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瞑想の時間を大いに割くことが当たり前になった。
姉を見限り、妹の手を振りほどき、私は蓉子さまと共に指し示す位置を同じにした。
裏切り、それによる私は内に籠る自身への複雑な思いを瞑想をすることによって、水面の表にしてきた。
姉であった江利子さまは最後まで、「裏切りではない。こんな世の中になったからこそ、己がこその気持ちを大事になさい。令、貴女は私の気侭をいつでも寛大に笑ってくれた。私は良い姉ではなかったけれど、自慢の妹だったわ」そう言ってくれた。
蓉子さまと江利子さまは、何も言葉を交わさずに視線を交差するに止めた。
私が、“力”を否定してしまったからこその決裂だと思っている。
妹、由乃にしても気弱な事を嫌うあの子がただ、ずっと泣いていた。どうして、どうして、と。
たまに由乃の夢を見る。
小さかった頃、入院するのが嫌だと泣いていた。私が泊りがけの校外学習に行く期間と重なり、お見舞いにほんの少し行けないが為に。
その時の夢。
もう忘れかけていた、でも記憶の片隅にしっかりと刻まれている、その鈍痛が走る思い出。
目が覚める時は決まっている。
二人の思い出ではなく、由乃と祐巳ちゃんや、お姉さまと呼んでいた頃の江利子さまと祐巳ちゃん。
混じり交わさないまま、私は眺めている。
時にあたふたしたり、笑ったり、いいなと思ったり。
微妙な気持ちのまま覚醒する。
あの悪夢にも似た、崩壊から再興までの期間。
踏み外さないように互いに境界線を無言で守り合った、あの頃。
気が付けば、彼女の笑顔をただ、皆守りたかったから。
ポリシーを掲げたのも、力なきモノで居れば全ては飲まれると思って、彼女に報いたかったから。由乃なんて、妙に張り切っていた。どこかが独裁なんて出来ないとも江利子さまは言ってらした。
そう、それでいいのだ。独裁しようとする人間を制圧する為に私たちは立ち上がったから。
絶望の果てには希望があり、更に向こうは...
背中合わせの相反する、その望みを冠するものは簡単にひっくり返る。
こんな事を瞑想と称する時間に考えるなんて。
やっぱり禁句だとされてる、彼女が帰って来たからだろうか。
祥子はどうするんだろうか。
聖さまや志摩子は、江利子さまに由乃は、蓉子さまは。
ここでは、君には苦難の道でしかないというのに。
何処かで、気侭に君らしい笑顔を取り戻していく生活をしてくれていれば...
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令、そう聞こえた。もう聞きなれた声に私は感情を顔に出さずに居られるように願い、振り向く。
「何でしょうか?代表。」
努めて平均的な声で応じれている。
「今は公的ではないから、その言い方は止して頂戴。」
苦笑いはかつて目にしてきたものではなく、江利子さまや由乃のように拘るようにではないが、寂しさを覚える。
「ここは廊下ですので。代表の部屋、規制申請で訪問させて頂きます。」
トーンを落として伝え、早々に離れる。多分、内容は分かっている。彼女の事、そして対処の事。他のポリシーが動く前に何としても、特に祥子らが動く前に。
ただ、訪ねる。それなのに、こんなにも面倒な手順を踏むことに辟易する。
お互いに腹の探り合いをし、管理庁に上っ面を見せる為にこうする。
落ち着いたこの状態ではこれが当たり前の行為なのだろう。
でも、これは私には好きにはなれない。
今の世の中全て、そして、今の皆も。
「本当に面倒な事よね、こんな事。」
入室した途端に私の思いを読んだとも言えそうなことを言う。
「そう、でしょうか。仕方がないことだとは思いますが」
何も込めれずに言えたと思う。
勘の鋭い人だから、気を付けすぎると裏目に出る。
「聖みたいにしてもいいし、江利子みたいに何処にいるかも分からないとかしてもいいんだけれど。向きじゃないしね」
私がドリンクタンクから出した珈琲とも言い難い飲み物に口を付ける。
「祥子はどうすると思う?考えのまま言って頂戴。」
何が、誰が、とも言わずに何かの話の途中を再開するかのように言う。
「何が、とは言わせないわよ。令、貴女も知っていたのでしょう?」
突きつけるかのような物言いは、こんな世の中ではなかったらさぞややり手の弁護士か検事。もしくは、キャリアウーマンになっていただろう。
「ええ。先ほど知りました。蓉子さまの方が信頼が厚いはずなので早々に報告が入っているかと思いました。」
“法”は蓉子さまの人脈で形成されているようなものだ。祥子も私も付け入れない、蓉子さまのカリスマに魅かれた元法曹界に居た人間が集った。新しいリーダーとして支持をし、群れをなした。かくいう私も同じなんだろう。
蓉子さまは頷くだけで、先を促している。
「祥子も瞳子ちゃんも、躍起になると思います。既にそうかもしれません。下手に手を出すと、落ち着いた腰を上げないといけないかと思います。」
ぼかす言い方に眉間を寄せるその様、見ないふりをする。
「そうね。聖も江利子も、引き連れてるお連れ様に意識がいくし、かつあの子だからこそ何らかの動きは必須よね」
水であるのに、水に感じられないその飲み物に目線を向け、蓉子さまの話を聞き流す。
「管理庁はどう動くかしら。まあ、祥子が一番の難敵かしら。」
蓉子さまの話にただ、相槌やどうにでも取れる考えを述べてやり過ごす。
結局、誰も彼女に安らぎを与えれないのだろうか。
過ぎ去ったあの頃のように、一緒にお茶を飲み、お菓子を食べて笑い合う事も出来ないのだろうか。
枯渇した想いがあの頃のメンバーに届くこともない。
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「ねえ、突き詰めて考えてみれば。私たちは分かつ運命だったって事だよね」
夜の帳の中、降りしきる雨の中に三人は人目も憚らずに立ちすくむ。
「そうかもしれません。夢は夢のままに、儚き世の理です。」
三人の中の中くらいの背の女性が応じる。
「ははっ。流石、博識だねぇ。どうしようかなあ、お姉さま方を驚かすには」
幼子が親へのプレゼントを選ぶかのように純粋な気持ちを抱くように言う。
「そうですね、日は迫っています。」
中くらいの背の女性は何事もないかのようにまた、応じる。
「あまり、お体を冷やすといけませんので。」
背のある女性が抑揚のない口調で気遣う。
「そうだね、色んな場所に顔を見せたし。次は皆で集合するときにでも感動の再会、とでもいきましょうか」
嬉しそうに、変わってしまった笑みを出し歩き出す。
『令さま、どうしてこんな世界に変わってしまったんでしょうか。世界は何を怒っているんでしょうか』
令が祐巳と皆が入るお湯の支度をしている最中に溢された言の葉。
か細く、余りにも逃しそうになるそれに対して令は何も返せなかった。
姉は傷つき、妹は世界の変わり様に怯え、友は打ちひしがれ、自身は守ることに精いっぱいで。
早くから、ここに居る誰よりも早くから立ち上がることを半ば強要されたその背中を見るしか出来ない自身に歯痒さを感じ、唇を強く噛み締める。
『そんなに強く噛んじゃ、駄目ですよ?ほら、少し血が出てます』
令に向けられた視線は唇に、そして艶やかに笑う。
先ほどの話はなかったかのように、その表情は見たこともなくて令は噛んでいた唇を緩める。
『取り戻せなくなるなら、いっそ進むべきなんでしょうね。いつか、皆が気力が戻ったらまた違った世界に変わってしまいますね』
言い終わるやいなや、祐巳は令に軽く触れた。
『消毒、です。』
何事もなかったかのように作業を再開し出す祐巳を只、見つめるしか令は出来なかった。