遊戯王デュエルモンスターズWD―ワーストデュエリスト―   作:Rさん

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真夏のデッドライン 後編 005

「遊凪少年はデュエルをしてはならない」

 思わせぶりで靄がかかったような口振りの明日宮とは違って鈴香みつきは単刀直入に切り込んできた。

「少年がデュエリストに戻るってことは、私達にとって世界の終わりを意味しているんだから」

「……どういう意味だ?」

 いや、もう本当にどういう意味なのだろうか――どれだけ短刀直入に切り込まれたところで、要領を得ない感触は明日宮と大差がなかった。誰を相手にしたところで、疑問符からは逃れられないらしい。

「詳しく説明するには手順を踏む必要があるんだなこれが。まずはそうだな。ファーストエンドの説明をしておくべきかな」

 ファーストエンド――鈴香が言っていた悪の組織であり、明日宮が言うところの世界の本筋。

 月明かりが照明の、人が寄りつかないような茂みに囲まれた公園で、僕と鈴香みつき、そして明日宮雅の三人はそれぞれ少しづつ距離を取った位置から現実から逸れたような話を絶賛継続中だった。

 僕は芝生の上でぼーっと突っ立った状態で、鈴香は腕を組んで塗装の禿げたベンチに腰を下ろしていた。

「ファーストエンド。わかるわよね。ファーストフードとは関係がないのよ」

 などと茶化すような口調で間に入ってくる明日宮は錆び付いたブランコに腰を下ろしてゆらゆらと揺られていた。そうしているところだけを見ると浴衣姿も相まって日本人形のような美少女が遊具で遊んでかのようなとても微笑ましい光景なのだけれど、どうしても彼女の中身を知っている僕としてはリアクションの取りづらいところだった。

 悟ったような態度がデフォルトである彼女ではあるが、甘いものを好んでいるところや遊具に率先して飛びつくところを見ると趣味趣向に幼さを感じられる――などと、明日宮に対して好印象を持って脇道に逸れている場合ではなさそうだ。

「ファーストエンドって具体的には何なんだよ。鈴香は前にファーストエンドを悪の組織って言ってたけど、一体全体どんな組織なんだ?」

「えっと、どこから説明したものかな。私は説明が上手い方じゃないからな。少年にちゃんと正しく伝えられるか自信はないんだけど」

 と、予防線を張ってから鈴香は続けた。

「ファーストエンド。絶対デュエル主義を掲げる団体だ。奴らの目的は端的に言ってデュエルモンスターズを流行させることなんだ」

「絶対デュエル主義……」

「少年だって少なからず思うところがあっただろう。現代に置いてデュエルモンスターズは流行の最先端となっている。それはファーストエンドの奴らが裏で――いや、表から堂々と仕組んでいることなんだ」

 空前のデュエルブーム。

 僕がデュエルと接しないように気を付けて生きていた人間だったからこそ感じ取れた世界の異常。

 それが全て人為的に仕組まれたことだと彼女は言うのか。

 呉羽が言っていたことを思い出す――流行を作るためにはそれなりの時間が必要だと。

「確かにデュエルの流行具合には違和感を持っていたよ。百歩譲って鵜呑みにしてやってもいい。だけど、ちょっとだけ口を挟ませてくれ。ファーストエンドって奴らがそんなことをしたところで、何の意味があるんだ? デュエルモンスターズを流行らせて、カードを売って金儲けしようという魂胆なのか?」

「金儲けなんてちっさいことを奴らが考えているわけない。むしろ高価な部品で作ったデュエルディスクを一般市民でも買える価格で販売してるんだから大損の部類だと思うぞ。逆鞘になってると断言してもいい」

「……利益が目的でないとしたら、何がしたいんだファーストエンドは」

「支配」

 これ以上ないくらい端的に、鈴香はまとめた。

 支配――

 デュエルモンスターズで――カードゲームで世界の支配をもくろんでいると言うのか?

「おこちゃまかよ……」

 感想としてはそれで精一杯だった。

 曲がりなりにも遊びの道具でしかないというのに、そのデュエルモンスターズでなにをどう支配しようというのだろうか。どう頑張ってもおもちゃ市場しか手中に入らないだろうに。

 ちょっとだけ気持ちが冷めそうになっている僕とは正反対に、鈴香の声色は真剣なものだった。もっとも彼女自身が軽薄な性格をしているせいか、今一つ真剣がかけているように僕は思えて仕方がなかった。

「まあ確かに現代を生きている少年に取っては現実味に欠ける話にしか聞こえないだろうけど、こっちは結構真面目にやばい状況に落とされてるんだぜ」

「こっちはって? 何がどうやばいんだ」

「少年の住む現代ではまだデュエルは人生の添え物って程度で収まっているが、こっちは――私達の住んでる未来では世界がデュエル一色に塗り替えらちまってんだ」

「……はぁ?」

 なんだ?

 なんと言った?

 僕の勘違いでないとするならば、彼女は未来の世界と言った。しかも『私達の』と付けた。それはつまり彼女は未来の世界からやってきた未来人だということだろうか。

 さすがにこれは鵜呑みにはできない。

 空想が極まっている。

「あはは。やっぱりそんな顔になるよな。すまんすまん」

「良い顔でリアクションしてくれるわね遊凪御影。写真をとっておきたいところだけど、残念ながら私はカメラどころかスマートフォンすら持っていないのよね。無念だわ」

 なぜだか驚いて血の気まで引いてしまっている僕とは違って、鈴香は明るく笑うし、明日宮もふふふと微笑んでいた。

 ずれてるなぁ……。

「まあ、少年が肝を冷やすのも無理はないけどさ。こいつはどっこい本当の話なんだぜ。現代から少しずつデュエルモンスターズを根付かせて、未来を改変しようとしてるのがファーストエンドだ」

 根付かせる、か。

 ステルスマーケットを駆使した侵略活動。

 未来から持ってきた用な鎔出した技術のデュエルディスクだと怪しんではいたのだけれど、本当にそのまま未来から輸入されたものだったとは恐れ入った話だ。

 確かに僕としても最近のデュエルモンスターズブームには引っかかるものを感じていたけれど、それがまさか未来的な世界征服の布石だったなんて……。

「びっくり仰天だな」

 鼻で笑うように僕は呟いた。

 そして改めて鈴香へ向き合って、僕は疑問に思っている部分をぶつける。頭は混線しそうになるけれど、明日宮と違って少なくとも靄に隠されることがないだけ幾分か会話が繋げやすい。

「悪いけど、唐突に未来人だなんだと名乗られても、ハイそうですかなんて言えないぜ。キミが未来から来たって言うんなら証拠を見せて欲しい。あわよくばタイムマシンに乗せてくれ」

「ずうずうしいわね。蛮族よ遊凪御影」

 いつものように冷めた眼で見てくる明日宮を脇に置いて、鈴香は気まずそうに言った。

「うーん。私としてもタイムマシンが使えたなら説明も省けて楽だし、なんだったら遊凪少年を気安く未来へご招待もできるんだけどさ。それはどうしても無理なんだよね。未来から来た証拠ってのも、示すのは難しい」

「どうしてだ? 未来から来たっていうならタイムマシンがあってしかるべきじゃないのか。悪いけど言葉だけで信用できるほど僕は安くないぞ」

 などと、ちぃーちゃんみたいなことを言いながらも、心の中ではそれほど彼女の未来人説を信用していないわけではなかった。

 むしろ未来から来たと言われた方がこれまでの事象が説明いくものに変わってくれるのだから。

「簡単に言ってくれるなぁ……。未来人だからってなんでも万能に対処できるわけじゃないんだ。タイムマシンだって不完全なもので、時間を戻ることができても時間を遡れるわけじゃない。一方通行の使い捨ってところだな。……未来からきた証拠ってほどではないんだけど、少年と初めて会ったとき、あの部屋に『遊凪』が住んでいるって情報を頼りにして私は向かったんだ。だけど、表札は『岬野』だった」

「あのときの……」

 それじゃあ、彼女は遊凪を探して疲弊していたというのだろうか。刻一刻を争うと宿泊も断って駆け回っていたのが、遊凪御影を――つまりそのときの岬野御影を見つけるためだと、そういうことなのか。

 情報とやらを頼りに探し回って、そしてようやく辿り付いたアパートの一室に遊凪ではなく岬野が住んでいたから、なるほど、それで気が抜けて倒れていたということか。灯台下暗しもいいところである。

 おっとっと。

 これはまずい状態だ。

 僕が疑問に感じていたことの――その説明が付いてしまう。

「苗字が変わる前だったから気づかなかったというのか? 未来からやってきて、なおかつ時間旅行の目的が僕を探すことであるというのならば、僕の経歴をある程度調べていたはずじゃないのか?」

「簡単に言ってくれるなよ。言い訳に聞こえるかもしれないけど、未来から着たと言っても私たちは万能じゃないんだ。情報網だってほとんどファーストエンドのやつらにコントロールされてる。遊凪少年の顔写真すらも入手できなかったぐらいだしな。それになによりタイムスリップそのものが不完全なのさ」

「不完全?」

「そう、不完全。大まかな跳び先の設定はできるけど、誤差がどうしても生まれちまうんだよ。だからアタシは『遊凪』がまだあのアパートに住んでいない時期に辿り着いたのか、はたまた偽の情報だったと勘違いしちまったわけだ」

 やれやれという風に、彼女は首を落とした。

「これでもタイムスリップシステムはチューニングできてる方なんだぜ。私より前にタイムスリップした奴らなんて、ホントに辿り着いた先が出鱈目で、なんだったら昭和やら明治にまで飛ばされた奴だっているんだからな」

「……そんなに不安定だったら、もう少し技術の進歩を待ってからタイムスリップしたら良かったんじゃないか」

 タイムスリップなどと夢物語を信じる方向で考えたとき、そこには矛盾が生じることになる。映画やマンガに触れる機会が殆どないに等しい僕なのでSFについてどうしても詳しくはないのだけれど、タイムマシンが不完全であるならば、しっかりと完成するまで時間を開けていたとしても、なにも問題はなかったはずなのだ。例えば、不完全なタイムマシンでX000年から現代まで危険を含みながら跳躍するよりかは完全なタイムマシンでX100年から現代へと安定したフライトの方が結果的には楽なはずだ。

 しかし、彼女は疲れた顔をしたまま僕の言葉を否定する。

「そう簡単に言ってくれるなよ。アタシたちはこう見えて必死なんだ。なりふり構ってる暇はない。タイムマシンなんて簡単に言ってるように聞こえるかも知れないけど、これでも必死になって開発したものなんだ。ファーストエンドの目を盗みながら、ひっそりと作り上げたんだぜ。もしも私達のアジトが奴らに見つかったら、瞬間で計画は抹消される。一分一秒が勝負といってもいい。確かな明日を待つ余裕はないんだ。未来人のわたしが言うのもなんだけど、未来に期待なんてできないのさ。なにより、完璧なタイムマシンなんかが完成する未来が存在しないから、わたしはこうして不完全なタイムマシンで時間旅行ならぬ危険旅行をするはめになってるんだっつーの」

「……ごもっともだな」

「つーわけで、私が未来人だって証明は微妙に困難なんだけどさ。信じてくれるよな?」

「信じないって言ったらどうする」

「困る」

「…………」

「呆れたものね、遊凪御影」

 と、僕と鈴香のやりとりに明日宮が口を挟んだ。

「あなた、まだ知らないフリをするつもりかしら、本当のところは全部理解できてるんでしょ。見たくないものに蓋をするのは悪い癖よ。木実近恵美のセーフティー機能が手を抜くことであるのなら、あなたのセーフティー機能が見て見ぬフリなのでしょうね。やっぱりこれは呪いよね」

「……うるさいぞ、明日宮。僕は鈴香と大事な話をしているんだ。良い子はお家に帰っておねんねしてろ」

「あらま。すっかりご機嫌を損ねてしまったみたいね。それとも、木実近恵美との勝負に割って入ったことをまだ根に持っているのかしら」

「それもあるけど、キミといると何だか胃もたれみたいな感覚に襲われるんだよ」

「木実近恵美とのことは忘れて頂戴。言ったでしょ。私だって割り込みたくて割り込んだ訳じゃないんだから。あの場面ではああすることが将来的に有益なことだったのよ。あとで私に感謝することになるんだから憶えて起きなさいよ」

 木実近恵美との勝負に割って入られたことは確かに腸が煮えくり返りそうな勢いで怒ってはいるが、それがやむ終えない事情があったというのなら、まだ許容範囲に納めることはできる。けれど、木実近恵美との件は、一度勝負を済ませれば解決していたはずなのである。それも勝利する必要はなく、最悪の場合、開始早々にワンターンキルをされたとしても問題はない。可能性さえ示せればそれでよかった。見透かしたような態度をしている限りは、明日宮だってその辺りの事情は知っているはずなのに、彼女は僕の体を操って、あろうことか十三回も勝負を挑んだ。それも全勝したというのだから、オーバーキルもいいところである。

 死体蹴りするような人間とは極力関わりたくない。

 きっと、明日宮のことだから、対戦相手を小馬鹿にしながらデュエルしていたに違いない。負けず嫌いの木実近恵美に取って、思いつく限りで最悪なマッチングである。

 木実近恵美が荒れ狂ってしまったのは間違いなく明日宮のせいなので、そのくせ未来的には有益だから感謝しろだなんて理解に苦しむ話だ。

 ――今更だが、明日宮がデュエルディスクを所持していない理由はそこにあったのか。今回のようにデュエリストを操れば、明日宮本人が手ぶらであったとしてもデュエルができてしまうわけだ。

 ……いや、未来人とか身体を操るとか非現実すぎる話がナチュラルに絡んできているぞ。大丈夫なのか僕の人生は。

 まあ、大丈夫か大丈夫でないかと言えば、とっくの昔から大丈夫ではない訳で、今更今後の心配したところで意味を成さないことではある。

 何だか一周回って冷静になってきてしまった。

「そもそもだ。鈴香を未来人だと仮定しての話だが、キミは一体なんなんだ?」

「なんなんだとは何かしら」

「キミも未来人なのか?」

「…………」

 僕が疑問系を飛ばすと、明日宮はしばらく沈黙した後、履いていた下駄をブランコの勢いに乗せながら「あーしたてんきになーあれ」のかけ声と共に器用に飛ばしてきた。

 わざとなのか、足が滑ったのか、それとも明日宮が酷いレベルのノーコンだったのかは定かではないのだけれど、その下駄は僕の方へは向かわず、直線な機動で鈴香に直撃することとなった。

「ぐふぁ!」

 なまじ腕を組んだ体制でいたため、鈴香は受け止めることもできず、顔面をミット代わりにすることとなった。ズルリと下駄が地面に落ちると、真っ赤になった下駄の跡が露骨に残っていてとても可哀想だ。

「……痛い」

「…………」

「…………」

 涙ぐむ鈴香に対してかける言葉が浮かばなかった僕たちは、眼と眼で合図を送り合って、結果、スルーを決め込む方向で進めることになった。若干ではあるが明日宮が気まずそうにしているので、わざとぶつけたわけではなかったらしい。

「私が未来人な訳がないじゃない。どこまでもとぼけた男よね、あなたは」

「とぼけるもなにも、状況から判断したら、そこそこ的を射た発想だろ。キミは見透かしたような発言が多いし、未来的にとか先を知ってるかのような素振りをするじゃないか。何より鈴香と一緒にいるのが証拠だろ」

「先を知ってるのは本当のことだから否定はできないわ。占い程度の先読みだけれどね。けれど、この子とは少し前に知り合ったばかりよ。いえ、拾ったと言った方がこの場合は正しいわね」

「そうなのか、鈴香?」

「ん?」

 と、鼻の辺りを押さえて呻き声を鈴香だったが、僕の問いかけを受けて、伏せていた顔を上げた。ちょっぴり涙声なので哀愁を感じてしまう。

「うん。その通りだ。少年とさよならした後、私はしばらく町内の調査をしてたんだけど、なにぶん食料の確保に難儀してたから、恥ずかしながらまた行き倒れちゃって、んで、そこをこの少女――じゃなかった! 雅様に拾ってもらったってわけさ」

 彼女が少女と呼称した瞬間、明日宮の黒い靄が溢れるように増大した。それに合わせるようにして、声を震わせながら様付けで呼び直したことから考察すると、どうやら彼女達の間で主従関係が成立しているらしいことがわかった。

 ナチュラルに行き倒れという現代社会ではあまり耳にしない言葉も合わさり、とてもブラックな雰囲気が漂っていた。

 主従関係があったから下駄が直撃したときも文句を言えずにいたわけだな。

 同情を禁じ得ない。

「オーケーオーケー。状況を整理しよう」

 僕は眉間を人差し指で押さえながら続けた。

「未来の世界からファーストエンドなる連中が侵略活動をするために遙々遠足にやってきていると。その侵略活動ってのがデュエルモンスターズを流行らせるためで、そんでデュエルに染まった未来が嫌だからキミたちワールドディフェンスが侵略を阻止するためにやってきた。明日宮は現代人で変な奴だが、ワールドディフェンスに協力している」

 置かれている状況を端的にまとめ終えて、鈴香の方へ視線を戻すと、彼女はゆっくりと頷いた――直後再び下駄が彼女を襲った。

「誰が変な奴なのよ。聞き捨てならないことを言ってくれるじゃない、遊凪御影。あなたは恩人に対してとんだ口の効き方をするわね」

「将来的に感謝するとかなんとか言ってたけど、今現在に限って言えばお前は恩人どころか仇だよ!」

「お前ですって!? 呼び方がワンランク下がってるじゃないの。恩を仇で返すとはまさにこのことね」

「お前はしばらく黙っててくれないか。お前が口を挟むと無駄に長ったらしくなるんだよ」

「……私を邪魔者扱いするというの、遊凪御影。いいでしょう。しばらく口を閉ざしておいてあげる。けれど、後悔することになるわよ」

「望ところだ」

 と、僕は吐き捨てた。

 いじけたようにブランコに勢いを付け始めた明日宮から照準を切り替えて、鈴香へ言葉を向ける。

「そんな感じで話をまとめてみたものの、まだ納得できてないところがある」

「愚かね、遊凪御影」

 言ったそばから口を挟んでくる明日宮だった。なんだかもう彼女がただのめんどくさい奴にし思えなくなってきたぞ。

 そんな明日宮を僕と同じく無視して、

「納得できないところってなんだよ? だから私が未来人だと証明するものはないに等しいって」

 と、鈴香は肩を落として疲れたようにしていた。

 未来人だと証明することは不可能だというその発言には意義を唱える隙間がないので、事実であろうとなかろうと僕に言及することはできない。だから未来人であるか否かは保留にしておくとしても、気になる綻びはまだ幾つか残っているのだ。

「引っかかりがあるのはそこじゃない。キミが未来人かどうかを証明することができないのと同様に、キミが未来人でないことを僕には証明できないからだ。だからその件は脇に置いておくとしてだ。どうして僕なんだ?」

「ん?」

「キミは言ったじゃないか。僕がデュエルをしたら世界が終わると。それってつまりどういうことなんだ?」

「ああ、そういうことか。遊凪少年がデュエルをすることがダメ何じゃなくて、この場合はデュエルをしないことが重要なことなんだ」

「……デュエルをしないこと?」

「そうだ。世間の影響力はとても大きいものだけれど、個人が個人に与える影響力も馬鹿にはできない。遊凪少年がデュエルをしないことで、それに影響されてデュエル主義に賛同しない人たちが少なからず生まれるんだ。ひとり生まれれば、そのひとりが次に影響を与えて行って、ねずみ算的に反対勢力は拡大する」

「…………」

「つまりだ。遊凪少年がデュエルを辞めた今があったからこそ、私達ワールドディフェンスが生まれたってわけだ」

 バタフライエフェクト。

 風が吹けば桶屋が儲かる。

 ――そういう理屈。

 ドミノの一個目。

 水面に落ちた一滴の雫。

 ――それが僕だと彼女は言った。

「そんなに重役なのか僕は……。有り得ないだろ。ただデュエルしないだけで、未来の人々にまで影響を及ぼすなんて」

「実感も少ないだろうし、にわかには信じられないだろうけど、それが遊凪少年がデュエルをしてはならない理由なんだ。木実近恵美とのデュエルを雅様が割って入ったのだって、遊凪少年がデュエリストに戻ることを回避するためのには必要だったことなんだ」

 言われて僕は明日宮雅を見る。

 ドヤ顔を作ってふふふと意味深に微笑んでいた。

「…………」

 確かに思い返してみれば呉羽がデュエリストを辞めた原因の一端は僕が担っていたようものだ。今後もあのようにして僕が誰かに影響を与えていくということなのか……?

 なんとなく状況には当てはまっているようには思うけれど、やっぱりだからって、そのようなSF色を全面に持ってこられても困る。ついさっきまで、僕は普通の高校生だったんだぞ。それなのに突然、未来人やら歴史を動かす存在だなどと言われても挨拶にできない。

 ……いや、立場的には普通の高校生から変化があるわけではないのか。

 戸惑って言葉を失っている僕に向けて、鈴香は言った。

「絶対デュエル主義反対組織ワールドディフェンス――略称でWD(ダブルディー)って呼ぶことが多いんだけど、とにかく私達がデュエルに染まらずにすんだのは遊凪少年のおかげなんだ。これでも結構崇めているつもりなんだぜ? WDにとっての神様みたいなものなんだから」

「…………神様って」

 普通の高校生から神様まで昇格してしまっていた。

 だけど、それは遠い未来における話であって、今現在の僕にそれを押し付けられても迷惑にしか感じられない。

 ……いや、しかしまてよ。

「僕が神様みたいに崇めてくれているってことは、鈴香は従順になってくれるってことなのか!」

「そんな訳がないじゃない蛮族よ、遊凪御影」

「確かに神様みたいに思ってるけど、従順ってわけじゃねえよ、遊凪少年」

「…………」

 ジョークなのに……。

 汚物を見るような眼を向けられてしまった。

 世知辛い世の中である。

 それにしても――

 それにしても、絶対デュエル主義反対組織WDか……。

 デュエルモンスターズ――DMの反対。

「鈴香が僕を探していた理由が、僕がデュエリストに回帰するのを回避することにあるというのは、一応信じておくとして、それでもまだ謎は残ってるぞ。ファーストエンドってやつらは、どうしてタイムスリップをしてまでデュエルモンスターズを世界に蔓延させようとしているんだ。支配が目的というのであれば、デュエルに拘らないでも、もっと効率のいいやり方があったはずだろうに」

「それについては私が説明するわ、ぼくくん――」

 ――と、言葉を返してきたのは明日宮雅でも鈴香みつきでもなかった。

 ジーンズにポロシャツ、その上に纏っている格好は彼女のいつも通りの営業スタイルだ。セミロングの髪から、なきぼくろの位置に致まで、以前とは寸分変わっていない――差異は細腕に付けられたらデュエディスクにあった。

 呆気に取られた僕たちを置き去りにして、彼女は言った。

「始めましての人は初めまして、久しぶりの人は久しぶり。私は絶対デュエル主義繁栄組織『F・E(ファーストエンド)』のメンバーよ。名前はないから、ID:276と呼んで頂戴」

 

 

 

 

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