クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 紫銀の月   作:MIDNIGHT

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共鳴戦線 -心重ねて-

龍の鎧をまとった焔龍號と夜刀神が空中で激突する。

 

太刀と小太刀を振るう焔龍號に大剣を振るう夜刀神―――大型化したことで機動性は落ちたものの、パワーを増した焔龍號は刀を自身の手の延長のように振るい、斬撃を繰り出す。それを大剣で防ぎ、捌きながら防戦する。威力は確かに高いかもしれないが、密着した状態でなら小回りのきく焔龍號が有利―――だがそれは、相手が『並』という前提がいる。

 

焔龍號が二刀から繰り出す斬撃は互いの刀身の差がわずかな錯覚を生み、相手の目測を狂わせる。夜刀神はそれを受け止めようとはせず、逆に繰り出す剣閃の軌跡に向かって突撃を繰り出し、焔龍號の斬撃を捌く。

 

幾重にも煌く剣閃に傍目からは夜刀神が防戦一方になっているように見えるが、押しながらもサラマンディーネの顔には些かの安堵もなかった。硬くなる面持ちで振るっているが、夜刀神が受け止めた衝撃を止めず、逆にその勢いを利用した後方へと跳び、距離を取る。瞬時にサラマンディーネが息を呑むと、夜刀神の大剣が分裂し、連装剣となってしなる。

 

巨大な大蛇のように弧を描きながら襲い掛かり、逆に焔龍號を弾き飛ばす。

 

「千渦連斬!!」

 

追撃するように放つ無数の突撃が降り掛かる。サラマンディーネもまた、同じ技で応戦する。だが、武器としての差か、重さが勝り、勢いに押し負けてしまう。

 

歯噛みしながら耐える焔龍號は、背中のスラスターを噴射させて上に舞う。

 

「天地降斬!!」

 

「地天昇斬!!」

 

上下から斬り掛かる二体は空中で交錯し、すれ違う。瞬時に旋回し、焔龍號は上空へと再び急上昇する。

 

「地天――――!」

 

斬り上げる焔龍號を夜刀神は剣を盾にして防ぎ、捌かれた刃をサラマンディーネは瞬時に持ち替えた。

 

「――降斬!!」

 

そのまま斬り掛かる焔龍號の斬撃が夜刀神の機体を掠め、僅かに装甲を欠けさせる。だが、そんな掠り傷に怯みもせず、夜刀神はダッと飛び出し、焔龍號に体当りする。

 

通常形態のままだったなら、その重量に少なからずダメージを受け、吹き飛ばされていたかもしれないが、今の焔龍號は強化装甲を纏っている。当然、パワーも上昇しているため、その程度ではビクともしない。

 

振りかぶった左腕の拳を密着状態で繰り出し、逆に夜刀神を弾き飛ばす。

 

吹き飛びながらも左腕を空中で振るい、連接剣がしなり、焔龍號の装甲を斬り裂き、衝撃で歯噛みする。互いに踏み止まり、空中を踏み台にするように相手に向かって跳ぶ。剣を振り上げて相手に向かって叩きつけ、焔龍號と夜刀神の両方に一閃が刻まれ、爆発の火花が機体を包む。

 

煙を纏いながら衝撃で距離を取り、サラマンディーネは唇を噛む。なんとか強化した焔龍號の出力で互角に持ち込んでいるが、地力の技量は負けているのだ。おまけに、この強化装甲も出力の関係上、あまり長くは使用できない。

 

時間をかけるわけにはいかない―――それを理解したサラマンディーネは一瞬眼を閉じると、やがて決然と顔を上げる。

 

焔龍號が両手に握る太刀と小太刀を握り締め、身構える。次の瞬間、全身を覆う鎧の装甲に焔の光が走り、胸部に備わった火之迦具土神の増幅装置が出力を一気に上昇させる。

 

増設されたスラスターが大きく展開され、炎の後輪を生み出す。装甲の各部位からまるで炎を纏うように紅が輝き、その様子に夜刀神も左腕を大きく引き、そして身構える。互いに相手の出方を窺い、そして狙う。

 

空気がその発せられる闘争に触発され、大きく乱れる。

 

刹那――――焔龍號と夜刀神が一気に飛び出した。

 

「喰らい殺せ、八蛇突!!!」

 

夜刀神が大剣を眼にも止まらぬ速度で繰り出し、連続の突きの剣閃がまるで獰猛な牙を向ける八つの大蛇となって襲い掛かる。

 

「唸れ爆烈! 轟け熱破! 烈火! 爆輪斬ッ!!!」

 

相対する焔龍號も怯むことなく、両手に握る太刀と小太刀を大きく薙ぎ払い、炎を纏った剣閃が圧倒するような龍のカタチを成し、一気に応戦する。

 

八つの大蛇と龍が空中で激突し、それに憑依するように焔龍號と夜刀神が激突する。空中で激突するエネルギーの奔流が相手を喰らおうと拮抗する。

 

サラマンディーネとトウハが互いに気迫をぶつけ、あらん限りの力を込める。

 

「ぐっうぅぅ、ああああああぁぁぁっっっ!!!」

 

拮抗するなか、サラマンディーネは声を張り荒らげ、その気迫がのり移ったように龍が大きく牙を剥き、八つ首の蛇へと襲い掛かる。

 

龍がその全身を使って蛇の八つの首を締め上げ、膨張したエネルギーが互いに反発し合い、巨大な爆発が起こり、それを見守っていたリーファは喉を鳴らし、呆然となる。

 

爆煙が晴れ、互いに背を向けた状態で静止する焔龍號と夜刀神―――無音と沈黙がどれだけ続いたか、ほんの数秒程度がまるで長く感じた後、夜刀神の左腕の大剣を繋いでいた接合部から爆発が起こり、僅かに体勢を崩す。息を呑むリーファだったが、サラマンディーネは動かない。

 

いや、動けなかった――焔龍號の装甲にも微細な傷が走り、亀裂を生じさせている。増設した装甲のおかげで耐え切れたのは僥倖だった。

 

相打ち―――いや、既に武器を不能にさせられた時点で夜刀神の方が不利だが、サラマンディーネも全集中力を使用したため、精彩を欠いている。

 

身体が反応を億劫にするなか、トウハは状況に動じた様子も見せず、小さく口元を緩めた。刹那、夜刀神の左腕にドッキングしていた剣が分離し、元の蛇のような形態を取る。ダメージの影響か、煙を纏っているが、身構えるサラマンディーネの前で、蛇は徐に身を夜刀神に巻きつけ、引き上げるように離脱する。

 

「兄上―――!?」

 

咄嗟のことに反応の遅れたサラマンディーネが戸惑うも、トウハは何も答えず、夜刀神は未だ吹き荒ぶ磁気嵐を過ぎり、その後方に開いたシンギュラー目掛けて飛び込む。

 

息を呑んだ瞬間、夜刀神の姿はシンギュラーの向こう側へと消え、歪が閉じる。伸ばしかけた腕は宙をさ迷い、サラマンディーネは茫然となり、やがて鈍い傷みが胸を襲う。

 

(兄上――何故、なのですか……?)

 

吐露できない心の中の葛藤を抑えるように胸の前で手を震わせる。

 

「姉上、竜巻が……!」

 

逡巡していたサラマンディーネがリーファの叫びにハット我に返り、視線を戻すと、静止していた時空嵐がその勢力を保ったまま、再び進行を開始した。

 

「セラ!?」

 

「一番厄介なのがまだ残ってる―――!」

 

ヒュドラ以下、なんとかドラゴンの群隊を排除したアイオーンとヴィルキスも呑み込まんと進む時空嵐に舌打ちする。

 

ドラゴンの妨害のせいでこちらも思った以上に消耗してしまった。あの竜巻を消滅させるには、アレ以上のエネルギーで打ち消すしかない。

 

(なんで……?)

 

不意に浮かんだ思考に思わず戸惑う。あの現象について、何故『識って』いるのか―――自身に困惑するセラだったが、アンジュの声に我に返る。

 

「どうするの、セラ!?」

 

ジリジリと迫る竜巻に、焦燥感を隠せずアンジュは対抗策を求めてセラに問うも、セラは小さく唇を噛む。浮かんだ疑念を今は抑え込み、思考を巡らせる。

 

出力が上がっているとはいえ、今のアイオーンでもアレに対処できるか確信が持てない。

 

別の『手』はある―――だが……逡巡して口を噤むセラにアンジュも顔を顰めながら、必死に頭を動かす。やがて、ピンと来たのか、声を上げる。

 

「そうよ、アレ、『アレ』があるじゃない!」

 

名案とばかりに声を弾ませる。

 

「アルゼナルであの女の機体にぶつけたヴィルキスとアイオーンのアレ! あれであの竜巻を消してしまえば!!」

 

その言葉にセラは小さく眉を顰める。そう――それはセラも考えた。だが―――答えず口を噤むセラに戸惑うアンジュにサラマンディーネの声が割り込んだ。

 

「ダメです!」

 

滞空するアイオーンとヴィルキスの傍へと焔龍號が接近し、制止する。

 

「な、どうして!?」

 

突然、口を挟んだサラマンディーネにアンジュが理由を尋ねる。

 

「収斂時空砲は、威力があり過ぎます! ラグナメイル2機分の威力をぶつけては、この都や神殿はおろか、この辺り一帯まで吹き飛ばしかねません!」

 

「だったら、ヴィルキスかアイオーンだけで!」

 

一瞬怯むも、アンジュは次の手を口にするが、サラマンディーネの表情は苦く強張る。

 

「それでは、今度は逆に威力が足りないのです。恐らく、あの竜巻を掻き消すには、僅かに届かないのです!」

 

そう―――『収斂時空砲』はラグナメイルの最大兵装にして最強の『切り札』(ジョーカー)だ。それ故に使いどころが限定される。せめて、ここが都よりももっと離れた位置であったなら、被害も考慮せず、アイオーンを含めた3機の収斂時空砲で対処できた。

 

だが、そんなことはあちらも承知済みということだろう。なまじその威力を目の当たりにしているだけに、手が思いつかない。

 

通常兵装だけではパワーが圧倒的に足りない。打つ手が思いつかず、セラもサラマンディーネも焦燥にかられながら逡巡していると、アンジュがハッと閃いたように声を張り上げた。

 

「だったら、威力を落とせばいいだけでしょ、3割引で撃てばいいじゃない!」

 

「そんな都合よく調節なんてできません!」

 

「融通利かないんだから、もう!」

 

癇癪を起こすように舌打ちするアンジュだったが、その言葉にセラは眼を剥き、次の瞬間失笑して噴き出した。

 

「プッ、アハハハ!」

 

「セ、セラ……?」

 

突然笑い出したセラにアンジュは顔を引き攣らせ、サラマンディーネも予想外の事態に眼を白黒させている。だが、別に可笑しくなったわけでも、頭が狂ったわけでもない。

 

セラは笑みを抑え、どこか自信を覗かせるように顎を引いた。

 

「それよアンジュ! やっぱりあなたは最高だわ、その突拍子もない思いつきは!」

 

セラにしてみればそれは称賛だったのだろうが、当のアンジュにとっては褒めているのか、それとも馬鹿にされているのか―――判断に困る言葉だったが、意図が掴めず戸惑うアンジュとサラマンディーネに向けてセラは真剣な面持ちで口を開く。

 

「アンジュ、お姫様、私達3機で例のやつをアレにぶつけるわよ!」

 

その言葉に驚愕する。

 

「何を言っているのですか!? そんな事をしたら、この一帯がどうなるか―――!」

 

ただでさえ強力な収斂時空砲を3機分もぶつければ、対消滅のエネルギーでこの都や神殿だけではない、半径数キロに渡って尋常ではないほどの被害の拡大が起きる。脳裏に過去の忌まわしき記憶が過ぎり、唇を噛む。

 

苛立つサラマンディーネにセラが言葉を挟む。

 

「話を聞きなさい、威力が高いなら調整してやればいい―――3機分のエネルギーを一点に集中させて相殺させる!」

 

「あ―――」

 

セラの言葉にサラマンディーネは思わず声を上げる。

 

「そっか、アルゼナルでやったのと同じね!」

 

アンジュは得心がいったのか、声を弾ませる。サラマンディーネの言うとおり、収斂空時砲は微細な調整が難しい。セラにしてもアンジュやサラマンディーネもまだ一回しか使用していないため、十全に使いこなせているとは言えない。

 

だが、以前アルゼナルで対峙した際に互いに収斂空時砲を撃ち合い、威力を相殺させた経験がある。バラバラに撃っては意味がないが、一点に集中させれば、干渉し合ってエネルギーは僅かに相殺される。

 

それによって威力を調整し、あの竜巻を消滅させる。

 

「で、ですが! そんな上手くいく保証は―――」

 

理屈で考えれば確かに合理的ではあるし、可能性はある。だが、もし少しでも位置がずれれば、相殺できたとしてもうまく減退しなかったら―――威力はそのまま消滅のエネルギーを相乗させてしまう。

 

半ば博打に近いだけに、サラマンディーネは決断しきれずに口を噤み、二の足を踏む。

 

「――――信じなさい」

 

思い悩むサラマンディーネにセラは静かに呟く。ハッと顔を上げるサラマンディーネの前で、アイオーンは泰然と竜巻を見据えるように対峙する。

 

「なんとかなるじゃない、なんとかするのよ―――1%でも可能性があるなら、それを掴んでみせる!」

 

己に言い聞かせるようにセラは操縦桿を握り締める。

 

「『ラグナメイルは強い想いに応えるもの』――――」

 

眼を閉じ、己に告げられた言葉を反芻し、アンジュとサラマンディーネは思わず聞き入る。

 

「私は信じる――自分を……『相棒』(アイオーン)を―――――」

 

微塵も揺るがないほどの信頼を預けるように握る操縦桿を通して、その想いに応えるようにアイオーンの発する粒子が増し、ツインアイが輝く。

 

その姿に呆然となるサラマンディーネだったが、アンジュは不敵に笑う。

 

「OK、私も信じるわ! やってやろうじゃない!!」

 

セラを信じるアンジュの眼にも迷いはなく、ヴィルキスをアイオーンの横へと並ばせる。

 

「あなたはどうするのよ、サラマンドラ!?」

 

どこか怒気を含むような問い掛けに、サラマンディーネは思わずビクッと身を震わせる。そんな彼女を畳み掛けるようにアンジュは言葉を紡ぐ。  

 

「あなた、お姫様なんでしょ、サラマンマン! 危機を止めて民を救う! それが、人の上に立つ者の使命よ!」

 

アンジュの言葉にサラマンディーネはハッと眼を見開く。

 

「っ!? 分かりました、やりましょう―――!」

 

奇しくも、それは先程サラマンディーネ自身がセラに投げかけた言葉だ。アンジュが陰でそれを聞いていたことを彼女は知る由もないが、アンジュ自身も無意識に出た言葉だったのだろう。

 

逡巡していたサラマンディーネも覚悟を決めたように、毅然と表情を引き締め、焔龍號をアイオーンの横へとつけ、3機が並ぶ。

 

「私も信じます――そして、私の守るべきものを守ってみせます!」

 

龍神器もラグナメイルを基に生み出されたもの―――ならばこそ、セラの言葉に賭ける。決然と見据えるサラマンディーネに、その一部始終を聞いていたセラも小さく口元を緩める。

 

(やっぱり、あなたは『太陽』よ―――姉さん)

 

それは、皇女として―――人の上に立つ者として生きてきたが故のアンジュにとって逃れられない呪縛であると同時に彼女の『強さ』だった。少なくとも、セラにはそこまで言える程の強さはない。

 

だからこそ、『ノーマ』としての『自身』(セラ)を貫く。

 

「いくわよ、アンジュ! お姫様!!」

 

「ええ!!」

 

「はい!!」

 

セラの号令に応じ、三人の歌姫は『歌』を紡ぐ。

 

 

 

―――風に飛ばんEl Ragna 運命と契り交わして……

 

―――風に征かんEl Ragna 轟きし翼……

 

 

 

サラマンディーネの歌に反応し、焔龍號がツインアイを輝かせ、両肩が変形し、その下から宝玉が現れる。それに呼応するようにコックピットの正面モニターに『収斂時空砲』の文字が浮かぶ。

 

 

 

―――始まりの光 Kirali…Kirali

 

―――終わりの光 Lulala…Lila

 

 

 

セラとアンジュもまた歌を紡ぎ、それに連動してアイオーンとヴィルキスのバイザーの下のツインアイが呼応し、両肩が変形する。

 

戦場に響く3人の歌姫の声が己が機体の秘めし力を解放へと誘う。それは、『破壊』と『再生』を誘う『永遠の歌』――――――『祝福』と『鎮魂』を齎す天使と竜の輪舞曲――――――

 

歌のメロディによってヴィルキスと焔龍號の姿が黄金へと変化する。各々の機体が纏う鎧すらも一体化するように染まり、両肩へと粒子が収束し、エネルギーをスパークさせる。

 

3機の中央で歌うセラのアイオーンのもまた、放出される虹色の粒子量が増大し、フレームから放たれるエメラルドの色彩が輝きを増す。胸部に埋め込まれた宝玉が明滅し、両肩の発射口へと粒子が収束していく。

  

呑み込まんと荒れ狂う時空嵐が対峙する3機へと迫り、アンジュとサラマンディーネがタイミングを合わせるように収斂時空砲を発射させた。

 

ヴィルキスと焔龍號から解き放たれる閃光が時空嵐に直撃し、その勢いを怯ませる。二つの閃光は嵐の中で、ぶつかり、互いのエネルギーが干渉し合い、膨張させる。

 

「「セラ―――!!」」

 

アンジュとサラマンディーネが同時に呼んだ瞬間、セラもキッと前を見据え、歌のメロディーを響かせ、奏で上げる。

 

アイオーンの両肩に収束していた粒子が枷を外されたように解放される。アイオーンが放つ虹色の粒子を纏った閃光が真っ直ぐに迫り、時空嵐の中でぶつかり合う収斂時空砲のエネルギーへと突き刺さる。

 

3つのエネルギーが互いに干渉し合い、時空嵐の中で暴れ狂う。内部からの爆発的なエネルギー量に嵐が呑み込まれていく。

 

収斂時空砲を撃ち続けながら、アンジュとサラマンディーネは強ばった面持ちで事態を見守る。歌いながら、セラは静かに眼を閉じる。

 

(アイオーン―――私の想いを………私の進むべき道を示せ―――――――!)

 

もし失敗すれば、この都はおろか、自分達もどうなるか分からない。だが、セラには一片の動揺も恐れもなかった。

 

セラが心の中でアイオーンに向かって叫び、永遠語りの最後の歌詞を口ずさむ。刹那、アイオーンから放たれていた収斂時空砲のエネルギーが嵐の中でヴィルキスと焔龍號のエネルギーを包み込み、収縮していく。

 

抑えていた嵐はその余波を受け、遂に決壊し、時空嵐が弾け飛ぶように掻き消え、周囲は真っ白な閃光に包まれた。

 

世界のすべてを染めるかのような白い輝きが満ち、それは次第に収縮していった。ホワイトアウトの影響が失くなったのを感じ取ると、アンジュとサラマンディーネは恐る恐る目を開けた。

 

滞空する3機の前には、時空嵐によって崩れ落ちた暁ノ御柱の残骸が見える。周辺の家屋は影響によって倒壊していたが、予想していた収斂時空砲による周囲への破壊の影響はなく、彼女達の後方にある都も神殿も、無事な姿で残っている光景を確認し、やがて喜色が満ちる。

 

「やった、やったわ!!」

 

「ええ、やりました!」

 

アンジュとサラマンディーネは興奮を隠せず、喝采を上げる。その通信を横にセラは肩を竦める。 

 

「ふぅ……」

 

ようやく肩の荷が下りたとばかりに小さく嘆息し、セラはバイザーを取り、軽く頭を振った。幾分か安堵した面持ちでセラは呟く。

 

「お疲れ」

 

労うようにコックピット内で呟き、バイザーを置いて軽く背筋を伸ばす。実際には一時間にも満たないだろうが、体感的にはまるで一日近く戦っていたような疲労を憶えていた。

 

「信じる、か―――」

 

自分で言った言葉に苦笑する。

 

「そう言えば、私『達』って、まだそんなに長い付き合いじゃなかったわね」

 

どこか不敵な笑みを浮かべて、コンソールに頬杖をつきながら、アイオーンに呼び掛ける。思えば、まだほんの数日―――だが、とセラは肩を竦める。

 

「少しは、お互い歩み寄れたのかしらね?」

 

その背景も正体も知らない――何故、自分を必要とするのかさえ分からない。そんな不確かなものに命を預けているというのに、セラには些かの不安もなかった。

 

冗談めかした口調で語り掛ける声色には、まるで永い付き合いのような信頼が込められていた。

 

「改めてよろしく頼むわね、『相棒』(アイオーン)

 

この先、自分に何をさせたいのか――何の意味があるのか……未だ分からないことは多いが、今はどうでもよかった。徐に軽く握った拳でモニターをコツンと叩く。それに応えるようにアイオーンが微かにカメラアイを明滅させ、小さく駆動音を響かせた。

 

 

 

 

 

 

戦闘が終結し、都を夕闇の朱が包む。瓦礫となった街と、時空嵐によって呑まれ、残骸と一体化して死んだドラゴンの民の遺体、そして死してなお利用され、骸を故郷に晒すドラゴン達の遺骸――――

 

虚しさを憶えるような光景だが、それでも生き残った者達はその生を喜び、そして噛み締めるように涙する。その中には、ヴィヴィアンと母親の姿もあった。 

 

「お母さん、お母さん…」

 

「ミィ…」

 

ヴィヴィアンとラミアは泣きながら抱きしめあってお互いの無事を喜んでいた。再会からまだ一日―――それでも、確かにある親子としての絆か、その様子を離れた位置で見ていたタスクはどこか眩しいように見ている。

 

「よかった…っっ」

 

感慨に耽っていたが、不意に痛みが走り、顔を顰める。

 

「あ、も、申し訳ありませんっ」

 

タスクの声に傷の手当てをしていたリーファが顔を強ばらせ、慌てる。傍に着地している黄龍號の下ろした掌の上で座るタスクの腕には、グレイブの爆発時に負った傷があり、そこに包帯を巻いていたのだが、締める力が強かったのか、狼狽するリーファに苦く首を振る。

 

「いや、大したことないよ――それに、助けるはずが逆に助けられちゃったからね。ありがとう」

 

苦笑しながら呟くタスクにリーファは頬に夕日ではない赤みが差し、小さく口を尖らせて照れ隠しのように包帯を締め上げた。

 

痛みに呻くタスクの姿に機外へと出たアンジュは一瞥し、呆れたように嘆息する。

 

「何やってんだか――――」

 

「ま、いいんじゃない」

 

そんなアンジュに失笑し、神殿を前に戻ったアイオーン、ヴィルキス、焔龍號の3機が立ち並び、セラ達は空気を貪るように大きく呼吸する。

 

息を吐き、徐にアイオーンを見上げる。そこには先程までの白銀の装甲ではなく、漆黒の姿に戻っていた。あの感覚が何だったのか、よくは分からない。

 

だが、そんな細かな理由はどうでもよかった。

 

「何とかなったみたいね」

 

「あなた達のおかげで、民は救われました。感謝します、セラ、アンジュ」

 

焔龍號のハッチの上に立ち、感謝するサラマンディーネにアンジュはやや照れたようにそっぽを向く。

 

「友達を助けただけよ」

 

素直になれず、そうぶっきらぼうに告げるアンジュにクスリと頬を緩ませる。

 

「…しかし、まさか、あの歌に助けられるとは―――」

 

だが、サラマンディーネの表情に困惑が浮かび、ポツリと漏らした一言に、アンジュが首を傾げる。

 

「あなた達が歌ったのは、かつてエンブリヲがこの惑星を滅ぼした歌なのです」

 

その言葉に息を呑む。

 

「そう―――あの『歌』は…『永遠語り』は、ただの歌じゃない。ラグナメイルの最後の力を解放するための鍵」

 

それに応えるようにセラが言葉を紡ぎ、その内容に二人は眼を見張る。アンジュはあの歌にそんな秘密があったことに、サラマンディーネはセラが口にした内容に。

 

「『破壊』と『創造』のための鍵―――――だったかしらね」

 

肩を竦める、随分と物騒な歌だと。

 

アンジュはその言葉に戸惑い、思い悩む。あの歌は母親から教わった―――『どんなときでも、進むべき道を照らすように』と――――――

 

「私は、あの歌をアウラより教わりました―――『星の歌』と」

 

サラマンディーネが教わった歌は元々はアウラが歌っていたもの――――アウラがドラゴンになりし時より、彼女が口ずさんでいた。

 

それは、絶望の底にいた人々に希望を与え、道標となった。そのメロディーはドラゴンの民なら誰でも知っている。だが、あの歌が龍神器の――その基になった『ラグナメイル』の収斂時空砲の起動のための鍵だという事実を知るのは大巫女を含め、アウラに連なる一族の長にしか伝えられていない。

 

「セラ、あなたは――あの歌をどこで?」

 

不意に出た疑問にアンジュも思わず顔を上げる。

 

そうだ――今までどうして不思議に思わなかったのだろう。アンジュは確かに母親から教わったが、それでも物心がつき、何度も歌ってくれたからだ。だが、セラは違う―――生まれてすぐにアルゼナルへと送られた彼女が自分と同じように母親から教われるはずなどない。

 

仮にソフィアが生まれた時に歌ってくれたとしてもそんな記憶を覚えているはずがない。

 

困惑するアンジュとサラマンディーネに、セラはどこか困ったように、そして、その微笑が少しだけ寂しげなものになった。

 

「私が教わったのは――――『気まぐれな女神』さま………」

 

冗談めいた、どこか揶揄するような口調で告げた言葉に戸惑う。そんな二人に応えず、無意識に手が胸元のペンダントに伸び、握り締めながら徐に視線を上げ、遠くを見る。

 

夕闇の奥から徐々に染まる青紫の空には、いつの間にか月が昇っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雷鳴が轟くミスルギ皇国―――――暁ノ御柱が不気味に聳えるなか、黒雲の中に混じるように開いたワームホールから夜刀神が姿を見せる。

 

そのままミスルギ皇国の上空を飛ぶも、街は何の反応もなく、まるで見えていないように日常を送っている。やがて、夜刀神は皇居へとたどり着くと、機体を着地させる。

 

ハッチが開放され、トウハが顔を出し、機体から降りる。

 

「よう、随分楽しそうだな、負けた奴の面じゃねえな」

 

そんなトウハに声が掛けられ、無造作に振り向くと、くすんだ髪を靡かせるアイビスが不敵に佇んでいた。小さな揶揄に答えることもなく、トウハは徐に取り出した煙草を咥え、ライターで火をつける。

 

ライターを手の中で弄びながら煙草を噴かし、白煙が宙に霧散する。

 

「で―――成果はあったのかよ?」

 

一服するトウハに絡むように話し掛けると、小さく不敵に嗤う。

 

「ああ―――予想以上の収穫だったな」

 

それが何を指しているのか、うかがうことはできなかったが、アイビスは逆に納得したように鼻を鳴らす。

 

「結構で―――あの調律者様も大喜びだろうさ」

 

どこか慇懃に言い、気を良くしたのか彼女もまた内ポケットから愛飲の煙草を取り出し、火をつける。煙を噴かしながら、視線が細まる。

 

「ま、なんにしてもオレらは当分出番なしだな」

 

アイビスは先日のアルゼナルでの戦いで愛機を失い、現在は暇を持て余している。いや―――暇潰しはできていたか、と肩を竦める。

 

「ま、調律者様の新しい玩具どものお手並み拝見といくか」

 

彼女はここ数日、エンブリヲが新しく手に入れた『玩具』()の相手をさせられていた。一人を除いてエンブリヲに心酔する連中ばかりだなと毒づく。

 

徐に視線が皇居へと向けられる―――その視線がどこを捉えているのかは分からないが、アイビスは侮るように呟く。

 

「言われたことしかできない人間を三流。言われたことを上手にできる人間で、ようやく二流―――お前らは一流になれるか?」

 

それはまるで、己に向かって吐き捨てているようであった。そんな不快な気分を煽るように、先程から拡がっていた黒雲から雨が降り注いできた。

 

 

 

 

 

 

 

皇居の一室―――調度品が配置された部屋の大きな窓の傍に置かれた丸テーブルの上に置かれたティーセットから注いだ紅茶を優雅に飲む一人の青年――――エンブリヲは紅茶を含みながら、まどろんでいる。

 

窓の外はそんな雰囲気に水を差すように雷鳴が轟き、稲妻が所々で光り鳴っている。だが、当人は特に気にした素振りも見せず、飲んでいたカップを置く。

 

「そうか―――期待以上の成果だよ」

 

見えない相手と会話でもするように呟き、満足気に笑みを浮かべる。

 

「フフフ――廃棄物(ゴミ)も存外に役立ったものだ。アレが覚醒をみたか―――ならば、そろそろ招く頃合いかな?」

 

愉しげにクツクツと笑い、そしてこの先に待っている『出会い』(イベント)を待ち焦がれるように表情を緩ませる。

 

「喜びたまえ、間もなく『君達』の出番がやってきそうだ」

 

顔を上げ、視線が部屋の入り口付近で佇む数人の人影に向けられる。全員が統一された濃紺の制服に身を包み、一糸乱れぬように直立している。

 

それはまるで、中世の騎士のような統率感だった。六つの人影は先程から独りごちる主の様子を奇怪とも思わず、ただその意を仰ごうと待っているだけだ。

 

「期待しているよ、私の『戦乙女』(ワルキューレ)達」

 

『イエス、マイ・ロード!』

 

愛でるような声で告げると、一斉に敬礼で応じる。それに満足しながら、エンブリヲは視線を一番奥で佇む一人へと向ける。

 

「君には、特にだよ―――ナオミ」

 

声を掛けられ、微かに俯いていた顔が上げられる―――隠れていた瞳は、どこか暗く淀んでいる。以前とは打って変わったような瞳で、ナオミは無言のまま視線を遠くへと向ける。

 

窓の外―――今は黒く覆われている空の向こう側にあるはずであろう『モノ』へと――――そんな不遜な態度に中央に立っていた人物が咎めようとするが、それをエンブリヲは手で制する。

 

エンブリヲもまるで気にも留めていない―――軽く一礼して下がり、刹那…轟く雷鳴が彼女の顔を暗く包んだ。

 

「ああそうだよ―――君の願いを叶えたまえ………君の『歌』と『月の女神』でね」

 

甘く囁く声は天使の祝福か、悪魔の契約か―――そんなものは『今』のナオミにとってはどうでもよかった。ただ彼女の中にあるのは一つだけ―――――

 

(セラ―――――……)

 

焦がれるように呼ぶ名―――それだけが彼女の心を支配していた。




やっと終わった―――原作だと後半パート程度のはずなのに、このパートだけで4話分ぐらい使った。

なにはともあれ、これでようやくドラゴンの世界での戦いもおわり。

次回ぐらいでいよいよあちらに戻れます。久々にナオミ達も出てきます。ホント長い間放置してすまん(汗

ではでは、次回も気長にお待ちください。

次に書くのはどれがいいですか?

  • クロスアンジュだよ
  • BLOOD-Cによろしく
  • 今更ながらのプリキュアの続き
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