ハイスクールD×D wizard 希望の赤龍帝 作:ふくちか
グレイフィアさん達を見送って戻る途中、廊下で見知った顔に会った。
「よっ」
「匙君」
僕が匙君に気付くと、向こうも手を上げて応えてくれる。
「どうしてここに?」
「リアス先輩の様子見と、今後の方針をな」
成程、つまりソーナ会長も一緒と言う訳か。
「部長ならさっき…」
「あぁ、丁度さっき眠ったんだってな。会長も起こすのは忍びないって言ってたよ。木場、俺も今回の一件に参加するつもりだ。都市部の一般人を守る」
――――っ。
シトリー眷属も冥界の危機に立ち上がったようだ。
実力ある若手悪魔は招集が掛かっている。
この非常事態だ、実力のある悪魔は若手でも必要だからね。
まず間違いなく大王のバアル家と大公アガレス眷属は出張るだろう。
魔王を輩出したシトリー家の眷属がそこに参加しても何ら可笑しくはない。
「そっか、僕達も後から合流するよ」
「…あぁ。でも、今はちゃんと休んどけよ。……兵藤だって、そう言う筈だろ」
……そうだね。
『パニックになってる時こそ落ち着かなきゃ駄目だろ?まぁ、俺が言っても説得力ないけどな』
タハハ、そう笑う彼の苦笑いが目に浮かぶ。
「どんなに遅くなっても絶対に駆けつけるよ。…彼が守りたいと願ってる希望を、これ以上傷つけさせる訳にはいかないからね」
「おぅ。………実は俺さ、兵藤に、憧れてたんだ」
イッセー君に…?
「あぁ。俺と同期なのにさ、力もあるし、頭の回転も速い。…けどそれ以上に、アイツの背中って凄く遠くに見えるんだよ。最初はそれが凄く悔しくて、妬ましかったんだ。だけど、兵藤がどんな思いで魔法使いの力を、今ある全てを積み上げてきたのかなんて、これっぽっちも知ろうとしなかった。アイツの過去を聞いた時、俺は以前までの自分を殴りたくなった」
匙君とイッセー君は殆ど同じ時期に転生していた……だからこそ嫉妬や劣等感だって人一倍感じていたんだ。
でもその時は僕達はイッセー君がファントムを相手に戦い抜いてきた魔法使いだって事も知らなかったし、数えきれない人達の死を見届けるしか出来なかった彼の過去も知らなかった。
「…木場にも言える事だけどさ、そんな過去があったにも関わらず、兵藤はそれを振り払って一歩ずつ前に進んでる。そんなアイツの背中を見てたら、いつの間にか目標になってた。アイツが乗り越えたんなら俺にだって出来る、そう思ってここまで歩いてこれた。同じ『兵士』の兵藤がいたから、今の俺があるんだ」
そう語る匙君の目は嫉妬の陰りもない、凄く穏やかなものだった。
「だから、今アイツがいないなら俺達が守りたいんだ。アイツが大切にしていた、希望って奴をな」
「匙君…そうだね」
匙君の決意は、僕が抱いていたものと全く同じだった。
たったこれだけの事が、どれだけ心強いか……。
そこで僕はふと、イッセー君のライバルである彼の事が気になったので、匙君に問いかけてみた。
「そう言えば、立神君はどうしたんだい?」
「立神か……一応アイツにも話したんだけど、「皆まで言うな」の一点張りで、ずっと焚火見てたよ。立神も、兵藤が生きてるって信じたいんだと思うぜ」
「…そっか」
「もしかしたらいざって時には来てくれるかもな。……その時はお互い、命をかけて頑張ろうぜ」
「うん」
僕と匙君が握手をすると、通路の奥から人影が。
「良い決意の表れですね、サジ。それだけの気持ちがあるのなら、貴方は何処までも強くなれます」
「会長!」
ソーナ会長だ。
「ですが、命をかけても、それを捨てる事は許しません。守りたい希望は、生き抜いてこそ守るべきです」
「――――はいっ!」
会長は匙君の返事に軽く笑むと、僕の方に視線を向けた。
「私達はこれで失礼します。魔王領にある首都リリスの防衛及び都民の非難に協力するようセラフォルー・レヴィアタン様から仰せつかっておりますので」
「…セラフォルー様は、大丈夫なんですか?」
彼女も確か、イッセー君に好意を抱いていたような……。
「その点に関しては心配ありません。お姉様はきちんと魔王としての責務を果たそうとしてます。そして、イッセー君の生存を、信じてもいます」
「そうですか……。そう言えば、部長とは?」
僕が聞くと、会長は安堵の笑みを浮かべた。
「寝顔だけですが、とても穏やかでした。あの様子なら、次の戦いでも十分に王として戦えるでしょう。では……あぁ、一つ忘れていました」
会長は僕をもう一度振り返り、含みのある微笑みを見せた。
「もう一人、貴方達に会いに来ている人がいます」
もう一人……?
ーーーー
僕がフロアに戻ってくると、丁度テレビでは首都の様子が映し出されていた。
そして不意に映し出される首都の子供達。
レポーターの人が一人の子供に尋ねた。
『ぼく、怖くない?』
レポーターの質問に、子供は笑顔で答えた。
『へいきだよ!だってあんなモンスター、ウィザードラゴンがきてたおしてくれるもん!』
――――っ。そう満面の笑顔で応える子供の手には、『ウィザードラゴン』の人形が握られていた。
それを皮切りに、画面の端から元気な顔と声が映し出されていた。
『そうだよ!ウィザードラゴンがたおしてくれるよ!』
『希望をわすれないかぎり、ぜったいきてくれるっていってたもん!』
子供達は不安な顔一つ見せず、ただただ『ウィザードラゴン』が来てくれると信じ切っていた。
『はやくきて、ウィザードラゴン!』
……イッセー君、子供達が、皆が、君が来るのを待っているんだよ。
君がくれた希望を失わず、君が助けてくれると心から信じているんだ……君にもこの声が聞こえているのなら、早くその姿を見せてほしい……!
「…俺達が思っている以上に、冥界の子供達は強い」
――――この声は。
「あなたは…!」
「兵藤一誠は途轍もなく大きなものを冥界の子供達に宿していたんだな。木場祐斗よ」
サイラオーグ・バアル……!
そうか、会長が呼んだのはこの人だったのか…。
「リアス部長は――――」
「ソーナ・シトリーから聞いている。今は眠っているとな。……兵藤一誠が戻らないと聞いてな、お前達の様子を見に来たのだが…余計な心配だったようだな」
「…有難う御座います」
…正直に言えば不安だ。
でも、イッセー君は生きている――――そんな予感がするんだ。
だからこうして、僕達は自分達がやるべきことをしている。
「…お待たせ、祐斗」
――――っ、この声は!
「部長!」
振り向けば、そこには僕達の主であるリアス部長が立っていた。
目元は赤いが、その眼差しは真っ直ぐだった。
「リアスか、もう良いのか?」
「えぇ、十分休ませてもらったわ。…黒歌には借りが出来ちゃったけど」
小猫ちゃんのお姉さんに……?
「そう言ってもらえると嬉しいにゃん♪」
そう思っていると、部長の背後から着物を着た小猫ちゃんのお姉さん、黒歌が出てきた。
…そうか、仙術で部長の気を整えたのか。
「リアスちゃんも信じてるのね、赤龍帝ちんが生きてるのを」
「えぇ、あの人がそう簡単に死んだりしないわ。…ま、そう言い聞かせてるのも事実だけれど」
静かにそう言い放つ部長に、黒歌は満足そうに笑んだ。
「それでこそ赤龍帝ちんの主にゃん。前のバカ主より、あなたの方がよっぽど信頼できるわ」
「…黒歌、あなたは」
「おっと、そこまでにゃん」
部長の言いたい事が何なのか分かった黒歌は、部長を手で制した。
「私の罪はこの先も消えないわ。だから背負っていく、それがあの子を苦しめた事への、せめてもの罪滅ぼしって奴よ」
「…黒歌」
「ま、柄じゃにゃいんだけどねん」
にゃはは、と黒歌は笑うと、踵を返した。
「ちょうどうちのリーダーに尋ね人が来てるにゃん。リアスちゃん達もどーお?きっと会ってて損はないにゃん」
黒歌はそう言って、僕達をヴァーリが休んでいる部屋へと連れて行った。
まだもうちょい主人公は祐斗君です