幼女と青年、第二話でございます。
少しずつ進んでいく物語をどうか楽しんでください。
まだ白い霧が残る日の出前、動物の気配もないこの町にそれは確かに存在した。
冷たく、ただ人には暖かく、それはただただそこにそびえたっていた。
コンビニエンスストア、誰もが一度はその言葉を耳にしたことがあるだろう。
朝とはまだいえない時間から彼女はそこに一人いた。
彼女は彼をまっていた。彼がここに今日も訪れる時を、彼は確かにここを訪れる。
しかしいつ訪れるのかは一切不明。ただ、そこに毎日現れるのだ。
レジに突っ伏した彼女は考える。
この商品で間違いはないのかと、彼に勧めるに値しているのかと。
しかし毎回途中で気づくのだ、考えても無駄だと。
彼はどんな商品でも気に入ってくれると。それは長くそこで関わってきた彼女が一番よく知っていることだった。
「おはよう、幼女さん」
自動ドアが開きその向こうからやってきた。
それは確かに彼だった。正確にいえば寝起きらしき彼だった。
髪の毛はぼさぼさになっており、眠そうな目をこすった彼はそこに訪れたのだ。
「おはようございます!青年さん」
とびきりの笑顔を彼女は彼だけに見せる。
その笑顔は寝起きの彼の目を覚ますのに十分すぎた。
彼女の笑顔はまぶしい。まるで周りをてらす朝日のように。
雲ひとつ無い彼女の笑顔はいつだって彼を元気と幸せにいざなった。
「さて、今日は何を買おうかな」
彼は少し目を瞑りながらそう呟いた。
ただ静かに待っていた。彼女がお勧めの商品を紹介するのを。
彼はそれを購入することで彼女の最高の笑みを引き出しそれに幸せを感じていた。
少しの静寂の後、彼女はダンボールから1つの商品を意気揚々と取り出した。
そして口を開いた。
「今日のお勧めはですね!このぬいぐるみです。」
彼女は彼の前にぬいぐるみをさしだした。
ぬいぐるみ、彼が小さかったら使い道はあったのかもしれない。
あるいは彼自信が女の子ならば……
彼は恐る恐る彼女に聞く。
「幼女さん、それ……いくら?」
ゴクリと息を飲んだ彼のことなんて知らず、彼女はぬいぐるみの後ろについていた値札を見せながら言った。
「税込み6500円です!」
その値段を聞いたとたん彼の背筋は凍った。
6500円……さすがに高すぎる。いままで経験してきた中でも2000円を超えたことは少なかった。
ぬいぐるみは6500円もするのか。そんな驚きが彼を襲った。
しかし彼にある選択肢はいつも一つしかないのだ。
買う。その選択肢しか。
だが彼はその値段を前に躊躇していた。
とりあえず決まったのは彼自身はぬいぐるみを使わない。故に購入したあかつきにはこのぬいぐるみは彼女のものとなるのだ。
サンオイル事件で彼は自分の無力さに気づいた。変わろうともした。
しかし彼はまだ変わりきれていなかった。
気に入っているゲームを売り、しばらく持たせるつもりだったのだがこの買い物をすれば一気にその金は吹き飛ぶ。
彼は悩みに悩んだ末彼女に問う。
「とりあえずキープじゃだめかい?」
彼にとっては十分苦渋の決断だったが、仕方が無いのだ。
今日は他のもので彼女を笑顔にしよう。そう考えた。
しかしそんな考えは無力にすぎない。彼は彼女の言葉でそう気づかされた。
「だめです!これは今日限定のお得品です!」
徐々に決断の時が彼を待っていた。
彼はもともと買う気でいたのだが、値段の圧力というものか……
若干の焦りを感じていた。自分の所有物がいつか全て消えてしまうのではないだろうか、そんな焦りだった。
彼は気づいたのだ。いままで自分は足元ばかり見て道の先を見ていなかったということに。
今、自分は幸せに生きている。しかしだ、この生活がいつまでも続くのだろうか。
何事もどこかで終わりを迎えるのだ。その時が今なのかもしれない。そんなことを考えながら彼はただ彼女を眺めていた。
そのばにしばらくの静寂がもたらされる。
すると彼女が先に口を開いた。
「ご……ごめんなさい……だから怒らないで?」
彼が気づいた時には彼女は顔に涙を浮かべていた。
その姿をみた彼は大切なことに気づいたのだ。自分がかつて彼女に誓ったことを……
*
彼と彼女が始めてであったのはとある初夏の日。
その日彼はそのコンビ二に立ち寄りアイスを買おうとしていた。
そんな彼の目の中に飛び込んできたのは確かにコンビ二の制服こそ着ているものの明らかに小学生の姿をした彼女だった。
困惑していた彼に彼女は声をかけてきた。
「あの!よければこのリボン買っていただけないでひょうか!」
噛んだ、彼女は噛んだ。だがそれがなんとも言えずいいのだ。
可愛い容姿に可愛い声、そんな女の子が噛むだけなのだがそこにまた愛くるしさを彼は感じたのだ。
「はわわわわわ」
ただでさえ始めてあって緊張してしまっていたのが、噛んでしまったことでほかの感情にシフトしてしまったのだろう。
彼女の顔には涙が浮かび上がっていた。
そしてそれを見た彼は思った。
「(彼女を笑顔にしなくては)」
そして彼は彼女に詰め寄り言った。
彼が思う限りなく優しい声で。
「なかないで、そのリボン1つもらうからさ」
それを聞いた彼女の表情はまるで雨から太陽が差し掛かって晴れたような笑顔を浮かべた。
そしてその笑顔を見た瞬間彼は自分自身の心に誓ったのだ。
彼女の笑顔をいつまでも守ると……
*
「(そうだった、僕は幼女さんの笑顔を守るって誓ったんだ。)」
彼は優しい笑みをうかべ、彼女の目をみた。
彼女は許してくれたと思ったのだろうか、彼女も笑顔にかわった。
「ごめんね。少し考え事をしてたんだ。ぬいぐるみ1つもらうね。」
彼女は元気に溢れた声でいった。
「お買い上げありがとうございます!」
彼女に代金を渡し、ぬいぐるみを手渡された彼はなにかを思いついたような笑みを再び浮かべ彼女に言った。
「幼女さん。僕たちが出会ったときに僕が買ったリボンってまだあります?あったら欲しいんですけど」
「ありますよ!はいどうぞ!」
ダンボールから取り出されたリボンを代金と交換した彼はすぐさまそのリボンを少しちぎり、ぬいぐるみに蝶々結びをした。
そのリボンを結ばれたぬいぐるみを見つめながら彼は思った。
「(僕たち、今日まで色々あったんだな)」
そして彼はそのぬいぐるみを彼女にさしだし、いった。
「幼女さん。いつも頑張ってる幼女さんにプレゼントです。」
ぬいぐるみを渡された彼女の表情はパアッと明るく輝き、彼を照らした。
「ありがとうございます!」
この純粋無垢な感じにきっと惹かれたんだな。そんなことを考えながら彼はコンビ二を後にした。
「またのご来店お待ちしております!」
うれしそうな彼女の声を聞きながら。
彼と彼女はやはり導かれたのだろう。
だれもがそう思うかもしれない。暗闇の中に静かに座っている男もそう思っていた。
男は静かに笑みを浮かべた。そして、呟いた。
「いいわよ幼女ちゃん。もっとあの子からお金をむしりとるのよ。」
男は立ちあがり、そこに存在する扉に手をかけた。
その扉を開けた先には眩い光が待っていた。
そんな光をみながら男はただ、そう呟いたのだ。
「さて、久しぶりに顔でもだそうかしら」
さて、読んでいただきありがとうございます。
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それではご来店ありがとうございました。またのおこしをお待ちしております