ハイスクールD×D wizard 希望の赤龍帝   作:ふくちか

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一応ウィザードに流れてる挿入歌(仮面ライダーGirls)はオカルト研究部メンバーが歌っているイメージです

今回はグレイフィアさんも歌っています


MAGIC154『不滅の信念』

 

木場Side

 

 

「…………」

 

あの後、僕達は気を失ったイッセー君を連れて撤退した。

イッセー君は今ベッドの上で眠っている。

 

……撤退の際、ガルムとレギオンと言うファントムは手出しをしてこなかった。

イッセー君が気を失った後、何も言わずに姿を消した。

 

ファントムにとって大敵であるイッセー君が倒れたのに、何もせずに引いていったのは気にはなるけど……イッセー君に身が第一であった為、僕達もそのまま撤退した。

 

 

今は小猫ちゃんが仙術で、イッセー君に異常がないか確認をしているところだ。

 

「……」

 

小猫ちゃんは耳を仕舞い、僕達を振り返る。

 

「外傷はありません。体内の気にも乱れはありませんでした。……ですが」

「ですが?」

「……イッセー先輩から、魔力が消えています」

 

――――っ。

 

 

 

その発言に僕達は――――特に立神君が――――顔を強張らせた。

 

イッセー君はレギオンに襲われた……アンダーワールドに強引に入り込んだ事が切っ掛けで、魔力を失ったのだ。

立神君の話によれば、自分とキマイラを庇って消滅した……との事だ。

 

「魔力の残滓すらないの?」

「はい、全くありません……」

「ドライグ、貴方の方でも感じないの?」

『…いや、全く』

 

……つまり、イッセー君はサバトの儀式に巻き込まれる以前の状態に戻ってしまったと言う訳だ。

 

「…んっ」

「あ、イッセー!」

 

と、ここでイッセー君が目を覚ました!

彼は目覚めて暫くボーっとしてたけど、自分の掌を見て、悟ったかのように淡く微笑んだ。

 

「…魔力、無くなっちまったのか。ハハッ、もう……魔法使いなんて名乗れないな」

「ッ!」

 

それを聞いて、居た堪れない様に立神君は出て行った。

 

「だ、大丈夫よイッセー君!イッセー君には赤龍帝の…」

「皆出て行ってくれ!!」

 

イリナさんが元気づけようとしたその時、イッセー君は絞り出すかのように叫んだ。

 

「い、イッセー?」

「……今は、一人にさせてくれッ」

 

…………イッセー君。

 

「…皆、行きましょう」

 

部長に促され、僕達は部屋を後にした……イッセー君。

 

「………クソッ!!」

 

 

 

 

「……イッセー君、大丈夫かな?」

 

部屋の外に出たイリナさんは、心配そうに扉を見つめていた。

すると部屋の外に立っていた立神君は、何処かに行こうとしていた。

 

「…立神先輩、何処に行くんですか?」

「……アイツらを探す」

 

そう語る立神君の顔は、怖いくらいに真剣だった。

 

「何も手掛かりすらないのよ?闇雲に探してもッ」

「でも探すしかねーだろっ!!」

 

立神君は悔し気に叫んだ。

拳を震わせながら、彼は決意するかのように言った。

 

「俺がもっとしっかりしてたら、イッセーのドラゴンが消滅する事はなかったんだ……アイツらを倒さなきゃ、イッセーにも顔向けすら出来ねーんだよ…ッ!」

 

そう言って立神君は駆け出すようにその場を後にした。

 

「……どいつもこいつも荒れてんなァ」

「…ドライグ!」

 

僕達の後にやって来たのは、イッセー君と同じ顔の――――ドライグだ。

 

「相棒に追い出されたよ。…相当参ってるからな」

「貴方まで…」

「混乱してるんだろう、イッセーは」

「…茂殿」

 

心配してやってきた茂さんは、イッセーの扉を見ながらそう呟いた。

 

「やらなきゃいけないって言う思いと、魔法を失ったショックがごちゃ混ぜになってる。…望んで得た力じゃないとはいえ、魔法はイッセーにとってはもう自分の一部みたいなものだったからなぁ」

「…イッセー」

「……暫くはそっとしておくしかない、か」

 

……兎に角、今は僕達出来る事をやるしかなさそうだ。

 

 

………イッセー君、こう思うのは傲慢だけど…君が立ち上がってくるのを、僕達は待ってるよ。

 

 

 

 

 

「……俺は」

 

自室にて、イッセーは自分の無力さを呪っていた。

相棒のドライグすら締め出して、苦悩しているそこに、扉を叩く音が。

 

「…失礼します」

「…」

 

入室したのは、グレイフィアだった。

イッセーは一瞥しただけで、直ぐに項垂れる。

 

「……今は、一人にさせてくれ」

「…また、一人で抱え込むおつもりですか」

 

落ち込みを隠さずに言うイッセーに、グレイフィアは冷静にそう告げる。

臆せず近付く彼女に、イッセーはしかし動こうとはしない。

 

「…イッセー様、少し外に出ませんか?」

「……」

「何時までそうしていても仕方ないでしょう。行きますよ」

 

項垂れるイッセーの腕を掴んで引っ張り上げた。

そしてそのまま引かれるまま、外へと繰り出すイッセーであった。

 

 

「……」

 

グレイフィアに引かれながら外を歩くイッセー。

すると、以前会った兄妹と出くわした。

 

「あ、魔法使いのお兄ちゃん!」

「…詩織ちゃん」

 

少女――詩織がイッセーに魔法を見せてほしいと強請る。

制止しようとしたグレイフィアをやんわりと止めて、イッセーは困ったように弱々しく笑う。

 

「……ごめんな。お兄ちゃん、魔法が使えなくなったんだ」

「えーっ!」

「詩織、お兄さんを困らせちゃ駄目だぞ」

「…はーい」

 

立ち話もなんだと言う事で、四人は公園に向かう事に。

詩織とグレイフィアが遊んでいる傍らで、少年――健太とイッセーはベンチに腰かけていた。

 

「詩織は、ああ見えて結構重い病気なんです」

「病気?」

 

鸚鵡返しに尋ねるイッセーに、健太は頷く。

 

「来週、手術が決まって…でも不安でいっぱいだから。何とか元気づけようと思って」

「そっか。それで手品を…」

「はい。…全然下手だけど。だから、今日もお兄さんに会えるかもって、また魔法を見せてもらえるかもって」

 

そう語る健太に、イッセーは力なく笑う。

 

「ごめん。魔力が消えて初めて分かった。俺には魔力がなきゃ何にも出来ないって。魔法が使えなくなっただけで、女の子一人喜ばせる事も出来ないって…」

「…そうかな?」

 

イッセーの自虐を否定した健太に、イッセーは顔を上げる。

 

「俺が嬉しかったのは、妹を喜ばせようとしてくれた事なんです。…魔法が凄かったって言うのも本当なんですけど、それより妹の為に動いてくれた事が、何より嬉しかったんです。――――魔法より、その心がさ。だって、俺の下手くそな手品、最後はちゃんと笑ってくれるから」

 

朗らかに笑う健太に、イッセーは何かを感じたのか、表情が僅かに光が灯る。

それを見ていたグレイフィアは、安堵したかのように微笑む。

 

 

 

 

 

 

「漸く見つけたぜ、大食い野郎」

『……何の用だ、アーキタイプ』

 

一方、吼介は探しに探し回り、漸くガルムを見つけた。

当のガルムは静かに、眼前に立つ吼介を見つめる。

 

「あのファントムを出せ!」

『…貴様に用はない』

「お前らになくても俺にはあるんだよ」

《ドライバーオン!》

 

ビーストドライバーを顕現させるも、ガルムは動く気配を見せない。

 

「変、身っ!!」

《セット!オープン!L・I・O・N!ライオーン!》

『…話を聞かない奴だ』

 

ダイスサーベルを振りかざして飛び掛かるビーストに対し、ガルムは魔術攻撃で迎撃する。

ビーストは空中で身を捻ってそれを躱すと、サーベルの刃を突き立てる。

 

『…フン』

「どわっ!?」

 

だがガルムは答えた様子を見せず、ビーストを殴り飛ばす。

後退するビーストはバッファリングを嵌め、バッファマントを装着する。

 

《バッファ!ゴー!バッバ・ババババッファー!》

「オラァァアッ!!」

『馬鹿正直な奴だ………ッ!』

 

迎撃しようとしたガルムだったが、ビーストの背後から飛んできた攻撃を弾いた隙に突進を受けてぶっ飛ばされる。

ガルムが目線を向けた先には、グレモリー眷属の姿が。

 

「リアスさん…!」

『有象無象がまたぞろと……レギオン』

 

流石に数が多いと思ったのか、ガルムはレギオンを召喚する。

黒い霧から飛び出したレギオンは、そのまま木場へと飛び掛かる。

 

「祐斗、気を付けて!」

「ッ!!」

 

レギオンの薙刀を受け止めた木場は、薙刀を掴んで勢いよく持ち上げる。

浮かび上がったレギオンの体に、ゼノヴィアがエクス・デュランダルを叩きつける。

 

『……』

 

だがレギオンは何事もなく立ち上がる。

 

「何だコイツ…痛みを感じていないのか?」

『…レギオンは痛みを感じない。その様に洗脳している』

「同じファントムを洗脳…!?」

 

普通ではないその考えにリアスは気味悪さを覚える。

それを気にする事もなく、ガルムはその理由を淡々と語る。

 

『…奴は自分が美しいと感じた人間の心を破壊する悪癖がある。ただの人間ならまだ良いが、貴重なゲートをも襲ってしまい行方を晦ませた……故にワイズマンが自我を封じさせ、私の支配下に置かせている』

「そんな危険な野郎だったってのか…!」

『今回の作戦にはレギオンの力が必要なのでな…』

「それはイッセーが関与しているのかしら…ッ?!」

『貴様らが知る必要はない……レギオン』

 

リアスからの質問を一蹴し、ガルムは両肩から咆炎、レギオンは薙刀からの空間断裂を放つ。

ガルムの攻撃は魔方陣で防いだが、空間断裂は魔方陣すら貫通して命中してしまう。

 

「うっ……これは!」

「な、何だよこれ!?」

 

ビースト達は直撃こそ避けたが、腕や足に命中してしまい、その場から動けなくなってしまう。

 

『空間が修復されるまではそこからは動けん……大人しくしていてもらおうか』

「…何を、する気だッ!?」

『…最後の実験だ。ウィザードのな』

 

そう言ってガルムとレギオンは霧に包まれ姿を消した。

 

「…イッセーッ!!」

 

 

 

 

 

「…………」

 

ガルムが狙うイッセー本人はと言うと、サバトの儀式が行われたとある海岸へとやって来ていた。

崖の向こう側に広がる水面を見つめるイッセーは、

 

「…今の俺に、出来る事なんてないのにな」

 

やはり自嘲気に、淡く微笑んでいた。

吼介がファントムを発見したと聞いたリアス達が出て行ったと聞いて、気づけば自分もバイクを走らせていた。

 

だが途中で自分は魔法使いでない事を思い出し、進路を魔法使いとしての始まりの場所――――この地にやって来ていた。

 

黄昏るイッセーだが、彼の頭には健太の言葉と、家を出る前に、茂に言われたある言葉がずっと離れないでいた。

 

 

『イッセー。……命を救う事だけが、ゲートを救う事じゃないぞ。一番は、お前自身の心だ。誰かを救いたいっていう、気持ちだ』

 

 

「魔法より、心か………情けねぇな、俺」

 

そう言うイッセーだが、その顔には力強さが戻っていた。

 

「…今の俺だって、戦えない訳じゃない。…………やれるだけの事は、やるさ」

『……魔法も使えない魔法使いが、か?』

「…ガルム!」

 

だが最悪のタイミングと言うべきか、独りのイッセーの元にガルムとレギオンが到着してしまった。

 

『独りか。ならば丁度良い』

「…独りだったら倒せる、ってか?」

『いや、実験を容易く行えるのでな……ッ!』

 

そう言うや否や、ガルムは火球をイッセーへ向けて放つ。

横に飛んで回避するイッセーは、籠手からアスカロンを出して、ガルムへと斬りかかる。

 

『…』

「ちっ!」

 

だがその刃はレギオンに弾かれる。

 

『……禁手すら満足に運用できない状態で、何処まで足掻ける?』

「…ドライグ、まだ出来ないのか?」

『少し時間が掛かる。…魔力があった時と違って、それ相応に時間がいる』

 

ドライグに言われ、イッセーは軽く舌打ちしつつ籠手の宝玉を見る。

まだ禁手が発動するには時間が掛かる――――そう思ったイッセーの足元から、這い出るように腕が絡みついてきた。

 

「なっ――――!」

 

瞬間、絡みついてきた腕が爆発し、イッセーはボロボロになりながらも何とか足を踏ん張る。

 

「はぁ、はぁ……ッ」

『相棒!』

「グハッ!!」

 

荒く息を吐くイッセーに、ガルムは容赦なく拳打を浴びせる。

倒れ伏すイッセーを蹴り上げ、魔力砲で海岸まで吹き飛ばした。

 

「うぁっ……!!くそ、ったれぇ………ッ!」

『……』

「ッ、アァ!!」

 

飛び掛かって来たレギオンの攻撃を躱して拳をぶつけるイッセーだが、レギオンの体は僅かに揺らぐだけ。

振り回した薙刀を伏せて回避するが、地中から生え出たガルムの腕に殴り飛ばされてしまう。

 

「……まだ、まだだっ」

 

アスカロンを支えにして、何とか立ち上がるイッセー。

息を荒げるイッセーを見て、ガルムは無感情に見つめる。

 

『……やはり、そう簡単には折れないか』

「あっ、たりめぇだ……ッ!!」

『…それでこそだ。あの方の期待を裏切ってくれるなよ』

 

ガルムは魔方陣を複数展開させ、邪悪な魔力を放出させる。

それを避けようとするイッセーだったが、先のダメージのせいで足が殆ど動かない。

 

「や、べぇ……ッ」

 

思わず目を瞑ろうとしたイッセーの眼前、何者かが割り込み、攻撃を防いだ。

 

 

 

「…間に合いました」

「グレイ、フィア……」

 

乱入者はグレイフィアだった。

彼女は軽く息を吐いて、イッセーを守らんとガルムとレギオンに前に立ちふさがった。

 

「リアスお嬢様達も直に来ます。…それまでは、私が貴方方の相手をいたします」

『…ルキフグスの女一人で、私とレギオンを相手取れると思うな』

「…参ります」

 

グレイフィアは全身から魔力のオーラを噴出させ、ガルムとレギオンへと立ち向かう。

二体のファントムの攻撃を躱しつつ、的確に攻撃を食らわせるグレイフィア。

 

 

だが決定打となる攻撃をガルム達もただで受けず、上手く躱したり同規模の攻撃で相殺してしまう為、大したダメージを与えられないでいた。

加えて徐々にではあるが、グレイフィアのスタミナも削られてきており、持久戦に持ち込まれるかと思ったが――――

 

「…っあ!?」

「!イッセー様ッ!!」

 

ガルムはグレイフィアの攻撃の隙を付いて自身の腕を転移、グレイフィアの背にいたイッセーを縛り上げた。

しまったと思い背後を振り替えるグレイフィア、だがその一瞬が致命的な隙となった。

 

『…!』

「っあぁ!!」

 

グレイフィアが気付いた時には既に遅く、レギオンの凶刃が彼女を切り裂いていた。

次元断裂の線が走ったと同時に、グレイフィアはその場に倒れてしまう。

 

「…グレイフィアッ!!!」

 

縛り上げられたイッセーは絶叫する。

愛する人が傷付けられる――――それは彼にとってはサバトの時の後悔にすら等しい絶望だ。

 

自分を縛り上げる腕を力づくで引き千切ったイッセーは、這う這うの体でグレイフィアに駆け寄る。

幸いと言うべきか、命の別状はないようで、イッセーは安堵の息を漏らす。

 

『…無様だな』

 

だが安堵の時は直ぐに過ぎる。

ガルムとレギオンは大したダメージを受けておらず、対するイッセーは満身創痍、しかも手負い状態のグレイフィアもいる。

 

まさに絶体絶命の状態であった。

 

『…もう諦めろ。今の貴様には、誰も救えない』

「…ッ」

 

ガルムの言葉に、イッセーは何も言い返せなかった。――――だが、歯を食いしばりながらも、彼は再び立ち上がる。

その姿を見たガルムは、歩む足を止めた。

 

「…確かに、今の俺には魔力はない……魔法も使えない……けどなっ」

『……』

「…例え無くなったとしても、無くしたくないもんだってある…………俺自身の、信念がッ!!!」

『…言葉だけで他者を救うと?』

「…俺はッ、それを教えられた……命を救う事だけが、助ける事じゃない…。魔法が使えなくても、希望になれるって……だから、守りたいんだっ!!」

 

迷いを振り切るかのように叫んだイッセーは、持てる力の全てを込めて、ガルムを殴りつける。

 

 

ガンッ!!!

 

 

鈍い打撃音が響く――――ガルムは微動だにせず、だがイッセーは尚も叫ぶ。

 

「俺は、諦めない……命ある限り、目の前の希望も、命もッ!諦めねぇえええええっ!!!!!!!!」

『…ッ!』

 

イッセーの体から、叫びに呼応するかのように溢れる虹色のオーラ。

気迫とオーラに圧倒されるかのように、ガルムはイッセーから離れて距離を取る。

 

やがてイッセーの体から溢れるオーラは、目の前に一つの指輪を生み出しす。

フレイムスタイル、及びフレイムドラゴンの指輪に似た、何処か異なる透き通った赤い指輪。

 

「指輪……まさかっ」

『…相棒、そのまさかだ』

 

歓喜の色を隠さないドライグの声を聞いて、イッセーは腰に右手を宛がった。

 

 

《ドライバーオン・プリーズ》

 

 

何時も聞いていた音声と共に、イッセーの腰には銀色のベルト、ウィザードライバーが顕現していた。

瞬間、イッセーの目の前が暗転する。

 

 

『…心の強さだけで、この俺を蘇らせるとはな』

「…ドラゴン」

 

重く響くような低い声でそうイッセーに語らうのは、消滅したはずの彼のもう一人の相棒――――ウィザードラゴン。

信じられないと言わんばかりの面持ちのイッセーに対し、ウィザードラゴンは心底楽しそうに語る。

 

『本当にお前は面白い奴だ……今改めて誓おう。――――兵藤一誠、お前の希望になると!!』

 

そう吼えるウィザードラゴンは、イッセーの体内に溶け込むように消えていく。

 

 

イッセーは軽く深呼吸をして、ドライバーを操作する。

 

《シャバドゥビタッチヘンシーン!シャバドゥビタッチヘンシーン!》

「――――変身!!!」

 

力強く言い、左手をベルトに翳す―――――が、何も起きない。

 

失敗かと思ったガルムだったが、イッセーの体の輝きは衰えず、寧ろ増幅しているのに気付く。

まるで指輪に反応しているかのように。

 

《ウェルシュインフィニティー!!ウェルシュインフィニティー!!――――プリィィズ!!》

 

指輪に込められた魔法の詠唱が終わると同時に、イッセーの体表に皹が入った。

ゲートが絶望した時と同じようだが、皹は禍々しい紫色ではなく、眼が眩むほどの輝きを放っている。

 

直後、イッセーの足元に発生した魔方陣から、二体の龍の幻影が飛び立つ。

柱を旋回して再びイッセーへと龍達が戻ると、魔方陣が天へと昇っていくにつれ――――皹から発生した赤いダイヤモンドが彼の足を、腕を、体を、頭部を覆っていく。

 

 

《ヒースイフードー!ボーザバビュードゴーーン!!》

 

 

赤いダイヤモンドが砕けると、そこにいたのは従来のウィザードと赤龍帝の鎧が混ぜ合わせになったかのような、これまでとは全く異なる姿のウィザード。

 

白銀のローブに透き通った赤い装甲、その姿を見たガルムと、ガルムの差し向けたグール達を捌き漸く追いついたリアス達は、それぞれに感想を漏らす。

 

「イッセー、なの…?」

「変身、してますよ……イッセー先輩、魔力が戻ったんだっ!!」

 

歓喜の声を上げるリアス達、片やガルムの方は――――

 

 

『…遂に至ったか』

 

…意味深な事を呟いた。

 

 

 

 

「――――さぁ、ショータイムだ…っ!」

 

己の力のみで発現させた、決して希望を諦めない赤龍帝のもう一つの姿。

 

 

――――ウィザード・ウェルシュインフィニティースタイル。

 

 

 

 

『…レギオン』

 

ガルムの指示の元、レギオンは跳躍してウィザードWISへと斬りかかる。

だが空間は斬れる事無く――――寧ろレギオンの薙刀がへし折れてしまった。

 

『…!』

 

その光景にガルムは僅かに驚愕する。

空間すら切り裂くレギオンの斬撃、それを物ともせず、逆にレギオンの得物が折れてしまったと言う事は――――今のウィザードは空間断裂すら寄せ付けないと言う事になる。

 

事実、ウィザードWISは無傷であり、レギオンを連続で蹴り上げ、大きく蹴飛ばす。

レギオンを引き剥がしたウィザードWISの体から、小さな光球が出てきた。

 

「…行くぞ、ドライグ!ドラゴン!」

 

何かを察したのか、ウィザードWISがそう叫ぶと、体から再び二体の龍が飛び立つ。

光球に二体の龍が融合するかのように溶け合うと――――光球は一本の槍になった。

 

 

槍は赤色をベースにしたもので、穂先付近にはドラゴンの側頭部が描かれた斧状の赤い刃が付いており、槍の刃が付いた根元にはドラゴンの装飾があり――――まるでドラゴンの口から槍の穂先が突き出ているかのようなビジュアル――――槍と言うよりはハルバードに近い武器であった。

 

 

ウィザードWISはそれを手に取ると、臆せず向かってきたレギオンを槍部分で斬り付ける。

長い持ち手の部分でレギオンを突き飛ばし、距離を取ったウィザードWISは、ベルトを操作せずに指輪をベルトに宛がった。

 

《ウェルシュインフィニティー!!》

「ハァァッーーーー!!」

 

ハルバードを構えて突進するウィザードWISの姿が――――無数の煌めきを残して消えた。

いや、消えたのではない。目にも止まらない高速移動で、レギオンを四方八方から斬りつけている。

 

『…時間干渉による高速移動か』

 

ウィザードWISの高速移動のカラクリを見抜いたガルムは、静かにその場から姿を消した。

 

 

ウィザードWISは槍を短く持つ。すると、

 

《Change! Wizardragon Ax!!》

 

音声に合わせて槍部分の刃が伸縮、代わりに斧部の刃が拡大し、槍は長柄の斧となった。

言葉もなく、己の意思すらなくただ只管にウィザードWISに挑むレギオンだが、斧による豪快な斬撃を食らい、呆気なく吹っ飛ばされる。

 

「フィナーレだッ!!」

《ハイタッチ!》

 

ウィザードWISはハルバードの持ち手を引き延ばすと、縦になって収まっていたハンドオーサーが展開、そこに左手を宛がう。

ウィザードWISの左手を通じて、ハルバードに魔力が行き渡る。そのまま振り回していると、ハルバードはどんどんその体積を大きくしていき、最終的にはウィザードWISの身の丈を超える大きさになった。

 

《ロンギヌスストライク!!ギラギラァ!ギラギラァ!》

「ハァァーーーー……デヤァァァァアッ!!!!!」

 

巨大なハルバードを持ったまま跳躍、そのままレギオン目掛けてハルバードを振り下ろした。

真正面から斬られた事で、レギオンの肉体からは無数の火花が溢れ出る。

 

『…………ぇ、エキサイティン、グ………ッ!!!』

 

最後の最後で自我を取り戻したのか、レギオンはそう言い残して爆散した――――。

 

 

 

 

《リカバリー・プリーズ》

 

戦闘が終わると、ウィザードWISはアーシアと共にグレイフィアを回復させる。

 

「…イッセー、様」

「……あぁ、俺だよ」

 

無事に目を覚ましたグレイフィアの前で、変身を解いたイッセー。

 

「…グレイフィアの、皆のお陰だ――――本当に、ありがとう」

「……やっぱり、イッセーは魔法使いじゃなきゃね」

 

リアスがそう朗らかに言うと、全員が笑顔と共に頷いた。

イッセーの顔にも、久しぶりの笑顔が戻って来ていた――――

 

 

 

 

ーーーー

 

 

後日――――

 

「…ほいっ!」

 

手術が成功したらしい詩織の目の前で、手品を披露する健太。

今回は練習の甲斐あってか、見事な花束を出して見せた。

 

「詩織ちゃん、元気になって良かったですね!」

「手術が成功したからかしら?」

「…いや、それだけじゃないよ」

 

悟ったように笑うイッセーは、ポケットからピンポン玉を出すと、兄妹へと歩み寄る。

 

「上手くなったな。んじゃ俺も……チチンプイプイ!」

 

そう言って、両手の間にあるピンポン玉を浮かせるイッセー。

それを見た詩織は、目をキラキラさせながらイッセーへと駆け寄る。

 

「魔法使いさん!それも魔法なの?」

「ふふん、どっちだと思う?」

 

イタズラ気に笑うイッセーに、リアス達も駆け寄る。

 

「折角だから、皆で手品ショーをしましょうか」

「皆、詩織ちゃんの為に練習したんですよ?」

「そうなの?!」

 

嬉しそうに満面の笑みを見せる詩織に、朱乃も自然と笑顔になる。

 

「私の大食いマジック…ぜひご覧ください……」

「小猫ちゃん、それは手品って言うのかな……」

「大食いなら俺も得意だぜ!」

「立神君、大食い勝負じゃないよ。手品だよ手品」

「私もこの日の為に練習したのがある――――そう、聖剣ジャグリング!」

「うわぁ、ゼノヴィアったら教会に喧嘩売ってる……」

『『ワンワン!!』』

 

和気藹々としながら、皆思い思いに詩織の為に手品を披露する。

 

誰かを笑顔にするための行動――――それも立派な、魔法なのである。

 

 

「皆さま、そろそろ昼食にしては如何でしょうか」

「詩織ちゃんと健太君も遠慮せずに食べて良いぞー!」

『はーい!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――冥界の深淵、冥府にて。

 

 

《ファファファ、以前は烏と蝙蝠の頭が来たと思えば、今度は貴様が来ようとはな……》

 

冥府を統べる神、ハーデスは来客を前にして不気味な笑みを浮かべる。

 

「……」

 

来客――――白い魔法使いは、自分に向かってきた死神を切り払うと、ハーデスへと向き直る。

 

「…貴様には少しばかり礼を言いに来た」

《ファファファ…お礼参りにしては随分と物騒ではないか。我の死神達をこうも屠ってくれるとは》

 

白い魔法使いに向かって気味悪く笑うハーデスが視線を送ったのは、白い魔法使いの背後。

そこには無数の死神達の躯が転がっていた。

 

全て、白い魔法使いが一人で片づけたものだ。

 

「…貴様が何を企んでいるか等、微塵も興味はない。だが――――」

《…本気か。如何に貴様が、嘗て神に反逆した天――――》

 

白い魔法使いの殺気を前に、ハーデスは余裕を崩す事なく彼の素性を語る。

だが、全てが語られる寸前に――――

 

 

 

《…!》

 

ハーデスの胸元に、金色の槍が突き刺さっていた。

 

「これ以上、貴様に引っ掻き回されるのも困るのでな」

《……この程度の児戯で、神を欺けるとでも思うたか?傲慢な賢者よ》

 

だがハーデスは神、その程度の事は気にも留めずに、白い魔法使いへと攻撃をしようとした。

 

だがそれは、刺さった得物が普通のものだったらの話だ。

ハーデスの胸を抉るそれは、通常の得物ではなかった。

 

《……ムゥッ!?》

 

自分の魂に響かんばかりの激痛が走り、思わずハーデスは膝を付く。

引き抜こうとその槍――――ハーメルケインの刃に手を伸ばした瞬間、手にも激痛が走った。

 

《貴、様……一体、何を……ォォッ!!!》

「神であればそれは誰もが恐れる代物。その刃は…ある悪神との契約により頂いた土産物を加工したものだ。――――さて、気分の方はどうだ?ハーデス」

《フェンリル………ッ!!!》

 

魂を滅ぼす勢いの激痛に喘ぐハーデス。

そんなハーデスの様子を気にも留めずに、白い魔法使いは冥府の更に深淵へと向かおうとする。

 

「貴様は現存する神の中では最も強大だ。そう簡単に死にはせんだろうが……だからこそその痛みは貴様を死にたくさせるほどの激痛として苛む。その様では暫く表へは出られまい。……早い内に隠居すべきだったな」

《貴様……貴様は……何を望むと言うのだ…ァァッ!!!》

「知れた事。――――神のいない世界。私の目的は、今もその為にある」

 

そう言って白い魔法使いは、無造作にハーデスからハーメルケインを引き抜く。

無理矢理引き抜かれた事により痛みは更に強くなり、ハーデスは思わずその場に倒れ伏す。

 

「…安心しろ。冥府も新世界創造の暁には一つとして統合される。…私の望む世界に、死という概念は存在しないのだからな」

 

白い魔法使いは今度こそ冥府の深淵――――コキュートスへと進んでいく。

 

 

ハーデスの急変を駆け付けた死神部隊が発見したのは、それから直ぐの事であった。

 

 

 

 

 

 

冥府の深淵、コキュートス。

生前に重い罪を犯した者、現在でもテロ行為を仕出かした者達を収監する独房のような場所。

 

そこには神話の時代、初めての人類であるアダムとイヴを唆して知恵の身を与えた事で神の怒りを買った天使――――サマエルが封印されていた。

 

「……サマエル」

 

白い魔法使いの呼びかけに、しかしサマエルは何も返さない。

ただ拘束具の隙間から、不気味に輝く光を放つだけ。

 

「同じく、嘗て神の怒りを買った者の誼として会いに来た。……安心しろ。直にお前もその苦しみから解放されよう。……その時は、近づきつつある」

 

白い魔法使いは魔方陣から、紫色の魔法石を取り出す。

淡く、不気味な輝きを放つそれを見つめていると、何者かが白い魔法使いの元に現れた。

 

『――様。ウィザードが、インフィニティーへと覚醒しました』

 

その報告を受けると、白い魔法使いは手元に小型の魔方陣を展開させる。

魔方陣に映されたのは、レギオンと戦うウィザードWISの姿が。

 

「……とうとう、ここまで来たか。だが」

 

白い魔法使いは、初めて歓喜を含めた声を漏らす。

だがそれと同時に、懸念すべき材料がある事にも気づいていた。

 

「…自力で発現させた魔法、か。少しばかり面倒だな」

『排除しますか?』

「いや、そう急く必要はない。いざとなれば私が何とかしよう。……あとは例の石の錬成だ。何としても完成させよ――――ガルム」

『…ハッ』

 

そう言って白い魔法使いに跪いたのは――――ガルムであった。

 

 

 

 




久しぶりに長文書きましたー!疲れた……でもこれで次の章に行ける!
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