「先に地面に膝をついた方の負けでいいかい?」
「勿論。」
戦いの合図を岩の上で鳴く蛙が池に飛び込んだらと定め、お互いに向かい合うこと暫く。
静寂が空気を張りつめさせ、その空気から逃げるように蛙が池に飛び込む。
ーーーーーーーーーーーーーーーぽちゃん。
反応が早かったのは、時雨であった。
一瞬。ほんの一瞬だが先に駈け出した時雨は、一気に鬼神との距離を詰める。
だが鬼神も負けてはいない。
気配を頼りに素早く振り向き、時雨のいるであろう場所に拳を振るう。
強さで時雨に劣っていたとしても、場数を多く踏んでいるのは鬼神の方なのだ。
「・・・っ!」
紙一重のところで頭上を通過していった拳を一瞥すると、時雨は体に捻りをかけて回し蹴りをする。
「甘いねえ!!」
鬼神はその足を掴み、木の方へ向かって振り被る。
木を何本もなぎ倒しながら、なす術も無く吹き飛ばされていく時雨。
「さすが姐さん!!」
「やってやったな!」
その姿に鬼達は鬼神の勝利を確信し、騒ぎ立てる。
しかし、山の妖怪たちはただただ微笑を浮かべるだけで、悲観することも、応援を送ることも無かった。
その姿に薄ら寒いものを感じ、鬼達が山神に注意を促そうとした時には、遅かった。
「甘いのはそっちだよっツ!!!!!!」
木の幹で反動を付け、鬼神の顎へと鋭いアッパーを入れる時雨。
神力と霊力を拳に”縫い付け”放った一撃は、鬼の身体を容易く倒す程に力強いものであった。
「姐さん!」
悲痛な叫びが聞こえる。
倒れかけ、隙の見えた鬼神に時雨は更に追い討ちをかけるように互い違いに組んだ両手を振り被る。
直撃を避けようとした鬼神は、重心を横にずらし、
バランスを崩して、倒れた。
「姐さん!」
「鬼神様!!」
「やっぱりか。」
「大穴狙いで鬼の奴らに賭けるんじゃなかったなあ。」「
叫ぶ鬼達に対し、初めから結果の分かっていたかのように冷静で動じない山の妖怪たち。
「負けたよ、約束通り私たちはこの山に住むのは諦めるとしよう。」
その中で山神は何も恨み言を言うこともなく、鬼たちを引き連れて山を後にしようとする。
しかし、
「ちょっと待ってよ。」
時雨は、それを引き止めた。
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「何だい。情けなら要らないよ。」
「情けも何も、条件が違うでしょ?」
何だって。と、耳を疑うような仕草を見せる鬼達に時雨は続ける。
「だってさ、”山を明け渡せ”っていうのがそっちの主張だったじゃん。別に、住むなとは言ってないよ。」
そう告げると、驚いたようにざわざわと騒ぎ出す鬼達。
すると、突然に鬼神が大声で笑いだした。
「っつ・・・ふふっ・・・・あっはっはっは!!そうだったね!お前は面白い奴だ!!なあ、お前ら、ここに住みたいかい?」
鬼神が問いかけると、鬼達は慌てて頷く。
「ならここに住もうじゃないか!なあ、いいんだろ?山神さんよ!」
「勿論。まあ、最低限のルールは守ってもらうけど。」
私がそう軽く脅してみると、鬼神は胸を張って答える。
「なあに、心配することはないよ。郷に入っては郷に従えってね!改めて名乗らせて貰おう、私は鬼姫 産霊之だ!」
「私は雅 時雨。よろしく、鬼姫。」
「よろしく頼むよ!時雨!」
産霊之は(むすひの)と呼びます。
想像編はもう終わりです。次は守矢組と・・・あれですよ、たくましい所に行くかもしれません。