「拾ってきた」
帰って来るなりそう口にした有希の腕の中には四足歩行の動物の形をした黄緑色の風船があった。
「……一応、聞こう。それは何だ?」
俺は有希の腕の中にある何かを指差し、彼女に問う。
「犬」
有希の返答を聞き、指差ししてた右手でこめかみを抑える。
ただの風船ならばそれで良かった。イベントか何かで貰ってきたのだろうと、それだけで済ませていたであろう。だが、この風船の様なボディーをした何かは有希の腕の中で動いているのだ。キョロキョロと頭を動かし、何が嬉しいのか、尻尾と思われる物を振っている。しかも、どう見ても作り物の動きじゃない。どう考えても地球外生命体|(?)である。
「名前はキミドリ」
我が娘は名前まで付けていた。既にうちで飼う気満々な様子。
「うちで飼いたい」
そら来たっ!!
有希は目をキラキラさせて俺を見つめる。
俺は彼女の腕の中の……まあ、仮に犬としよう。その犬に手を触れてみる。
「……ゴムだな」
その感触は風船そのものだった。
「体は風船で出来ている」
有希はドヤ顔で言う。
「……元居た場所に戻して来なさい」
俺がそう告げると、有希は石の様に固まった。
「私、ちゃんと世話する」
彼女はおろおろしながら言う。
「駄目だ」
俺がそう言い放つと、俺達の会話に介入する者が現れた。
「有希ー、キョン。二人して何してるの?」
我が家の次女にして有希の姉であるハルヒが自室から出て来たのだ。
「ハルヒ。いつも言ってるが父さんをキョンと呼ぶんじゃない」
ハルヒを叱るが、そんな事はお構いなしに彼女は有希の腕の中にいる犬に目を留めると、脱兎の如く有希に詰め寄る。
「何これっ!!」
「……犬」
嬉々として問うハルヒに有希がおろおろしたまま答えた。
「飼うの?ううん、飼うわよっ!キョンっ、何してるの?早速、ペットショップに行くわよ」
「飼わんっ。そして、父さんをキョンと呼ぶなっ」
ハルヒの勢いに押されないように、少し強めに言う。
「何でよっ、良いじゃないの!!」
「こんな訳の分からん物飼えるか!!」
犬を飼うか否かを巡ってハルヒとの言い争いが始まった。
「二人共どうしたの?」
すると、台所から女性が表れた。有希とハルヒの母にして俺の妻、涼子である。
「涼子。お前からも言ってやってくれ。二人が訳の分からない物を飼うって聞かないんだ」
俺が涼子に言うと、彼女は娘二人の方を向く。
「ハルヒも涼子もあまりキョン君を困らせちゃ駄目……」
涼子の言葉は彼女の視線が有希の腕の中の犬に向いた瞬間、止まった。そのまま、犬を見つめる涼子。
どこからともなく、切なげなピアノの伴奏曲が流れて来る。そう、一昔にCMで流れてたチワワを前にした時の曲。
「どうする?アイ○ルー……」
「……ハルヒ、何やってるんだ?」
彼女は携帯で音楽を流し、最後のフレーズを口ずさんだ。
「演出よ」
「キョン君」
彼女はうっとりとした表情で俺を呼ぶ。
しまったっ、涼子が堕ちた!?そういえば、彼女も地球外生命体だった。
「動物を飼って、命に触れる事も大切だと思うの」
「ぬぅっ……」
涼子のもっともらしい意見にたじろぐ俺。
「キミドリ、あなたもお父さんにお願いして」
有希は抱えた犬にそう促し、床に下ろす。
「キョンさん、お願いします」
黄緑色の風船犬が言葉を発した
「おい!?今こいつ喋ったぞ!!?」
俺は驚愕のあまり声を上げたが、涼子は冷静である。
「あら、喋る犬なんて、この星では珍しいわね」
右頬に右手を当てて、なんて事なく言葉を紡いだ。
「お父さん。キミドリ、うちで飼いたい……」
「良いんじゃない?キョンくん」
「ぐぅ……」
娘に上目使いで見つめられ、妻には可憐な微笑みでお願いされ、俺は再びたじろぐ。
そして、流れるのは切なげなピアノの伴奏曲。
「どうする?ア○フルー……」
その後、ついに俺は折れ、キミドリを我が家で飼う事となった。
キョン「あ……ありのまま今日、起こった事を話そう
俺は犬を飼う事になったんだが、
そいつは風船で出来ている上に喋るんだ。
な……何を言っているのか分からないと思うが
俺にも何が何だか分からないんだ。
頭がどうにかなりそうだった……。
犬だとか風船だとか
そんなチャチなもんじゃ断じて無い。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わった」
~没ネタ~
キョン「……ゴムだな」
有希「体は風船で出来ている」
キョン「UNLIMITED(アンリミテッド) BALLON(バルーン) WORKS(ワークス)!?」