雪風に出迎えられて家の中に入ると、そこにはとんでもない、現実では到底想像し得ない光景が広がっていた。
ーー豪勢な夕食。
な、何だこれはァーー! と思わず叫びそうになった。だって、だって……! ここに住み始めてから、我が家ではそれこそ一度だって見たことのないような、豪勢且つ豪華、及び非常に美味そうな食事がちゃぶ台に広がっているんだぞ!
こんなのレストランでしか見たことない!
そんな興奮覚めやらぬ内に雪風に食卓前に座らせられ、ほぼ無意識的にいただきます。
そして目の前に佇む、ピラフを一口。その瞬間、俺の脳裏では種割れ現象が起きた。
このピラフを作ったのは誰だァーー!!
某雄山氏ではないが、まさしくそんな気分。これが食系漫画なら、俺は口から光線吐き出して背景に富士山浮かべたり、グルメな細胞のレベルが上がってナイフとフォークが進化したりしていたことだろう。
それほどまでに、美味い。
「お口に合いましたか?」
雪風が若干不安そうな表情で聞いてくる。
俺はそれに対し、グッと親指を突き出し、昇進が決まった時のような清々しい笑みを浮かべ、一言。
「うまい!」
そんな夕飯と、今朝に続いて突貫してきて共に入った風呂を終えて艦これ中と俺と雪風。
雪風が提督側にいるとどうなるかな、と適当数の資材を注ぎ込んで建造してみたらアラ不思議、出るわ出るわで五時間、六時間、八時間。
幸運どころじゃねえよこれ、ギンさんと戦わせたら策謀全部叩き伏せられた上に金も血も無くなっちまうんじゃねえの。
そんな化物具合に驚愕しながらも、明日は休暇であることを伝えると。
「ホントですかしれぇ!」
すっげぇ眩しい笑顔向けられた。
あぁ、後光が見える! 目の前に居られるのはやはり天使様であらせられたか!
まあボケはいいとして。ボケじゃなくマジで天使に見えたけど、それは置いとけ。
明日はその休暇を利用して、雪風の日常品を買い込む。
今のところ服も一着しかないし、布団も一式のみ。タオルとかは無駄に沢山あるからいいとしても、歯ブラシに食器類、その他諸々。
というか、服も艤装とかの一種なのかね? いやでも、それでも一着だけだと不便というか、不潔というか。
雪風も女の子だし、服飾には気を付けて貰わねば。俺が死ぬ。色んな意味で。
だってさ、雪風の服装はなんというか、諸兄ならば知っているだろうが、ワンピースだかセーラー服の上だけだかは知らんが、下がアホみてぇに短い。
そのせいで動き回ると、なんつーかまぁ、見えるんだわ。真っ白いアレが。
極めて眼福ではあるんですがね、見える度にね、削られるんです。SAN値的なものが。
D10ごとに削られてってゼロ突破したとするじゃん?
俺の人生終わりだよ。
それ考えるといち早く服を買ってあげて、着てもらって、俺の理性を守ってやらねばなるまい。
や、そもそもいくら眼福であろうと、天使様である雪風の御下着様を御拝見するなぞ罰当たりすぎて何億分の確率で脳天に隕石降ってくるとも限らない。
もしこれが衆目に晒されたとなれば、見た人間全員に何億分の確率で脳天に隕石降ってくるかもしれない。
雪風の化物レベルの幸運なら、その程度の確率は天文学的なものではないのだ。その一端を建造で見たからわかる。
あれ、そうすると幸運の女神じゃねーじゃん。厄災振り撒く邪神か何かじゃん。
ま、まあ。それだけ雪風は尊くも罪深き存在なんだよ。
そんなことはもう本当に置いておくとして。
そういう訳で、明日は雪風とお買い物です。
……急ごしらえでもいいから、代わりの服着せた方がいいよなぁ。
「わぁ……!」
近場にある大きなショッピングモールにやって来た。
おっと、雪風の様子が……? どうやら人の多さやら賑やかさやらで感動中らしい。
感嘆とした声を漏らして、瞳めっちゃキラキラしとる。
玩具でも買ってあげようかなぁ……。
何に喜ぶかは分からないが、兎に角雪風が喜ぶ物を買ってあげよう、そう誓った。
「雪風、服はどんなのがいい?」
取り敢えずは服飾を揃えよう。
ということで、ショッピングモール二階にあるファッションを扱うセンターのシマウマだか島村だかに来た。
生憎、俺ぐらいの年頃の男性は女性ファッションに造詣が深いなんてこともなく、さっぱりだ。なので雪風が欲しいというものを買う。これで間違いないハズだ。
「んー……」
ところが。
艦娘だからだろうか、雪風もあまり服飾の知識はないらしい。色んな服を前にしてんーんー唸っている。
あぁ、そんな姿も愛らしいんだよ、これが。
眉間に皺寄せて、真剣な目で白いロングのワンピースを眺めている雪風。これを萌えと呼ばずしてなんとする。
萌え死にそうです。
しかし、艦娘といえ女の子。服飾とか、アクセサリーとか、多少なりとも興味があって然るべきハズだ。
知識はどれほどだろうかね。
「雪風、ガーリーって分かる?」
特に造詣あるわけでもないが、それでも人並みに知ってる訳もある。
試しにそう聞いてみると。
「が……インドの鬼神ですか?」
ダメみたいです。
雪風のファッション知識が絶望的だと気付いたわけだが、それがどうしたと。思えば、雪風が気に入った服を買うだけなのだからファッション知識なんざ必要ねえよな。
寧ろファッションが雪風に合わせろよ。そう思うくらいには雪風が天使である。
暫く見て回ってると、雪風が先ほどのロングのワンピースやゆったりしたブラウスとスカートなど数点を手に持った。
「しれぇ、これがいいです!」
「うむ」
俺はそれを迷いなく購入。
ついでに下着類や靴下等も一緒に買った。
間に合わせのジャージを脱いで、早速白いロング丈のワンピースを着てもらった。
結果として、天使が出来上がってしまった。
おぉ、なんということだ……神はいたのか。
ロシアの数学者曰く、地球から九光年先にいるらしいが、今は俺の目の前でニコニコと佇んでおられる。
穢れのない純粋な笑顔と、汚れのない純白なワンピース。なんというか、もう、萌えとかそんなレベルじゃねえ。
まさしく天使か女神か、そういう尊い存在だよ。抱きしめたい。
まぁそれはいいとして。適当な日常品も買い終えて夕飯のお買い物中。
「しれぇ、お夕飯は何がいいですか?」
「んー」
何を食べるかは決まってないんだがね。
昨晩の夕飯から分かる通り、雪風はかなり料理上手らしい。
良い嫁さんになるよ、この娘は。
「カレー、とか」
「カレーですか?」
「ああ、そういや最近食べてないし。カレーがいいな」
「了解しました!」
カレーに決定すると、雪風は人参やらジャガイモやらとカゴに野菜を放り込む。
それが終わればお肉コーナーで鶏肉を放り込む。
そして香辛料なども……
「一から作るのか?」
「そうですよ?」
「……別にルーで良いんだが」
「むぅ……雪風は、雪風のカレーを食べてほしいですっ」
少しの不満顔のあと、力強く言った。
な、何と言うことだ……新妻さん三大手料理の一つである手作りカレーを、食べて欲しい、だと。
雪風はその意味を理解しているのか。
ちなみに三大手料理は他に肉じゃがとコロッケである。
昨晩を考えるに、恐らくとんでもなく美味なカレーが生まれることだろう。
なんだっけ、小麦粉やらソースやらコーヒーやら、隠し味に良いとかって聞いたことはあるが、きっと雪風はそんなチャチなもんじゃ終わらねえ。
入れ愛情、我が名のもとに! とかやって多大なる愛情が注ぎ込まれる気がする。気のせいか。
まあ雪風が作りたいなら是非とも作ってくれ。暗黒物質だろうと食って見せる。
「ならお言葉に甘えて」
「了解しました!」
そして、これまた香辛料の類をひょいひょいカゴに投入していく。
(……お金、足りるかなぁ……)
カゴの中に積み上げられた野菜類や肉、香辛料を見て。
俺の脳裏はそんな言葉がエコーを残して過ぎ去っていた。