埋もれてしまってもいいんじゃないだろうか。
なんて考えたりもしたわけですが、ちょっとしたことから完結させることにしました。
当初考えていたとおりの構成で終わらせます。
それではみなさま楽しんでくださいまし
「あら、久しぶりね。」
「……今日はなんのようですか」
「いやね。久しぶりに顔でも出してみようかななんて思ってね。」
暗闇に男の目が光を照らしいれる。
しかしながらそれは濁った光。
「……やめてください。」
彼女は男に拒絶の色を示した。
やめろと。私に介入するなと。
しかしそんなこと関係ないと嗤うように男は不気味な笑みを浮かべ言う。
「えぇいやよ。それにちょうどいい男の子が捕まえられたみたいだし」
「お願いします。今回だけは……私…もっと頑張りますから……」
「だぁめ。もう決めちゃったから。」
彼女の必死の懇願も嘲笑うかのようにまるでこの世界が自分中心で回っているかのように男は言葉を吐き捨てる。
「いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。」
「行ってらっしゃい。幼女ちゃん♪」
暗闇のなか、必死の懇願の末怯える彼女と全てを嘲笑うかのようにその現状を楽しんでいる男の二人の会話だけが事務所に反響した。
*
冬は終り春になったはずなのだが、このコンビ二の室内はいまだに冬のように寒かった。
客っ気ひとつないこの場所には相も変わらず一人の青年がいた。
彼は彼女に今日も変わらず微笑むのだ。それは暖かい微笑みだった。
「いらっしゃいませ」
彼女の声が店内に響き渡る。
その感じに少しの違和感を彼は覚えながらも大して気にも留めず彼女に問う。
いつものように。
「こんにちは幼女さん。今日のおすすめはなんですか?」
いつもと変わらない彼の声色が返って先ほどの彼女の声に違和感をまたもたらす。
恐らく彼は気付けたのだろう。普段ならば。
彼女の様子が変だということを。しかしながら恋とは盲目なのだ。
だからこそ気付けるはずのことが気付けない。
すこし冷気を漂わせるこの空間の中でまたもや彼女のひときわ冷たい声が響き渡る。
「今日はこれがおすすめです」
彼女が指をさした先にあったのはひとつの黒く丸い球体だった。
それは凹凸がまったくなく光り輝く球体であった。
でもただの球体なのだ。
それでも彼はそんなことは気にしない。
あくまで彼女から物を購入することに意味があると考えるのだから。
「それ、いくらかな?」
「十万円です」
彼女から提示された金額に彼は動揺を隠せない。
予想の斜め上だったのだ。
ぬいぐるみならまだしもこの球体には全くの使い道はないだろう。
しかしながら十万円もするのだ。彼には使い道はないように思えたがなにか使い道があるはずと思った彼は聞く。
「幼女さんそれ、どんな風に使うの?」
「使い道なんて何もないですよ」
使い道はなかった。
今まで彼女のおすすめする商品には何かしらの使用用途があった。
しかしこれにはないのだ。
ただの球体。それに十万円払えとちいさな彼女は言う。
だが、彼はこのことすら気に留めていない。
彼にとって仕様用途など二の次なのだ。
それよりも気になることが彼にはある。
彼女の笑顔を今日一度も見ていない。
もしかしたら具合でも悪いのだろうかと考えた彼は聞く。
「幼女さんもしかして今日具合悪い?」
「体調は良好です。それよりも買うのですか?買わないのですか?」
「えっと……」
彼女は彼女じゃないような気がした。
それゆえに悩んだ。初めて、真剣に。今まではどこか買ってしまってもいいやと言う気持ちがあった。
しかし今はそれがないのだ。
本当に買ってしまっていいのだろうかという今までに湧いたことのない気持ちが湧いてくるほどに怖いのだ。
今の彼女から商品を買うのが。笑顔のない彼女から買うのが。
彼は思わず一歩後ずさりする。
彼は言う。
「それを今買うことはできない」
「そうですか。まぁ買わないのなら私とあなたのこの関係は終りですね。」
彼女は遠い目でそう言うとくるりと彼に背を向けレジの向こう側にある絶対的境界線に歩き出す。
この彼女には笑顔も涙もなにもない。そこには無だけがあった。
今までの出来事が全て夢だったんじゃないだろうか。
今のこの状況が本当の現実なんじゃないだろうか。と思わせてしまうほどの無。
全てを消してしまう。そんな無。
それを目の当たりにした彼は一つの答えを掴んだ。
しかしその答えが本当だとすればここにいるべきものは何処に行ってしまったのだろう。
そして目の前にあるモノはいったいなんなのだろう。
それでも彼はその答えが正解であり真実であるのか確かめなければならない。
彼女のためにも……彼のためにも……
だから彼は言う。意を決して。全てを捨てる覚悟をしてまで。
「お前は……いったい誰なんだ……」
絶対的境界線の扉を開けた彼女はその向こう側に歩きながら言う。
今までで一番冷たい声で冷たすぎる暖かい声で言うのだ。
「私は幼女ですよ。」
扉の向こうへと彼女は行ってしまい、その扉は静かに閉じる。
彼の掴んだ答えは正解であり不正解であった。
真実に気付いてしまった彼はその場に崩れると小さな声で呟く。
「彼女は……幼女さんは……偽物で本物……?」
*
「あらあら、獲物逃しちゃったみたいね♪」
若干、女がかった声で男は言う。
彼女は肩を震わせる。
「すみませんマスター。私の失敗です。」
「いや、いいのよ。どうせあぁなったらこうする予定だったしね」
「……」
「まぁあなたのような子から品を買いたいなんていう人間は山ほどいるんだから」
「……」
彼女は謝るとその後は黙り込んでしまう。
その様子を話ながら見た男はため息をつくと彼女に向かって言う。
「まだ、彼に対する気持ちが少しは残ってるのね。このままじゃ今後の仕事に影響が出るかもしれないし……
影響が出れば利益は大幅に下がるでしょうねぇ……」
男は不気味な笑みを浮かべ、続ける。
「だから、愛しの彼を完全に潰してきなさい♪
これは命令よ。め・い・れ・い♪」
彼女は少し苦しそうに言う。
「……はい……マスター……」
重々しい足で彼女は扉を開き、彼のいるこの部屋に戻るのだ。
お願い。私が私でなくなる前に逃げて……と。
しかし彼女の願いは残念ながら彼には届かなかった。
なんでまだここに?と彼女は思う。
彼女の目の前には目の下を赤くしためがね姿の黒髪の男がまだ立っていたのだ。
何かを決意したように彼女の目にはうつる。
思わず動揺してしまうと、彼はそれを見逃さなかったかのように話し始めるのだ。
幼女さん。お話があります。と……
「それでも僕は」
「進もう」
「
私 「本当に弱いわね。」
は」
「信じてました。」
「僕らは僕らの道を切り開かなきゃいけないんだよ」
次回、最終話『愛は獅子をも狩る』