み通りに…アバダケダブラ!」
ハリーの目の前にあの忌まわしい緑の閃光が広がった。サムは声にならない叫びをあげている。2人ともセレーンの身体が緑の閃光に包まれるのをただ見ているしかできなかった。セレーンは美しく強い顔のまま目をゆっくり閉じていた。そしてセレーンの身体は地面に横たわる。
「ハリー・ポッター…おまえのせいでこいつは死んだ…さあ石を俺様に寄こせ…そこのもう一人の友の死を見たくはないだろう?」
ハリーはあまりのショックで固まっていた頭を働かせた。こちらは2人だ。そして相手はゴーストのようなものだ。しかし魔法力の格は全く違う。そう思わせるだけの気迫があった。
「エクスペリアームス!」
突然ヴォルデモートの手から杖が飛んだ。
「3対1であなたには杖がないのよ?どうするつもり?」
「「セレーン??」」
そこにはセレーンが立っていた。セレーンが何事もなかったかのようにヴォルデモートに呪文を放ったのだ。唖然とする2人。そしてヴォルデモートは驚きのあまり固まっている。
「確かに呪文は…まさか……ローレライ…そうか、そうか!…気づかなかったぞ!おまえはローレライの娘か?」
「母を知ってるの?どこにいるの?」
セレーンは歓喜に満ちた表情のヴォルデモートを問いただした。ヴォルデモートはセレーンに触れようと手を伸ばしてきた。
「おまえの母は死んだ……よく見ると似ている…確かにあの女の」
「トム!!!」
もう少しでヴォルデモートが手を触れる、そのとき。激しい怒りのこもった声が響き渡った。お腹の底がびりびりと震えるようだった。その場にいたみんなは一斉に声の方を見た。ダンブルドアだった。セレーンは安堵のあまり膝から崩れ落ちそうになった。
「いずれ…また…」
「待て!トム!!」
ヴォルデモートはダンブルドアが現れたのを見てかき消えてしまった。立ち尽くす3人に対して、ダンブルドアの厳しい形相は優しく温かいものになる。
「大丈夫かの?怪我はないか?」
「先生、賢者の石です。お返しします」
ハリーは進み出てダンブルドアに石を渡した。サムはセレーンに走り寄って彼女を抱き寄せた。そしてダンブルドアをにらみつけて自分の考えをぶつけた。
「先生、わざとですね?先へ進む薬の瓶をわざと多めに用意しましたね?なぜですか?」
「その権利があるからじゃ」
ダンブルドアはサムに近づいた。
「君たちは他の誰よりもヴォルデモートと対峙する権利がある。ハリーは言うまでもない。セレーンはその能力を狙われている。サム、君は」
「僕は、僕の親はヴォルデモートに殺された。そして僕も殺す予定だった。そうでしょう?でも殺さなかった。ハリーと違うのはそこだ。ハリーのことは殺せなかった。僕のことは殺さなかった。生かしておいたんだ。その理由を知るべきなんだ。でも、やつは僕のことを少しも覚えていなかった。セレーンに至っては狙っている能力を持つ子だって知らなかったんだ!先生、あなたがやつに知らせた。ここに、まだその欲しがっていた力があるって!やつと会わなければやつは知らないままだった!」
サムは激しい怒りを爆発させた。ダンブルドアは守ってくれる人だと信じていたのに、裏切られたように感じた。
「聞きなさい、サム。やつは禁じられた森でセレーンを見たときにローレライだと思ったのじゃ。セレーンの髪は月の光に染まって銀色に見えたせいでの。そしてやつはローレライが生きてホグワーツにいると思い、クィレルに探させた。時間の問題だったんじゃ。わしはセレーンがわしの保護下にあるとやつに知らせると同時に、セレーンに自らが狙われていると自覚してもらいたかったのじゃ。よいか。セレーンの力が世に知れたならば、狙うのはヴォルデモートだけではない。この世のありとあらゆる種族、力を欲する愚か者すべてに狙われることになる。ヴォルデモートだけに知らせる方法を取るのが、最善だったのじゃ。やつならば誰にも奪われたくないと考える。セレーンはそれによって多くの危険から守られるのじゃ」
「ただ一つの例外はヴォルデモートです。セレーンを狙うのはヴォルデモート」
ハリーの心配にダンブルドアは答えた。
「そうじゃ。しかしやつはミスを犯した。じゃが、この話はまだ早い。時が来れば教えよう。今晩のところはもう眠るのじゃ。さあ医務室へ参ろう。友が心配して待っておる」
3人はダンブルドアとともに医務室へ向かった。3人ともいろんな意味でぼろぼろだった。医務室で真っ先にロンが眠り込んでいる姿を発見して3人はやっと落ち着いた。ハーマイオニーもその隣のベッドで眠っている。すっかり安心した3人はそれぞれベッドに横たわった。すぐに眠気に襲われ、マダム・ポンプリーの用意した睡眠薬の出番はなかった。
次で最終回です。今回はいろいろ詰め込みました。セレーンとサムにはハリー並みに秘密が隠されています。お楽しみに。