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私はこの世界になっても、変わらずに祈り続ける。それは何に対してか、もう分からない。縋るものが祈りでしか無くなり、安らぎが失われたあの日。祈ることもままならなくて、気が付けば〝現在〟が目の前にあった。
そうまるで、記憶がないかのように。お姉さまが変わらずに居て、でも、変化は些細なことからもう戻り様のないことまで。例えば、仲間で争うこととか。
その戦いで乃梨子は亡くなった。
私とお姉さまを庇い、あの薔薇の館でも一緒にお茶を囲み、書類をまとめたメンバーに。
もう、もう、もう。私にはお姉さまと祈りしかない。
だから、『楽園』を目指すお姉さまに従い、そこに私を添えて“宗教”ポリシーとして拡大化を図った。似たようなポリシーを取り込み、言葉と行動でねじ伏せてお姉さまのカリスマ性を滔々と語り聞かせてきた。
私があの頃信じた、場所には絶対行けない。
それでも乃梨子が生きながらえさせてくれた、私は更に生きるしかない。
お姉さまも適していく自分と、こうなる前の自分でせめぎ合い疲れ、それでも、あの人の為に。
私が自分の底に潜っている最中に、お姉さまがいらっしゃる間に到着していた。
「ああ、志摩子。公式決定会議なんて怠いよねえ。出ないと“法”も“財”、管理庁は五月蠅いだろうか」
欠伸混じりに言い、長い脚を組み換える。かつての仲間を名前で呼ぶこともしない。
「そうですね。私だけ出席するのは、どうもよろしくありませんね」
もうお姉さま以外では苦笑いとして認識されない笑みを出す。何故だか、リリアンでの生活とあの子が笑いながら名前を呼んでる気がした。
「志摩子、どうしたの?」
何かに気が付いたお姉さまが、表情に浮かべながら覗いこむ。
「いえ、気になさらないでください。ああ、そういえば。」
一旦、言葉を切りつつお茶の準備をする。
「ん?どうした?」
お姉さまはホログラムに出す商品をモニタでチェックをしながら、本物がどんな味なのかすら忘れてしまった食品を味わう素振りすら見せずに口に入れていく。ただの生きる燃料を摂取する行為。
「“財”と管理庁管轄でタブーが見られたとか」
カップを置きながら、一言で伝える。食品を掴む手が止まり、静止するお姉さま。私も安全確認を主に任せてる者からの報告を聞いた瞬間はそうだった。今も信じられない。
視線を見えない何処かにやり、唇を余り動かさないようにして、
「音声は?」
開示義務が発生した時のことを聞いてくる。
「大丈夫ですわ、もう差し替えてます。音声は、映像も出来ますが」
映像もとなると、早急に差し替えないと録音規制が常にされてるお姉さまの間では厳しい。
「いや、それはいい。そうか、何を考えてる。何故、今、こうして。」
区切るように、噛み締めるように吐き出される言葉は、私も感じてる。
あなたは、私たちを見捨てたのではなかったのか。
お姉さまがどんな想いで、祥子さまと瞳子ちゃんが悔やみ、蓉子さまが嘆き、江利子さまが更に顔を歪め、由乃さんが歯を食いしばり、令さまが顔を伏せ、私が...
私が祈りと空を見るしか出来なかったあの戦い。
言葉も気持ちも分かり合えなくなった。
色んなポリシーとの戦い、冷戦、決裂、戦い、冷戦、闘争。
あの頃のように、無邪気さも純粋の欠片もない。
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何処までも澄んで、このまま吸い込まれそうになる青。そこに申し訳なさそうにある、白い色。
その下で、乃梨子も私も、そして皆が笑っていた。
黒に深い緑を垂らした、同じ服を身に纏い。鮮やかな毎日を疑問も抱かずに。
私たちが学年を一つ上がった時、由乃さんは普段から違った表情で妹にロザリオを渡し、乃梨子は妹を持つことに悩み、瞳子ちゃんは祐巳さんの側に居たがった。
話を聞きつけた先代たちがどんなに妹の素晴らしさを語っても、瞳子ちゃんは来年作る、もしくは、ぎりぎりに。と駆けつけた祥子さまと蓉子さまを呆れさせた。最後には祐巳さんに多少の皮肉を言っていたが、日だまりのような笑顔で抑えられてた。
考えれば考えるほど、祐巳さんは人を惹き付けて止まない。
私も、由乃さんも然り。
お姉さまや蓉子さまも、江利子さまですら。
『志摩子さん、今日も晴れたね。』
もう随分目にしてない笑顔。
『祐巳さん。そうね、もう夏かしらね』
私は分かり切ったことをただ、言っただけ。それでも、じゃれる子犬が構ってくれることに嬉しがるように笑顔が満開になる。
『空を何処までも行けば、果てみたいなのがあるのかな。』
その言葉を聞いて私は切羽詰まったように横に居る祐巳さんを見た。近いはずなのに、遠くにいるかのような。私が遠くに居るのか、それとも彼女か。
『祐麒に言ったら、一周してくるだけだって。熱、測られたよ、酷いよね?』
そう言う顔はいつもので、少し安心した。何か言おうと口を開きかけたところで、もう一人の親友が呼ぶ声がした。
『もう、何処にいたのよ。いちゃつき禁止っ!』
私に厳しい顔をしながら、祐巳さんには優しい眼差しを送る。器用だ、そう思っている私の彼女への評価は彼女も知ってる。
祐巳さんを真ん中にして薔薇の館に歩き出す三人。
いつかこの三人で、この年齢の頃を思い出す時もこの並びは変わらないだろう。そう由乃さんが薔薇の館で三人になった時に言っていた。祐巳さんは違う風に捉えていつまでも連絡取れるようにありたいね。と言って私たちを照れさせムキにさせた。
造花しか存在しなくなり、この他にも本物があるのかすら疑わしいモノが溢れるこの世界。
だけど、誰もが本物を再現したいが為に本物以上に拘る。思考を遮断する為に、茎をカットする。心の平静を求める為に彼の人をイメージした、生け花に没頭したくて。
私とお姉さまのポリシーでは日常の心を豊かにするモノをメインに製造・販売をしている。購入・消費する人間のポリシーによる制限は管理庁が禁止をしている。
私たちは〝かつて〟が無くなろうと、命を擦切ろうとも遺されようとも生きていくしかないのだ。
泣きくれようとも、時間だけは公平に配られてるから。
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雨の中、濡れるのも気にしないまま建物を見つめる女性三人がいた。
倒壊寸前な所、完全にどんな建物かも分からない所、何かがあったとしか認識できない広場。
そこでただ、見つめている。
「懐かしいね。もう何十年も見てない気分だね」
言い終わるとサングラスを外し、懐かしそうに愛おしそうに眼を細める。
記憶の欠片を集めるかのように、コンクリの塊を拾い上げる。
「誰にも穢させはしないよ。私自身ですら」
コンクリの塊に口づけをし、無造作に放り投げる。さらにバラバラになる塊を悲しそうに見つめて、眉間に皺を刻む。
「さあ、皆さまにご挨拶しに行けるように準備をしようか。_ちゃん、_ちゃん」
打って変わって無邪気に遊ぶ子どものように声を二人に掛ける。
一人の女性は顔に変化があった。
変わってしまった人を悲しむように、想い出が呼び起こされたかのように。
「_ちゃん、私は大丈夫だよ。何も心配いらないよ」
感じ取り、見もしないまま声を掛けるサングラスを取っていた女性は、再びサングラスを掛ける。