スーパーヒーロー作戦CS   作:ライフォギア

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第41話 剥がれた嘘

 デュランダル移送任務の後、ゴーバスターズのヒロムとリュウジはある任務に参加していた。

 慎次率いる二課エージェントと共に広木防衛大臣の犯人を追う、というものだ。

 今、数々の情報を統合して犯人の隠れ家らしき場所にやって来たのだが。

 

 

「収穫はこれだけですね」

 

 

 イチガンバスターを決して手放さず、机の上に置かれた鞄を見てヒロムが呟いた。

 隣にはリュウジと慎次もいる。

 隠れ家と思わしき場所は既にもぬけの殻。

 あった物は机とゴミだけで、後の全て撤去されていた。

 エージェントやゴーバスターズの2人が隅々まで捜索した結果、得られた収穫は忘れていったか、もしくはワザと置いていったのか、鞄1つだった。

 

 

「広木防衛大臣殺害の手がかりになるといいけど」

 

 

 人殺しが関わっている生々しい事件故か、リュウジも何処か普段以上に真剣な面持ちだ。

 ヨーコを連れてこなくてよかったとリュウジは心底思っている。

 ヨーコの保護者同様のリュウジとしては血生臭さ溢れる仕事に連れていきたくなかったのだ。

 そんなわけでヒロムもリュウジもこの仕事の事はヨーコには黙っている。

 人殺しの犯人を追う、それも国絡みの事で幾らゴーバスターズとはいえ16の少女を連れていくのは忍びなかったのだろう。

 

 

「そういえば緒川さん、さっき響に電話していたみたいですけど」

 

 

 ふと湧いたヒロムの疑問に慎次は笑顔で答えた。

 

 

「響さんに翼さんのお見舞いをお願いしたんですよ。……ちょっと大変な事をお願いしてしまったかもしれませんけど」

 

「ああ。あの2人、特に翼の方は意地張ってましたからね」

 

 

 ヒロムの言葉に慎次は少し笑い、首を横に振った。

 

 

「いえ、違うんですよ。お見舞いが大変な理由は別にあります」

 

 

 首を傾げる2人を余所に、慎次は翼の事を想起する。

 しばらくお見舞いに行っていなかったから、きっと『大変な事』になっているはずだ。

 それを響に見られる事になるわけだが、それもまあ仕方のない事だと苦笑した。

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、士先生」

 

「立花か……。なんだその花」

 

 

 士は帰宅しようとバイクに向かう途中、響とばったり会った。

 手には何処で買ってきたのか花束が握られている。

 

 

「実は緒川さんに翼さんのお見舞いを頼まれて……」

 

 

 慎次は現在、別の任務で動けない状態にあった。

 そんなわけで手が離せない慎次は翼の見舞いを響に託したというわけである。

 銃を携帯しなければいけないくらい物騒な事も予想される任務。

 おいそれと離れられる任務でもないのだが、不安を煽ってはいけないと響や他の部隊の面々には伝えていない。

 

 未来との約束を反故にしてしまったのはこれが理由だ。

 響さんくらいにしか頼めないと言われてしまい、断るに断れなかったのだ。

 それに慎次から電話がかかって来たのはふらわーに行かないかと言われるギリギリのタイミング。

 響が翼のお見舞いを引き受けてしまっても仕方が無いし、実に間が悪かった。

 ともあれ入院患者のお見舞いに行くのだから暗い顔ばかりしてもいられない。

 

 

「そうか、じゃあな」

 

 

 そんな事情を一切知らない士はさっさと響の横を通り過ぎてバイクの元に向かおうする。

 昨日の歓迎会兼交流会の疲れが取れていないから早急に帰りたかった。

 が、通り過ぎようとした瞬間に士は腕が引っ張られる感覚に襲われる。

 

 

「ちょちょ、待ってくださいよ!」

 

 

 振り返れば、響が士の腕を握っていた。

 

 

「士先生も行きませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 中々どうして、立花響は押しが強い。

 気を許している相手にはグイグイ来るのだ。

 敬語を使ってくる割に士を無理矢理引っ張っていくその様は、士に旅を共にした女性を思い起こさせた。

 

 響が士を無理にでも連れてきたのには理由がある。

 未来との一件が響の心に暗い影を落としているのは確かだ。

 そしてそれを自覚している響は、そんな状態の自分が1人で会うよりかは2人以上で会った方が良いだろうと判断し、士を引っ張ってくるという結論に至った。

 完全に巻き込まれただけの士は心底面倒くさそうに溜息をついていたが。

 

 というわけで、響は士と共に翼の病室の前までやって来ていた。

 

 

「何で俺が」

 

「まあまあ、仲間じゃないですか。それも士先生はリディアンの教師!

 繋がりは深いと思いませんか?」

 

「風鳴のクラスで授業をした事は無い。……多分」

 

 

 翼は怪我をした後はともかく、する前からもアーティストとしての活動が忙しい為か学校に来る事は少なかった。

 士の曖昧な返事はその為である。

 

 響は緊張を解すかのように大きく深呼吸をした。

 翼と会うのは絶唱を解き放って以来。

 即ち、2人の確執は一切話す事無くそのままだ。

 下手を打てばまた響と翼がすれ違う事になりかねない。

 

 

(そんな場に出くわすのは御免だ……)

 

 

 士が憂鬱なのは疲れにプラスしてそういう部分もあった。

 それは士がどうこうできる問題ではないし、率先して解決しようというタイプでもない。

 もしも重苦しい雰囲気に巻き込まれたら面倒そうだと士はひたすらに考えて、帰りたいという気持ちでいっぱいだった。

 が、響の握力は随分と逞しくなっており簡単に士の腕を離さず、且つ強い押しで説得という名の圧倒をされてしまったため、此処まで来てしまったのである。

 

 

「よし……ッ! 翼さん、お見舞いに……」

 

 

 扉を開けて病室に一歩足を踏み入れたその瞬間。

 響の顔は、一瞬で真っ青になった。

 

 

「……え」

 

 

 呆然とする中で、言葉にならない声だけが漏れる。

 響が見た光景を同じく目にしている士ですら、その光景に目を見張っていた。

 

 

「そんな……翼、さん……?」

 

 

 焦りなどでは無く、病室にいると思っていた翼がこの場にいない事。

 何よりも病室に広がる『惨状』が響の思考を止まらせていた。

 

 ――――これは、何だ。

 

 

「人の病室の前で何をしているの」

 

 

 2人の背後からかけられた声は翼のもの。

 響は慌てて振り返り、士ですらも少々険しい顔で振り向いた。

 

 

「つ、翼さん! 大丈夫なんですか!?」

 

「入院患者に無事を確かめるって、どういう事?」

 

 

 呆れかえる翼だが2人の表情も内心も一向に安心には向かわない。

 響が指を指した病室の惨状は、それほどまでに酷かった。

 

 

「だって、これ……!」

 

 

 散らばる衣服、薬品。

 部屋のありとあらゆる物が荒らされていた。

 強盗に入られた後、あるいは、室内で敵と争った後でもいうべきか。

 何もかもがしっちゃかめっちゃかで、タンスの中身と部屋に置かれていたものを全てかき混ぜたような混沌とした空間。

 翼の病室はそんな状態であった。

 

 

「私、翼さんが誘拐されたんじゃないかと思って! 今、色んな敵と戦ってますし……」

 

「他の国がシンフォギアを狙ってるって話もあったな。そっちか?」

 

 

 響は不安を口にし、士は既にこれは敵襲でこうなったという前提で話を進めている。

 それほどまでに病室の中は酷かった。

 誰がどう見ても、強盗か何かが入った上でそれと小競り合いでもしなければこんな風にはならない程の。

 だが、当の翼は。

 

 

「…………」

 

 

 だんまりだった。

 それどころか少し頬を赤くして俯いて、まるで恥ずかしがっているような仕草をしている。

 響と士がその様子に気付き一瞬の沈黙が流れる。

 荒れた病室、恥ずかしがる翼。

 この2つの点から、2人はこの病室が一体何故こうなってしまったのかを目が点になっていた響も何となく察した。

 

 

「あ……えぇっと……」

 

 

 まさか、と脳裏に過った可能性。

 ヴァグラスでもジャマンガでもネフシュタンの少女でもなく、何らかの他国の組織でもなく、この部屋がこんな有様になった理由。

 いやいやまさか翼さんに限ってそんな事、と否定したかったが、如何せん翼の表情を見るにそれが合っているとしか思えなかった。

 士も同じように考え、真面目な顔を一瞬で破顔させた。

 

 

「くっ、あっはははははははははは!!」

 

「ちょ、士先生! 此処病院ですよ!」

 

 

 今までに見た事が無い爆笑。

 士が笑うという事自体珍しいが、此処まで爆笑するのはもっと珍しいだろう。

 病院である事も忘れて大声で笑い出した士を止めようとする響だが、士の笑いは収まらない。

 

 

「か、風鳴……これ、お前がやったのかよ……!!」

 

 

 何とか笑いを止めようとしても、後から後から笑えてきて仕方が無かった。

 此処まで笑ったのは旅の仲間に強制的に相手を笑わせる事が出来る『笑いのツボ』を押された時以来だろう。

 そして翼は士の言葉に反論できない。

 病室のまるで敵襲に遭ったかのような惨状の犯人は、他でもないこの部屋の住人である翼本人。

 

 そう、風鳴翼は、『片付けられない女』なのである。

 

 

 

 

 

 優秀な人間というのは意外な欠点を持っているものである。

 天は二物を与えずと言うが、超が付くほどの完璧超人だけどカナヅチだったり、勉強が頗る得意だが体育が出来なかったり、勉強運動全てが完璧でありながら写真だけは全力でピンボケしたり。

 ちなみに3つ目は士の事である。

 

 さて、一見完璧に見える翼もその例に漏れず、部屋を片付けられないという欠点があった。

 実に意外な事ではあるものの、そこで恥ずかしがるだけ可愛げがあるというものなのかもしれない。

 

 響がまず取り掛かったのは部屋の片づけ。

 とりあえず足の踏み場もないこの部屋を何とかしようと提案したのだ。

 で、入院患者である翼にやらせるわけにもいかないので、響と士が手分けしてやる事に。

 勿論士は非常に嫌々だったが、響に上手く乗せられてしまったのだ。

 内容としては「士先生、完璧そうに見えて片付けは出来ないんですか?」とまあ、非常におちょくった言葉をかけられ、プライドが高い士は思わずこう言い放った。

 

 

「いいだろう、片付けってモンを教えてやる」

 

 

 が、士はその言葉をすぐに後悔した。

 まず片付ける物の絶対数が多すぎる事。

 次に、下着まで無造作に散乱している事。

 流石の士も年頃の女性の下着を覗き見る趣味は無く、全力で視界にいれないようにしていて、翼も士が見てやしないかと気にしている様子であり、「見ないでください……」とまで呟いていた。

 事情が事情とは言え士が気を使い、翼が弱々しく呟くのは中々レアな光景だと響は1人思っていた。

 そんなわけで下着などの女性しか触れなさそうな物は響が、他の物は士という風に自然と役割が決まり、片付けは進められた。

 

 響は活発な女子高生というイメージとは裏腹に、結構丁寧に衣服を畳んでいる。

 士は片付けの丁寧さもさることながら、後の綺麗さも中々の物だった。

 

 

「はー、流石士先生。授業もそうですけど、片付けもテクニカルですねぇ」

 

「なんだそりゃ」

 

 

 片付けが終わりかけている頃には、座りながら衣服を畳みつつ会話ができるくらいの余裕とスペースが出来ていた。

 最初は足の踏み場すらなかったものだが、2人の尽力により病室は元の病室に戻っている。

 そして最後の衣服を仕舞い終わり、響は立ち上がって部屋を見渡して満足そうに頷き、士は立ったまま壁に背中を預けた。

 翼は未だ恥ずかしそうに頬を染めつつ、病室のベッドに腰かけている。

 

 

「……ごめんなさい。普段は、緒川さんにやってもらっているのだけれど……」

 

 

 翼の口から士込みとはいえ響に詫びの言葉が出るのは、事情が何であれ目を見張る出来事。

 の、筈なのだが一切そっちに注意が向かず、響は後半の言葉にびっくり仰天していた。

 

 

「えぇ!? 男の人に、ですかぁ!?」

 

 

 沈黙、その後、赤面。

 どうやら翼、今まで全く気にしていなかったらしい。

 

 

「お前……俺には「見ないで」とまで言ってたクセして……」

 

 

 士にはもう最初のような爆笑をする気配はなく、それどころか笑いを通り越して呆れている様子である。

 響は此処で漸く『響さんくらいにしか頼めない』という慎次の言葉に合点がいった。

 恐らく慎次は男性をこの部屋に入れたくなかったのだ。

 下着まで無造作に散乱しているこの部屋に男性など入れたら士のような人物ですら気を使う。

 

 多分、慎次も下着を片付けている時は恥ずかしいか溜息をついているのではなかろうか。

 というか翼は男性として慎次を見ていないのではなかろうか。

 もしくは気を許し過ぎているのか。

 どちらにせよ慎次はそれを自覚しており、凄まじく不憫である事に違いは無い。

 響は内心物凄く慎次に同情し、今度労いの言葉の1つでも送ろうと全力で思った。

 

 

「でも、この部屋をそのままにしておくの、良くないから……」

 

「自分でやれ。片付け方も知らないのか?」

 

 

 翼の必死の抵抗も士はバッサリと切り捨てた。

 いや、今回の場合は誰が聞いても士の方が正しいが。

 しかし尚も翼は抵抗を続けた。

 

 

「私は、戦う事しか知りませんから……」

 

「理由になるか」

 

 

 ダメだった。

 というか、聞いているだけの響から見ても士の方が正論過ぎて翼をフォローできず苦笑いをするしかない。

 翼の両親、あるいは弦十郎は翼に一体どんな教育をしたんだと、士は一言言ってやりたいくらいであった。

 片付けを手伝わされた事で余計にそう思うのであろう。

 

 

「……ほ、報告書には目を通させてもらっているわ」

 

 

 目線は響の方を向いていた。

 話を逸らしやがった、と内心毒づきながら、その話を継続しても仕方が無いので士は無愛想な表情で話を聞く態勢に入る。

 

 

「貴女の頑張りも、私なりに認めているつもりよ」

 

「いえいえそんな!」

 

 

 憧れの翼に褒められた事が嬉しいのか、ちょっと顔を綻ばせながらも響は両手を慌てて振って否定した。

 仮面ライダーやゴーバスターズ、魔弾戦士に比べればまだまだだし、二課のみんなにも助けられっぱなしだと響自身は考えている。

 それでも、翼が素直に褒めるくらいには響が努力しているのも確かではあった。

 

 

(……変わったな。どういうわけだ?)

 

 

 翼の心象の変化はどうしたわけだろうか。

 絶唱の直前までは響との確執は解消されていなかったと士は記憶している。

 が、目の前の2人は良き先輩と後輩のような会話を繰り広げていた。

 まあ、自己問答でもして吹っ切れたのだろうと士は思う事にした。

 2人の仲が良ければ無駄な争いも起きなくて済むし、この場にいる自分にも厄介事が降りかからなくて済みそうだからである。

 

 それに何より、いがみ合っている仲間を見るよりかは笑顔で会話をする仲間を見ている方が気分も良かった。

 士はそんな事など一言も口に出さず、僅かに微笑みながら2人に向けてカメラのシャッターを切った。

 

 

 

 

 

 病室で話すより屋上で話した方がいい。

 気分的な問題だが、そう思った翼は響と士を連れて病院の屋上にやってきた。

 風を感じている翼の後ろ姿を響は見つめ、士は少し後方で屋上の柵に背中を預けて2人を見つめていた。

 病室と違って解放感溢れる場所だからか、風に当たると少し気分もいい。

 そんな感情に一瞬だけ浸り、翼は一気に顔を真面目な表情へと変化させた。

 

 

「頑張りは認めているの。でも、だからこそ聞かせてほしい。貴女が戦う理由を」

 

 

 響と正面から相対し投げかけた言葉。

 しばし目を閉じて考えた後、響は正直に自分の思いを告げる。

 

 

「きっかけは、やっぱり2年前の事件かもしれません。奏さんだけじゃなく、沢山の人がそこで亡くなりました。だからせめて……」

 

「代わりになりたい、と思った?」

 

 

 翼の知っている響は、そう答える人間だった。

 軽々しく奏の代わりになると口にした響で翼の中の響は止まっている。

 だが、今の響は違う。

 

 

「そう思う事もありました。でも、今は自分の意思で人を助けたいと思っています。

 私らしく、私なりに、私が出来る事を」

 

 

 そして響は、ずっとずっと、例え戦う理由は変わっても、根底にある決して変わらぬ気持ちを強く口に出した。

 

 

「私の、人助けを」

 

 

 無言で聞いていた翼は、微笑んだ。

 あの時の響とはもう違う事を確信した。

 この、今の立花響ならば認められる、共に戦おうと思えた。

 

 

「貴女らしいポジティブな理由ね。……貴女が戦う理由も持たぬまま戦場に立つのなら、私は貴女を受け入れる事が出来なかった」

 

「翼さん……」

 

「でもね、気を付けてほしい」

 

 

 微笑んでいた翼の顔は再び真面目な顔に、心配をするかのような表情へと変化した。

 

 

「自己犠牲による他者の救済は前向きな自殺衝動のようなもの。

 自分を犠牲にする事による自己断罪の表れなのかもしれない」

 

 

 響は度の過ぎた人助けを行う事がある。

 例えばそれは弦十郎をして『歪』と言わしめた、命を賭けての人助け。

 即ち、戦場に立つ事。

 翼もまた、誰かの為に自分を犠牲にして奏を喪ったという古傷から逃れようとしていたかのようだった。

 だからこそ、響の歪みを感じ取ったのかもしれない。

 

 

「でも、貴女の気持ちに嘘も他意もない事は分かった。だから、もう一度聞かせて」

 

 

 翼は表情を鋭く変化させた。

 射抜く様な目とでもいうべきか、響に嘘も戯言もいらないと言わんばかりの目を向ける。

 

 

「力の使い方を知るという事は、即ち戦士になる事。

 延いては人としての生き方から遠ざかる事。貴女に、その覚悟はあるのかしら」

 

 

 嘗ての響は翼から覚悟が無いと断じられた。

 だが、今の響になら覚悟があるのかと問いかける事が出来る。

 翼の心境の変化の1つだった。

 そしてその言葉と目に、響は敢然とした態度で向かい合う。

 

 

「誰かが助けを求めるなら、1秒でも早く助けたいです。

 最速で、最短で、真っ直ぐに、一直線に駆けつけたいッ!!」

 

 

 翼に何も言えなかった響とは違う、確かな覚悟を乗せて。

 

 

「そしてもし、相手が人間なら。どうしても戦わなきゃいけないのかっていう胸の疑問を、届けたいです」

 

「……うん。その思いがあれば、貴女にもアームドギアは何時か現れてくれる。

 その強い意志をしっかりと思い描き続けていれば、それが貴女のアームドギアになるわ」

 

 

 覚悟を構えた今の響なら、きっと力を引き出せる。

 風鳴翼が立花響に送れる最大限の言葉だった。

 

 

 

 

 

 はてさて、真面目な話が済んだところで響と翼はベンチに座って打ち解け合っていた。

 翼が響を認め、響が軽々しく口にしてしまった言葉を反省した今、2人の間に蟠りはない。

 

 

「そうだ翼さん、お腹空きません? 私は空きました!」

 

「……え?」

 

「話を弾ませるには食事が一番! 私、ふらわーのお好み焼きをお持ち帰りしてきますね!

 士先生の分も買ってくるので待っててください!」

 

「いや、ちょ、立花!?」

 

 

 翼の制止も虚しく、響は全力で立ち上がって満面の笑みで屋上を猛烈な勢いで去っていった。

 唖然とする翼と、お好み焼きを買ってくるという事はこの場で待つ事が確定し、ますます帰れなくなった事に全力で溜息をつく士。

 

 

「……ハァ」

 

 

 元々暇だった士は特に2人と話す事も無いとして遠くにいたが、こうなると翼も士もだんまりで空気が重い。

 ロクに会話もない状況なのは鋼牙とだけで十分だと思い、士は翼が座るベンチに向かう。

 近づいてきた士に気付いた翼の方から会話は始まった。

 

 

「元気なんですね、立花は」

 

「無駄にな。しかも授業中は寝てる」

 

 

 そうだ、とか、元気なのは良い事だ、とか士は絶対に言わない。

 とりあえず気怠そうか生意気に悪態をつきつつ返答する。

 翼と士は2人で話した回数は多くないどころか、恐らく一切ない。

 以前の翼が何物をも寄せ付けぬ感じだったのもあるし、士から話を振る理由もなかったからだろう。

 士はどかっとベンチに腰掛け、膝を組んで偉そうに片手を投げ出した。

 目線は翼が座っている方向とは逆の方を向いている。

 

 

「緒川の野郎が言ってたぞ。お前を世界で1人ぼっちにさせないでくれってな」

 

「緒川さんが……?」

 

 

 唐突な話題だったが、翼は士の表情に少し驚いた。

 適当な話題を振って来たのかと思ったのだが、その表情が頗る真剣だったから。

 

 

「どんなに忌み嫌われていても世界で1人ぼっちになるのは難しい。

 お前が死んだら悲しむ奴は大勢いるって事だ。ファンも、二課の連中も、緒川や立花もな」

 

「……はい」

 

「俺の知ってる悪党同然の馬鹿にも仲間がいた。

 そいつが死んだ時、その仲間はそいつに会いたいと思ったくらいだ。

 勝手に死んだら誰かが泣くって事だけは分かってるか」

 

 

 ちらりとだけ翼に向いて、語る。

 士の脳裏に浮かんでいるのは嘗ての自分。

 自分が全てを破壊した後に死ねば全ての世界が元に戻ると分かり、躊躇う事無く仲間の剣を受けた嘗ての自分。

 どんな理由があろうとも士のやった事は許される事ではないだろう。

 だが、そんな士ともう一度会いたいと蘇らせてくれた『想い』があった。

 何もかもを突っぱね続けた奴が最後に自分を殺しに走る。

 かつての翼のその行動に、士は自分を少しだけ重ねていた。

 

 

「理解しています。……いえ、漸く分かりました。

 こんな私でも、気をかけてくれた人が沢山いた」

 

「まあそういう事だ、幾ら突っぱねても仲間ってのは鬱陶しく付いて回る。

 二度と馬鹿はしないことだ、後が面倒だからな」

 

「……はい、ありがとうございます」

 

 

 ぶっきらぼうで乱暴な言い方だったが翼には士の言わんとしている事が理解できた。

 不器用ながら遠回しに『死ぬな』と言ってくれているのだ。

 文面だけなら喧嘩を売りかねない言葉だが、その裏には確かに仲間を想う気持ちがある。

 士にそんな一面がある事を翼は初めて知って、お礼を言いながら笑顔を向けた。

 

 

「フン」

 

 

 そんな笑顔にまともに取り合う事無く、鼻息を鳴らすだけの士であった。

 

 

 

 

 

 ふらわーでお好み焼きを席について待つ小日向未来の心は何時になく沈んでいた。

 響が何かを隠していて、心配もさせてくれない事。

 その事を遠回しに指摘して響を傷つけたかもしれない事。

 そして、もう1つ。

 

 

「…………」

 

 

 響に言った通り、未来は本を借りようと図書室に向かい、ふと気になった本を手に取った。

 題名は『素直になって、自分』。

 本当は響に「事情を話して」とか「何があったの」と直球で聞きたかった。

 でも、きっとそれは響に迷惑をかけてしまうから、秘密にしなければいけないから秘密にしているのだと自分を納得させていた。

 しかしそれは無理矢理耐えているようなものだった。

 そんな自分の気持ちと内容も知らぬ本の題名が妙に合っているような気がして。

 

 その本を手に取っている時、彼女は見てしまった。

 リディアンとリディアンの病院は当然ながら隣接しており、図書室から病室の一部が見える事もある。

 そして見えたのは、響と士が翼の病室で、仲が良さそうに翼と話している光景を。

 図書室からたまたま見える位置に翼が入院していた。

 響が翼の見舞いに行ったのも、そこに士がいたのも、それを未来が見てしまったのも全てが偶然だ。

 

 けれどその偶然は、未来の心を締め付けた。

 別に響と翼の仲が良くても、それだけで未来はどうこう思うわけもない。

 それを秘密にしていた事が何よりも気がかりで、翼に見せていた響の笑顔が何だか辛くて。

 いつの間に響と翼が仲良くなったのかとか、どうしてそこに士先生がいるのかとか、色々と聞きたかったが、何よりも何故それを秘密にしなければならなかったのか。

 本を元の位置に戻し、未来はさらに心に暗い影を落とした。

 

 

「人の三倍は食べるあの子は一緒じゃないのかい?」

 

「今日は、私1人です」

 

「……そうかい。じゃあ、今日はおばちゃんがあの子の分まで、食べるとしようかねぇ」

 

「食べなくていいから焼いてください」

 

 

 笑顔の応対。

 明るく振る舞ってこそいるが、未来の面持ちは何処か暗い。

 おばちゃんもそれを察しているかのように、気を使うかのように微笑んだ。

 

 

「お腹空いてるんです。今日はおばちゃんのお好み焼きを楽しみにして、朝から何も食べてないから……」

 

 

 年の功と言うべきか、はたまた多くのお客を見てきたからか。

 おばちゃんはお好み焼きを焼く中でも未来に辛い事があったのだと感じ取った。

 それは、友人関係なのか、また別の事なのか、おばちゃんにそこまでは分からないがともかく悩みである事に違いはないだろう。

 

 

「お腹空いたまま考え込むとねぇ、嫌な答えばかり浮かんでくるもんだよ」

 

 

 いつだったか、人の3倍は食べるあの子にも送った言葉を未来にも教えた。

 おばちゃんの持論だ。

 食事という行為はコミュニケーションなども捗るし、食べ過ぎが無ければメリットが多い行為である。

 人間は何かしらの満足感を得ると何処かポジティブになるものだ。

 単純な精神論かもしれない。

 それでも、未来にはそれがその通りであるように思えた。

 

 

(何も分からないまま、私が勝手に思い込んでいるだけだもの。ちゃんと話せばきっと……)

 

 

 それはあるいは気休めかもしれない考え。

 だけど、未来の心はほんの少しでも前を向けた。

 

 

「ありがとう、おばちゃん」

 

 

 焼き加減を見つつ、未来の作り物ではない笑顔を見たおばちゃんは優しい微笑みを向けた。

 

 

 

 

 

 一方、特命部、二課、S.H.O.Tではミーティングが開かれていた。

 とはいえそれぞれがそれぞれの司令室にて通信回線を開いての画面越しではあるが。

 

 弦十郎の服装は普段の赤いシャツの胸ポケットにネクタイの端を入れた格好ではなく、黒い喪服だった。

 黒木、天地も同じような服を着ている。

 今日は殺害された広木防衛大臣の繰り上げ法要だったのだ。

 現状合併している3つの部隊の司令官は全員出席しており、今回のミーティングはその直後の事だ。

 

 

「……以上の点から、監視カメラジャックの理由は依然不明です」

 

 

 二課の朔也の報告はデュランダル移送任務中に起こった監視カメラの乗っ取りについてだ。

 あの行為は何が目的だったのかは結局分からずじまいだったのだ。

 

 

『3つの組織のオペレーターが全員でかかって奪還できないとは……』

 

 

 天地の驚きは全員に共通するものだった。

 各組織のオペレーター陣は誰もが優秀だ。

 電子戦やコンピュータ戦において負ける事は殆ど有り得ないと言ってもいい。

 特に二課の朔也や特命部の森下は計算も頭の回転も恐ろしく速く、非常に優秀な人間。

 これらが総出でかかって奪還できないとなると、相手は壮絶に電子戦、コンピュータ戦に長けている。

 犯人は何となく推定できており、特命部の森下は少し悔しそうな表情で言う。

 

 

『恐らくは、エンターの仕業だと思います』

 

 

 ヴァグラス、ジャマンガ、大ショッカー、ネフシュタンの少女の陣営。

 この4つの組織の中で特に電子戦、コンピュータ戦で優秀なのは十中八九ヴァグラスだ。

 ヴァグラスという組織自体が元々コンピュータから生まれた存在である為、疑うには十分な理由である。

 それにジャックされていなかった監視カメラ、戦場から離れたある場所ではエンターの姿がちらりと映っていたそうだ。

 ただ、それが余計に謎を深めていた。

 

 

『ですが、エンターは自分が監視カメラに写っているのに何が目的で監視カメラを乗っ取ったんでしょう?』

 

 

 S.H.O.Tの瀬戸山の言葉。

 サンダーキーの調整をする途中でミーティングに参加しているので額には実験などで使う目を保護するゴーグルをしている。

 さらに髪の毛はサンダーキーの影響だろうか、静電気で浮き上がったように逆立っていた。

 どうやらサンダーキーの魔力は非常に強力らしく、調整している瀬戸山も慎重にならざるを得ないようだ。

 そんな瀬戸山のおかしな格好はともかく、それに答えたのは朔也だった。

 

 

「エンター自身が移送任務中に現れたと思われる周囲の監視カメラに何ら異変はなく、戦闘が行われた範囲の監視カメラのみが全て乗っ取られていました」

 

「つまり、エンターは自分が活動する為に監視カメラを乗っ取ったわけではないという事になります」

 

 

 朔也の言葉にあおいが続ける。

 こうなるとエンターが何を目的に監視カメラを乗っ取ったのかが分からない。

 通信の阻害が目的だとしても、監視カメラを通して状況把握ならともかく、連絡を行った事など二課も特命部もS.H.O.Tもない。

 実際、監視カメラの乗っ取りによる影響は皆無だった。

 そうなると考えられる事は限られてくる。

 

 

『見られたくないものでもあったんでしょうか……』

 

 

 特命部の仲村の言葉が答えとしか思えなかった。

 何かをこちらに見られたくないから監視カメラの乗っ取りを行った。

 ただ、それが何なのかが分からない。

 

 前線メンバーの報告では大ショッカーの怪人が5体、ジャマンガから遣い魔とジャークムーン、ヴァグラスからバグラー、ネフシュタンの少女とノイズ、そして第三者の仮面ライダーディエンド。

 

 これが敵対した全戦力の筈である。

 この中で見られて困る事など1つもないはずだ。

 何せ、この敵戦力は全てこちらの組織が既知のものであるからだ。

 

 

「まあ、考えても仕方が無い事は分からないわよ」

 

 

 行き詰まった中、了子がこの話題を終わらせた。

 このまま考えても全ての情報を統合して得た結論が『監視カメラをジャックした理由は不明』なのは変わらない。

 各組織全員が尤もだ、と考え、次の話題に移る事となった。

 

 

「さて、デュランダルだが、これは再び二課で保護する事となった」

 

 

 弦十郎がデュランダル移送任務中の起動、及び暴発により移送計画は頓挫。

 それにより二課に戻ってきた事を報告する。

 

 

「それに合わせて、二課本部の防衛設備の強化を行っている。現在作業中だ」

 

 

 続けての弦十郎による報告。

 デュランダルを狙う勢力がいて、尚且つそれが他の組織と協力していると分かった今、防衛設備の強化は急務だった。

 弦十郎の言葉に続け、了子が報告に付け足す。

 

 

「元々、二課本部は設計段階からグレードアップしやすいように織り込んでいましたわ。

 設備強化は明日にも終わる予定よ」

 

 

 嬉しい事ではあるのだが、弦十郎や他の司令官達の顔は暗い。

 それは広木防衛大臣が亡くなったからという事実以外にも理由がある。

 

 

『二課は特命部やS.H.O.Tと違って只でさえ横槍が入りやすいが……。

 そんな事をして大丈夫なのか?』

 

 

 黒木の神妙な言葉。

 武力を持てば持つほど、強化をすればするほど二課には横槍が入りやすい。

 ヴァグラスやジャマンガで言い訳が通るゴーバスターズや魔弾戦士ならともかく、ノイズに対して過剰な武力を持ちこむ事は基本的には許されない。

 聖遺物やノイズ関係の事はヴァグラスやジャマンガという世界的に認知されている脅威とは異なり、秘匿にされている事。

 二課が力をつければ余計に聖遺物を狙う他国や他組織からの何かが付け入る隙が出来るという事なのだ。

 

 司令官達はそれを懸念している。

 そして二課の弦十郎も言われずともその不安はあった。

 

 

「大丈夫かと言われれば、微妙なところだ。

 元々強化案自体はあったが、その反対派筆頭が広木防衛大臣だった」

 

 

 言葉だけ聞けば二課の装備強化を阻害していたように聞こえる。

 だが、その厳しさは思いやりの裏返しでもあった事を弦十郎もよく知っていた。

 

 

「広木防衛大臣は法令順守をさせる事で、俺達に余計な横槍が入らないようにしていてくれた……」

 

 

 つまり、広木防衛大臣は付け入る隙を与えないように二課を守ってくれていたのだ。

 デュランダル保護という名目があるとはいえ、こうして設備強化、装備強化には不安があるのも確かだ。

 元々、他国他組織の介入から逃れるために特命部やS.H.O.Tと合併した側面もある。

 ゴーバスターズや魔弾戦士を隠れ蓑にするという事だ。

 広木防衛大臣もその提案には理解を示していた。

 必要だと世界的に認知されている武力と一緒になれば無駄ないざこざも避けられると。

 とはいえ組織の一時合併は二課が参加している事もあって基本的には秘匿。

 表向きには現在でも別組織扱いだ。

 

 少々重たい雰囲気の中、特命部のオペレーター、森下が口を開いた。

 

 

『そういえば、広木防衛大臣の後任は誰に?』

 

「副大臣がスライドだ。今回の設備強化を後押ししてくれた立役者であり……。

 協調路線を唱える親米派の、な」

 

 

 防衛大臣が親米派。

 これはつまり、日本の国防政策に米国政府の意向が通りやすくなったという事だ。

 ただでさえ米国を疑っている状態の中での出来事。

 広木防衛大臣暗殺にも米国の何らかの意思が介在しているのではないか。

 そう考えずにはいられなかった。

 さらにその件で、おかしな事が起こっていた。

 

 

「それから、もう1つ。気になる事をフィリップ君が言っていた」

 

 

 弦十郎が語ったそれは、フィリップの地球の本棚の事だった。

 最初は怪訝そうだったメンバーも、本来ならフィリップが知る由もないこの部隊に関しての知識を披露して見せると信じざるを得なかった。

 そこで、フィリップに依頼したのが『防衛大臣暗殺の犯人の特定』。

 

 フィリップの地球の本棚はインターネットと同じでキーワードを幾つか入力して閲覧したい内容を絞り込むというものだ。

 ただ、地球の本棚という特性上、それを犯人逮捕の証拠には使えない。

 とはいえ犯人特定が可能ならそれに越した事はないと判断し、フィリップに検索を依頼した。

 キーワードは『広木防衛大臣』、『暗殺』、『犯人』。

 被害者の人名まで入力しているので犯人の特定は容易かと思われた。

 だが、それは予想外の事態で不可能となってしまったのだ。

 

 

「……妙だ、本に鍵がかけられている」

 

 

 そう呟いたフィリップ曰く、地球の本棚の本に鍵がかけられており、閲覧できなかったらしい。

 こういう事が発生するのは幾つか理由があり、以前にこういう事があったのは『とある2人が踊っていたダンスが2人の仲違いにより封印され、そのダンスについての本に鍵がかけられ閲覧できなくなった』という物だった。

 だが、今回の事でそんな特殊な事例が適用されるとは思えない。

 もう1つ考えられるのは『誰かが地球の本棚に干渉した』という事。

 地球の本棚に影響力がある人物だと検索や閲覧の妨害が可能なのだ。

 しかしフィリップも翔太郎も口を揃えて「それができる人物は既にこの世にはいない」と語った。

 

 

『では、誰かがその地球の本棚に干渉している、という事ですか?』

 

「そうなるんだが……。そんな力を持ったものが一体誰なのか……」

 

 

 S.H.O.Tの鈴の言葉の後、弦十郎が思案する。

 ヴァグラス、ジャマンガ、大ショッカー、ネフシュタンの少女。

 この中で地球の本棚に干渉できそうな存在はいないというのがフィリップの見解だ。

 そもそも地球の本棚を閲覧できること自体特殊で、さらに閲覧への制限などが行える事は特殊中の特殊。

 フィリップ以上に地球の本棚に影響力があるという事だ。

 例え歴代の仮面ライダーが戦ってきた敵の中でもそこまでの事ができるのは翔太郎とフィリップが戦ったガイアメモリ流通組織『ミュージアム』をおいて他にはいない。

 

 深まるばかりの謎と、回答の出せない沈黙。

 その静寂を壊したのは、3つの司令室で同時に鳴り響いた警報だった。

 

 

 

 

 

 警報の理由は2つ。

 1つに二課本部に近づくネフシュタンの少女。

 もう1つに、エネトロン異常流出反応とメガゾード転送反応。

 現場は両者ともにリディアン近辺。

 ヴァグラスはエネトロンとして、ネフシュタンの少女は恐らくデュランダルと響を狙っているであろう事が分かった。

 対応は早く、すぐに二課から響と士、翔太郎、仮面ライダー部へ連絡、特命部からゴーバスターズの3人と一応陣へも通達、S.H.O.Tは銃四郎だけに伝えた。

 下手に剣二に伝えれば飛び出す恐れがあると考えられたし、ゲキリュウケンが目覚めぬ今、リュウケンドーは出撃不能だからだ。

 

 

「……どうやらヴァグラスとネフシュタンが出たらしい」

 

 

 士が通信機を切り、ベンチから立ち上がる。

 それを聞いた翼も真剣な面持ちで立ち上がった。

 

 

「私も行きます」

 

 

 強く言い切る翼の言葉。

 だが、士は溜息を1つ付く。

 

 

「お前、入院患者だろ。また無茶して死にたいのか?」

 

 

 翼はまだ全快しているわけではない。

 外へ出歩く程度ならまだしも戦場においそれと出せるかと言われれば、それはノーだ。

 本人からすれば十分に動ける範疇なのだろうが、だからといって無理をさせるわけにもいかない。

 だからなのか、士は以前に翼がやった『無茶』を引き合いに出す。

 さっきあれほど言ったのに、と。

 だが、翼は強い眼差しで、かつてとは違う覚悟ではっきりと答えた。

 

 

「いいえ。もう何も、失わないためです」

 

 

 あくまでも守る為、生きる為だと答える翼に士は背を向けた。

 

 

「着替えて来い、俺のバイクで行けば早いだろ」

 

 

 そう言うと士は手をヒラヒラと振りながら「部屋、散らかすなよ」と言い残して屋上から出て行った。

 

 

「……! はい!」

 

 

 自分の意思が通った事にか、それとも捨て台詞のように憎まれ口を叩いている事にか、士の言葉に笑みを見せる翼も出撃の為に自分の病室へと急ぐ。

 

 剣は再び抜かれた。

 今度は死に急ぐ為ではなく、失わず、守る為に。

 

 

 

 

 

 

 

「オーララ、お早い到着ですね。レッドバスター、ブルーバスター?」

 

「まあね。ちょっと野暮用でこの辺りにいたから」

 

 

 リュウジの言う野暮用とは、慎次と共に広木防衛大臣暗殺の犯人の隠れ家と思わしき場所の捜索の事。

 その場所はメタロイド出現の位置に非常に近かった。

 だからヨーコよりも早く2人は到着する事ができたのだ。

 辺りはビル群に囲まれたコンクリートの上、普段ならば人が行き交うような場所。

 しかし人っ子1人いないのは避難誘導が完了しているからである。

 慎次達二課のエージェントもまたこの現場に来ており、避難誘導を行ったのだ。

 

 

「グッモ~ニ~ン! まだ2人しかいないみたいだけど、面白いもの見せちゃうよ~!」

 

 

 エンターの隣にいる機械人形は意気揚々としている。

 メタロイド、『フィルムロイド』は全身機械の風貌ながら、頭は二股に別れた帽子を被っているかのようになっており、仕草も相まって印象は完全に道化師のそれだ。

 フィルムロイドの軽快なステップと何かをしようとする挙動に警戒する2人。

 と、フィルムロイドは近づいてくるバイクの排気音にその挙動を止めた。

 駆け込んできたのは、前後で色がバッサリと分かれたバイク。

 

 

「よう、機械野郎。邪魔するぜ」

 

 

 ヒロムとリュウジの近くにバイク――ハードボイルダーを停め、ヘルメットのバイザーを押し上げて顔を見せたのは左翔太郎。

 知らない顔の登場にエンターは眉を吊り上げ、フィルムロイドも大袈裟に上半身から右に傾いた。

 

 

「だぁ~れ~、君~?」

 

「お前らみたいなのを、ハァードボイルド、に許さない探偵さ」

 

 

 バイクを降りてヘルメットを脱ぎ、腰に付いている帽子をかけてあるフックから黒い中折れハットを取り外して被りつつ、だいぶ恰好つけつつハードボイルドを強調する。

 そんな翔太郎に容赦なくヒロムは切り込む。

 

 

「ハードボイルドは自分の事、ハードボイルドって言わないと思いますけど」

 

「……わぁーってるよッ!」

 

 

 半ばヤケで反論する翔太郎。

 一応ヒロムよりも年上なのだが、悲しい事にそこに年上の風格は無い。

 そんなやり取りにリュウジも思わず敵の目の前であるにもかかわらず少し笑みを見せた。

 一方でエンターは怪訝そうな顔で翔太郎をジッと見ている。

 

 

「ただの探偵ではなさそうですね。ゴーバスターズの仲間ですか?」

 

「そんなトコさ。仮面ライダーってヤツでな」

 

 

 ダブルドライバーを見せつつ、言葉の後に装着。

 同時に翔太郎をセンターにヒロムとリュウジが横に並んだ。

 翔太郎はジョーカーメモリを起動、ヒロムとリュウジもモーフィンブレスを起動させた。

 

 

 ――――JOKER!――――

 

 ――――It's Morphin Time!――――

 

「変身」

 

「「レッツ、モーフィン!」」

 

 ――――CYCLONE! JOKER!――――

 

 

 起動しているガイアメモリの力だろうか、巻き起こる風の中で3人はW、レッドバスター、ブルーバスターへと姿を変える。

 変身した3人を見てもフィルムロイドは臆するどころか跳び上がって嬉々としていた。

 

 

「わぁ~あ! 1人ゴーバスターズがいないみたいだけど、変な半分こが出てきたね!」

 

「誰が半分こだ機械野郎」

 

「ふふふ、今から面白いものを見せてあげるね~!」

 

 

 おちょくるような発言への返しを見事にスルーしつつフィルムロイドは心底楽しそうに両手を広げたり跳び上がって足の裏同士を合わせたりしてみせている。

 

 面白いもの――――――。

 

 こういう輩が言う『面白いもの』というのは大抵ロクでもないものだ。

 しかしWは先程半分こと言われたお返しと言わんばかりにフィルムロイドを挑発する。

 

 

「なんだよ? 大道芸でも見せてくれるのか?」

 

「バカ言わないでください。こんな奴らの大道芸なんて見たくもない」

 

 

 レッドバスターの言葉に笑い混じりで「確かに」と続けるW。

 その言葉を聞いたフィルムロイドは両手を腰に当て、これまた大袈裟な動きで起こるような仕草を見せた。

 

 

「ふーんだ! これを見ても同じ事が言えるかなー!?」

 

 

 フィルムロイドは胸にある突起、映写機のような部分から光を放った。

 映写機から発射された光の中から3人の人影が映し出される。

 それは、非常に見覚えがある姿。

 1人は赤く、1人は青く、1人は緑と黒の半分こ。

 地面に降り立った3人の人影はまるで、W達3人の鏡であるかのように立っている。

 そう、3人の人影は紛れもなく仮面ライダーWとレッドバスターとブルーバスターであったのだ。

 

 

「なっ……幻覚?」

 

 

 敵の能力は幻覚を見せる力なのか。

 そう考えたレッドバスターだったが、言葉の直後にもう1人の自分が放ったイチガンバスターが威嚇するかのように本物3人の足元に着弾。

 着弾した地面にはイチガンバスターによってつけられた焦げ跡のような物がついており、その攻撃が確実に幻でないという事を物語っている。

 

 

『成程、映像を実体化できるようだね』

 

「せ~いか~い!」

 

 

 Wの右目が明滅し、フィリップが冷静に分析を行う。

 3人の偽物は本物の3人とは違いフィルムロイドの性格が混じっているかのようにとぼけた仕草を時折していた。

 例えば気さくに手を振っていたり、ピョンピョン跳ねていたりと言った具合に。

 

 フィルムロイドは映写機に『見せる』のメタウイルスをインストールして製造されたメタロイド。

 決して『偽物』を作り出すわけではなく、本人が映し出せる物を実体化させる能力を持つ。

 尤も、体の大きさゆえに限界はあるが。

 

 

「それでは、後は任せましたよ」

 

「はぁ~い!」

 

 

 エンターはフィルムロイドの肩に手を置いて呟いた後、分解されたデータとなってその場から消えて去っていった。

 待て、そう言いかけたレッドバスターとブルーバスターのモーフィンブレスに通信が入る。

 通信の相手は特命部の仲村だ。

 

 

『メガゾード転送反応確認、タイプはβ。転送完了まで5分30秒です!』

 

 

 メタロイドの出現はメガゾードの転送の開始とイコールである。

 対抗するにはバスターマシンを使うわけだが、ともあれ目の前のフィルムロイドを放ってはおけない。

 バスターマシンは予め発進させて現場に到着させておけばすぐに対応も可能。

 ならば、今3人がすべきなのはフィルムロイドを倒す事。

 3人がフィルムロイドを睨んで戦闘態勢を取ると、フィルムロイドはこれまたワザとらしく跳び上がって偽物の3人の陰に隠れて頭を隠した。

 

 

「やっちゃえ~!」

 

 

 フィルムロイドの号令と共に偽物3人は各々のオリジナルに向かって行く。

 まるで見分けのつかない本物と偽物との戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 ネフシュタンの鎧の反応があったという場所に響は急ぎ走っていた。

 二課本部に真っ直ぐ向かってきているという事は、逆に言えば二課本部を起点に真っ直ぐ反応に向かえば必ず鉢合うことができるという事だ。

 辺りは木が生い茂っている自然豊かな公園。

 そこをひた走っていた響は鉢合う。

 ネフシュタンの少女ではない、想定外の少女に。

 

 

「あ、響ぃー!」

 

「未来!? どうして……」

 

 

 やや距離がある中、お互いがお互いを認識し、手を振って笑顔を見せていたのは小日向未来。

 他でもない立花響の親友である未来だ。

 ふらわーのおばちゃんに言われた事もあり、会って話してみようと明るく前を向いていた彼女にとって偶然会えた事は未来にとって幸運であった。

 ネフシュタンの少女が迫っている中で、巻き込みたくないと偽り続けていた未来と偶然会ってしまった事は響にとって不運であった。

 

 そして――――――。

 

 

「お前はァァッ!!」

 

 

 このタイミングでネフシュタンの少女と偶然に鉢合ってしまった。

 ネフシュタンの鎧から容赦のない茨の攻撃が響目掛けて飛ぶ。

 対して、未来は響に手を振って走ってくる。

 

 

「来ちゃダメだ! 此処は……!!」

 

 

 響が言い切るよりも早く茨は響と未来の間の道に炸裂。

 大きな衝撃と共に地面を抉ってみせる。

 

 

「きゃああああああ!!」

 

「ッ! 未来ッ!!」

 

 

 大きな衝撃によって未来は後方に飛んでしまった。

 幸いにも直撃したわけでもなく、体を打ってはしまったものの高度はあまりなく怪我はそれほどでもない。

 けれども突然の衝撃と落下は普通の人間である未来には十分な痛みを与えていた。

 

 

「しまった……! アイツ以外にもいたのか!?」

 

 

 ネフシュタンの少女は事後確認により焦りを見せる。

 彼女は今、かなり苛立っていた。

 苛立ちの原因は立花響でもあるが、もう1つある。

 エンター、延いてはヴァグラス。人間と明確に敵対する者達だ。

 

 ――――何でアタシがアイツ等なんかと……!

 

 血が出るかもしれない程に、痛むぐらいの強い歯軋り。

 ネフシュタンの少女の目的とヴァグラスのそれは相容れないどころではなく、本来なら敵対してもおかしくない程。

 今すぐにでも組んだ手を切って、エンターの飄々としたツラをぶっ飛ばしてやりたい。

 

 今回の二課襲撃はヴァグラスとも話した上での同時展開による作戦。

 ヴァグラスに対して不愉快以上の感情を抱いていたネフシュタンの少女にとってそれは耐え難い事だった。

 そして、苛立ちの原因である立花響を見つけた直後、辺りを確認もせずにぶっ放したのはその怒りをぶつけた形だ。

 結果、関係の無い一般人を巻き込んでしまった。

 無差別に人を襲うヴァグラスを嫌悪しておきながら、ただの不注意で。

 

 

(馬鹿ッ! 何やらかしてんだアタシはッ!!)

 

 

 こんな事をしてはヴァグラスと何も変わらないではないか。

 ネフシュタンの少女は自分の行動に罪悪感を覚えていた。

 

 そんな罪悪感を抱いているとも知る由もなく、響も未来も窮地の中にいた。

 先人達の言葉に泣きっ面に蜂、弱い目に祟り目という言葉がある。

 もしもこの諺を今の響に言ってあげたならば、それは正しいと全力で首を上下させるに違いないだろう。

 それほどまでに最悪な事が続いていたのだ。

 公園には車が駐車してあった。茨の着弾による大きな衝撃は車をも浮かせた。その車は未来と同じ方向に飛んで行った。

 

 そして、立ち上がる時間すら与えられない未来は車を避けきれないであろう事が一目で分かってしまった。

 

 

「ッ……!」

 

 

 決断に迷っていたら未来が死んでしまう。

 そんな思考すらする事無く、響の判断は一瞬。

 答えは、歌を歌う事。

 

 

 ――――聖詠――――

 

「ハアッ!!」

 

 

 歌を歌った響は胸の内に秘めるガングニールを身に纏い、急ぎ未来の眼前に移動。

 アッパーでもってして未来に上空から迫りくる車を砕き、再び上空に打ち上げた。

 スクラップ同然となった車は誰もいない道路に落ちてボンネットやらドアをパージして転がる。

 

 未来を助けることができた。しかし、響の顔は全く晴れない。

 

 

「響……?」

 

 

 助けてくれた、不思議な鎧を纏う人が自分の親友だと認識するのに時間はかからなかった。

 けれど、納得するのにはそれこそ長い時間が必要な気すらした。

 驚き、呆然、未来の内にはそんな感情しか今は湧いてこなかった。

 

 

「ごめん……ッ!」

 

 

 それが何に対しての詫びだったのか、未来には分からない。

 でもその顔が酷く苦しそうで、とても辛そうな事だけは分かった。

 一言、その言葉だけを置いて響は戦場へと踏み出した。

 

 

 ――――私ト云ウ 音響キ ソノ先ニ――――

 

 

 何故、どうして、此処に運命は自分を導いたのか。

 敵へと走りながら湧いたそれは疑問ではなく、運命というものへの恨み。

 絶対に巻き込みたくなかった、この秘密だけは隠し通さなければならなかった。

 だけどそれ以上に隠し事をしていた罪悪感。

 偽りと嘘に縋ってしまい、隠し事をしたくないと言ってくれた友達を傷つけてしまった事への悔恨の思いが響の目から溢れだす。

 

 

「うああああああああああああッ!!」

 

 

 慟哭が戦場に響き渡った――――――。




――――次回予告――――

Super Hero Operation!Next Mission!

「私は立花響15歳ッ!」
「必ずダチになってみせるぜ!!」
「あけぼの町が……!」
「あの中、亜空間になってる」

バスターズ、レディ……ゴー!

Mission42、それが偽りでも……
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