不器用な彼の物語   作:ふぁっと

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第33話 新しい「家族」

 

 

 

大丈夫だ

 

今日のろうそくのように

 

 

悲劇も吹き飛ばせるから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 5月も終了して、6月。本格的に暑くなり始めた深夜―――

 

 ついに、始まった。

 

 

 

 誰もいない部屋で、それは始まった。

 

 

 

 

 

―――ガガタンッ!

 

 

 

 

 

「んー?」

 

 部屋が近いこともあってか、どこからか聞こえてきた異音は俺たちの部屋まで聞こえていた。

 

「何か、変な音聞こえなかった?」

「聞こえたなー」

 

 時刻は深夜0時。激しい物音と言えば、カオス部屋が思い浮かぶが、あそこは世界の壁が防音処理をしてくれているので物音は外には漏れない。

 

「となると、親父の部屋か?」

 

 親父は今日は帰ってこないはずである。久しぶりに我が家に帰ってきたと思えば、母さんと共に夕方に出かけてしまったのだ。出かける際に息子に

 

「裕ちゃん。妹と弟、どっちが欲しい?」

 

 などと聞いてきたのだ。年中新婚夫婦め、自重してほしい。

 そんなわけで、あそこの部屋は空室である。空き巣でも入ったのだろうか。

 

「ちょいと見てくるか」

 

 ガチャッとドアを開けた。何故かその音は親父の部屋からも聞こえてきた。

 

 ん? おかしくね?

 

「え?」

「ん?」

 

 廊下の先―――親父の部屋から出てきた誰かがいた。黒い服を着た桃色の髪の女性―――どうみても我が家の人ではない。

 

「………どちらさま?」

 

 と呟くと同時に俺の目に拡がったのは銀色だった。

 

「侵入者ですか。私の目を掻い潜ってここまで来たのは褒めましょう―――ですが、ここまでです」

 

 うん。いつの間にか咲夜さんが俺の前に立って、桃色の髪の人と対峙していた。んで、桃色の髪の人も、いつの間にか鎧のようなモノを身に纏って何か剣っぽい物を装備していた。

 

「むっ。訳が分からないが、そちらがやる気ならば私も応戦するまで………」

「抵抗する気ですか? いいでしょう」

 

 片やナイフを構え、片や長剣を構える両者。場所はうちの廊下。とてもじゃないが、2人がバトって無事な程に丈夫な廊下ではない。確実に壊れるであろう。そして余波で俺の部屋どころか2階が消えるのではなかろうか。

 

「いや待っt」

 

 

―――スパンッ

 

 

 慌てて止めようと両者の真ん中に飛び出したら、俺の首の右側をナイフが掠めて左側を剣が撫でた。

 大丈夫だよね? 俺の首はちゃんとついてるよね?

 

「…………………………」

 

 両手で自分の首を触って確認する。大丈夫だ。問題ない。

 

「裕也様。急に飛び出したら危険です」

「むっ。危うく両断するところだったぞ」

 

 咲夜さんは脳筋ではないと思ってたけど、もしかしたら違うかもしれない。

 とりあえず、

 

「待って! 落ち着いて! お互い待って! うちが壊れるから!!」

 

 両者をなんとか宥めて、彼女たちも家族全員と一緒に1階へ集めた。緊急会議である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、まずは名前とこの家にきた経由を教えてもらえますか?」

 

 親父も母さんもいないので、俺たちの保護者的な立場には咲夜さんが座っている。毎度毎度すいませんが、今回もよろしくお願いします。

 

「では―――」

 

 親父の部屋から現れたのは4人の男女。先ほどばったりと出会った桃色の髪の人が自分たちのことを話してくれた。

 

「まず、私の名前は―――」

 

 桃色の髪の長身の女性。彼女が4人組みのリーダーであり“シグナム”と言った。次にシグナムの後ろに控える形になっている濃い赤の髪を持つ諏訪子並みの幼女ボディの少女。彼女は“ヴィータ”で、その隣にいるクリーム色の髪のほんわかのんびりっぽい女性が“シャマル”と。そして、紅一点の逆の黒一点である唯一の男性。銀の髪を持つ獣耳のマッチョな男、彼は“ザフィーラ”と言った。

 彼女たち4人組みは守護騎士システムと呼ばれるプログラム生命体であり、ヴォルケンリッターと呼ばれる騎士たちだという。眠りについていたところを、闇の書の起動と共に目覚めたと。

 

「それが、この本ですか………」

 

 デーブルに置かれた1冊の本に皆の視線が集中する。これが闇の書と呼ばれている本―――はやてのデバイスである。

 

「この本って、確かはやてのだったよね?」

「せやで。いつからうちにあったのか分からんかったのやけど、確かにうちのやで」

 

 シグナムさんたちも何か繋がりみたいなのを感じ取ったのか、はやてが自分たちの主だということを素直に認めた。それで、騎士が王様に絶対の忠誠を誓います的なアレを行い、はやてがすごく戸惑っていた。

 視線でヘルプを求められたけど、笑顔を返してスルーする。

 

「しかし、裕也様。どう致しますか?」

「ん~………」

 

 実際のストーリー的な話は冬だったと思うけど、こうして4人と出会ったらA’sがついに始まってしまったんだなぁと考えてしまう。

 けど、それよりもまず先に行うべきことがある。それは咲夜さんからの声で分かる。

 

「さすがに4人は厳しいよなぁ」

 

 我が家のスペース的に4人も増えると部屋数が足りないのだ。ヴィータくらいならば、俺たちの部屋に押し込めればなんとかなるだろう。ザフィーラさんは確か獣形態になれたはず。それになってもらって………残りはシグナムさんとシャマルさんか。

 

「とりあえず、母さんの部屋に押し込もうか。今日は帰ってこないと思うし」

「私のところでも構いませんよ?」

 

 一応、咲夜さんの部屋はまだ残っている。基本的にはカオス部屋の向こうの紅魔館にいるのだが、時たまこちらで寝起きをする場合があるので残しているのだ。

 

 とはいえ、それでも厳しいものがある。

 

 元々は物置みたいな場所を咲夜さん用に改良した部屋であり、2人がそこで寝るのは難しい。ある程度は減ったとはいえ、咲夜さんの私物もあることだし。

 

「じゃあ、今度はこっちの状況を教えようか」

 

 シグナムさんたちに現在の状況とこの世界のことを簡単に教えて、それぞれの部屋に押し込んだ。時間も時間だったので、詳細はまた明日ってことで必要最小限のことだけを教えた。

 だって、主を守護しますとか何とか言って付いてこようとしたからね。はやてが必死にヴォルケンメンバーに説得をしてました。

 

「主権限や! 言うこと聞き!」

 

 ま、最終的には力技になったけどね。とりあえず、ヴィータも同じ部屋にいるということと、この世界が平和であるということを理由に納得はしてくれたと思う。

 

「なんか大変なことになったね」

「の割には、楽しそうだね。諏訪子くん」

 

 笑顔でそんなことをのたまっても大変そうには思えないよ?

 

「だって、面白くなりそうな匂いがするもん」

 

 面白さ、だけだったらどんなに良いことか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝。

 

「別に問題ないわよ~」

「うむ。問題はないな」

 

 朝帰りしてきた両親に昨晩の事件を話したところ、1秒で了承された。まだ俺は“昨日のことで”しか言っていない。事件のじの字にも到達していないのに、了承された。

 

「う、うん。まぁいいならいいけど………」

 

 ただ問題は部屋がないということである。昨日は母さんたちがいなかったから、空いている部屋に押し込めたけど、今日はさすがに無理である。

 

「それは大丈夫よね? あなた」

「うむ。任せておけ」

「………………」

 

 じゃあ、いいのかな?

 何だかやけに自信満々だった親父がすごく気になるが、俺はそろそろ学校に行かないとマズい時間帯である。

 

「じゃあ、はやて。諏訪子。シグナムさんたちに説明よろしく」

「はいなー、いってらっしゃい」

 

 家族に揃って見送られるという恥ずかしいことを経験しつつ、俺は学校へと向かった。胸に一抹の不安が残っているが………大丈夫と信じておく。

 ちらっと親父を見たら、サムズアップされた。それが余計に不安を煽ってくれたのだが、今は無視しよう。

 

「大丈夫。大丈夫なはずだ」

 

 不安をかき消すように俺は自分に言い聞かせる。そうする度に心の中で暗雲は大きくなるのだが………。

 

「さて、それはともかくとして………」

 

 親父のことは今は放っておいて、次に考えるのはなのはたちのことである。

 

「闇の書のことを伝えるべきか、隠しておくべきか………」

 

 まずメリット。情報を共有しておけば、いざという時は迅速に動くことが出来る。それに、あいつらのことだから比較的こちら側には協力的に動いてくれるはずだ。

 次にデメリット。正式な局員ではないが、なのはたちは管理局に属している。民間協力者レベルなのか嘱託魔導師レベルなのかは分からんが、管理局側ではある。管理局にまで闇の書のことがバレるのはマズい。非常に面倒なことになる。

 最終的にはバレるとは思うけど、それはできるだけ遅らせたい。

 

「うーん………」

 

 話すべきか。隠すべきか。そんなことを考えていたら、ふと病院での出来事を思い出した。

 

 

 

『ねぇ、もしも今後………危ないことをしているのに私たちに隠していたら………』

『は、はい! 了解です! 一切隠し事を致しません!』

『よろしい』

 

 

 

 あ、選択肢なかったわ。俺。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――というわけで、現在我が家には闇の書があります」

「「「……………」」」

 

 学校でなのはたち魔法関係者を集めて、事の次第を話した。しかし、闇の書を探していたけど、実は自分の家にあったよってのは、中々に恥ずかしいことだな。灯台下暗しとは正にこのこと。

 あ、もちろん。管理局には秘密でね、ってことは伝えてあります。

 

「えっと、それって大丈夫なの?」

「今のところは大丈夫かと思う。今後は分からんが」

 

 今は起動したてである。まだ危険度は小さいが、今後はどうなるだろうか。いつからになるかは分からんが、ヴォルケンリッターのメンバーは主のために蒐集行為を始めるはずだ。

 主が苦しまないように蒐集行為を始めるが、それが逆に主を苦しめてしまうとい悪質なモノ。どちらを選択しても救いが見えない。

 

 

 

『ハッハッハッハッハッハッ!!』

 

 

 

 そういえば、スカさんがなんか薬とか渡してなかったっけ? あれ? 蒐集行為始まりません的な感じ?

 

「……………どうした? 裕也」

「―――ん?」

「裕也くん。なんか、恐い顔してたよ?」

「あー、ちょいと疲れてるだけだ」

 

 原作みたいな最後を迎えさせないために色々と動くつもりだけど、現状が大分剥離してきたような気がする。このまま放っておいても問題ないような気がするけど………心配症なようで、どうも落ち着けない。

 とりあえず、闇の書を見つけることはできた。さぁ、問題は次だ。バグをどうやって取る?

 

(俺は当然無理だ。はやてにがんばってもらう?)

 

 もしくは困った時のスカさんだろうか。ただ、その場合はシグナムさんたちに納得してもらわないとならない。あの人たちが、他人に任せるだろうか。

 

(そもそも、シグナムさんたちはバグのことを知らないよな………)

 

 あなたたちはバグってますから修正させてくださいって言っても納得してくれるかどうか………。

 

「問題は山積みだなー………」

「わ、私も出来ることは手伝うよ」

「うん。ありがとな、フェイト」

 

 いざという時は頼りにしてるよ。

 

「えー、フェイトちゃんだけ?」

「なのはも頼りにしてるよ」

 

 むしろ、最終兵器的な感じだよね。あなたは。あなたが倒された場合、俺たちには絶望しか残ってないからね。

 

「えへへ」

「それで、今日はどうする?」

 

 今日―――学校が終わった後に翠屋に皆で集まることが決定している。今日ははやての誕生日。翠屋で盛大にお祝いするのだとか。

 

「4人………いや、3人と1匹? 増えましたってことになると思うけど………」

「たぶん、大丈夫だと思うけど………ちょっと聞いてみるね」

 

 なのはがケータイを取り出して家に連絡する。店の大きさと桃子さんたちの性格からするに、断られるというのは無いと思う。ただ人数が多いからなぁ。

 まず、俺、なのは、フェイト、アリシア、アリサ、すずか、チンク。それにプレシアさんにスカさん、ウーノさん、リニスさんにアルフ。咲夜さんに母さんに親父………は来るのかなぁ。で、なのはの家族が4人。そして、主役のはやて。

 

「合わせて24人………いや、23人と1匹か。多いなぁ」

「多いわねぇ」

「だが、その代わりにすごく盛大になるぞ」

「そうだけど………」

 

 フェイトもアリシアも微妙そうな顔をしているが、嫌という訳ではないだろう。

 

「オッケーだって」

「よっしゃ」

「翠屋にそんな人数入るのか?」

 

 チンクの疑問ももっともだ。あの翠屋にそんな大人数が入るとは思えないが、桃子さんがオッケーしたのだから問題ないだろう。

 

「お店だけじゃなくて、おうちの方も解放するみたい」

「なるほどなー」

「もしかしたら、荷物持ち込んで道場でやるかも、だって」

 

 なのはの家には士郎さんの趣味で作った道場がある。何とか流という剣術だか柔術だかの継承者で、物凄く強い。なのはもそこで教えを請うてるし、何時かの日には外国人たちにも教えていた。

 ふと思ったが、魔法有りの全力で戦ったらなのはは父親を超えられるのだろうか。それとも、士郎さんは更に上の人外なのだろうか。

 

「そうね。この人数ならば道場でもちょうどいいんじゃない?」

「だったら、座布団とかも用意した方がいいかな?」

 

 まだ道場で行うかは決まってないから必要はないと思うがな。

 

「あ、アリサちゃーん、すずかちゃーん」

「おはよう」

「おはよー」

 

 リムジン組みが時間ギリギリにやってきた。いつもならば俺たちと同じくらいに教室にいるというのに珍しい。

 

「今日は2人とも遅かったな」

「ちょっとね。家の方でごたごたがあったのよ」

「うちはちょっとお姉ちゃんが………」

 

 色々とあったみたいである。特にすずかは寝不足なのか隈まで出来て一段と疲れた顔をしている。ふらふらと風に流されるように移動してきて、倒れるように椅子に座った。

 

「アリサも疲れた顔をしているが、すずかは更にすごいな」

「えへへ………」

 

 元気とか大丈夫だよってアピールしたいのだろうが、その笑みは逆効果である。

 

「すずかの姉って?」

「忍さんだね。チンクちゃんは会ったこと………ないかな」

「うむ。ないな」

「で、その忍さんがどうしたんだ?」

 

 俺もそこまで会ったことはないから詳しくは知らないが、親父程はっちゃけた人には見えなかった。

 

「うん。昨日ね………恭也さんがうちに泊まりに来てたの」

「お兄ちゃんが? あ。そういえば、いなかったかも」

 

 なんだろ。オチが見えた気がする。それと、なのは。そのことは恭也さんに言っちゃダメだからな。そんなこと聞いたらあの人の場合、自殺するやもしれん。

 

「それで、夜遅くまで隣のお姉ちゃんの部屋が騒がしくて………」

 

 あー。やっぱりねぇ。

 

「もぅ。帰ったらお兄ちゃんに言っておくよ」

「それにしても、夜遅くまで何してたのかしらね?」

 

 何してたってナニしてたんだろうな。なのはやフェイトたちは分かっていないようだが、顔を赤くしてそっぽを向いている人物が1人いた。

 

「アリシア」

「―――っ」

 

 俺が声をかけると盛大に肩を揺らす。

 

「な、なによ?」

「……………」

 

 ナニを想像したのか聞きたいところだが、聞いたところで返ってくるのは拳であるのは明白。俺は沈黙と優しい笑みを浮かべてアリシアを見ておいた。

 

「う、うるさいわね! リニスから教えてもらったのよ!」

「何も言ってませんがな」

 

 にやにやと笑ってるだけなのn………いてっ!

 

 

 

 

 

 

 

―― 少年少女授業中 ――

 

 

 

 

 

 

 

 放課後。

 

 一旦家に帰って、俺ははやての足止めを行う。なのはからの合図をもらったら、そのまま翠屋へと連行する予定になっている。

 そのため、俺はさっさと真っ直ぐ帰って来た。我が家に帰って来た。

 

「…………………………」

 

 家の中に入ったら、朝はなかった廊下が増えていた。それは外へと伸び、隣の家へと繋がっていた。何度か目を擦って幻覚かどうかを確かめたけど、幻覚ではなかったようである。

 

「どゆこと?」

 

 恐る恐る廊下を進み、隣の家へと入る。うちと繋がっていたので、不法侵入にはならないはずだが、一体何があったのだろうか。

 

「あら、おかえりなさい」

「あ、っと。シャマルさん?」

「えぇ、そうですよ」

 

 隣の家の台所に立っていたのはシャマルさんだった。朝は黒一色の服だったが、今は普通の服を着ている。母さんの服だろうか。

 ところで、彼女が台所に立っていると母さんがそこにいるみたいに思えて恐怖を感じる。シャマルさんも、もしかしてメシマズな人か?

 

「えっと、何故ここに? というか、何故うちと繋がってるんですか?」

「あぁ、それはですね………」

 

 

「うむ。それは私が説明しよう」

 

 

 大工道具片手に突然現れたのは親父であった。

 

「親父………」

「うむ。おかえり。どうした? 我が息子よ」

「今、どこから現れた?」

 

 親父は高いところから飛び降りたかのように現れたのだ。近くに窓はないし、2階への階段は離れた場所にある。天井に穴などもない。だというのに、どっから現れた?

 

「うむ。そんな細かいことは気にするな」

「はぁ………」

 

 細かいのかなぁ。まぁ、昔っから親父はこうだったしなぁ。俺の精神のためにも無視しておくか。

 

「で、何でお隣さんと繋がってるん?」

「うむ。それはだな―――」

 

 親父が言うに、既に隣は空き家となっていた。俺の記憶が確かならば老夫婦が住んでいたはずだが、いつの間にか孫夫婦の家に引っ越していたらしい。で、親父がその老夫婦にどうやったかは知らないが連絡を取り、これまたどうやったのかは謎だが不動産にも伝えて家を丸ごと手に入れたそうだ。

 

「うむ。これで彼女たちの住まいに関する問題は解決したな」

「まぁ、確かに」

 

 ついでにはやてもこちらに住むことになった。わざわざ2階に上がるよりかは、1階だけで行動が出来るように、とのことだ。それについては俺も賛成である。

 

「じゃあ、こっちはシャマルさんたちとはやてが?」

「えぇ、そうなるわね」

 

 別段問題はないのだが、はやての元の家はどうするのだろうか。と聞いたところ、もうこっちに引っ越したようである。必要最小限の荷物しか持ってきてなかったのだが、こうして新たに家(?)が増えたことなので、引っ越しても問題ないと判断したようだ。

 

「ていうか、はやての元の家に戻ればよかったんじゃね?」

「…………………」

「…………………」

 

 と、言ったら何故か目の前の2人から何とも言えない微妙な顔をされた。

 

「息子よ。お前は………」

「はやてちゃんが、嫌いなの?」

「え? なしてそんな話に?」

「ふむ。そうか。すまないな。気付いてやれなくて。私の方からはやて嬢には………」

「いえ。それは私たちに任せてもらえないかしら? 同じ女ですし。波風立たないように上手く伝えておきますわ」

「いやいや待ってくれ。話がよく分からない方に展開していってるよ?」

「え? だってはやてちゃんのことが………」

「違うからね! 言ってないよ! 嫌いとかそんなこと言ってないからね!」

 

 曲解しすぎだよ!

 

「うむ。では、どう思ってるのかね?」

「どうって、ふt」

「嫌いなの? 好きなの?」

「いや、ふt」

「嫌いなの? 好きなの?」

「その2択以外はないんですかい!?」

「嫌い、なのね………」

「えぇい! 分かりましたよ! 好きですよ! はやてのことが好きですよ!」

 

 

―――カランッ

 

 

「へ?」

 

 背後からの音に振り向けば、そこにいたのはお約束の人だった。

 

「え、えっとな………その、な。なんや、あれや! その………ちょっとタンマ!」

 

 くるりとその場で器用に回転すると、猛ダッシュで走り去っていったはやて。俺はその後姿を呆然と眺めて―――

 

「はっ! いやまて! お前は絶対に勘違いしている!」

 

 慌てて追いかけた。

 

 

 

 

 

「寛治さん」

「うむ。なんだね?」

「裕也くんをからかうのって面白いですね」

「うむ。だろう?」

 

 そんな背後の話し声も無視して。

 

「そういえば、ヴィータちゃんは帰りが遅いわね………」

 

 

 

 

 

  ☆★☆★☆

 

 

 

 とある公園。

 

「いいかえ? 腕を振る時にこうした一工夫を加えることでな………こうすることができる」

「ばぁちゃん! ギガすげー!!」

「ふっふっふ、ヴィータちゃんは物覚えが早いからすぐ覚えるよ。さ、やってごらん?」

「よっしゃー!」

 

 老人たちに混ざって紅い少女がゲートボールに勤しんでいる姿が見られた。

 

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「あちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃ!!!」

 

 その傍らでは2人の老人が闘っていた。腕を激しく動かし、老人とは思えない足捌きで軽快にステップを踏み、本来はボールを狙うはずのスティックを相手へと向ける姿もあったが、概ね平和だった。

 

 

「なぁ、ところでアレは何やってるんだ?」

「ただのバカどもじゃ。見たらいかんぞ」

「ふーん………」

「とはいえのぅ。そろそろ止めた方がよかろうて」

「じゃな」

 

 スッと音もなく、ヴィータが見ていたにも関わらずに彼女の目の前に現れた老人たち。遊んでいるとはいえ、気配探知を怠っているヴィータではなかった。それでも探知できなかったということは、それだけこの老人たちが強いということである。

 

「そりゃ!」

 

 カキンッとボールが豪速球で2人の闘っている老人たちに飛ぶ。と同時に自分たちも急接近。闘っている2人が障害物に気付き、弾いた時には4人によるバトルロワイヤルが発生していた。

 

「あー………」

 

 最初こそ驚いたヴィータであったが、既に慣れた身であった。

 

「―――なぁ、そろそろ儂を放してくれんかのぅ?」

「じゃあ、この前の女性のことについて話しな」

 

 公園のオブジェのように十字架に貼り付けにされた老人もいたが、ヴィータは気にしないことにした。道行く人もそうだが、誰もが気にしていないからだ。

 

「じゃからのぅ………」

「まずは腕と足。どちらからがいい?」

「ま、待つんじゃ! さすがに包丁で刺されたら儂も「まずは10本じゃ!」10!?」

 

 

 

 平和な公園の一時が、戦場へと変わったりもするが、おおよそ平和であった。それらの光景をヴィータはベンチから眺めながら、

 

「この町のじぃちゃんやばぁちゃんたちと戦ったら、あたし………勝てるかなぁ」

 

 魔導師でもないただの老人たちだが、ヴィータは結構本気で勝てないのではないか、と考えていた。

 

「まぁいいや。ばぁちゃんに教えてもらったことを練習しよ!」

 

 

  ☆★☆★☆

 

 

 

 

 

 なんだろ。ヴィータが凶悪化するようなイメージが沸いた。どこかの魔王様みたいに進んではいけない道を選んだような気がした。

 

(いやいやまさかな………)

 

「どないしたん?」

「なんでもないぞ」

 

 なんとかはやての誤解を解くことはできた。その際にパンチ1発もらったけど、安いものである。

 

「そういえば、今日は夕飯は出前か何かなん?」

 

 いつもなら夕飯を作り始める時間だが、未だに夕飯を作る気配はない。それに気付いたはやてが聞いてきた。

 

「いや、今日は外で食うんよ」

「はー、珍しいね」

 

 我が家としては珍しい。理由としては咲夜さんの料理がおいし過ぎるってのもあるが、咲夜さんは我が家と紅魔館の方と2つの家のメイドさんなのだ。出来るだけ、家の中にいた方が彼女としても動きやすい。なので、外食はもちろんしない。精々が出前を取るくらいだが、いつ来るか分からない出前よりかは咲夜さんがさくっと作った方が早かったりする。

 

「で、何食べるん?」

「………和、かな?」

 

 そういえば、翠屋ではやての誕生パーティがてら夕飯を食うことになっているんだが、あそこは喫茶店だよな? 夕飯にケーキとか出てきたらどうしよう。

 

「おっと、連絡来た。諏訪子ー」

「あーい」

 

 ドタドタと諏訪子が駆けていく。俺も出かける準備をする。シグナムさんはもうすぐ帰ってくるところだし、ヴィータは途中で拾っていく予定だ。

 

「ん? んん?」

「さぁ行くぞー飯の時間だー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さ、着いたぞ」

「着いたって、ここ、なのはちゃんのとこやねん」

「うん。そう」

「やってるん?」

 

 外からは中が見えないようにと布のようなもので覆い隠されている。漏れる明かりがないことから、店はやってないのではと思っているようだ。

 

「ヴィータ」

 

 俺はケータイを操作しながら、ヴィータに合図を送る。

 

「はやて、入るぞ」

「あ、うん」

 

 ヴィータがはやての車椅子をゆっくりと押して、翠屋のドアを開ける。

 

 瞬間、

 

 

 

―――パパパァンッ!!

 

 

 

「わひゃ!?」

 

「「「「「お誕生日おめでとう!!」」」」」

 

「え?」

 

 クラッカーを浴びせられると同時に部屋の照明が点いた。そして、色鮮やかになったはやてがぽかーんとした顔で周囲を見る。

 

「ほらほらー、主賓は真ん中真ん中」

「ボケーとしてないの」

 

 アリシアとアリサの2人に引っ張られて、はやてが部屋の真ん中に連行される。真ん中に置かれていたのはウエディングケーキを思わせるような大きなケーキだった。

 

「はやてちゃんは9歳でいいのよね?」

「え? あ、はい。そうです」

 

 未だに混乱から立ち直れていないが、そんなことは関係ないとばかりに桃子さんがケーキに9本のろうそくを並べていく。そして、再び部屋の照明が落とされた。

 

「「「はっぴ、ば~すで~とぅ~ゆ~」」」

「「「はっぴ、ば~すで~とぅ~ゆ~」」」

 

 続いて、小学生組みの少々音の外れた歌声が響いた。俺? すいません。あの中に入るのはさすがに恥ずかしいので大人組みに混じって待機しています。精神的に結構厳しいものが………。

 ちなみにチンクも最初は俺と同じように逃げていたのだが、アリサたちに見つかってしまったのが運のツキだったな。真ん中にがっちりと掴まされているのが見えるだろうか。

 

「「「はっぴ、ば~すで~、でぃあ、はやて~」」」

「「「はっぴ、ば~すで~とぅ~ゆ~」」」

 

 ろうそくを消しにかかるが、場所的な問題で1度では消せなかった。ぐるりとケーキを回るように動いて、全部のろうそくの火を消した。

 

「ありがとなー」

 

 あらかた状況を理解できたのだろう。ここで笑顔を見せてはやてが礼を言った。

 

「「「「「おめでと~!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――某所

 

「闇の書の起動、確認しました」

『守護騎士たちはどうなっている?』

「全員います」

 

 笑顔が溢れる喫茶店を闇夜の中から見つめる瞳があった。闇に隠れるように、影に消えるようにとソレはいた。

 ギリギリ確認できるだけの距離まで十分に離れての観測だった。この距離ならば問題ないと、当人も連絡している相手も思っていた。

 

『そうか………こっちはまだ時間がかかりそうだ。大変だろうが、十分に注意して監視は続けてくれ』

「分かりました」

 

 フッと影が消えた。それに気付いた者は―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ。去ったか」

 

 1人いた。

 

「おや? どうしましたかな?」

「うむ。貴方は………」

「失礼。私はなのはの父親の“高町士郎”です」

「うむ。私は影月寛治。そこの父親をしている」

 

 父親2人が杯を手にして乾杯。そして、士郎が再び問う。

 

「それで、“去っていった人”は知り合いでしたか?」

 

 どうやら、2人目がいたようである。

 

「ふむ。貴方も気づいておられたか。知り合いと言えば知り合いなのだが、どうにも言い切れなくてな」

「ほぅ」

「何、“あやつら”は私か私の息子の客でしょうから。ご心配なさらずに」

「ふふふ。こうして会ったのも何かの縁。困ったことがあれば手伝いますよ? “漆黒の雷帝”さん」

「ふむ。その時は頼らせてもらおう。“龍狩り”よ」

 

 2人はもう1度、杯を重ねて乾杯をした。不適な笑みを浮かべる2人を見る者が見れば、頼もしいと感じただろう。

 それだけの貫禄が2人の男にはあった。

 

 

 




次回に早苗さんが登場予定ー

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