ジクソー(更新停止、凍結)   作:待兼山

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乃梨子の記憶

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ふわり

ひらり

 

桜の季節。

志摩子さんと出逢い、友達になりそれがきっかけで姉妹制度での妹になった。

特殊な制度の中、祐巳さまや瞳子、可南子さんに由乃さま、令さま、祥子さまと親しくなった。目まぐるしく移り変わる中、その記憶、景色、想い出が塗り替えられることなく綺麗に彩られ切り取られてる。

まるで写真や絵画のように。

手を伸ばせば戻れるかのようにあるのに、戻れない。そんな日々、私は今どこに?

 

ねえ、志摩子さん。

こんなにも遠くに来ちゃったね。

相変わらず、あなたは優しく微笑むんだね。

掬い上げてくれたあなたは、優しく残酷で、慈悲をもって傷を治してくれるけど、群れをなしてやってくる羊を抑えてはくれないんだね。

志摩子さんは私が救ったと言うけど、果たしてそうだったんだろうか。

あの時、どうすれば良かったのかと今でも悩むよ。

 

聖さまの安心させるかのような笑顔。

それに続く、志摩子さんの慈悲を含ませた笑顔。

私はどう笑ってた?

どう笑えてた?

教えてよ、志摩子さん。聖さま。

 

かつての仲間で親友で、お互いに慕う人が違ってもそれは変わらないと信じ切ってた瞳子。

リリアンのお御堂でのマリア裁判、梅雨の瞳子と祐巳さま、祥子さまの擦れ違い、瞳子が立候補した選挙、祐巳さまの妹になった日からの時間。

どれもが私にも志摩子さんとの日々に続く、愛おしい日々なんだよ?

瞳子、ねえ瞳子?

時計の針は決して、逆回転はしないんだよ。そうしたくても、出来ないんだよ...

 

 

ひらり

ふわり

さら、さらと記憶が流れていく。

スローモーションで“力”の誰かが聖さまと志摩子さんを傷つけようとしている。だから、私は本能から動いた。それは自然に、そして運命的に動いたことだった。

リアリストだと言われても、大切な人を守ることに関しては激情を駆る。

まるで由乃さまの様に、親友の様に。

声にならない声を、大切な人から届いた。遅れてくる痛み、そして怒号。

走馬灯って本当にあるんだ、そう思い浸っていた。

何も感じれなくなり、冷たくなる全ての中で何かに包まれる感覚を味わった。

 

 

/

何故、傍に祐巳が居るのかも分からないまま乃梨子は眼だけで周囲を見渡す。

寂びれた部屋に何か良く分からない機械が並び、上手く働かない頭でここが実はあの世か。と考えてみる。

「おはよう、乃梨子ちゃん。調子はどう?」

祐巳がどうも見知った雰囲気でもなく、表情でもなく何か得体の知れないモノのように聞いてくる。

「...ここは?何故、祐巳さまが...?」

乃梨子が乾いた舌で問うと、祐巳は全くの他人の笑顔を張り付かせたかのように笑った。

「乃梨子ちゃんは一度、死んだの。それで、また生き返ったの。生きたい気持ちみたいなのがこう、私に届いてね」

言葉の使い方はあの頃のままでも、何かが違うと乃梨子の未だ残る理性の警鐘が鳴っているかの様に感じられた。

「死んだ...。でも、祐巳さまはあの時は祥子さまや瞳子と...」

曖昧な笑みを顔に浮かべながら祐巳は乃梨子を見つめる。

「うん、居ないよ。私が知ったのは乃梨子ちゃんの死が確定してから。」

曖昧な笑みから一転して泣きそうになる祐巳を見て、乃梨子はかつてのリリアンで良く接していた先輩をはっきりと感じれた。

「良く分からないんですが...特に、時系列的なものというか...何故、私は死んだのに祐巳さまは生きてるはずなのに、こうして会話してるのかとか」

そう、乃梨子が一番分からないのは時系列。自身が死んだ、それは分かる。“力”の誰かが殺傷能力の秀でてる得物で聖さまと志摩子さんを狙ったのだから。それを庇った私は死んでいる。

だが、何故現場に居なかった祐巳が私を救助と呼ぶのか分からないが、生き返らせたのか。

「難しいこと言うね、乃梨子ちゃんは。そうだねぇ、死者を屍者に出来る装置を完成させたからかな。」

死者?何を言っているのか乃梨子は分からないまま、祐巳を只、見つめた。

「死、じゃなくて、屍、だよ。乃梨子ちゃんは記念すべき、生者の記憶を持ちながらそして、時間を置いてでも屍者化出来た第一号だよ。おめでとう」

けらけら笑いながら、祐巳は乃梨子に拍手を送る。

「説明になっていません...祐巳さまは皆から、瞳子から逃げ出したんですか」

追い付かないまま乃梨子は厳しい目の口調で問う。

「ねえ、本当にくだらないと思わない?ポリシーって何?結局、全体を考えているようで個しか考えてないじゃない」

祐巳は変わらない口調で変わらない考えを漏らすかのように答えた。それでも、乃梨子の質問の答えにもなっていないし、質問を質問で返してきている。

「私の質問に答えてください。あなたはその考えから、崩壊した時に皆を助けて下さったじゃないですか。あなたが居ないと、あなたが居るからある一定の線を越えないようにようにしてきたのに...!」

乃梨子は思い、志摩子や聖を近くで見てきたからこそ、そう伝える。

「私が居るから?じゃあ、居なかったらどうなっていたの?大丈夫だよ、もうすぐ管理社会に変わる。ポリシーっていう馬鹿らしいモノは残るけどね」

笑い方の変わった祐巳を見つめ、その変わってしまった〝何か〟を言いたかったが急激な眠気が襲い瞼が勝手に下がる。

「お休み、乃梨子ちゃん。」

その声を最後にどれが現実か分からない世界がまたやってくる。

 

 

/

リリアンに入学した頃、志摩子さんとの出会い、マリア裁判、薔薇の館の住人になった頃、ヴァレンタインの思い出、瞳子と祐巳さまが姉妹になった時、祥子さまと令さまの卒業...

きらきら輝く走馬灯は繰り返される。

それが一瞬にして灰色に変わる。

人間ではなく、獣性を世界に強いられたかの様な光景。

我武者羅にして、志摩子さんを探した。リリアンの見知った人間を探した。

気が付けば志摩子さんと再会出来ており、聖さまや祐巳さまが居た。

状況が違えば、次々に心置きなく一緒に居られる人間が居た。

祐巳さまは怖いぐらいに笑うか動くか眠るかで。何処からか帰ってくると、食料や生活用品を手にしていた。

曇る顔をした志摩子さんに掛かり切りでよく覚えていないが、由乃さまに問い質されたり、聖さまに行くなと強く言われたりしていたが笑ってかわしていた。

時間がはっきり分かるなら、そんな生活が一か月ぐらいしたある日。

祐巳さまが珍しく一週間ぐらい空けた。そして、騒がしい声を引き連れて帰ってきた。

ある集団に属しているらしい親御さんに知られたからなのか、祐巳さまは抵抗をしていた。帰ってくる度に怪我や痣は増えるばかりで、今回は特に酷かった。

そして、令さまや聖さまが祐巳さまを救おうとした時に全てが変わった。

私たちは何かを掲げなければこの世界では生きていけないと。

誰かに守られるわけにはいかない、そんな甘い世界ではないのだと。

それがいつしか、かつての仲間との争いにまで発展した。お互いを求めても譲れない気持ちは存在して、私たちが対話をしても慕う人間たちは諍いになる。そんな日々に変わった。

だから、極力出会わないように聖さまや志摩子さんは良くしていた。

私はどうしていたのかな。

分からない、上手く思い出せない。

『楽園』があればと呟く聖さまと、祈りを繰り返す志摩子さんが占めて上手くいかない。

 

 

途切れた記憶の残滓からゆらゆらと知っているような顔が覗かせた。

「乃梨子さん、お目覚め?」

この声と輪郭は、確か。

「まだ、ぼんやりしてるんでしょうね。無理もないでしょうね」

知っている、確かに知っている。この声、記憶の中で引っかかる。

「可南子、さん?」

口が勝手に動き、脳にリンクさせる。

「ええ、お久しぶりです。」

かつてではあまり見せなかった穏やかな微笑みがあり、そして、リリアン在学当時とはまた違った、異質にも感じられる雰囲気。

「可南子さんなら、この状況を説明してくれる?」

働かない脳の代わりに口が動く。心と身体が別々になる、とかなら聞くが、私は脳と口が別々になったみたいだ。

「お答え出来るのは限られてます。私は結局、祐巳さまを慕う人間。乃梨子さんの気持ちを尊重された祐巳さまに従い、そして、不在時に世話を申し付かっているだけです。」

先ほどとは違い、柔和な表情はなりを潜め、淡々と話す。

「そっか。可南子さんは無事だったんだ」

緊張を解せればと思い、話を変える。

「ええ。祐巳さまのご両親が入られた集団と比較的親交があった集団にいたから。」

解せたかも怪しいままに可南子さんは応える。

「ねえ、祐巳さまは何を感じてるの?何をするの?」

解せないならそれでいい、だが、知っておきたいことや私の気持ちを尊重すると言うそれは何かを知りたくて訊く。

可南子さんは何も言わないまま、何かを思い出すかのように私の周辺にある機械を見つめていた。

「もし、もし...全てが終え、新しく何かが始まったら乃梨子さんはどうする?」

躊躇さを出しながら、私を試すかのように聞いてくる。

「質問を質問で返すなんて...そうね、いいかもしれない。」

呆れを含ませながら言えば、可南子さんは先ほどの穏やかさとはまた違った、心からの温和な雰囲気と笑みを向けてきた。

「乃梨子さんも祐巳さまが好きでしたもんね。志摩子さまとはまた違ったところから」

だから、私は知りたかった。祐巳さまの変わり様が何故なのか、死者ではなく屍者と言うこの状況。何故、それを実行するまでに至ったのか。

あの争いでも、聖さまや志摩子さんとはまた違った側面から私は祐巳さまを見ていた。良く遠い目をしていた、陰りを見せさせないことが本当は陰りなのだと見つめて知った。その心の中では何を思っているのか。

疑問は増すばかりで、そして、私は塞ぎ込む聖さまと志摩子さんの面倒に忙しかった。

 

 

 

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