スーパーヒーロー作戦CS   作:ライフォギア

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第43話 それぞれの居場所

 クリスの前に立ちはだかった剣、風鳴翼は目を覚ました響を大剣の柄より見下ろした。

 

 

「気付いたか、立花」

 

「……翼、さん」

 

 

 自分を助けてくれた人物が翼なのだと認識した響は呆然とした表情だ。

 本来なら病院にいる筈の彼女が何故にこの場にいるのか。

 

 

「だが、私も十全ではない。力を貸してほしい」

 

 

 けれどその言葉で響の顔は一瞬で明るくなった。

 今までなら擦れ違い、共闘という言葉が一切似合わなかったであろう2人。

 しかし今は翼の方から手を貸してくれと頼んでいる。

 たった1人で戦い続けようとした風鳴翼は既にいない。

 何も失うものかと決めた、決して自殺衝動などでは無い覚悟を携えた防人なのだ。

 

 

「手負いがノコノコとッ!!」

 

 

 剣の頂点にそびえる翼にクリスはガトリングを照準し、放つ。

 構えて照準して放つまでの時間は極僅かだった。

 が、翼は剣より地面に降下しつつ、その全ての弾丸を避け切る。

 地面に着地した翼は手に携えた太刀で一閃、躱されたところにさらにもう一閃。

 それら2回の斬撃をバックステップで避け切ったクリスは右手のガトリングを翼に合わせて撃つ。

 が、それを読んでいたかのように翼はクリスの上空を取る様に跳躍し着地、見事にその背後を取りつつ空中でクリスに横薙ぎの一撃を放つ。

 背後を取って来た翼の方を向きつつ、しゃがんで躱すクリスだが、次の瞬間には手に持っているガトリングが押されるような感覚に襲われた。

 着地した翼が素早く太刀の柄を使ってクリスを押したのだ。

 背後に少しよろけたクリスは背中に何かがぶつかる事で倒れずに済んだ。

 

 

「ッ……!?」

 

 

 しかし、その何かとは風鳴翼の背中。

 おまけに太刀を肩に担ぐように構える事で、剣の刃を背面にいるクリスの頭の横に添えるようにしていた。

 此処までの一連の流れでクリスは翼に翻弄されるばかり。

 ネフシュタンの鎧以上に自分の戦闘スタイルに合ったイチイバルを使っているはずなのに、翼も傷が癒えきっていない筈なのに。

 コンディションや条件だけを見れば、クリスが圧倒してもおかしくない筈なのに。

 

 

(この女、以前とは動きがまるで……ッ!?)

 

 

 別人のようだと、クリスは思わざるを得ない。

 翼の何が変わったかと言われれば、それは心情だ。

 今までの翼は力によるごり押しをしようとしていた。

 以前に絶唱を放ったネフシュタンの鎧戦では特にそれが顕著に表れている。

 しかしそもそも翼が得意とするのは力よりも技や速さであり、天羽々斬もシンフォギアとしての特性は機動力にある。

 つまりは完全に機動性や技術に重きを置いた戦い方が本来のバトルスタイルなのだ。

 

 奏の死やネフシュタンの鎧の出現、何よりも響との確執が翼に精神的なアンバランスを生み出していた。

 だが、今の翼にそれはなく、むしろ真に覚悟を決めた状態と言ってもいい。

 例え身体は十全でなくとも、心は十全なのがこの強さの理由だった。

 

 

「やるじゃねぇか、翼!」

 

 

 これには思わずフォーゼも声を上げる。

 以前までの荒れていた翼を見ていないフォーゼからすれば、翼が戦っているところを見るのは今回が初めてだ。

 初見だったとはいえフォーゼや響はガトリングやミサイルに圧倒されていたにも関わらず、この翼の立ち回り。

 幾度もの戦いを潜り抜けてきたフォーゼも感服している様子だ。

 

 

「翼さん、その子はッ!」

 

「分かっている!」

 

 

 人同士で戦う事をよしと思わない響は以前にも言ったように翼を止めようとする。

 本気で戦いあっていけないと。

 以前の翼なら「戦場で何を馬鹿な事を」と言っていただろうが、今は違う。

 焦りと怒りで強張っていた翼ではなく、落ち着き、冷静に。

 

 クリスは足をずらして片方のガトリングを上に上げつつ、その場で横に回転した。

 上に上げられたガトリングは太刀を跳ね上げ、同時に回転しながら距離を取る事で翼と一定の距離を離す。

 翼も太刀を跳ね上げられたと同時に同じように横に回転し、クリスとは逆方向に距離を取って再び2人は正面から相対する事になった。

 

 

(刃を交える敵ではないと信じたい……。それに、10年前に失われた第2号聖遺物の事も正さなくては)

 

 

 第2号聖遺物であるイチイバルは本来ならば二課の所有物。

 紛失したそれをネフシュタンの鎧共々何故所有しているのかというのを聞きださなくてはいけない。

 クリスが属している組織に関しては不明瞭な点が多すぎる。

 彼女の組織、いやそもそも組織なのかも分からないが、その目的は一体何なのか。

 

 だが、それを正そうとする前に、クリスを攻撃する者がいた。

 

 

「なッ!?」

 

 

 クリスが構えていた両手のガトリングが上空からの攻撃により破壊される。

 攻撃の正体は槍のように細長く丸まった飛行型ノイズの突撃。

 さらに飛行型ノイズはもう1体上空に存在しており、その最後の1体はクリスのガトリングが壊れた後を狙ったかのように時間差で槍状に丸まって突っ込んできた。

 

 

「クリスちゃんッ!」

 

 

 すぐに反撃に転じる事の出来ないクリスに迫るノイズに響が肩から突撃する事でそれを打倒した。

 が、突撃してきたノイズに強引に突っ込んだせいで響はそのままクリスの胸に飛び込むような形で倒れ込んでしまう。

 おまけに先の戦いのダメージが抜けきっていない中での行動のせいか、立ち上がる事も出来そうにないくらいに疲弊しきった顔で。

 飛び込んできた響をクリスは思わず受け止め、地面に激突しないように抱きかかえた。

 

 

「お前何やってんだよ!?」

 

「ごめん、クリスちゃんに当たりそうだったからつい……」

 

 

 響が庇ったのは咄嗟だった。

 敵だとか味方だとかではなく、目の前で危険に晒されている人がいたから、助けたいと思ったから。

 口先だけではなく自分の身を挺してまで庇ってくれた響の行動にクリスも動揺していた。

 

 

「馬鹿にしてッ! 余計なお節介だッ!!」

 

 

 乱暴に言うものの、疲弊した響を投げ出すような事はしない。

 仮にも自分を助けてくれた人間であり、綺麗事を口だけでなく体を張って実行した響に思うところがあるのだろう。

 何より、クリス自身に甘さや非常に徹しきれない部分が見え隠れしていた。

 

 

(一体、今のは……ッ!?)

 

 

 一方で翼は剣を構え、クリスと響を庇う様に背にして立ち、辺りを警戒した。

 フォーゼも翼の隣に立って周囲を警戒している。

 ノイズの攻撃は明らかにクリスを狙ったものだった。

 人間ならば無差別に襲う筈のノイズがクリスだけを集中的に狙い、尚且つ『武装を潰してから本体に攻撃を仕掛ける』というノイズらしからぬ作戦染みた行動まで。

 となれば、例の杖でノイズを操っていると見るのが自然だ。

 が、クリスは杖を持っておらず使ってもいない現状で、そもそも狙われたのはクリスである。

 一体誰が、そう思う翼の、そしてこの場の全員の耳に女性の声が響いてきた。

 

 

「命じた事もできないなんて……。貴女は何処まで私を失望させるのかしら?」

 

 

 声がした方向は公園の端、その先にある海に落ちないように設置されている柵に肘を乗せて体を預けている黒服に黒い帽子と長い金髪、ついでにサングラスをしていて顔が分からない謎の女性。

 さらにその女性はノイズを出現、操作する杖を手にしていた。

 謎の女性を訝しげな目で見やる翼とフォーゼ。

 そんな中、クリスがその女性を見て叫んだ。

 

 

「フィーネッ!」

 

 

 自身の名を叫ばれた、フィーネと呼ばれた女性は不敵な笑みを崩さない。

 

 

(フィーネ? 終わりの名を持つ者……?)

 

 

 本名なのか偽名なのか判断はしかねるが翼は油断せずに剣を構え続ける。

 現状から考えて味方でない事は確かだろうし、クリスへのノイズによる攻撃を行ったのも恐らく彼女だ。

 ただ、何故味方であるはずのクリスを襲ったのか。

 

 フィーネと呼んだ女性を見たクリスは自分の中で苦しそうに息をする響を見やる。

 疲労とダメージのせいであろう。

 しかしフィーネが現れるという状況に余程動揺したのか、一瞬ためらいつつも響を翼の方に押しのける。

 突き飛ばされた響は翼に抱き付く様な形となり、翼は左手で響を抱えつつ剣を握る手を緩めないでいた。

 

 

「こんな奴がいなくたって戦争の火種くらいあたし1人で消してやる!

 そうすればアンタの言うように人は呪いから解放されて、バラバラになった世界は元に戻るんだろ!?」

 

 

 クリスの訴えにフィーネは溜息で返答した。

 表情は笑み、だがその笑みは何処か嘲笑っているかのようにも見える。

 フィーネは杖を持っていない片手を少し動かした。

 すると、先程アーマーパージされて公園のあちこちに散らばっていたネフシュタンの鎧の欠片が光の粒子となり、フィーネの手の内に収束していく。

 そしてネフシュタンを完全に回収したフィーネはクリスに横顔を見せたままで、一切目を合わせる事なく口を開いた。

 

 

「もう貴女に用はないわ」

 

「ッ……!? 何だよそれッ!?」

 

 

 切り捨てるように、まるで裏切りの言葉にクリスは明確な動揺を示す。

 表情は怒りというよりも見捨てられる直前に、自分が見捨てられる事を信じられない、信じたくない、嘘だと言って欲しいような。

 第三者が見れば心が痛みかねない程の表情となったクリスに対しフィーネはあくまで笑みを崩さず、杖を操作した。

 杖からの司令を受けて上空で円を描いて旋回していたノイズ達が槍状に丸まって響を抱える翼に突撃していく。

 それらを迎撃しようと剣をノイズに向ける翼だが、それらが接近するよりも早く、地上から銃声と共にマゼンタ色の光弾が放たれてノイズ達を炭へと変えた。

 突然の銃撃に翼が背後を振り向けば、歩いてくる人影が1つ。

 

 

「…………」

 

 

 それはライドブッカーをガンモードで携え、ゆっくりと歩きながら上空のノイズを撃ち落としたのはディケイド。

 未来は二課職員や後から到着したゴーバスターズに任せてきた。

 相手がノイズを操る存在となればノイズをシンフォギア同様、一方的に殲滅できるディケイドが前線に赴くべきだと前線のメンバーで判断したためである。

 

 

「お前、何者だ」

 

 

 普段ならば自分が尋ねられる言葉をフィーネに向かって放つ。

 勿論、これは名を聞いているのではない。

 彼女は一体何者なのか、目的は、そもそも人の姿をしているが人間なのか。

 アバターという意味でエンターの事例もあるし、人間に姿を変える怪人などザラにいる。

 数々の世界を巡り、この世界でも数々の怪物や事件を見てきたディケイドの疑念は増やそうと思えば幾らでも増やせた。

 

 

「この世界の呪いに囚われていない筈のお前まで、私の前に立ちはだかるか……」

 

 

 フィーネは問いには答えずに呟くのみ。

 だが、その顔は笑みから苦々しい、ディケイドを睨むような顔に変化している。

 恨みを買った覚えは一切ないが、各世界で破壊者呼ばわりされているディケイドはそういう覚えのない怒りや恨みには慣れているつもりだった。

 ただ『この世界の呪いに囚われていない』という言葉は今まで各世界で受けてきた難癖からすると相当に気色が違う。

 その事にディケイドは首を傾げ、訝しげにフィーネを見た。

 

 

「どういう意味だ。それに答えになってない。ポエムを聞く気はないんだがな」

 

「人と人とは、例え世界が違っても終生分かり合えぬという事。それが分かっただけだ」

 

 

 それだけ言うとフィーネはその場から海の方へ跳び、夕日を背にして落ちていった。

 何かしらの離脱する算段があるのだろう。

 

 

「待てよ……ッ! フィーネェッ!!」

 

 

 それを追うクリスの顔はとても悲しそうな、泣くのを耐えるような表情だった。

 しかし翼達としてもクリスは何とか捕らえたいところ。

 響を抱える翼は動けない為、フォーゼとディケイドがそれを追って駆けだすものの、未だ空から襲い掛かるノイズにその足を止められてしまう。

 

 

「クッソッ、やっぱすり抜けるな」

 

 

 フォーゼが積極的に攻撃しようとしてもすり抜けてしまい、流石ノイズの特性は厄介と思わせる。

 一方でディケイドはそんな位相差障壁を物ともせずにノイズを撃破していくが、それらに時間を取られているうちにクリスもこの場から離脱してしまった。

 

 

『反応、ロストしました』

 

「……チッ」

 

 

 通信機から聞こえてきたあおいの声を聞き、ノイズを粗方片付けたディケイドはライドブッカーを元の位置である腰に戻した。

 ノイズの反応、イチイバルの反応、ネフシュタンの反応の全てが途絶した事で、今回の戦いは一先ず決着した。

 ただ、謎を残して。

 

 

 

 

 

 あけぼの町に疑似亜空間の発生にイチイバルの出現。

 問題は減るどころか増える一方だが、1つずつ片付けていくしかない。

 部隊の面々は銃四郎、響、翼以外の一同が特命部の司令室に集結していた。

 

 

「あれ? 不動さんは?」

 

 

 キョロキョロと辺りを見渡して銃四郎の姿が無い事にヨーコは気付いた。

 響と翼は一旦メディカルチェックを行う事になっている。

 響は翼に抱きかかえられたまま気絶してしまっていたし、翼は病み上がりの状態だ。

 故に戦闘後のチェックは外せなかった。

 だが、銃四郎がいない理由だけが分からない。

 それには司令官である黒木が答える。

 

 

「銃四郎君にはあけぼの町に残ってもらっている。疑似亜空間の件もあるし、その機に乗じてジャマンガが活動しないとも限らん」

 

 

 銃四郎も最初は前線メンバーと合流する予定だったのだが、あけぼの町に疑似亜空間の発生という非常事態の為、S.H.O.Tとしてもあけぼの署の刑事としてもその場に残る事になったのだ。

 今回の戦いで戦場に来なかったのもその為である。

 ちなみにS.H.O.T基地は疑似亜空間の範囲外で助かっている事が確認されていた。

 銃四郎を通してS.H.O.Tと連絡が取れているのが何よりの証拠だ。

 

 

「お、みんな揃ってんな」

 

 

 司令室の入り口から意気揚々とさらに1人、陣マサトが入室してきた。

 それに驚いたのはヒロム達。

 確か彼はまだ、特命部への出入りを許されていなかったはずだが。

 そんな反応をマサトは面白がっていた。

 

 

「驚いてるねぇ~。俺が此処にいるのが不思議か?」

 

「当然ですよ……! なんで、先輩が此処に?」

 

「非常事態だからな。ま、説明を……」

 

 

 リュウジの言葉に答えて全員の顔を一瞥した後、黒木に顔を向ける。

 

 

「始めてもいいよな、黒リン」

 

「ああ」

 

 

 非常事態だからか、名前の呼び方に突っ込まなくなった黒木の返答を聞き、マサトはニッと笑って全員の前に出た。

 

 

「じゃあまず、亜空間って場所は動くにもすげぇパワーがいるって事はいいか?

 それはゴーバスターオーだろうがダンクーガだろうが足りねぇ程のすげぇパワーだ」

 

 

 全員真剣な面持ちで話を聞いている。

 マサトは静聴する面々の様子を見ながら話を続けた。

 

 

「それに、中にメガゾードがいる限り、いくら壊してもあの亜空間は再生しちまう。

 さぁ、困ったねぇ」

 

 

 マサトの表情はみるみるニヤケ面へと変わっていった。

 それと同時に黒木とリュウジの顔が呆れ顔へと変わっていく。

 

 

「困ったねぇ、みんな!」

 

 

 非常に元気良く、一切困ってなさそうな声で放たれた言葉に一同困惑。

 ただそんな中でマサトをよく知る黒木が「はぁ」と溜息をついたあとマサトを指差した。

 

 

「陣、普通に話せないのか」

 

 

 そんな黒木の言葉に振り返り、これまた愉快そうな表情で答えるマサト。

 さらにこの場では黒木の次にマサトの事を知っているリュウジが腰に手を当てて困ったような、手のかかる子供を見るような顔で続く。

 

 

「何か対策があるんですね? ……言いたいんですね?」

 

「ピンポーン!」

 

 

 バレたらしょうがない、とでも言いたげに髪を掻きながら正解の擬音を口にする。

 何処からかクイズ番組のようなSEでも聞こえてきそうだった。

 マサトはヒロム達の方を再び向いて、先程よりはほんの少しだけ厳かに話し始めた。

 

 

「実は、全てのバスターマシンを使った合体がある」

 

 

 それを聞いた一同、特にヒロム達3人が僅かな驚きを顔に刻む。

 この場合の『全ての』というのはマサトとJが所有するBC-04とSJ-05の事も含むであろうことは想像できた。

 しかしそれが合体すると言われれば、多少なりとも驚きはある。

 

 

「何か凄そうだな。そいつが出来れば、あのヘンテコ空間を突破できるワケか」

 

「その通り。合体作業はもう始まってる」

 

 

 翔太郎の言葉に答え、マサトが指さしたのは黒木の後ろ、司令室の奥。

 司令室の後方には壁を挟んでCB-01、ゴーバスターエースの格納庫が置かれている。

 そこは司令官が座る席の後ろにある網目状の窓を通して様子を見る事が出来るのだが、そこでは既に他のバスターマシンが搬入され、作業に取り掛かっていた。

 

 

「合体の全体指揮は陣が行っている」

 

「スタートはゴーバスターオーから。そこまでなら俺の指揮が無くても此処の整備班ができるし、お前らへの説明もあるから俺は一旦こっちに来たわけよ」

 

 

 黒木の言葉にマサトが続ける。

 バスターマシンの5体合体はゴーバスターオーが基準となり始まる為、一旦ゴーバスターオーに合体してからBC-04とSJ-05をドッキングさせていく算段らしい。

 バスターマシンの合体という物は、プログラムを組んでそれをマシンにインストールし戦場でそれを起動させるか、発進前に手動で行うのが主だ。

 アニメや漫画みたいにぶっつけ本番で『決まってんだろ、合体だァッ!!』と勢いでやれるものではない。

 特に今回の合体は特命部側もマサトも初めて行う5体合体。

 指揮を出しているマサトは元より、マシンを組み替えていく整備班の労力も半端ではないだろう。

 

 

「合体には時間がかかる。できるだけ早く終わらせるが、それまではあの疑似亜空間はどうしようもない」

 

 

 さて、とマサトはヒロムの方を見た。

 突然視線を向けられたヒロムは一瞬だけ驚くが、すぐに元の冷静な顔に戻る。

 

 

「この合体でメインになるのはゴーバスターオーと同じでエースだ。

 でもって、5体合体ともなればエースのパイロットにはかなりの負担がかかる」

 

「……!」

 

「なぁヒロム。俺がお前に強くなれって言った理由の1つがそれだ……。できるか?」

 

 

 おふざけ抜きの真剣な面持ち。

 本気で覚悟を試しているかのような目線と声色は、その『負担』がきっと凄まじいであろう事が伺える。

 だけど、ヒロムは動じずに答えた。

 答えなど1つしかない。

 

 

「やれます」

 

 

 13年間、亜空間に行って両親を助ける為に此処まで来たのだ。

 ならば疑似亜空間なんて突破しなければ話にならない。

 決意は既に13年前から固まっているのだから。

 余裕でもなく慢心でもなく確実な決意がその胸に宿っていると確信したマサトはヒロムの肩を叩いて満足気に頷いた。

 

 

「パイロット、及び仮面ライダーは休んでくれ。此処にはいないがシンフォギア装者と魔弾戦士にも休息を取ってもらう。

 メタロイドの探索は特命部と二課、S.H.O.Tが引き続き行うから、安心して休んでいてほしい」

 

 

 黒木の指令に全員が頷き、ゴーバスターズだけは律儀に「了解」と発した。

 

 亜空間。

 それはヒロムとヨーコとリュウジが13年間追いかけ続けてきた場所。

 例えそれが疑似であったとしても、そこに突入して戦う事が出来たなら彼等の大きな希望となるだろう。

 マサトの存在があったため、亜空間内部に生存者がいる希望も出てきた。

 いつかヴァグラスを倒す為にも行かなくてはならない亜空間。

 その最初の1歩を、彼等は踏み出そうとしていた。

 

 

「……さて、休息に入ってもらう前に、もう1つ説明しておこうと思う」

 

 

 言葉の後、黒木が森下に一言声をかけると、すぐに特命部のモニターに画像が表示される。

 映し出されたのは少女の写真だった。

 

 

「これって……クリスか?」

 

 

 一番に反応したのはその少女に見覚えがあった弦太朗。

 見た目、髪型など、先程見たそれよりかは幾分幼いが、確かに雪音クリスと思える写真だ。

 それに黒木は頷き、両手を組んで語り始めた。

 

 

「雪音クリス。二課からの情報によれば現在16歳。

 2年前に行方不明となった、ギア装着者候補だそうだ」

 

 

 その姿をゴーバスターズや翔太郎もモニター上でとはいえ見た事があった。

 故にそれがネフシュタンの少女であるという事は分かるのだが、今の話からは色々と疑問が出る。

 疑問に切り込み、即座に口にしたのは翔太郎だ。

 

 

「何で行方不明の女の子がフィーネとかいう女と一緒にいるんだ?」

 

 

 フィーネと自称する謎の存在が現れた事はその場に居合わせなかったメンバーも既に聞いている。

 その上での尤もな疑問だが、それに関しては不明としか答えられない現状である事を黒木は話した。

 何せ2年前に行方不明になった時点から捜索を始めたのに、一切見つからなかった少女だ。

 

 おまけに捜索していたのは何人かで構成されたチームだったのにも関わらず今では弦十郎1人になってしまったという。

 しかもその1人になった理由がまた不可解で、捜索中にトラブルに遭ったり行方不明になったり、果ては死亡者となった者までいるというのが黒木が弦十郎から聞いた話だった。

 それを聞く限りでは雪音クリス捜索に何者かが介入しているとしか思えず、ヒロムがそれを口にした。

 

 

「誰かに、揉み消されてるって事ですか?」

 

「揉み消すというよりは脅しに近い。彼女を追えば命は無いぞ、とな」

 

 

 人の生死が関わっているせいか少々重たい雰囲気になってしまう中、マサトが思い切り手を叩いて大きな音を鳴らした。

 その音に思わず全員がマサトの方を振り向いてしまう。

 

 

「ま、そっちの事は弦ちゃん達に任せて、お前らは休め!

 まずは疑似亜空間を突破する事を考えて、話はそっからだ」

 

 

 当面の目的を忘れて先の事や考えても分からない謎を考えるのは無駄だとマサトは言いたいのだろう。

 考えたい事、気になる事は多いだろうが、まずは目の前のメガゾードを倒せと。

 確かにそうだとヒロム達も思う。

 自分達がやるべき事、それは決戦に備えた休息だ。

 ヒロム達は威勢良く返事をすると各々の部屋に帰って行く。

 マサトは後ろ髪を掻きながら柄じゃない、とでも言いたげにちょっと困り顔で黒木の方を向いた。

 

 

「あー……んじゃ、俺もバスターマシンの方、行ってくるわ」

 

「ああ。……すまんな、陣」

 

「気にすんな」

 

 

 その「すまんな」がバスターマシンの事を一任している事に対してなのか、ヒロム達の暗くなった空気を吹っ飛ばしてくれた事なのか、あるいは両方なのか。

 ともあれ感謝されたマサトはひらひらと手を振って司令室から出て行った。

 疑似亜空間の中で苦しむ人々の為にも、一刻も早い対抗策の完成が待たれる。

 戦士達は休息の中でも心を安らげる事はどうにも出来そうになかった。

 

 

 

 

 

 ジャマンガの本拠地にて、Dr.ウォームはエンターと話していた。

 

 

「今回は感謝するぞよ。お前さん方が造ったあの変な空間のお陰で、マイナスエネルギーが溜まっていっておる」

 

 

 ウォームはまずエンターに感謝の言葉を述べ、エンターはそれにお辞儀で返した。

 疑似亜空間内部は息をするのも苦しい空間。

 内部にいる人間は相当な苦しみを味わう事になる。

 何せ、生きる為に必要な呼吸をするだけでも苦しく、かといって本当に死んでしまうほどの苦しみや痛みではない。

 しかし半端じゃない苦しみは眠気が襲う事すらも許さず、疑似亜空間がある限りあの中にいる人間達は延々と苦しい、辛い、助けて、と思い続ける事になるのだ。

 こういう負の感情はそのままマイナスエネルギーの放出に直結する。

 

 

「お気になさらず。それもあって、あけぼの町を使わせていただきましたから」

 

 

 エンターがフィルムゾードをあけぼの町に出現させたのはそれが目的でもあった。

 疑似亜空間の中に閉じ込めてあけぼの町民に苦しみを与える事はそのままマイナスエネルギーをジャマンガに提供する事にも繋がるのだ。

 フィルムゾードの能力、疑似亜空間の生成を試したかったエンターと人々を苦しめてマイナスエネルギーを欲しているウォーム。

 この利害が一致した結果だった。

 

 

「大魔王様も絶えず入ってくるマイナスエネルギーに、喜んでおられる」

 

「こちらのマジェスティもですよ。人間が苦しんでいる様を見て大変お喜びになっています」

 

 

 疑似亜空間がもたらした恩恵はお互いの首魁が嬉々とする結果。

 大魔王グレンゴーストはマイナスエネルギーを吸収して復活に近づき、メサイアは少しだけ現実世界に顕現できた事と、その中で苦しむ人間達が余程愉快なようだ。

 疑似亜空間の中であればメサイアは一時的とはいえ現実世界にその身を現す事ができる。

 かつて転送研究センターと共に亜空間へ追放されたメサイアは必ず戻ってくると野心を滾らせており、今回の一時的な帰還はその欲求と野心をさらに掻き立てていた。

 何よりメサイアは地上世界への帰還という目的以外にも『人間の苦しみ』が大好きで、そこに愉悦を覚えている。

 時折、エネトロンの回収よりも人間への加虐行為を優先した作戦をエンターに命じる事すらある程に。

 

 苦しみにより発生するマイナスエネルギーを復活の糧とするグレンゴーストと、人間の苦しみに愉悦を覚えているメサイア。

 2体のマジェスティは何処か似ているのかもしれない。

 

 

「協力関係というのも良いものじゃな。労せずしてマイナスエネルギーが手に入るなら言う事なしじゃわい」

 

「ええ。こちらとしては、後はエネトロンが手に入れば万々歳なのですが」

 

「分かっておる。言ってくれれば協力くらいしてやるわい」

 

 

 ウォームはすっかり気を良くしていた。

 何せ今までは苦労しても魔弾戦士の邪魔が入って満足に集められなかったマイナスエネルギーが湯水のように、とてつもなく効率よく入ってくるのだから。

 おまけにジャークムーンの策略により魔弾戦士の1人、リュウケンドーも倒れている。

 仕事をしないで金を貰えたら、と人間一度は考えるが、ウォームの思考はそれが実現した時のそれだ。

 しかも邪魔者まで片付いているのだから、これで喜べない筈がなかった。

 

 エンターからすればエネトロンを消費する羽目になっているのだが、疑似亜空間の生成という実験ができたのだから少しはマシと考えている。

 それに今までは各組織との協力関係の締結やメガゾードを4体消費した作戦など、エネトロン以外の事で奔走しておりメサイアの機嫌を損ねるばかりだったので、今回の一件でメサイアが機嫌を直してくれたのは直属の部下である彼からすれば非常に助かるのだ。

 さながら臍を曲げた子供に新しい玩具を買って機嫌を直してもらうような。

 

 

「ところで、ムッシュ・ジャークムーンは何処へ?」

 

「ふぅむ。実は、サンダーキーを使わせてリュウケンドーを倒して以来、姿が見えんのだ。

 折角リュウケンドーを倒して大魔王様の復活も順調に進んでおるのに、何をしておるのやら」

 

 

 ジャマンガの城にジャークムーンの姿は影も形も見当たらない。

 デュランダルの一件以来帰っていないというが、何処で何をしているのかウォームも本当に心当たりが無かった。

 とはいえエンターからすればジャマンガは協力関係の相手であっても、身内がどうこうというところまで干渉する理由は無い。

 一言、「そうですか」と言って話を打ち切ったエンターはまだ生き残っているフィルムロイドの所にでも行こうかと考えた。

 まだ動いている以上、奴にはもう一働きしてもらおうと。

 

 

「それでは、私はこれにて。Dr.ウォーム」

 

「うむ。今後とも、宜しく頼むぞよ」

 

 

 エンターは律儀にお辞儀をしてデータとなって消え去っていく。

 それを見送ったウォームは上空に佇む大魔王の卵を怪しげな笑みで見つめていた。

 リュウケンドーが倒れ、マイナスエネルギーは今までになく順調に溜まろうとしている。

 これで笑えない筈が無かった。

 

 大魔王の卵はその身に負の感情を蓄える度、心臓の鼓動のように胎動する。

 復活の日が近いのだと告げるかのように。

 

 

 

 

 

 その日の夜。

 5体のバスターマシンの合体作業は夜通し続けられる事になり、戦士達は一旦の帰宅をする事になった。

 と、此処でちょっとだけ驚きの事実が判明する。

 これはゴーバスターズが自分の部屋で休息を取りはじめ、仮面ライダー部が既に各々の家に帰宅し、士と翔太郎と弦太朗だけになった後の話だ。

 

 

「……つーわけで、俺達は二課が保有してる宿舎に入れてもらってる」

 

「結構住み心地いいんスよ!」

 

 

 何と、彼等は二課の宿舎に泊まっているという話だ。

 何でも最初に助っ人に来た時になるべく早く現場に駆け付けられるようにできないかと弦十郎に打診したところ、士から「助っ人が来る」とは聞いていた弦十郎が万一の事を考えて宿舎を用意していたのだ。

 勿論、この宿舎は彼等の為に作ったというわけではなく元々あるもので、彼等の為に空き部屋を残しておいた、という方が適切だ。

 

 そもそも今回の組織合併の件で多くの人間が二課、特命部、S.H.O.Tの司令室を行き来する事になるであろう事は十分に想定できたし、下手をすれば作戦行動上の理由でそこで寝泊りせざるを得ない状況が来るかもしれない事も考えられた。

 その為、二課は宿舎に空き部屋を多く用意しており、そこの2つに翔太郎と弦太朗がそれぞれ入ったという話だ。

 

 翔太郎は元々風都をしばらく離れる事になるだろうと予感していたのでフィリップや竜に後の事を任せてきたので特に問題もない。

 弦太朗は実家通いの大学生だったのだが、大学生らしく疑似的な一人暮らしが始まったように感じており、二課の宿舎から大学に通う日々を送っているというわけだ。

 

 しかし、リディアンの教師という事で二課の隊員の1人という扱いになっている士すら、その話は初耳だった。

 

 

「聞いてないぞ」

 

「あー、言う機会が無かったからな。その内ちゃんと言われるんじゃねえか?」

 

 

 確かに此処のところ事件続きでそういう暇は無かったかもしれない。

 それに今さら何だかんだと言っても遅いし、別に聞かされなかったからって困る話でもない。

 士はやや呆れつつもこの話を切り上げる。

 それよりも士は気になる事があった。

 自分の教え子にして立花響の親友、小日向未来の事だ。

 二課に保護され、事情を説明されたという話は聞いている。

 現場で会って以来顔を合わせていない未来に対して少しだけ不安があったのだ。

 

 

(……また厄介事にならなきゃいいがな)

 

 

 翼と響の仲が折角纏まった中で、未来が響の戦う姿を目撃してしまうという事態。

 あの時、現場であった未来は酷く動揺し、何が何だか分からないと言った具合の表情をしていた。

 それに一番気になったのは未来の頬を涙が伝っていた事。

 相当にショックだったのだろう。そんな未来が響と今まで通りに接することができるのか。

 士が溜息をつきながら懸念している事はそれだった。

 

 

 

 

 

 シンフォギアを纏い人々を守る為に特異災害対策機動部二課で今まで戦っていた。

 未来が二課の人から聞かされた響の事は、要約するとそんな感じ。

 自分の部屋で、自分と響が住む寮の中で椅子に座って未来は何処でもない虚空を見つめていた。

 心ここに非ず、と言ったところか。

 

 ディケイドに発見、ゴーバスターズに保護され、二課へ連れていかれた未来はそこで話せる限りでの事情を聴いた。

 響の事、士の事、ゴーバスターズ達と協力しているという事など。

 とにかく響に関しての事の大部分は話してくれた。

 それを聞いた未来は「士先生、そう言えば転任してきた時からミステリアスだったな」、何て思う。

 余裕だからそんな考えが出来るのではなく、そうしなければ余裕が作れそうもなかった。

 事情を知った、嘘を知った。

 だが未来の心は全く晴れないでいる。

 

 

「未来……」

 

 

 扉が開く音と共に響が帰って来た。

 今までは同じ寮の同じ部屋で良かったと心から思えたのに、今の2人にとってそれはとても酷な事だろう。

 

 

「入っても、いいかな」

 

「どうぞ。貴女の部屋でもあるんだから」

 

 

 普段ならば、明るく帰ってくる響に明るく返す未来がいる。

 普段ならば、へとへとの響に呆れながらも優しい笑顔で迎える未来がいる。

 けれど今日は、重い雰囲気の中で響のぎこちない言葉と未来の平たい言葉が交わされるのみだった。

 

 

「あのね、未来。私……」

 

「大体の事は、あの人達から聞いたわ。今さら聞くような事なんてないと思うんだけど」

 

「いや、その。私ね……」

 

 

 自分が嘘をついた事実は変わらないのだと本気で分かっているつもりだ。

 それでも未来には理解してほしい、話し合いたいのだと響はたどたどしく食い下がる。

 

 

「どうせまた嘘つくんでしょ」

 

 

 だけど放たれたのは冷たい言葉。

 その言葉は今まで見てきた、受けてきたどんな攻撃よりも響の心に突き刺さる。

 隠し事をしたくないと言ってくれた未来に、隠し事をしてしまった。

 未来の為だと必死に抑え込んでいた、仕方ないと抑え込んでいた。

 でも、自分が未来の立場だったとして受け入れられるだろうか。

 自分が嘘をついた事実は何も変わらないのだから。

 

 

「未来……」

 

 

 未来は二段ベッドに向かって行き、その下段で布団を被って横になった。

 彼女達はいつも二段ベッドの上で、2人で寝ている。

 下段は荷物を置いておく場所として使っていた。

 でも、ベッドの下段に置いてあった荷物の入ったダンボール達はベッドの外に出されていた。

 おまけに下段を完全に締め切るカーテンまで引いている。

 響の事を許さない心の現れだと、響にはそう思えてならなかった。

 

 

「……ごめん」

 

 

 閉められたカーテンを少しだけ開けて響は一言だけ呟いて、そっとカーテンを閉めた。

 残された響は部屋の中で呆然と立ち尽くす。

 未来がいないとすら感じられる部屋の中は不気味なほど静かで、空気が重くて、何だかたった1人になってしまったかのような錯覚にすら陥る。

 日陰にいるような寒さが響を襲った。

 

 

(私にとって、未来は陽だまりなんだ……)

 

 

 部屋に飾られた写真を見やる。

 響と未来が仲良く2人で、笑顔で写っている写真だった。

 響にとって未来とは自分が帰るべき場所、未来の傍が一番暖かい場所。

 家のような、正しく陽だまりのような存在。

 このまま何て私は嫌だと歯を食いしばる響は、静かな部屋の中で1人、そんな風に考えていた。

 

 

 

 

 

 帰る場所というのは誰にでも必要だ。

 それが家なのか、そこにいる誰かなのかは人によりまちまちだが、とにかく自分の帰る場所は重要で失った時は非常にショックで、ともすれば心が痛む事を響は再認識した。

 そしてそれをもう1人感じている者がいた。

 

 

「何でだよ、フィーネ……」

 

 

 響と同じくシンフォギアの適合者、雪音クリス。

 フィーネに『用済み』と謗られた彼女の心は酷く傷ついていた。

 紛争地帯で誰も彼もが信用できなかった彼女にとって、初めて信頼できた人。

 戦争根絶を目指す彼女にとって、手を差し伸べて光となってくれた最初の人。

 そんなフィーネから裏切りにも近い言葉を浴びせられたのだ、傷つくのも無理はない。

 そして、クリスの心の中では響とフォーゼが発した言葉が何度も反芻され、その傷に沁みるようだった。

 

 

『こんな戦い、もうやめようよ。私達はノイズと違って言葉を交わすことができる。手を握れば友達にだってなれる』

 

『おう! 名前を知ったら後は握手と腹割って話す事! それだけで友情は成立だ!!』

 

『話し合えば分かり合う事だってきっとできる! だって私達、同じ人間だよ!?』

 

 

 聞こえが良すぎて反吐が出ると叩き伏せた言葉。

 だけど、そんな綺麗事を全力でやってのけようとする奴が敵で、自分を切り捨てたフィーネが味方。

 果たして何が正しくて何が間違っているのか、今のクリスには分からなかった。

 彼女が見てきた世界の価値観だけで判断するならば、綺麗事を撒き散らすような奴は信用できないと一笑に伏す事が出来るだろう。

 でも、響やフォーゼがそれに当てはまるかと言われればクリスは悩む他なかった。

 あんなにも全力で人と手を繋ぎたいと、分かり合いたいとぶつかってきた奴を見るのは初めてで、クリスもどうしていいのかわからない。

 何より自分を切り捨てたフィーネの意図も目的も、考えすらも分からなくなっていた。

 

 クリスの目的は戦いの意志と力を持つ者を叩き潰し、戦争の火種をなくす事。

 その為ならシンフォギア装者もゴーバスターズも仮面ライダーもヴァグラスもジャマンガも何もかもが潰す対象だ。

 世界で戦争に介入し、結果的に争いを長引かせていると噂のダンクーガなど、以ての外である。

 けれど、少なくとも人類に仇なすという意味で言えばシンフォギア装者やゴーバスターズ以上にヴァグラスやジャマンガは優先的に潰す対象だ。

 クリスは戦争の火種をなくし、自分のような人間をもう作らないという所までが目標である。

 それを考えれば人類そのものと敵対している組織など容赦なく潰すだけの対象だ。

 だが、フィーネはよりにもよってそいつらと手を組んでしまう。

 その頃からか、クリスがフィーネに疑問を持ち、今の自分に苛立ち始めたのは。

 

 

(クソッ……!)

 

 

 頭の中がこんがらがって仕方が無い。

 何をどうすれば彼女は彼女自身の目的に近づけるのか、もう分からなくなりそうだった。

 

 夏だというのにやけに寒く感じる夜道。

 近くでは何かの移動屋台らしき車と街灯だけが道を照らしていたが、クリスの心に光は全く灯らないでいた。

 そんな夜道を行く当てもなさそうに歩くクリスは、ふと子供の泣き声を耳にする。

 見ればベンチに座った少女が泣きじゃくり、少女の前で立っている少し年上くらいの少年が何か言っているようだった。

 2人とも小学生低学年くらいだろうか。

 

 

「泣くなよ、泣いたってどうしようもないんだぞ!」

 

「だってぇ……だってぇぇ~!」

 

 

 それを見たクリスは少年少女の方にちょっと怒った顔で近づく。

 

 

「おいコラ、弱い者を虐めるな」

 

 

 泣いている少女に責めるような少年の発言を聞いたクリスは少年が一方的に虐めているものだと判断して2人に近づいた。

 声をかけられた少年はキョトンとした表情でクリスに振り向きながら否定の言葉を発する。

 

 

「虐めてなんかいないよ、妹が……」

 

 

 そこまで言うと少女がより一層激しく泣き始めた。

 やっぱり少年が虐めているものだと判断したクリスは少々お仕置きが必要かと考えて、拳を振り上げる。

 

 

「虐めるなって言ってんだろうが!」

 

 

 少年は思わず目を瞑って頭を腕で覆った。

 保護者に悪い事をしてお仕置きを受けそうな子供のように。

 でも、そんな少年を庇ったのは泣きながらもベンチから立ち上がり、少年の前に両手を広げて立ち塞がった少女だった。

 

 

「お兄ちゃんをいじめるな!」

 

「……!? お前が、兄ちゃんから虐められてたんだろ?」

 

「ちがう!」

 

 

 泣きながらも強く否定する妹の方に首を傾げるクリス。

 少年は自分達が父親とはぐれ、探していたのだと話した。

 そこから随分探したのだろう、妹の方がもう歩けないと泣き出してしまい、ベンチで一休みを兼ねて兄が妹を励ましていたという事らしい。

 

 

「何だ迷子かよ。だったら端っからそう言えよな」

 

「だって、だってぇ~!」

 

「おい、コラ泣くなって!」

 

 

 見た目通りの年頃では親とはぐれた寂しさで泣くのを耐える事は出来ないだろう。

 子供らしい事だが、泣かれた時の対応に全く慣れていないクリスは不器用にも軽く怒るような口調で泣き止ませようとしてしまった。

 その言葉にビクリと縮こまる妹を見て、今度は兄の方が妹の前で両手を広げて立ち塞がる。

 

 

「妹を泣かせたな!」

 

 

 見事のデジャブである。

 どうにもクリスの喧嘩腰ではどっちかに話しかけるともう片方が庇うという変な図式が完成しかかっていた。

 困ったように後ろ髪を掻くクリスの肩に、ポンと手が置かれた。

 

 

「あぁン?」

 

 

 置いた手の主は何やら笑顔の青年。

 クリスの肩に置いている右手とは別に左手にドーナツを持っている。

 彼は振り向いたクリスにチッチッと人差指を振りながら少年少女に近づいた。

 

 

「小さなお姫様。今からしがない魔術師が、貴女を笑顔にしてみせましょう」

 

 

 そう言った青年は左手に持っていたドーナツを少女の前に出し、右手を腰のベルトにかざした。

 すると何やら変な電子音声にも似た声が鳴り響き、黄色い円形の魔法陣が発生する。

 魔法陣はドーナツを通過したかと思えば、驚くべき事にドーナツが宙に浮き始めたのだ。

 ふよふよと浮いているドーナツを見た少女は涙を引っ込ませ、見る見るうちに笑顔へと表情を変化させた。

 

 

「わぁ~!」

 

 

 振り子のように揺れながら浮遊するドーナツを目で追う少女の目は輝いていて、少年も驚きと共に好奇の眼差しでそれを見つめていた。

 

 

「お兄ちゃん、それどうやってるの?」

 

 

 少年の純粋な質問に青年はニッと笑って優しく、冗談のような答えを返した。

 

 

「魔法だよ。俺は魔法使いなのさ」

 

 

 そう言って青年はドーナツにかざしていた手を少年の方に向けた。

 すると今度は少年に黄色い魔方陣が通過し、ドーナツと同じように少年が浮遊し始めた。

 ただ、ドーナツとは違い小さな子供なので少々高度は低めに抑えている。

 けれども人生初のマジカル浮遊体験に少年は少年らしい好奇心が噴出したようにはしゃいでいた。

 

 

「何これ、すっげぇ~!」

 

「あー、お兄ちゃんばっかりずるーい!」

 

 

 青年は少年を下ろしてやると今度はすっかり泣き止んだ少女を浮かばせてやった。

 一方、完全に蚊帳の外に置かれたクリスは1人、青年に疑いの眼差しを注いでいる。

 

 

(何だよ、コイツ……!)

 

 

 明らかに人間業じゃない。

 魔法と称しているが、本当に魔法でもなければドーナツはともかく人が浮かぶなどありえない。

 彼が人間か人間でないかはともかく、何かしらの『力』を持っているのは確実。

 クリスの頭には「何者かの手先なのか」という考えが真っ先に過った。

 それなら自分に声をかけてきた理由もわかるし、子供達を泣き止ませる事で油断させようとしているのだと説明できる。

 が、そんなクリスの方に青年は微笑みながら振り向いた。

 

 

「ドーナツ、食ってく?」

 

 

 青年が指さした先には先程も目にした移動屋台。

 完全に疑って、ともすれば敵としか思っていなかった青年の思わぬ言葉に鳩が豆鉄砲を食ったような表情となるクリス。

 そんなクリスに、再び青年――操真晴人は笑顔を向けた。

 

 

 

 

 

 晴人は今日、はやての家の帰りだった。

 未だにはやては何処か遠慮して、自分達を遠ざけているように晴人は感じている。

 はやてが心を開いてくれず、どうしたものかと移動するドーナツ屋『はんぐり~』でドーナツを食べながら考えていたのだ。

 せめて家族が再びできれば違うのだろうが、そんな都合のいい奇跡が起こってくれるとは思えない。

 この時の晴人はそんな『奇跡』が数日後にもたらされる事をまだ知らないでいた。

 

 はてさて成り行きという事で兄妹の父親を探す事になったクリスと晴人。

 あの後、晴人は兄妹とクリスの分のドーナツを買い、自分は先程まで浮かばせていたドーナツを頬張っていた。

 晴人が「新作ドーナツ3つ」と言った時の事はクリスの記憶に鮮明な形で残っている。

 

 

「遂にハル君がプレーンシュガー以外を!」

 

「いいや? あの子達の分」

 

 

 オネエ言葉を使う店長らしき人と男性の店員が無邪気にピョンピョン飛び跳ねているところに晴人が否定の言葉を放つと、店長と店員はガクッと肩を落とした。

 その後店長は「はいはい、そうですよねー」といじけるような態度で3つのドーナツを袋に詰め始めたのを覚えている。

 

 何故に記憶に鮮明かと言うと、『自称魔法使いとオネエ言葉の店長が話している』と、言葉に起こすと中々シュールな光景なのが原因だろう。

 その後ドーナツが配られたのだが、戦場で生きてきた経験則のせいで毒でも盛られているのではないかと思ったクリスは食べるのを躊躇っていた。

 だが、一緒に貰っていた兄妹が実に美味しそうにドーナツを食べていたため意を決して食ってみれば、かなり美味くてちょっと驚きつつ、一気に食べきってしまう。

 最初に疑っていたのが嘘のような食べっぷりであった。

 

 その後、晴人は兄妹とクリスに自己紹介した。

 しかし兄妹はドーナツに夢中なのと晴人が魔法を使った事に興味津々なのか自己紹介よりそっちばかり気にしており、クリスはクリスでおかしな力を使う晴人は「敵かもしれない」という疑いの対象なので名乗りたくない。

 結局、この4人の中で名前を名乗ったのは晴人だけだった。

 

 ドーナツを食べきった4人はドーナツ屋の店長と店員に手を振って兄妹の父親を捜す為に歩き始めた。

 人を捜すなら人が多くいるところ、そんなわけで4人は夜の中でも人工の光で煌々としている近くの繁華街の通りにやって来た。

 兄妹の話を聞く限りではこの辺で父親とはぐれたそうで、晴人とクリスは兄妹と共に父親が何処にいるのかとキョロキョロと辺りを見渡す。

 少年は晴人と手を繋ぎ、少女はクリスと手を繋ぎ、少年と少女は兄妹仲良く手を繋ぎ。

 手を通して繋がっていた4人はまるで年の離れた4人兄妹のようであった。

 

 

「いない?」

 

「うん、いない。ねぇ、お兄ちゃんの魔法で何とかならないの?」

 

「ごめんね、俺の魔法も万能じゃないんだ」

 

 

 晴人とクリスは兄妹の父親の風貌が分からないので少年に尋ねてみるが、どうにも見つからないらしい。

 魔法でどうにか、と頼まれる晴人だがそれには首を横に振るしかなかった。

 晴人の魔法は決して万能ではない。

 金を造って大儲けとか、命を蘇らせるとか、そんな全知全能の魔法ではないのだ。

 人捜しにガルーダなどを飛ばす事もできるが、顔が分からないんじゃ意味がない。

 足で捜すほかないのが現状だ。

 

 

「俺にできる事なんて少ないもんさ」

 

「魔法があっても?」

 

「そ、魔法があっても、結局は自分次第なんだよ」

 

 

 少年がよく分からないと首を傾げるが、晴人は空いている片方の手を少年の頭に乗せて撫でながら「そのうち分かるかもよ」と笑顔で言うだけだった。

 そもそも晴人が魔法を手に入れた経緯も決して穏やかなものではない。

 下手をすれば死んでいたかもしれない程に過酷な物だ。

 それに、この力があっても天涯孤独の少女の心を開くことができていないという事実もある。

 魔法と雖も万能ではない事を、晴人は魔法使いになって嫌というほど学んだ。

 

 色々と歩き回っては見たものの中々父親は見つからない。

 そんな時、歩き回るだけで進展がなく暇なのか、クリスが鼻歌を歌いだした。

 鼻歌だというのに随分と綺麗な音。

 音程とか抑揚とか色々と歌の優劣を決める方法はあるが、明確な判断基準を知らない晴人や兄妹にとってもその歌は上手いとか綺麗と感じさせるほどの歌だった。

 ちょっと乱暴な言葉遣いからは想像もできない程に優しい音に少女は尋ねる。

 

 

「お姉ちゃん、歌が好きなの?」

 

 

 好きか嫌いかと聞かれれば響にも言い放った、あの答えしか口からは出ない。

 

 

「歌なんて、大嫌いだ。特に、壊す事しかできないあたしの歌はな……」

 

 

 歌を嫌いと語りながら正面を向くクリス。

 まるで表情を正面から見られないために顔を背けたようにも見える。

 その言葉の中に秘めた意味は幼い兄妹だけでなく、晴人にも分からない。

 だが、ちらりと見たクリスの横顔を見て晴人は思う。

 何故だかとても悲しそうだと。

 

 そんなやり取りがありつつしばらく歩いていると、少年が足を止めた。

 少年と手を繋いでいた晴人と少女もそれにつられて足を止め、連鎖してクリスも止まる。

 足を止めた少年は晴人の向こう側にある交番を見ていた。

 その交番から1人の30代ほどの男性が不安げな顔で出てくると、それを見た少年が顔を明るくさせる。

 

 

「父ちゃん!」

 

「……! お前達……何処へ行ってたんだ!」

 

 

 少年の声に気付いた男性がちょっとだけ顔を顰めて近づく。

 勝手にいなくなった事に対して怒っているのだろう。

 だけどその前に一瞬、心底安心したような優しい微笑みがあった事を晴人もクリスもその目で見た。

 

 

「お姉ちゃんとお兄ちゃんがいっしょに迷子になってくれた!」

 

「違うだろ。一緒に父ちゃんを捜してくれたんだ」

 

 

 少女は嬉しそうに父親の手にすりつく。

 再会できて余程安心したのだろう、ついさっきまで泣いていた少女とは思えないくらいの笑顔だ。

 少年は兄という事もあるのか無邪気に喜んだりはしなかったが、それでも父親を見つけた時に全力で笑顔だったのは年相応という事なのだろう。

 兄妹の言葉を聞いた父親は目の前にいる2人の男女がそのお姉ちゃんとお兄ちゃんなのだと認識すると、申し訳なさそうに頭を下げた。

 

 

「すみません、ご迷惑をおかけしました」

 

「いや、成り行きだから、その……」

 

「迷惑なんて。見つかってよかった」

 

 

 お礼を言われた事に戸惑うクリスと笑みで返す晴人。

 感謝されるという事に耐性が無いのかクリスはちょっとだけ居心地が悪そうだ。

 

 

「ほら、お2人にお礼は言ったのか?」

 

 

 父親が兄妹に向けてお礼を言いなさいと、遠回しに催促する。

 こんな風に子供に教える事が普通なのかもしれないが、それをちゃんとやっている親は見ていてしっかりしていると感じられるものだ。

 兄妹の反応からして良い父親なのだろう。

 

 

「「ありがとう!」」

 

 

 兄妹は仲良さげに一緒のタイミングで頭を下げる。

 そんな2人に晴人は屈んで目線を合わせ、2人の頭を撫でた。

 

 

「お父さんの手、今度は離すなよ?」

 

「うん、分かった!」

 

 

 家族を失った晴人だからこそ家族の重みが誰よりも分かる。

 迷子よりもずっと恐ろしい事を経験した晴人だからこそ思うのだ、幸せな家族が不幸な別れを経験するなんてこと、あってはいけないと。

 妹の方から元気な返事に微笑んだ後、何も言わない兄の方を向いた晴人。

 兄の方も返事を求められているのだと気付いて「分かった」と笑顔で頷き、晴人もまた笑顔で返して立ち上がった。

 

 

「仲、良いんだな……」

 

 

 兄妹の様子を見ていたクリスがぽつりと漏らす。

 仲が良い相手をクリスは生涯見つけた事が無い。

 いや、いるにはいる。

 ただ、その相手から『用済み』と罵られた直後だ。

 

 

「なあ、そんな風に仲良くするにはどうすればいいのか教えてくれよ」

 

 

 だからなのか、思わず兄妹に尋ねる。

 響やフォーゼから『ダチ』だとか『分かり合いたい』なんて言葉を聞いた事も少なからず影響しているのかもしれない。

 何より、仲間であり、信じていたフィーネともう一度しっかりと話をしたいとも思った。

 けれどその為の、仲良くするための手段が分からなくて。

 兄妹はキョトンとした顔の後、彼等が答えられるだけの答えを話した。

 

 

「そんなの分からないよ、いつも喧嘩しちゃうし」

 

「喧嘩しちゃうけど、仲直りするから仲良し!」

 

 

 妹が兄に抱き付きながら嬉しそうに言う。

 例え喧嘩してしまう相手でも兄の事を慕っていた。

 お互いに喧嘩してしまう事もあると認識した上で仲良さそうに接しているのは家族だからという理由だけでなく、それだけお互いを知っているからだろう。

 仲が良いからこそ、安心して喧嘩ができる。

 最後には必ず仲直りできるから。

 

 

「本当に、お世話になりました。さあ、帰るぞ」

 

 

 父親が再び深くお辞儀をした後、兄妹は父親と一緒に手を繋いで帰路についた。

 3人の後ろ姿を見送った晴人は、何か考え込んでいるようなクリスに話しかける。

 

 

「誰かと喧嘩でもしたの?」

 

「……別に」

 

 

 人と仲良くする方法を聞いてからずっと考え込んでいたのだ、晴人がそう思うのも無理はない。

 半分くらいあっているのかもしれないが、切り捨てられたという事実は喧嘩なんて優しい亀裂ではなかった。

 魔法を使うような奴に詮索される前にこの場を離れようと思ったクリスは背を向けて歩き出す。

 

 

「訳あり、って感じ?」

 

「どうとでも思ってな。お前に話す事なんざ何もねぇよ」

 

「歌が嫌いって言うのは何か関係あるの?」

 

 

 さっさとこの場を去ろうとしていたクリスの足が止まる。

 歌が嫌い、これ自体は今悩んでいる事とは別の事。

 けれど無関係かと言われればそうではない。

 足を止めた事で何かしら『歌が嫌い』というのには理由があるのだろうと晴人も察した。

 

 

「何かを壊す事しかできない歌って言われても俺にはピンと来ないな。

 歌ってそんな物騒なものだっけ?」

 

「言ったはずだ。『あたしの歌は』、ってな」

 

 

 クリスは先程も言ったように歌が嫌いだ。

 その中でも一番嫌いなのが自分の歌だった。

 シンフォギアという『兵器』を纏う歌、何よりも争いとそれを引き起こす兵器を嫌うクリスにとってそれは耐え難い事。

 それでも戦争の火種を軒並み叩き潰す為に力は必要で、嫌いな歌を使わなくて済むようにネフシュタンを纏い続けた。

 

 

「あたしの歌は壊す事しかできない。人と仲良くなる方法も知りやしない。あたしは……」

 

 

 自分の手を見つめて歯を噛みしめた。

 人と手を繋ぐ事など、自分には一生できやしないと本気で思う。

 誰かと仲良くなる事も出来ず、あまつさえ自分の歌は兵器を起動してしまえるものに過ぎない。

 何より、嘗ての経験から余程の事が無い限り誰かを信用するなどできなかった。

 漸く信用できたのがフィーネだったのに。

 

 

「……俺の魔法も、何かを壊そうと思えば壊せるんだ」

 

 

 1人悩むクリスの背中に晴人は語り掛ける。

 それが彼女にどれだけの励ましとなるかわからないけれど、苦悩している何かの助けになるならと思って。

 

 

「でも、さっきもやったように子供を笑顔にすることだってできる。

 君の歌も俺の魔法も、使い方次第じゃないか?」

 

「……るっせぇよ」

 

「……?」

 

「うるせえってんだよ、お前も綺麗事ばかりッ!!」

 

 

 だけどその優しさは裏目だった。

 綺麗事が好きか嫌いかと言われればクリスは嫌いである。

 内容を現実のものにできやしないのに口先だけでべらべらと話す夢想家どもの妄言だから。

 本当に綺麗事を言って欲しかった時に、何1つしてくれなかった連中の白々しい言葉だから。

 怒鳴られた事に晴人は驚く事は無く、むしろその怒声を受け止めていた。

 お前も、というからには別の誰かにも同じような事を言われたのだろう。

 それが何処の誰だかは知る由もないが晴人は臆せずに語り続ける。

 

 

「俺は最後の希望だ。何かを壊せる魔法を人の希望を守る為に使ってる。綺麗事くらい言うさ」

 

「はっ、希望ときたか? おめでたいな。その力とその考え方がありゃ、絶望なんかには無縁だろうよ」

 

 

 振り向いたクリスは口先で嘲笑する言葉を吐きつつも表情は怒りのものだった。

 自分は失意と絶望の中で生きてきた。

 それで同情を誘おうだとか理解を得ようだとかは考えない。

 ただ、その経験があったから、それに繋がる全てを忌み嫌い、それを何ともしてくれなかった綺麗事を嫌う。それが雪音クリスの思考だった。

 魔法なんてファンタジーなものがあれば絶望なんて跳ね除けられる。

 クリスのその考えを晴人は首を横に振って否定した。

 

 

「魔法が使えるから、絶望しなかったんじゃない。絶望しなかったから、魔法が使えるようになったんだ」

 

「はぁ……?」

 

「俺だって絶望しそうになった事くらいあるってこと」

 

 

 晴人が味わった最初の絶望は両親との別れ。

 クリスが味わった最初の絶望も両親との別れ。

 お互いにそこまで詮索する事も無く、そこまで察する事ができるほど関わりは深くなく、それを知る由は無い。

 晴人の言葉は真に迫る物言いで、少しだけだがクリスもそれを感じ取っていた。

 怒りも少し引き、激昂寸前だったクリスは冷静さを取り戻す。

 しかしこれ以上話す事も無い、関わる理由も無い、これ以上踏み込む理由も無い、何より綺麗事ばかり吐く奴との対面はうんざりだと、クリスは再び背を向けた。

 

 

「あ、送ってくよ。こんな夜道を女の子1人は危ないし。家何処?」

 

「余計なお世話だ」

 

 

 晴人の親切心を切り捨てたクリスは晴人に背中を見せたまま、顔を俯かせながら呟く。

 

 

「それに、あたしにはもう帰る場所なんて……」

 

「え……?」

 

「何でもねぇ。じゃあな、魔法使い」

 

 

 パッと見はショートカットのクリスだが、実は長い髪の纏まりがあってそれを二つ結びにしている。

 そんな纏められた長い髪がゆらゆらと揺れるクリスの後ろ姿を晴人は見送りながら頭を掻いた。

 絶対に何か訳ありの子なのだと晴人は何処か確信している。

 最後も『帰る場所なんて』と発言しており、少なくとも彼女にとって大きな何かが起こってしまったのだと。

 壊す事しかできない歌、という言葉といい、どうにも彼女は何かを抱え込んでいるようだった。

 

 

(歌が嫌いなら、あんなに綺麗な鼻歌を歌えるとは思えないんだけどなぁ……)

 

 

 晴人が聞いた鼻歌は多分今まで聞いてきた鼻歌の中で一番綺麗だった。

 この子が歌ったらきっと凄いだろうなと思えるほどに。

 そして同時に、はやてといい今の子といい、何だか事情がありそうな子とばかり知り合うな、とも思う。

 そこまで考えて、晴人はクリスの名前を結局聞いていなかった事を思い出した。

 

 

 

 

 

 眠れない。

 眠る努力はしたのだが、疑似とはいえ亜空間に突入するという大一番を前に緊張していた寝間着姿のヨーコは特命部の通路を歩いていた。

 眠れないなら何か食べて、水かミルクでも飲んで落ち着こうと思って。

 ヨーコの緊張は例えば人前に出る前の緊張とは少し違う。

 この作戦が成功すれば名実ともに亜空間へ行けるという事になり、それは即ちヒロムとヨーコにとっての一番の目的、『家族を助けてメサイアをシャットダウンする』が現実になるかもしれないという事である。

 家族の安否が、そして家族を助けられるかもしれないという希望が今回の作戦の成否で決まると言っても過言ではない。

 この緊張はゴーバスターズ全員が持っている事だろう。

 

 

「……あれ?」

 

 

 ふと、通路の先にある椅子と机がある休憩スペースに人影がある事に気付く。

 人影は手に小さな何かを持ってそれを大切そうに眺めているように見えた。

 

 

「……ヒロム?」

 

 

 近づいてみれば見知った顔、ヒロムだった。

 声をかけられたヒロムは酷く驚いて手に持っていた小さな何かを慌てて机においてヨーコの方に目を向ける。

 

 

「どうしたのヒロム? こんな暗い所で」

 

「いや……。寝付けなくて、どうしようかなってボーッとしてた」

 

 

 返答までに少し間があった。

 まるで、今まさに言い訳を考えていたかのような変な間。

 けれど笑顔で答えるヒロムにおかしなところは1つもないし、おかしな素振りも1つもない。

 

 

「自分の部屋に戻るわ。少しでも休んで備えておかないとな。じゃあ、おやすみ」

 

 

 ヒロムは笑顔で言いながら、机に置いた小さな物を手に取って少し急ぎ足でその場を離れる。

 机の上に置いてあった小さな物をヒロムが手に取った時に一瞬、音が鳴った。

 綺麗な一瞬の音色はオルゴールのものだとヨーコにも分かる。

 

 

「あれって、亜空間で陣さんが拾った……」

 

 

 ヒロムが持っていた小さな物はオルゴール。

 クリスマスツリーとサンタクロースのオブジェが乗っている、13年前に用意されたクリスマスプレゼント。

 それをヒロムはとても大事そうに見つめ、何かを隠すように慌てて自室に戻っていった。

 自室に戻っていくヒロムの姿を見届けたヨーコの中で何かが引っかかる。

 オルゴールを凄く、凄く大切そうに、それでいて何処か悲しそうに見つめていたヒロムがヨーコの脳裏に蘇った。

 

 

「ヒロム……?」

 

 

 何故だかそんなヒロムに漠然とした不安にも似た何かをヨーコは抱いていた。




――――次回予告――――

Super Hero Operation!Next Mission!

「これ以上、私は響の友達でいられない……」
「だったら後悔ばかりするな」
「……何が気に食わねぇんだッ!!」
「ヒロム、それは偽物だよ!」

バスターズ、レディ……ゴー!

Mission44、大切なもの
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