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管理庁環境福祉局。
それがこの世界になって私が得た仕事。
何も無い、ただ情報が情報を操作し、ポリシーだとかが私たちに安心を与える。だけど、私には必要なかった。青春を歩いたあの頃のように、彩りが欲しかっただけ。
だから、完全中立であり均整を取り、情報に偽りも不公平さも失くす為に、政府の代わりに設立された管理庁に入庁した。
情報管理局、警備管理局、そしてここに配属されて押し出しのように出世した。
この世界であるが為の環境管理、福祉管理が必要で。三局の中でどこが一番劣悪な仕事環境かは、競えないが摩耗する毎日ではある。
築島三奈子さんのように、各ポリシーからの情報公開を求める声への面倒くさい対応からくる胃の痛みや個人データの管理を管理庁本部に上げる為の手間暇だとかはそこまでない。
警備管理局の長のように、中立派であるが為に日々何処かで起こる、ポリシーの違いからの諍いを宥めたり他国の要人警護や各ポリシーの安全確認担当と呼ばれる手腕ある人たちとの会議をするわけではない。
ただ、各ポリシーが生産する食品や製品、打ち出されるホログラムに管理庁が出した水準や定めに合ってるか否か。危険があるとしたら、直接赴く時ぐらいだろう。
その作業がかなり膨大で、日々新しいモノを出してくる各ポリシーは今や力、言葉での争いではなく、どれだけ優れたモノかを誇示することになった。
だから、どうした。と言いたくなる毎日に感覚は鈍くなる。
友であったカメラはこの世には存在しなくなり、『だったモノ』がかろうじて私の癒しでしかない。
輝く頃を収めたいと望んだ、友達はこの世界になり、混乱が激しくなるばかりのある日姿を消した。
何処で知ったのか、私が隠れてる場所にやってきてとりとめのない話をしていった。
姿を消すともこれからをどうするなんて言葉の端にも言わなかった。
昔の面白話や思い出、つらつらと出てくるリリアンでの話。
空が群青色と赤とで変わった頃に、友達は立ち上がり変わらない挨拶を口にした。
『もう帰らなくちゃ。じゃあね、蔦子さん。ごきげんよう』
お得意の百面相を披露しながらも、裡に秘めた感情を一切出さなかった。
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情報管理局局長室を出て、廊下を少し歩いて当てられた部屋に戻る。
もう遠くになってしまったあの日々が急に私の脳裏に浮かぶ。
由乃さん、志摩子さん、祐巳さんが薔薇さまだった頃。
祥子さまや令さまが薔薇さまだった頃。
駆け出しの新聞部部員だった頃に務めていた、蓉子さま、聖さま、江利子さま。
そして、リリアンの皆。
もう昔の名残なんて微塵も感じさせない、現在。
ポリシーを掲げようとも、何になる?
誰もが生きる為に本性を出し、恐怖に慄いてる時にお姉さまが旧政府の知り合いの場所に連れて行ってくれた。
政府に代わる管理庁設立により、この仕事を手にしたが私には感情を押し殺す毎日だ。
あの時の薔薇さまだった人たちに、ただ感情のままに突きつけたい。
「お前らがエゴを出すから、祐巳さんが消えたのだ」
そう言いたい。
公式決定会議でも、各ポリシーとの席でもいつでも、喉まで出かかるのを必死に止める。
お姉さまである、情報管理局長や親友だと今でも思ってる、環境福祉局局長代行の蔦子さんや警備管理局長に察せられて発言を遮られたり、空気を変えてくれたりする。
タブーとしているが、それは自分たちが後ろめたい気持ちや私たちが知らない、祐巳さんにまつわる記憶があるからだと私は思ってる。
お姉さまは何か知ってらっしゃる。それに、警備管理局長も。
各ポリシーが今の安定した冷戦状態を持続させる為に、何も事を起こさなかった。分かっているが、映像と情報、噂を手にした時にこれは終焉への階段が渡されたのだと感じた。
望んではいない、だけど、声を上げたい。
無味無臭になってしまったこの世界。
私に安定をくれるが、色彩がない。
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A国と“財”との会食をにこやかに締めくくり、僕はぼんやりしながら警備管理局に戻る。
次の公式決定会議で各ポリシーが提出した、安全確認という縄張り争いや取締りに管理庁が裁定した事が守られてるかの確認書類のチェックをしておかないと噛み付かれ兼ねない。
リリアンの頃から手強い三人が最大派閥を率いてるんだから。
それに...
僕の中で、お姫様の立ち位置はいつも二人が占めていた。
幼い頃から二人は妹であり、お姫様だった。
特別で、でも疾しい気持ちが一切抱けなかった。多分、僕は王子様になれないと理解してしまったからだろう。
二人の王子様は、性別を超えたあの子だったんだ。
ユキチかとも思ったが、違う。誰もその存在に取って代われない。
でも、悲しいじゃないか。君は二人の王子様だからお姫様にはなれないんだよって。望んでいない人間に突きつける事じゃない。だから、僕はあの子をお姫様として接しようとした。僕やユキチがそうすればするほどに、浮き彫りにされる王子様。
そのパーソナルは、あの子を潰していったのだろうか。
混乱した世の中は、延々脈略と続いた小笠原も柏木も松平も何処も彼処も、崩壊寸前までに追いやり。ふざけた行為が氾濫して、その手中に堕ちた女性も傷を癒すではなく立ち上がるしかなかった。
立ち上がれない人間は従うしかなかった。それは男も関係なく。
気が付けばリリアン三強とも言われた三人がポリシーを掲げ、さっちゃんがそこからかつての財閥たちを集めポリシーを示した。
そんな中、ユキチが満身創痍で姿を見せた。
ああ、ユキチは今頃元気かな。
あいつもあの子のように笑顔を見せると周りを和やかにしてくれたな。
あの子のように漲るとまではいかないけど。
姿を見せたユキチが只、言った。
『祐巳が行方をくらませた。探しに行くよ、俺は弟だから...』
その言葉の裏が晒された気がした。そう、勘だ。祐巳ちゃんは誰にも言えない何かを抱えていた、と。ユキチは知っていた。だから、探しに行くのだ。僕は自腹でさっちゃんにも瞳子にもばれないようにして追わせてる。
再会した祐巳ちゃんはもう、祐巳ちゃんの顔を喰らいつくした後だった。それでも二人には関係ないだろう。各ポリシーにしても。祐巳ちゃんの顔をしていれば内面の不具合などさも関係ないとばかりに押し付けるだろう。
だから、警告をした。
だけど、お姫さまだと言った。
僕は祐巳ちゃんというパーソナルが、好きだったから。
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端末認証、センサ認証、タッチ認証、静脈認証、網膜認証、血液含む体液認証を終えやっと入室できたそこは誰もが目にすることが出来ない人が眠っている。
眠ってるでは語弊がある、人だった個体がそこに人間であるとこの睡眠という時間の枠をとっている。
画面越しでの会話でしか成立しない為に、補佐官である私が全てを執り、多忙を盾に面会を遮断しているが各ポリシーにしてみればそんな事は重要ではない。三局にしても、雪崩のように起こる毎日からしてみれば長官がおろうが居なかろうが裁定項目が覆されない事、下された通知に不備が無ければどうでもいいことなんだと知っている。
気が済むまで眺めて、会話キーをタッチする。
<おはよう、景さん>
そう答える個体。
<おはようございます、長官。今日の予定は、管理庁含む公式決定会議です。>
打ち込んで間なしに、個体は文字を打ち込んでくる。
<景さんにまで長官と呼ばれるのは嫌だわ>
本当に会話しているかのように返される文字。
意思も感情も、相手の気持ちを察することも出来るこの個体は、旧政府側の完全中立を誓った人間が、管理庁設立に貢献したあの人が倒れた際にプログラムした。
<すみません。最大派閥がタブーとされてる人間の噂が出回ってます。映像にも残って居ます。>
会話を続ける。意識はクリアだが、私の心はこの個体のモデルになった人間との思い出にいき、タブーにまでなった人間にいっている。
<...そう。祐巳さんが、ね。死神でもなんでもいいわ、私が終えれるなら>
不謹慎にも同意してしまいそうな気持ちになる。
ここに、この個体を縛り付ける意味が果たしてあるのだろうか。
多分、後悔。
私も、この個体のモデルも誘わなければ行方知れずにならなかったのではないかと苦悩している。
だから、終えれないしあたかも、実在するかのように振る舞う。
敏い警備管理局局長と情報管理局局長は何か知ろうとしているみたいだが。もし、それを匂わせながら、何かしらの動きを見せたら前環境福祉局局長のようにすればいいのだ。
赦し、自分が自分を赦せるまで私たちはここに居続けるしかないのだ。
『管理庁が設立したらもう少しマシな世の中になれるんですよね』
憂いが似合わない彼女は俯きながら言った。
『そうであるように、私たちは動くわ。完全中立で在れる人間を探してスカウトしてるの』
私は胸を張って言った。
『ねえ、運動もいいけれど...お姉さまを裏切れとは言わないわ。一度、考えてみてくれないかしら』
彼女を傍で見てきた彼の人が言った。
『それって...』
察してしまった彼女の表情は無だった。
激戦化する中、彼女に指定場所と時間を代理人に渡させた。そして、彼女は消えた。
他国からの情報でたまに、彼女らしき人物を聞くが不確かだ。
先ず、何かが欠けてる。だから、そっとしてきた。
時機ではないと、個体が話すからもあるが、私の怖がる理性が彼女の為に、舞台を仕立てからにしたいと訴えかけてきていたからだ。
賽は投げられた。粛々と振られた役割を進めて、振り当てていくだけだ。
気に入ってもらえれば、赦しが得られるかもしれない。
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アヴェ・マリアをハミングさせながら女性は、一人の女性に膝枕をしてもらいながら何かを思い出していた。
伏せていた目を開け、ぼんやりとした視線をそのままにメロディが段々、ゆっくりになる。
「まだ、もう少しお眠りになられたほうがよろしいですよ、祐巳さま」
膝枕をしている女性がそう言いながら、揺らぐ灯りから遮るように眼元を覆う。
「大丈夫だよ。私も、生者ではないようなもんだから」
あっけらかんと言うその言葉は、自嘲が申し訳程度含まれているような気がする。
膝枕をしている女性が何かを言おうと口を開きかけた時、鳥が大きく羽ばたくような音がした。
二人は耳を澄まし、注意を向ける。
何もないと分かり、無言で無音でその場を離れる。