不器用な彼の物語   作:ふぁっと

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第21話 「鬼退治」開始

 

 

 

日本の古来より

 

陰として在った神

 

 

その闇はどこまでも深く―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先陣は切らせてもらうぞ」

 

 まず俺が先に飛び出した。

 

 

――開宴「二拝二拍一拝」

 

 

 空中戦が多いので改良を加えたこのスペカ。岩の手ではなく、空間圧縮系へと変えて左右から押し潰す形にしている。なので、形が見えない分避けようにも大きく動かないとならないと思うが―――

 

『飛び込んできたか!』

『裕也!』

『あぁ!』

 

 事前に装備していたお馴染みの鉄の輪を両手に持ち、俺もまた特攻する。

 

 

―――銀ッ!

 

 

 腕に繋がれた鎖を振り回して攻撃してきた。予想外の攻撃に受けることで難を逃れるが―――

 

 

――酔神「鬼縛りの術」

 

 

 そこでスペカが発動した。振り回されて絡まった鎖が蛇のように蠢き、更に巻き付いてくる。

 

「う、おぉぉぉっ!?」

 

 引き寄せられてから、振り回され、

 

「はぁぁああああああっ!」

 

 そこにフェイトが下から迫り、バルディッシュを振り上げる。その一瞬で俺を縛っていた鎖は解けた―――が、あえて俺は掴んで離さない。

 

「今度は」

『お前が』

「こっちにこい!」

 

 空中で急ブレーキ。足場はないけど踏ん張り、小柄な少女―――萃香を引き寄せようと引っ張る。人間、予想外の方向から急に引っ張られたら、無意識下で反発してしまう。

 萃香は人ではなく鬼だが―――更に思念体だが、人型である以上、同じ反応をすると判断。そして、それは正しかった。

 

―――羽布(ばふ)

 

「っ!?」

 

 その場で停止してしまった萃香は自らを霧化させることで、フェイトの攻撃を避けた。この状態になってしまうと、こちらからの攻撃は届かなくなる。

 霧散した霧は不自然な動きで右へ左へと動き、少し離れたところで集まり始めた。

 

「そこっ!」

 

 霧が姿を成そうとする―――そこになのはが接近して拳を振る。

 

『Round Shield』

 

 しかし、なのはが攻撃するよりも早くレイジングハートがシールドを張った。霧から実体化した萃香はすでに火球を手に持ち、臨戦態勢だった。

 

 

―――怒音(どぉん)っ!

 

 

「ありがと! レイジングハート!」

 

 どうやら萃香の攻撃をいち早く感知して、防いでいたようだ。頼もしい相棒である。

 

 

 

「ふ、ふは、あははははは!!」

 

 

 

「え?」

「わら………った?」

 

 突然、萃香は笑い始めた。けらけらと、嬉しそうに。

 

「あはははは! あー、面白い。こっち(・・・)も面白い奴が増えたじゃないか」

 

 にんまりと笑ってなのはを、フェイトを、俺を見た。幽香の時と違ってその目に理性の光があったが、まさか話しだすとは。しかも、戦闘中に。

 

「いやいや、悪かったねぇ。あまりに楽しくて我慢できなかったんだよ。許しておくれ」

 

 ぐいっと酒を仰いでまた小さく笑う。本当に思念体なのだろうか。本物っぽいというか………まんま萃香じゃないか。

 

「1つ聞きたい―――」

「なんだい? 黒いの」

「お前は―――――何だ?」

「へぇ。中々難しいことを聞くじゃないか」

 

 俺の問いに少し考え込んだ萃香は、頭の中でまとめたのか実に簡単に答えを返してくれた。その後の言葉は難しかったが。

 

「夢、さ」

「夢?」

「そ。偽りの思念(からだ)に引っ張られてきた意識体(そんざい)。私は(わたし)であって現象(わたし)ではない。故に今ここにいる現象(わたし)は夢幻―――儚いただの幻想さ」

「ふむ―――なるほどな。分からん」

 

 俺がバカなのか? と思ったがなのはもフェイトも理解できていないようだった。よし、例え俺がバカだとしても1人ではない。仲間がいるというのは、こんなにも嬉しいことなのだな!

 

「簡単に言ってしまえば、今ここにいる私は偽者ってことだよ。で、あんたらはそんな私を退治しにきたってことさ、(わっぱ)

「なるほど。実に簡単な答えだ。お前を倒せば解決ってことだろう?」

「くくく、そうなるね。かつての侍みたいに鬼退治をやってみるかい?」

「あぁ、やってやるさ。仲間もいることだしな」

 

 俺の後ろには頼もしい仲間がいる。訂正、頼もし過ぎる仲間がいる。

 

「あっはっは! なるほど、犬に雉に猿ってところかな?」

「残念だが違う。こちらに揃ってるのは犬と兎と狐だ」

 

 あえて誰が何とは言わないでおこう。

 

「じゃあ、やってみな! 鬼退治はそう簡単じゃないよ!」

 

 

―――羽風(ばふ)

 

 

 目の前で萃香が霧になって消える。霧は風に乗るように上へ上へと昇り、月を背後に実体化する。

 

 

 

 

 

―――轟音音音(ごぉぉん)っ!

 

 

 

 

 

 何とも言えない音が世界を包み、萃香の背後の月に変化が訪れた。

 

「月、が………」

 

 

 ―― 現を染め、満ち溢れ ――

 

 ―― 我が群は砕月を成す ――

 

 

 萃香の声が響く。

 念話ではなく、世界全体に聞かせるかのような声で話している。大きな声という訳ではないのに、こんなに離れていても―――響いてくる。

 自然と心が震えた。

 

「割れ、た」

 

 

 ―― 天蓋さえ砕く我が力に抗い ――

 

 ―― 退治(たお)してみせよ! 人の子よ! ――

 

 

 月が―――割れた。

 

 罅割れている。より正確には割れたように見えているだけ―――月の前にナニカが現れ、隠れているだけなのだ。実際に月が割れている訳ではない。

 

(我が群は砕月を成す………あれらも萃香の力と見た方がいいか?)

 

「気をつけろ。ただの思念体と思わない方がいい」

「「はい!」」

「というか、思念体ってカテゴリーでいいの? あれ」

「それは俺も疑問に思うが、本人も認めてたしな。何にせよ敵であることに変わりはない」

 

 さて、まずはどうするか―――

 

 頭の角から見ても分かるように、萃香は鬼だ。鬼故にその力は人間とは比べ物にならないはず。防御力も半端ないだろう。そんな鬼に対して真正面から戦うのは得策ではな―――

 

「いきます!」

 

 フェイトが真正面から突っ込んだ!

 

「私も!」

 

 なのはも追いかけた!

 

「あーもー! フェイトは………それになのはまで」

 

 アリシアが頭を抱えた。俺も頭痛が痛い。

 

「ふむ………知ってると思うが、作戦という言葉があってだな………」

「あとで言い聞かせておくわ」

 

 鬼相手に真正面から、か。確か、萃香は………というか、鬼は嘘とか卑劣を嫌っていたはず。ある意味、これは正解になるのかね?

 勝てるかどうかはともかくとして。

 

「――――――ふぅ。あいつらだけでは荷が重いだろう。行こうか」

「世話をかけるわね、クロさん」

「気にするな」

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

 複雑な軌道を描いて萃香に接近しつつ、一閃―――

 月の下に金色の閃光が走る。が、

 

「残n――」

「次っ!」

 

 部分的に霧化してフェイトの攻撃を避けた。そこになのはが追いついて拳を掲げる。しかしこれも、空を穿つ音がするだけで萃香を捕えることはできない。

 

「霧に―――」

 

 完全に霧になって漂う萃香。不自然に移動する霧は見え難いとはいえ、それだけで目立つ。

 

「フェイト! こっちよ!」

「は、はい!」

 

 ある箇所に集まり実体化しようとする。その場所に先回りして左右から叩くつもりかアリシアがフェイトを引っ張っていき、

 

『Blitz Action』

『高速移動・開始』

 

 デバイスたちが己の主を後方に引っ張った。

 

 

―――元鬼玉

 

 

「きゃっ!」

 

 実体化。萃める力。攻撃。

 これら一連の流れがフェイトやアリシアよりも速く行われた。少しでもデバイスたちが遅ければ2人は焼け焦げていたかもしれない。

 力や回避能力だけでなく、こうした状況判断なども萃香はレベルが高い。これが鬼の力か。

 

「今度は私!」

「俺も付き合おう」

 

 次はなのはが挑んだ。レイジングハートを拳に纏っての突撃。タイミングをずらして、俺も鉄の輪を振り投げる。

 

―――怒音(どおん)っ!

 

「いいねぇ。(わたし)相手に真正面から力勝負かい!」

 

 最初こそ吹き飛んだものの、萃香はなんともないように防ぎ、鉄の輪も軽く弾かれて終わった。

 

「あなたに勝ったら、私は鬼よりも強いってことになりますからね!」

 

 不適に笑う萃香に笑みを返すなのは。お前はそれを望んでいるのか? それでいいのか自称普通の女の子。激しく問いたいが、今は自重しておく。なのはは一体どこを目指しているのだろうか。

 

 

――神具「洩矢の鉄の輪」

 

 

 もう一度、鉄の輪を振り投げた。今度はきちんと6つ。萃香相手には意味がないだろうが、これを機になのはは反撃が来る前に離れるように動いてくれた。

 萃香の放つ一撃はそれだけで致命傷になりうつほどの凶悪な一撃なのだ。

 

「楽しいねぇ! 楽しいねぇ!」

 

 萃香はこちらのことなど気にせず、呑気に酒を煽っては笑みを零している。今の萃香を見てたら、何故か恭也さんと士郎さんが思い浮かんだ。笑いながら死闘を繰り広げる3人。容易に想像できた。

 

(あぁくそ! 集中しろ! 俺!)

 

 心の中で叱咤する。戦闘以外のことが浮かぶということは、戦闘に集中できていない証拠だ。レベルが格段と上の相手を前にそんな余裕こいてたら死………までとはいかないが、重傷は確実にするだろう。

 そうこうしてると、なのはたちの念話が届いた。

 

≪防御は完璧ね。なのはの攻撃を真正面から受け止めてるからほぼ効かないと思うわ≫

≪となると………フェイトちゃんたちの攻撃くらい?≫

 

 雷の資質を持つフェイトとアリシアの攻撃ならば、付加効果で相手に雷を浴びせられる。だが、先ほどの攻撃で付加効果の雷を浴びても眉1つ動かさなかった萃香だ。本格的な攻撃でなければ無駄だろう。

 

≪だが、それが相手に効くかどうか………なのはの攻撃を受け止める奴だぞ?≫

≪≪あー………≫≫

≪え? なんでみんな納得してるの?≫

 

 なのは(チート)の攻撃を真正面から受け止めた奴が、果たして付加効果の雷は効くだろうか。我らの最高戦力がぶつかってるのに、ダメージがないってことは、ねぇ。推して知るべし。

 

≪あとはなのはの砲撃しか残ってないわよ≫

≪それは最終手段だな≫

≪なのはの砲撃も効かなかったら、どうするの?≫

 

 なのはの砲撃が効かなかったら、か。考えるだけで恐ろしいな。

 

≪その時はアレだな。回り右して帰ろう≫

≪いやいやいや≫

 

 ジュエルシードを放ってはおけないだろうから、なのはたちは帰れない。だが、俺は帰れる。

 

『そんなことできるなら、そもそもここに来てないよね?』

『ごもっとも』

 

 なのはたちを見捨てて1人だけ逃げ帰るなんて、たぶん出来ない。

 

≪もー! 相手が言葉通じるなら説得してジュエルシードもらえばよかったのに! クロさん!≫

≪あー………≫

≪今までとは違って普通に会話できてますよね≫

≪俺か? 俺が悪いのか?≫

 

 だがそもそも考えて欲しい。相手は鬼だ。人の数倍生きてきたと思われる鬼だ。目の前にいる萃香は偽者としても、それは恐らく体だけ。中身の精神とか記憶といった類は本物の可能性が高い。

 ならば、そんな萃香相手に俺が言葉で勝てるか? 否。どんな言葉で攻撃しようが防がれるか避けられるかのどちらかだ。口で勝てるとは思えない。というより、戦闘大好きな鬼の萃香が戦闘しないで退くとは思えない。

 まぁ、そんな空気にしてしまって戦う以外の選択肢をなくしたのも俺、か?

 

『まー………裕也かね~』

『俺かー』

 

≪まー、アレだ。どんまい≫

≪どんまいじゃない!≫

 

 仕方がなかったんだ。あのノリと空気には乗らないといけない気がしたんだ!

 

≪何にせよ、とりあえずはぶつかっていかないとダメですよね?≫

≪だな。ここまで来たら退くことはできない。倒すしかないだろう!≫

≪私、がんばります!≫

 

 なのはがすごい張り切っている。鬼に勝って欲しいが、勝って欲しくないこの複雑な気持ち。

 

≪フェイト………≫

≪なのは。負けないよ!≫

 

 フェイトになのはのストッパーとなるようにと願ったが、ダメだ。いっしょに暴走する未来しか見えない。

 どうしてこの子たちはこんなにも楽しそうに笑ってるのだろうか。

 

「クロさん………」

 

 と、いつの間にか俺の背後に回ったアリシアがいた。俺の顔の横にはアリシアのデバイスのアズラエルが伸びている。バチバチと雷が微妙に痛い。

 

「なんだ?」

「私、今日のこと忘れませんから」

 

 祟りではない黒いオーラが背後にある気がした。時々なのはも纏う例のアレだ。アレが俺の背後にある。

 諏訪子、アリシアはお前の同類か?

 

『違うよ』

 

「絶対に忘れませんから」

「おk、分かった。何が望みだ?」

「駅前のクレープ屋のプリンセスクレープ………奢ってくれますよね?」

 

 駅前の………と思い出した。確か出張クレープ屋とかそんな感じの移動屋台のような車があったな。プリンセスクレープ………興味がないから値段までは分からんな。

 答えを渋ってると思われたのかアズラエルが更に近づいてきた。雷、痛いです。

 

「分かった。いつになるかは分からんが、約束する」

 

 その後、アリシアの手により、俺はこの場の全員に奢ることになった。ただ、色々と言い訳をして期限はなくしてもらった。いつか必ず奢るということを明確に約束して。

 さて、どうやって奢るか………クロの格好のまま行ったら不審者として追い出されるかね? 仮面付きの真っ黒黒すけだし。かといって、クロ=裕也の方程式を暴くのもなぁ。

 

 

 

―――豪音(ごおん)

 

 

 

「―――お話は終了したかい?」

「あぁ、悪いな。待たせた」

 

 瓢箪を腰に付け直し、笑いながら萃香は掌に炎の玉を作りだした。なのはのスターライトブレイカーのように、炎の玉は萃まり、大きくなり―――

 

≪今は戦闘に集中だな≫

≪クロさん、考えがあるの。手短に言うわ≫

≪ん?≫

 

 

 

―――鬼火「超高密度燐禍術」

 

 

 

 俺たちに投げつけた。

 

≪―――散開!≫

 

 炎球を俺たちは四方に移動することで回避した。炎球はある程度接近してきたところで自ら4つに分裂し、それぞれが回避行動を取った俺たちへと向かって飛来した。

 

「くっそ!」

 

 

―――神具「洩矢の鉄の輪」

 

 

 なのはたちと違ってシールドを張ることができない俺は、攻撃を相殺することで防ぐしかない。あまり連続して攻撃することができないシステムのため、できるだけ攻撃は控えたいところだったが仕方ない。

 

≪私たちがまずいきます!≫

≪なのは! タイミング合わせはよろしく!≫

≪了解なの!≫

 

 フェイトとアリシアが接近。近接攻撃を行う。

 

≪クロさん! 合わせてくださいね!≫

≪なるだけ頑張るよ≫

 

 基本的に萃香は攻撃を回避するのではなく、受け止めて防御しようとする傾向がある。ならば、それを逆手に取って利用する。

 飛び出した2人―――フェイトとアリシアが行うのは近接攻撃。狙いは攻撃を防いだ際の隙をついたバインドだ。

 

「萃香さん! 行きます!」

「きな。異世界の魔法使いたち!」

 

 まずはフェイトが高速移動の魔法を使って最初に接敵。それを片手で受け止めようとした瞬間に萃香の死角からアリシアが接近。両手で防いだ瞬間を狙って―――封じる。

 

「い゛っ!?」

 

 鬼の力ならばバインドといえど、力任せに壊される可能性もある。そうなる前に更に追撃する。

 

≪クロさん!≫

≪了解!≫

 

 背後からはなのはが。そして前からは俺が攻撃を行う。

 

 

――オータムエッジ

 

 

 パチュリーさんから教わったスペルカードだ。どこかの霧谷みたいに鉄の刃を生成し、相手にぶつけるこのカード。パチュリーさんは余裕で2桁の数を生成できるが、俺は3~5くらいが限界のようだ。非才なこの体が恨めしいぜ。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」

 

 一瞬の隙も許さずに、続けて攻撃を行う。フェイトが鎌で斬り、アリシアが大剣で斬る。なのはが再び拳を掲げたところで、萃香がバインドを破壊し、霧化して逃げた。

 

「いちち………中々やるね。こうでなきゃ!」

 

 頑丈ではあるが、防御さえされなければ攻撃は通るっぽいな。

 

「さっきの私を縛ったのはなんだい?」

「ん? バインドのことか?」

「巫女の札みたいに能力を封じられるとは思わなかったよ」

 

 ほぅ。これはとてもありがたい情報だ。

 

≪全員、聞いたな?≫

≪でも、あれがホントかどうかは………≫

≪いや、ホントだ。鬼は嘘をつかない≫

 

 だからこそ、萃香()が言った言葉は全てが真実。何も言わないということで嘘をつくこともできるが、口にした以上はそれは真実なのだ。

 

≪それに嘘ならば、先ほどのラッシュの時には霧化して逃げてたと思うし≫

≪じゃあ、隙を見てバインドで縛っていく方向ね≫

≪攻撃はなのはとフェイトだな。この中でお前らが攻撃力が高いだろう≫

≪了解です!≫

≪分かったの≫

≪じゃあ、私とクロさんがバインドで縛る役ね≫

 

 さて、バインドが効くとなればこれは勝てるかもしれないな。

 

『ところで裕也。私たちバインドとか使えないよ?』

 

 あ。忘れてた。

 

 

 

――酔夢「施餓鬼縛りの術」

 

 

 

 こっちの考えが纏まる前に萃香は鎖を伸ばしてきた。スペカも発動したということは、ただの鎖ではないだろう。

 

「散開っ!」

 

 鎖を避けて四方に飛ぶ。的外れの場所を貫いた鎖は蛇のように蠢き、俺を追いかけてきた。

 

(狙いは俺か!)

 

 避けながら鉄の輪で応戦するが、弾かれるだけに終わる。ならばこちらもスペカを使って、広範囲に渡るもので押し返す、か―――

 

「っ!?」

 

 ガクンッと視界が揺れた。攻撃をされた訳でもない―――というより、今も目の前に迫っているのが見える。まだ届いてはいない。

 回避しようにも体は動かず、相殺して防御しようにも口は何も紡がず。ぐるんっと視界が揺れ、更に回転する。

 

 何が―――違う。落ちているんだ。魔法が、無効化された、のか?

 それにしても、体の、自由が―――意識も―――

 

 

「―――――っ」

 

 

 鎖は、通り過ぎた―――とり、あえず、回避した―――のか?

 ヤバいな。感覚が―――なくなって、きたぞ。

 

 

 

―――ズンッ

 

 

 

 熱い鉄が腹に刺し込められた。口に広がる鉄の味。一気に意識が覚醒した。

 

(け、ん?)

 

 いつの間にか俺の腹には剣が刺さっていた。鈍く翡翠が輝く剣が―――恐らくだが、背中まで貫通するように貫いていた。

 

「がふっ!?」

 

 何だ? いつ攻撃された? 剣? 誰だ? 萃香か? 誰が?

 

 

 

―― ■■■ ――

 

 

 

「クロさん!」

 

 

 なのはの声が聞こえた。

 そうだ。今は悲観してる場合じゃない。考えるのは後でできる!

 今の俺ができることは―――戦場に残るなのはたちに手助けを残すことだ!

 

(動け………動け! 動け!!)

 

 先ほどまで動かなかった体が動く。気力を振り絞って腕を動かし口で紡ぐ。握ったのは1枚のカード。

 

 

 

――祟符「御左口(ミシャグジ)様」

 

 

 

 黒い霧が俺の体から溢れ出る。落下する中、俺はそれらが上昇し、萃香に纏わりつくのを確認した。

 俺の中の俺でない彼ら(オレ)が嗤う。俺の口から言葉ではない言葉が零れた。

 

―― ■■ ――

 

 到底、理解できるモノではなかったが………俺はなんとなく理解できた。

 

(た、た、れ)

 

 

『裕也ぁ!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空気を裂く音を後ろに、衝撃が俺を貫いた。続く激痛に、鉄の味が広がる。

 

 気付けば、俺は瓦礫の上で寝転んでいた。点滅する視界の中、見渡せばどこかのビルだと確認する。よく五体満足でいられたものだ。バリアジャケットのおかげかね。

 

「く、そっ」

 

 体を動かそうと思えば動くようになった。先ほどの金縛りが嘘のように、自然と動いた。痛む体を無視して起き上がり、自分を貫いた剣を確認しようとしたが―――ない。

 

「あ………え? ない?」

 

 俺の腹には剣など刺さってはいなかった。もちろん、刺されてから抜かれたとかでもない。傷は落下の際についたと思われるものだけだ。

 

「どういう、ことだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Story

 

 

―――蛇螺螺螺螺(じゃらららら)

 

「うっ!?」

 

 目標を外れた鎖が不自然に曲がり、なのはの腕に巻きついた。

 

―――欺刺(ぎし)

 

「私を前に背を向けるのかい?」

「くっ」

 

 墜落していったクロを追いかけたいところだが、目の前の萃香がそれを見過ごすとは思えない。

 

「なのは! 落ち着きなさい!」

「アリシアちゃん………」

「このっ!」

 

 フェイトが鎖を断ち切ろうと攻撃すれば、事前に察知した萃香が自ら引っ込めた。

 

≪ユーノ! クロさんが怪我して落下した!≫

≪えぇ!? 場所は!? すぐ向かうから教えて!≫

 

 まずはユーノに連絡。場所を教えるとすぐに向かってくれた。クロは攻撃された訳でもなく突然落ちていったのが気になるところだが、ひとまずはこれで大丈夫だろう。

 4人でも辛かったのに、それが3人になってしまった。

 

(後は、クロさんが復帰するのがどれくらいになる、か)

 

 メインアタッカーとしてなのは。アリシアは相手の妨害と拘束。フェイトはその時の判断でどちらも行えるように中間で………。

 

(あれ? 別にクロさんいなくてもなんとかなる?)

 

 少々心許ないが、なんとかなりそうな面子ではあった。

 

「―――仲間に連絡はすんだかい?」

「あなた………念話が聞こえるの?」

「いんや、聞こえないよ。ただの勘さ」

 

 今まで潜り抜けてきた戦場の数が違う。鍛え上げてきた戦士の勘も萃香の場合はバカにはできない。アリシアは納得できなさそうだったが、なのはは理解できたようである。頷いている姿が見受けられた。

 

「にしても………砕月は成ったというのに、それ以降が始まらない。状況は整ってるはずなのに」

 

 ふと月を見上げて萃香は呟く。アリシアも見上げれば、不気味に砕かれた月が姿を見せるだけ―――

 それ以外は何も起こらずに、静かな月だ。

 だが、おかしいと言えばおかしい。砕かれた月は何のために作られたのか。それが分からない。最初こそ警戒していたが、今は目の前の萃香にのみ集中している。

 鬼は正直者と言った。聞けば、答えてくれるかもしれないが………もしかしたら、萃香にとっても今の状況は想定外なのかもしれない。

 

「………」

「なに、気にしないでおくれ。砕月が行われないなら、それはそれで良い。所詮、今の私はただの夢。幻なのだから、さ!」

 

 

――鬼神「ミッシングパープルパワー」

 

 

 萃香はぐんぐんと巨大化していった。子供から大人、巨人へとその姿はどんどん大きくなり、周囲のビルに負けないくらいに大きくなった。

 

「うわぁ………」

「大きい」

 

≪大きくなったのなら好都合よ! なのはは遠距離から狙って! 私たちは≫

≪近接で萃香さんの注意をひくんだね?≫

≪その通りよ! クロさんはユーノが向かったから安心しなさい!≫

 

 アリシアが2人に喝を入れる。

 

「さぁ! いくよ!」

 

 萃香の小さかった腕が巨腕となり、振り下ろされた。

 

≪行くわよ!≫

≪≪了解!≫≫

 

 なのははナックルモードからシューティングモードに変え後退。フェイトとアリシアの2人が萃香へと左右から接近。体が大きくなった分、速さは格段に下がっていたので巨腕を避けるのに大した苦労はいらなかった。

 

≪フェイト! このまま一気にいくわよ!≫

≪はい!≫

 

 フェイトはサイズフォーム、アリシアは大剣モードにして萃香の顔へと接近―――そのまま勢いを殺さずに一閃。

 しかし、十字に描かれた閃光も萃香には今一歩届かなかった。

 

「器用な奴ね!」

「お褒めに預かり光栄ね!」

 

 萃香は顔を仰け反らすことで、2人の攻撃を避けたのだ。巨大化した体でよく行えたものだ。

 

「バルディッシュ!」

『Blitz Action(ブリッツアクション)』

 

 届かなかった、その一瞬の間にフェイトは短距離の高速移動魔法を使用した。定位置に戻ってきた萃香の頭を避けたところで、今度は背後に回る。

 フェイトの手に光輝く刃が生まれ―――

 

『Scythe Slash(サイズスラッシュ)』

 

 それを萃香へ向けて振り下ろした。

 

「アズラエル!」

『高速移動、開始』

 

 一歩遅れてアリシアもフェイトを追いかけるように加速する。

 前後を挟まれた萃香は迷うことなく防御を選択し、まずフェイトの攻撃を防いだ。防御するのは腕―――巨腕だ。

 

「ライトニングバインド!」

 

 霧化しかけたところを、一足早くフェイトがバインドで封じた。霧になりかけていた箇所もキャンセルされ、実態かされる。

 

「氷・狼・爪・牙!」

 

 前から来たアリシアの攻撃を萃香は片腕で止めた―――と同時にすぐに次の斬撃が萃香を襲った。

 

「―――っ!」

 

 上下左右からの4つと最後は真ん中を貫く一撃。アリシアのデバイス、アズラエルが魔力によるブーストを行うことで初めて可能となる5回の連続斬撃だ。

 しかし、その高速攻撃でも2回は防がれてしまった。

 

「雷撃封環!」

 

 しかし落胆も顔には出さずに、アリシアもバインドで動きを封じる。

 

「ディバインバスター………」

 

 すぐにフェイトとアリシアは離れ、萃香の前にもう1人の少女の姿が映る。

 

「フルパワー!!」

 

 通常のディバインバスターよりも強力に、それでいて発射速度もアップした一撃が放り込まれた。

 桃色の光線が萃香へ一直線に伸びた。

 

「これは、さすがに―――――」

 

 

 

 光輝。

 

 

 爆発。

 

 

 轟音。

 

 

 

 目の前でビルを幾つも飲み込んで光りの柱が通り過ぎていった。もし当たっていれば結界も破壊しそうだったが、特に変化はない。つまるところ、結界に当たる前に消えたこと―――アレを受け止めたということになる。

 

「うわぁ………ジュエルシード、粉々になってないよね」

「そうなっていたら………嬉しいけどね。嫌な予感がするわね」

 

 フェイトの感想に“ありえないでしょ”と言いたいところだが、目の前の砲撃がそれを不安にさせる。

 仮にもロストロギアだ。一介の魔導師の砲撃程度で壊れるとは思わないし、思いたくない。巨体は吹き飛ばされ、ついでに小さくなったのか今はその姿は見えないことが更に不安を煽る。

 

「大丈夫みたいよ。ほら」

「直撃してた、よね」

「そうね。ホントにね」

 

 視線の先、萃香はふわふわとなのはたちの目の前まで浮いてきた。今までとは違い、かなり痛い一撃だったのだろう。見て分かるようにダメージが通っていた。

 

「あっはっはっはっは! 強い! 強い! さすがだね! 今のは効いたよ!」

 

 ただ、戦闘はまだまだ終わりそうではない。

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――少しだけ時間が遡る。

 

 

『裕也! 裕也! 生きてる!?』

『あぁ、生きてる………』

 

 ゴホッと血が零れる。仮面を脱ぎ去りたいところだが、なのはたちがいる手前それもできない。ぼたぼたと仮面の隙間から血が零れるが、成すがままだ。

 

≪クロさん! 今、ユーノがそっちに向かってるわ≫

≪すまん、助かる≫

 

 刺されたと思ったが剣などなく、諏訪子もそんなものは知らないとのたまう始末。実際腹部は落下の傷を除けばそれ以外はない。

 幻覚かと思ったが、それにしてははっきりと見えたし、痛みも感じた。血の味もした………と思う。

 体の方を確かめる。動かなかった体も今は普通に動く。落下の衝撃か少々痛みはあるが、それだけだ。

 

(いったい、何だったんだ?)

 

 

 

―――ズガンッ

 

 

 

 そこに俺たち以外の音が響く。

 剣だ。

 

「………なんだ?」

 

≪傷の方は大丈夫かい? “転生者”影月裕也≫

 

 突然の念話。誰だと問えば、

 

「目の前にいる。霧谷のデバイス………そう言えば分かるか?」

『おわっ!? 剣がしゃべった!』

 

 今度は通常の声音で話した。

 確かに霧谷は目の前の剣を持っていたような気がする。もっぱら、投影で作った剣を投げては壊してを繰り返していたので気付かなかったが、こんな剣を持っていたような気がする。

 しかし、それは正しくても1つだけ見逃せないことがある。

 

(転生者………)

 

 それは諏訪子にも誰にも言っていない俺の秘密だ。霧谷でさえ、俺が転生者であるかどうかは確証を得ていない。

 

(それをどうやって………しかもこいつ、俺が転生者であると疑っていない)

 

 決め付ける、というのもおかしな話だが、俺が転生者で間違っていないと思っているようだ。

 

「手ひどくやられたみたいだが、傷は大丈夫かい?」

「随分と人間くさいデバイスだな。傷は問題ない」

 

 どこにいたのかは知らないが、すぐにユーノが来ることだろう。今はもうこっちに向かってるらしいし。致命傷でもないのだから、すぐに死ぬということはあるまい。

 

「そうかい。それは良かった」

「……………」

 

≪それと、聞きたいことが1つ≫

 

 今度は念話である。

 こちらとしてはありがたいが、転生者関連の話は目の前のこいつも諏訪子には聞かせたくないようだ。

 

≪………なんだ?≫

≪今のそれが限界かい?≫

≪俺がわざと攻撃を受けたとでも思うのか?≫

 

 それもそうだ、と言い残して霧谷のデバイスは、来た時同様に自分で勝手に飛んでいった。諏訪子は融合デバイスだからまだいいが、デバイスってあんな勝手に動けるものだっけか?

 

『………結局、何しにきたの? あれ』

『知らん』

 

 ホントにあれはデバイスだったのかも疑わしい。

 

 

 

―――ちょっと待て。

 

 

 

 何故、あいつは念話と普通の声音を切り替えた?

 諏訪子は融合デバイスだ。今も俺と一体となっている。姿を現していない。ここにいるのは俺1人―――そう勘違いしてもいいはずなのに。

 まるでこの場に2人いるかのように切り替えて話していたのは何故だ?

 

(―――ま、俺が転生者であると知ってたんだ)

 

 恐らく、クロ=裕也というのも知っていたのではないか。とすれば、そこから諏訪子のことを知っていてもおかしくは―――ない、か?

 やや荒っぽい理論だが、筋としては間違っていないだろう。

 

(これが合ってるとしたら、何故霧谷は知らないのかってことになるな)

 

 霧谷のデバイスを名乗ったあいつは知っていたのに、その主である霧谷は知っていない。あの霧谷のことだ。俺が転生者と知ったら、それこそ何をしてくることか。

 

 

「クロさん!」

 

 

 思考を中断する。

 いつの間にか目の前にユーノがいた。中々に早い到着だ。

 

「ユーノか」

「大丈夫ですか!? 今回復します!」

 

 急いで飛んできてくれたユーノに回復を頼む。ユーノの到着で気が緩んだのか、一時的に忘れていた痛みがまた表に出てきた。

 

「ごふっ!」

 

『裕也!』

『大丈夫だ。ユーノに回復してもらってるし』

『でも!』

 

 意外と心配性な諏訪子を落ち着けつつ、頭上を見上げる。3色の魔力光が飛び交っているのが見える。戦闘が続いているということは、萃香はまだ健在なy―――と思ったら巨大化して存在していた。

 あーそんなスペカもあったなぁと思ったら、巨大化した萃香を吹き飛ばすぶっとい砲撃が放たれた。最早言葉などない。

 

『ジュエルシード、壊れた?』

『んー、反応はまだ残ってるから壊れてはないかと思うよ』

 

 さすがはロストロギア。でもそのうちなのはならばロストロギアを破壊できてもおかしくはないような気がする。

 

『思考中断』

『なに?』

『いや、今度の思念体は強いな………』

 

 霧谷を相手にして圧倒していたのだから覚悟はしていた。強い、と。強大な相手だと。実際手を合わしてみれば、それさえも温いというのを理解した。

 

 想像しているよりも、もっと強かった。強すぎる、と。

 

「ふぅ………」

 

 痛みが和らいできたので、意識を一旦閉じて自身に集中する。今は回復だ。俺も急いで上に向かわなければ―――

 

 

 

 

―――ドクンッ

 

 

 

 

 深い―――深淵から這い出るかのような不快感―――だが、接し続けてきた親近感もまたある。

 

(―――なんだ?)

 

 

 

―――力ヲ貸ソゥカ?

 

 

 

 声ではない声が聞こえた。闇から誘う声が聴こえた。

 どこか懐かしく、聞き覚えの無い思念―――それでいて、いつも聞いているような声だった。誰の声だったか、と思い出そうとして、

 

(諏訪子、か?)

 

 だが、違う。諏訪子ではない。彼女の分神体や本体なども考えたが、即座に違うと判断。誰だ? 何だ?

 声の主に問おうとする。だが、こちらの声は届かないのか、一方的に届くだけだ。

 

 

―――我ノ

 

―――吾ノ力

 

―――必要

 

―――必要カ?

 

 

 声が周囲から聴こえてくる。別々なようで同じ思念。一方通行の声が届く。

 脳裏に浮かんだのは、巨大な白蛇の姿だった。それも複数が視えた。紅い―――血のように紅い瞳が何個も俺を貫く。

 正に蛇に睨まれた蛙の如く、その場から一歩も動くことができない。理屈ではなく、感覚。炎が燃えるように、樹木が生長するように、当たり前に死のイメージが浮かんだ。

 あぁ―――これから死ぬのは当たり前(・・・・)なんだな、と思った。

 

 巨大な口が目の前で開き、飲み込まれ―――

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

 次には冷や水を突然ぶつけられたかのように俺は飛び起きた。驚いたユーノに悪いと謝りつつ、癒しの光に身を委ねる。

 体の痛みは少しずつと消えていくのに、先ほど浴びた恐怖は消えようとはしない。早鐘のようにうるさい鼓動が不安を煽ってくる。

 

『―――諏訪子』

『なに?』

『お前は祟り神―――ミシャグジ様を統括していたんだよな?』

『―――一応、頂点には立ってたからね。でも、統括というのは若干意味合いが違うよ』

祟り(あの力)をもっと引き出すってこと、可能だと思うか?』

『………それは、今以上の力を?』

 

 俺が扱い撒き散らす“祟り”という力も諏訪子を間に挟んで祟り神であるミシャグジ様から借りているようなもの。

 いわば、神から戦うだけの力を借りているということだ。

 脳裏に浮かんだあのイメージ通りならば、ミシャグジ様からもっと力を引き出せるかもしれない。

 

 同時に、かつて彼女に言われた言葉を思い出す。

 

 

―――死を覚悟せよ

 

 

 今の段階でもパワーアップしたのは分かる。スペルカードの威力も発動時間も短くなってるのが分かる。だが、それだけでは足りない。

 あの萃香と戦うにはまだ足りない。力が足りない。

 

 

―――決断せよ

 

―――何を生かし、何を殺すか

 

 

 今がその時かは分からない。だが、今必要なのだ。神たる呪いの力―――“祟り”が、“彼ら”の協力が必要だ。

 

 

―――我ラガ力ヲ望ムカ?

 

―――万物ガ畏レ、敬ゥ呪ィガ欲シィカ?

 

 

 声無き声が心の奥底から囁いてくる。俺だけに聴こえる幻聴かもしれない。それは厳しく引き戻せと言っているのか、優しくこちらに堕ちよと誘ってるのか、それは分からない。

 分からないが、歩み寄るしかない。圧倒的な力を感じるその場所へ。少しでも近づけば飲み込まれて霧散してしまうだろう、その場所へと。

 

『出来るか出来ないかで言えば、出来る』

『ならば、やろう』

『でも、裕也! 今の体じゃ』

 

 傷の方は問題ない。今もなおユーノが癒してくれている。問題は戦闘時間と祟りの使用時間だろう。

 戦闘時間に関しては、もちろん俺の魔力切れのことだ。パワーアップした諏訪子のおかげで、戦闘可能時間は増えた。だが、大幅に増えた訳ではない。まだもう少しは大丈夫だろうが、そろそろ危険領域に入る頃合だ。

 もう1つは“祟り”のデメリット効果だ。

 使用者までをも呪う力となってしまったこの力。適量範囲が分からない現状で、更に祟りを引き出すのは中々に勇気がいることだ。

 

『諏訪子。あいつは強い。チートな強さを持つ霧谷でさえボロボロに翻弄されたんだ』

 

 あまり認めたくはないことだが、攻撃力ではなのはたち3人よりも霧谷単体の方が今は強い。もしなのはが攻撃準備の時間なく瞬時に砲撃出来るならば、なのはがトップに立つだろうが。

 その霧谷でさえダメージはあまり通っていない。原因としては戦闘方法が挙げられるが、どちらにしろなのはたちでは勝てないと思われる。

 頭上を見る限り、3つの魔力光はまだ健在だ。しかし、この後も無事だとは思えない。萃香と違いこちらは人間。スタミナも常にMAXではないし、魔力も減っていく。常に全力全開はできないのだ。

 

 

 

―――ドォォォォォォンッ!!

 

 

 

『2本目の砲撃、入りました!』

『………………』

 

 つ、常に全力全開はできないんだよぉ!

 

『どしたの?』

『なぁ諏訪子。俺って弱いのかな?』

『あのメンバーの中では最弱かと』

 

 ぐさっとくる言葉を相棒から貰う。目がうるっときたが、泣いてはいない。

 

『だから、更に力が手に入るならば求めるんだ』

『だからって………』

 

―――聞キ届ケタ

 

『俺にはお前がいる。なら、大丈夫だろ?』

 

―――愚カナ選択ヵ

 

『………』

 

―――賢キ選択ヵ

 

『信用してるぜ。それに、俺だって死にたくはない』

 

―――後ニ分カルダロゥ

 

『分かったよ。死んじゃダメだよ?』

 

―――タダ、今ハ

 

『あぁ』

『じゃあ、』

 

 

―――呪詛ヲ送ロゥ(祝福シヨゥ)

 

 

『耐えてみせて!』

 

 

 

 

―――ド………クンッ

 

 

 

 

 鼓動の音が響く。

 

 

 

―――ド…クンッ

 

 

 

 体の芯、心の奥底から響いてくる。

 

 

―――ドクンッ

 

 

 それと同時に闇から這いずりやってくる負の力を感じる。

 蛇が如く纏わり付き、決して離さそうとはしない。体の外から心の奥まで侵される不快感が襲う。

 

 

―――呪え

 

―――侵せ

 

 

 呪詛の言葉が聞こえてくる。負の感情が心に圧し掛かる。今まで生贄にされてきたであろう人たちの怨嗟の声が聞こえてくる。

 悲鳴が聞こえてくる。助けてくれ、と。死にたくない、と。振り翳される刃が無慈悲に貫き、斬り、引き裂き、落とす。炎が舞う。吐き気を催すような臭気が刺激する。誰かが燃えている。

 心を侵すは相反する思念。黒と白の言葉。交わる2つは他者へ向けられた言葉と自身への思念。

 

 死ななければ⇔死にたくない。

 助けて欲しい⇔助けないで下さい。

 憎悪からの呪い⇔祝福からの愛。

 

 目の前にナニカが現れる。

 

 嫌だ、嫌だ、死にたくない、恐い、殺せ、助けて、何で、痛い、熱い、助け―――

 

 

 

――早く、死んで

 

 

 

 周りに誰かがいる。目の前にナニカがある。だが、誰も彼もが動かない動けない。絶叫が絶望を吹き飛ばさんと轟くが、世界は変わらない変われない。

 

 ソレの前では全てが平伏す。

 

 時が来たと雨が降り注ぐ。無数の刃が俺を貫く。流れるのは血か涙か。聞こえてくる誰かの声は祈りの言葉か呪詛の言葉か。

 

 

 

――死なないと、いけない?

 

 

 

 闇が、堕ちる。

 

 

―――闇を識り

 

―――闇を取り込み

 

―――闇に染まらず

 

―――闇を従えよ

 

 

 暗転。

 明滅する世界の中、また誰かの声が聞こえた。気がした。どこかで聞いたことのある声だ。幼い声だ。

 

 

―――でなければ、“彼ら”に飲まれるだけだぞ

 

 

 だが消えていく。

 押し付けられた闇の地獄と、狂ってしまうかのような甘美な死の快楽が流れ落ちてくる。俺を満たしてくる。

 甘い、甘い―――死、だ。

 

 黒が、闇が、襲いかかる。自分が、消えて、いくのが―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――裕也ぁっ! 目を覚ましてぇ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

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